TS転生クソボケユメ先輩(死亡済・幽霊)が原作のn倍ホシノの脳を焼いていた話   作:死刑囚

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という訳でエデン条約編、後編。
二話で終わらせるのは駆け足に過ぎますが、メインはアビドスなので……。
また、感想欄でご指摘いただいてた前話の一部をちょっとだけ修正しました。よくよく考えるとパヴァーヌも全然危険ですわ(なので、クソボケユメ先輩が一緒に付いてって監視してたことになりました)。


聖園ミカと、彼女のための歌

 

 ――主よ、憐れみたまえ。

 救い主よ、憐れみたまえ。

 古ぼけた蓄音機から流れる伴奏に合わせて、私は口ずさむ。

 憐れみたまえ、と口にしながら、ごろごろと転がって掃射を避ける。憐れみたまえ、と口にしようとして、開いた口に入ってきた砂埃を吐き捨てて、上体を起こしてトリガーを引く。

 いったいどれほど、こうして戦っているだろうか。

 先生が持たせてくれた通信機からは、あちら側の戦闘音が響いてくる。――まだ、こいつらを通すわけにはいかない。

 

「……あはっ☆ さあ、もうちょっと付き合ってもらうからね!」

 

 敵は、いくら撃ち倒しても減る気配がない。ユスティナ聖徒会――の、複製(ミメシス)? だっけ。なんだかよく分からない、かつての聖徒会の再現体のようなものが、倒しても倒しても、蘇っては攻撃を仕掛けてくる。

 おかげで、私の服も翼もぼろぼろだ。お気に入りの制服も、綺麗に飾った羽根の飾りも、もう見る影もない。ついでに言えば、体力だってそろそろきつい。

 だけれど。気力だけは、何故だかまだまだ有り余っている。

 

「倒しても倒しても、キリがないね……っ! 平気だけどっ!」

 

 嘯きながらマガジンを交換して、空っぽになった空きマガジンを投げ捨てる。既にそこらじゅうに、私のポイ捨てしたそれらが転がっている。ちょっとお行儀が悪いけど、まあ仕方ない。なにせ、たった一人でずっと戦っているんだし。

 

「貧乏籤、とは言わないよ……私が、望んでやってることだからね」

 

 ――私が、補習授業部と先生に捕まってから。エデン条約は、うまく進んでいるように見えた。

 私については、ナギちゃん相手に襲撃を仕掛けようとしたって事実は広まっていた。隠しようのないことだし、そもそも隠す気も、言い訳する気もなかったから、それについては構わなかった。

 けれど、白洲アズサ……アズサちゃんが全部白状したそうだ。私が開けておいたアリウスとの直通路を、アリウス側が悪用したこと。セイアちゃんと邂逅し、会話し、襲撃は取りやめて……けれど、アリウス側から身を隠すために死んだフリをしたこと――これについては私に教えてくれてても良かったと思うけど。

 そして、それを受けて……私がナギちゃんを襲撃しようとした理由も、噂という形で、みんなの間に実しやかに広まっていた。

 曰く、セイアちゃんに引き続いて、ナギちゃんまでアリウスに襲われて、また殺されるのを防ぐため。トリニティと友達のために、泥を被る覚悟で、心を殺して、親友を撃ちに行った――らしい。

 思わず私は笑ってしまった。私はそんなに聖人じゃない。私は笑いながら、救護騎士団の子たちにも、そんな訳はないと否定した。否定して、でも。

 

「……なるほどなぁ、って腹落ちしちゃったんだよね……!」

 

 ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)の放った弾丸が頬を掠る。

 痛い。

 けれど、痛くない――ナギちゃんを、この手で撃たなければと。悲しませなければと考えていた頃の、延々と続く頭の痛みよりはずっと、痛くない。

 笑っちゃうよね? 私はちょっと壊れてた。自分のせいで、セイアちゃんが死んじゃったと思って。私はやっぱり馬鹿でしかなくて、あの人みたいにみんなを助けるどころか、誰かを傷つけるしかできないんだ、って。

 だから、セイアちゃんが生きてたのは本当に嬉しかった。いや、私に――ナギちゃんにも――黙って死んだフリをしてたのは、まだ許してないけど。一発くらいグーを入れてやらないと気が済まないけど……それでも、生きててくれて、本当に嬉しかったんだ。

 だから、みんなが揃ったから。アリウスの罪も、無かったことにはならないけど、随分と軽くなるから。これでみんなを助けられる、と思って――。

 

「……ぐ、ぅっ……痛いなぁ、もうっ! お返しだよっ!」

 

 羽の半ばを、あいつらの弾が貫通した。痛いは痛いけど、戦うのに支障はない。それに、私が倒れる訳にはいかない――繋げたままの通信機から、あっちの。秤アツコを取り戻すために戦ってる、スクワッドと先生たちの様子が聞こえてきている。

 

『――どいつもこいつも、役に立ちませんわね……! あの隠者気取りの引き篭もりめ、誰が地下から出してやったと思っているのです……!』

『何のことを言っている、マダム……いや、大人の皮を被った化け物め……! これ以上、お前の戯言に付き合っている時間もない――!』

『サ、オリィ……! 誰に向かって、そのような口を……ッ!』

 

 一進一退寄りの、優勢。やっぱり先生が――それも、あの完全に”キレて”た先生の指揮を相手にするのは辛いらしい。

 だったら、私のやることは変わらない。それが――ああ、スクワッドのために出来ることだろう。

 私は今、誰かのために戦えている。我ながら浅ましいけど、それが無性に嬉しい。

 

「あっちはあっちで、色々悪いことをしたし……これから先、あの子達が許されるかも分からない。やったことがやったことだし、ね。でも……」

 

 アリウススクワッド。錠前サオリ、戒野ミサキ、槌永ヒヨリ、秤アツコ。エデン条約の調印の場に巡航ミサイルを叩き込んで、エデン条約を乗っ取って。破壊と混乱を巻き起こした、一連の事件の主犯――とされている、生徒たち。

 当然だけど、秤アツコがあのベアトリーチェとかいう女に拐われた時。彼女を助けたい、って人は先生を除いて皆無だった。

 ゲヘナからすれば、自分たちにミサイルと複製(ミメシス)で攻撃を仕掛けた張本人。トリニティからしてみれば、それに加えてセイアちゃんを攻撃し、私に非道を決意させた極悪非道の存在……ということになっている。まあ、うちの生徒たちは分かりやすい『正義』なんかに飛びつきやすいきらいはあるけれども、これに限ってはそれなりに事実でもある。

 幸いにして、先生は謎の()()のシールドに守られて無傷だったそうだけど、検査入院はさせられたらしいし。

 

「っぐ、うぁぁあ……っ! ……Kyrie eleison(主よ、憐れみたまえ)……っ!」

 

 だからこそ、アリウスの引き起こした事態に対し、自分たちの守りを固めなければならないトリニティとゲヘナから、彼女たちのために銃を取る生徒は誰もいなかった――私を、除いて。

 私にしたって、形ばかりとはいえ謹慎の体を取っていて、一人でどうこう出来るわけじゃなかった。そこに現れて、居合わせたナギちゃんと、まだ倒れる前のセイアちゃんに助力を乞うたのは、先生だった。

 ナギちゃん、セイアちゃんとの話し合いというか、取引の内容は、詳しくは知らない。ただ結論として、私のしでかした行為の償いとして、アリウスの自治区へ向かう先生の護衛と……アリウススクワッドの語る『マダム』の実態調査と、情状酌量の余地の検討。それらを纏めてくれたのは……ううん。私の気持ちを汲んでくれたのは、ナギちゃんだった。

 話の途中で、先生の身の危険を言い残して倒れてしまったセイアちゃんの警告も、そうなった原因の一つかもしれないけど。

 ただ、そうやってスクワッド一行に加わった私ではあったけど――案の定、理解できないようなものを見られる目で見られたっけ。

 

『姫を……アツコを返してもらうぞ、ベアトリーチェ……ッ!』

『搾取されるべき子供が、大人である私の手を噛むとは……。所詮は子供、お前たちは私たちの意のままにされておけば良いものを……!』

“お前はそうやって、生徒たちをただの道具のようにしか見ないんだね。”

“さっきも言ったけど、お前だけは絶対に許せない。”

 

 あっちは先生がいる。

 だから私は、ここを守るだけでいい――それが、ただ守るだけのことが、こんなに辛いことだなんて、思ってもみなかった。

 ……私がスクワッドに力を貸したいって思ったのは、何も単に、ずっとアリウスを助けたいと思って来たからって理由じゃない。もちろんそれが無かったかというと嘘になるけど、それだけじゃない。

 これは誰にも言ってない――誰に言ったって、信じてもらえないと思ったからだ。アリウス生……アリウススクワッド。錠前サオリと……私が、似ていると思ったからだ、なんて。

 だってそうじゃない? アリウス自治区で、あの赤い女に搾取されて、辛いことと、苦しいことしか無いなかで暮らしてたあの子たちと、光の当たるトリニティで、幸せに暮らしてた私。私の方からそんなことを言ったって、笑われるだけならまだマシで、普通に考えたら怒りをぶつけられるだろう。何様のつもりだ、って。

 

「……でも。……はぁ、ふぅ……でもね、錠前サオリ。私とあなたは、何もかも違うけど……決定的な違いは、多分、たった一つだけなんだよ」

 

 奇妙な確信がある。

 私と錠前サオリの違いは、あの人に――自分が、深いところに転んで落ちるか否かって時に、手を差し伸べてくれる人に、出会えたかどうか。それだけ。

 

「――ああ。懐かしいなあ……、ほんと、あの人からしてみれば、大したことない出会いだったんだろうけどね」

 

 あの日は、私たちが高等部に上がって、一ヶ月か、二ヶ月か。それくらいの時間が経過した頃だった。

 その頃、幼馴染で仲良しだったナギちゃんは、ティーパーティーに相応しくなるため、だとかで高等部から知り合った友人――セイアちゃんのことだ――と付き合うことが多くなって、必然的に私は一人で行動することが増えていた。あの日も確か、ナギちゃんとセイアちゃんで勉強会か何かをしていた筈だ。

 私は、当然参加せず……遊ぶ相手もおらず、暇を持て余していたんだよね。だから学区に出て、ぶらぶらと歩いてたんだけど……白い街並みは今と変わらずに綺麗なのに、あの時期のトリニティは、どこも空気がどんよりと澱んでいたのを、今でも覚えている。

 耳を澄ませば、学区のどこにいても聞こえてきた話。

 

『またゲヘナの連中に襲われて……』

『ゲヘナ学園の生徒が、集団で強盗を……』

『この前は、ゲヘナ生が学区内に侵入して破壊工作を……』

 

 どこへ行ってもゲヘナが、ゲヘナが、ゲヘナが。

 ……後から知った話ではあるけど。当時――二年前のゲヘナには、ナントカって名前の、魔王みたいな暴君が君臨していたらしい。その影響で、そいつのシンパであるゲヘナ生が活発化したり……それを隠れ蓑に、ゲヘナ生だと嘘をついて暴れる不良が続出したり。

 そのせいで、トリニティ内の対ゲヘナ感情は悪化の一途を辿っていて……そしてそれは、私も同様だった。

 あの日。偶々、お財布の中にお金があって。偶々、高等部進学に伴う諸々の手続きをいくつか忘れていなくて。偶々、近くに銀行がなくって……偶々、あの人がそこに来ていなければ。私はきっと、なんとなくゲヘナを憎むようになって、力の使い方を間違えて……友達を傷つけるようになっていただろう。

 でも。

 

『わ、痛たたたたた! ちょっと、銀行強盗ちゃん! お話しよっか――あ痛たたたっ!?』

『……そっか。お金がないのは辛いよねぇ。分かるよ、うちの学校にも借金が九億円あってね――う、嘘じゃないよ!?』

 

 あの日銀行強盗をしたのは、食い詰めた不良だったと後から知った。思い返せば、自分はゲヘナだと叫んではいたものの、制服もちょっと黒っぽいだけの服にコスプレを羽織っただけで、全体的に薄汚れていて。

 よくよく見れば……いや。ゲヘナ生の制服をどこかで一度でも見てさえすれば分かってもおかしくない、そんな有様で……だけど、それに気付いたのは。あの生徒を、良く知らない『謎の敵(ゲヘナ生)』ではないと見抜いたのはあの人だけで。

 

『……そうだね。悪いことはしちゃったけど、自分で気付けたのはすっごく偉いと思うよ。うん、一緒に謝りに行こっか。それで……もし、行くところが無かったら、アビドスに来る? ま、まぁ、その前にヴァルキューレにもごめんなさいしなきゃだけど……』

 

 物品被害は軽微で、入り口の扉といくつかの調度品だけ。怪我人はほとんど皆無で、撃たれたのは……あの人だけ。そして、それ以外の被害も、加害も出さずに、場を収めた、強くて優しいひと。

 

『――あのっ!』

『ひゃいっ!? え、えっと君は……?』

『トリニティの、聖園ミカって言います! さっきの銀行強盗、なんで倒さなかったんですか? 多分ですけど、倒せましたよね?』

『ミカちゃん、だね? うぅん……戦おうと思ったら、戦えてたけど。ただ、でもね』

 

 私は、あの日あの人に出会えたけれど。もしもあの人に……梔子ユメに出会えていなかったら。

 

『敵対したから倒して。意見が違ったから倒して。立ち塞がったから倒して。昔、戦ったことがあるから倒して。所属が違うから倒して。倒して、倒して、倒して……そうやって全員倒した後、その人の周りに誰が残っているのかな、ミカちゃん』

『――っ、それは、でもっ。そんなの、夢物語だって、みんな……っ』

『もちろん、大切な人を守るために、それしかないなら戦わなきゃ。でも、もし戦わなくても解決できるなら……どちらか片方が幸せになるより、私も相手も、両方で幸せになった方が、よくないかな?』

 

 目から鱗が落ちる思いだった。

 けれどそれ以上に、その言葉がすとん、と私の胸に落ちてきた。そうだ、私は、みんなで幸せになりたいんだ。

 漠然と、アリウス分校を助けたいって思ってた。でも、なんでそう思ったのかは分からなかった。でも――そうだ。

 私は、物語の最後に、お姫様がかっこいい王子様に助けてもらえるような、そんなお話が好きで。誰も彼も、登場人物みんなが幸せになるようなお話が好きで。子供騙しの童話だ、現実にはそんな物語は無いって言われても――どうしても、諦められなくて。

 だから……そう。それを知った時に、我慢ならなかったのだ。今もなお、アリウス分校の生徒たちが、不幸でいることが、我慢ならなかったのだ。

 

「――あははっ、思い出したよ。ううん、忘れたことなんて無かったけど……なんでだろうね。頭の中にあったはずなのに、無理やり忘れさせられてたみたい。でも、思い出した」

 

 RULE BOOK(コデックス)が違う? そんな救いのあるシステム(この世界)じゃない? ――誰が言ったのかも分からないけど、ふざけないでほしい。私は、そんなの信じない。そう、ちょうど――ナギちゃんお気に入りのあの子が。ヒフミちゃんが、言ってたじゃん。

 

『友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰め合って……! 苦しいことがあっても……誰もが最後は、笑顔になれるような!』

 

 折れかけた翼に力を込める。震える足に、拳を叩きつける。

 弾薬はもう、すっからかんだ。だから何だ? 弾がないなら、殴って蹴ってでも、こいつらは私が押しとどめる。

 私には、あの人がいた。たった少しの短い間、一緒に過ごしてくれただけのあの人。いつもにこにこ笑っていて、私のことを振り回して、世界を拓いてくれて。

 いつ、その姿を思い出してもずっと変わらない――真昼の空の月のように。いつでも、時が経っても、私の心の中に、ずっと居てくれるあの人。

 

「――うん。私も、そんなハッピーエンドが好きだよ」

 

 諦めない。

 私は、諦めない。誰も、何も。

 あの人は私に手を差し伸べてくれた。私の手を取ってくれた。なら……私が、手を伸ばさなきゃ。

 アリウススクワッドには、アリウス分校には、手を差し伸べられる人がいなかった。だったら、私がそうしよう。

 私を引き上げてくれた、ユメさんのように。私は、みんなを助けられるまで、手を伸ばし続けよう。

 通信機の発話ボタンを押す。

 

「――先生、サオリ。そっちは大丈夫?」

『ッ!? 聖園、ミカ――っ』

“ミカ!? 平気!?”

“こっちも大詰めで、もう少しで決着が付くけど……!”

「あはっ☆ こっちは全然平気! 複製品だけあって強くないしね! だから――こっちのことは、心配しないで。ちゃんとみんなで、ハッピーエンドを掴んできてね。……頑張れ、サオリ。ミサキ、ヒヨリもね」

 

 通信機を投げ捨てる。なんだか上手いこと、蓄音機の近くに転がった。

 あっちの決着は、もうそろそろ。そう言えば、遠くから聞こえてくる振動も随分と少なくなった。なら、あとは私が後少しだけ、踏ん張ればいい。

 ……がちゃり、と無数の銃口が私を向く。未だに、敵の数は増え続けている。あっちの大ボスは倒れる間近だというのに、元気なことだ。こっちに回してるエネルギーを、少しはあっちに……いやいや。

 弱気になるな、私。

 

「――弾倉は空っぽだけど、鈍器くらいにはなるよね?」

 

 撃たれるのが分かってるなら、我慢すればいい。……それにしてもあの人は、ずっとこんな気持ちだったのだろうか。自分は銃を撃てず、相手から只管に撃たれるだけ。痛いし、怖い。

 それでも、私はあの人がそうしていたように、笑って。

 

「ここから先は、通せないよ」

 

 真っ黒な銃口が、一斉に火を噴く、私は目をぎゅっと瞑り――その直前。ざざ、と蓄音機から流れる伴奏に、ノイズが走った。

 

『――感情の複製である『複製(ミメシス)』。神秘も、恐怖も持たないままに生まれる『The Library of Lore』。新たなる神聖に導かれた『預言者』。結末へ至らない『怪談』』

 

 不恰好な合成音声のような、ざらざらとした発話。聞き覚えのない、見知らぬ声。

 

『いずれも、私のサブプランとしての調査対象。当然、いずれの再現も不可能。人智を超えたるそれらを扱えるのは、人智を超えたるものだけだというのは、自明だった。――私は落胆しなかった。何故か? 無論、自明であったからだ。出来ないことが出来ない、と分かって、落ち込むものは居まい』

 

 ユスティナ聖徒会の複製(ミメシス)が停止している。いや違う、警戒している? 全ての複製体が、引き金に指をかけて、私に銃口を突きつけたまま、その状態で……据え置きにされている。

 まるで、この……『口上』の最中に、何かをすることを妨げられているかのように。

 

『私は、これらを使う側ではない。対峙する側である。しかし、こうも考えた。誰かが言っていたことだが、『入力と出力さえ分かれば良い』と。――それならば簡単だ。私はそれを、よく知っている。体裁さえ整えれば……失敗作くらいは、作れるだろう』

 

 私は、いつのまにか床へ向けていた視線を持ち上げた。まだ、そこには何もない。けれど、何か。

 とても薄くて、今にも消えそうな、圧力のようなものを感じる。

 

『必要なのは、根源たる『神秘』、『恐怖』、あるいは『崇高』である。必要なのは、骨子となる『文脈(テクスト)』である。そして、必要なものは――勿体ぶった前口上である、なんちゃって』

 

 ざざ、とノイズが走る。知らない声だ。というか、ただの合成音声だと、もうはっきり分かる。

 でもなんでかな、その声に、あの人の声が重なっているようで。

 

『私は、君を信じきれなかった。ごめんね、君を見誤ってたんだ。君が一人で頑張ってる時に、君の助けにもなれなかった。だから、だからね。何の償いにも、なりはしないけど――』

 

 真昼の空に浮かぶ月のような、強くて綺麗なあの人。

 あの人が失踪した、って聞いて絶望した。だって、いつも笑っているけれど、でも、あれだけ責任感が強かった人が。私に、後輩の自慢をずっとするくらい――めちゃくちゃ羨ましかったし、トリニティを辞めて転校してやろうかと思ったくらいだ――唯一の後輩のことを愛していたあの人が、失踪なんてする筈がない、って分かってたから。

 私も――いいや、あの人の背を見ていた全ての誰もが、監視カメラの一つも、真相の欠片も……本当はどうだったのか、って調べることができない、いや、調べたくないと思うほどに。

 誰もが、他ならぬあの人が居なくなった、ってことはそういう事だと理解して。けれど、誰もが……そうであって欲しくない、と思っていて。

 そんな、あの人の面影が。顔を上げた私の前に浮かぶ。

 

『――君のために、歌わせてくれたら、嬉しいな』

 

 ぶつり、とノイズが止まる。

 一斉に、銃口が火を噴く。吐き出された、黒い塵で編まれた銃弾が、私へ迫り――。

 

――"真□の空の□"。

 

 きゅいん、という甲高い音。

 膝をついた私の前に、ターコイズ色の壁が出来上がる。

 

「ほんとに……あなたは、もう……!」

 

 ――そこに、真っ黒な人影がある。

 出来損ないの、不恰好な人形(ひとがた)。焼け焦げてばらばらになった木片を、無理やり継ぎ接ぎにしたデッサン人形みたいな。髪もない、体型もない、ただ手脚と胴体と、頭があるだけのような、そんな影。

 それが――光の壁に、手を翳している。

 

「……ずるいん、だからっ!」

 

 お腹に力を入れる。怠くて、目を瞑りそうになる痛みと疲れを踏み越える。立ち上がる――そして、その人形が、足元からさらさらと崩れていっていることを理解する。

 ああ確かに、失敗作とあの声は言っていた。一瞬だけの奇跡のために、あの人は何を犠牲にしたのだろう。

 消えてゆくことを止められない。けれどそんなことを気にする様子などなく、その影は私に近づいて。

 

『――よく頑張ったね。すごいよ、ミカちゃん』

「……っ!!」

 

 不恰好な手で、私の頭を撫でて。私の手のひらに何かを残して。夢か幻のように、たった十数秒で、さらさらと消えていった。

 ……手の中に残されたものを見る。壁と同じ色に光る、力の籠った、一発の銃弾だ。

 私はそこに、自分の力も込める。青と緑と、桃色と紫のマーブル模様。その弾丸を、サブマシンガンに装填する。

 使い方は、なんとなく分かる。大きく息を吸って、まだ健在の壁に向かって。

 

「合体攻撃、ってね。――貴女たちのために、祈るよ」

 

 力を込めて引き金を引く。吐き出された銃弾は虹色の尾を引いて、ターコイズ色の壁に突き刺さる。

 私が込めた力は、いつも必殺技を使う時に使っているもの……の、向きを少しだけ変えたもの。いつもは、命中すれば垂直に生じる回転の軸を、水平方向へ向けたもの。

 つまり、壁に突き刺さった弾丸は、そのまま速度を維持したまま回転し。あの人が残した力を、そのまま巻き込んで、加速して、加速して――巨大な穿孔(ドリル)弾のように。いとも容易く、複製(ミメシス)の一団を消滅させて。

 

「――あはっ。どうやら、私の勝ち……みたいだね」

 

 まだ、ボス格の複製(ミメシス)は残っている。敵の集団も、減ったとはいえまだ山のようにいる。

 それでも。

 

“――ミカ!! 無事!?”

“私の大事な生徒に、何をしてるの!!”

「……わーお☆ やっぱり、あなたも来てくれるんだね……先生」

 

 あの人の残滓は、もう欠片も残っていない。けれど大丈夫、先生が私の横に立ってくれている。だから……それからのことは、話す必要はないでしょう?

 だって、物語の結末は……ハッピーエンドに決まってるんだからね。





ミカの二度焼き。
なお次話はいきなり最終編です。ホシノ視点、虚妄のサンクトゥムあたりの時系列とかになります。
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