とりちきんより
<怪人騒動編>長い地獄の始まり__01
<??視点>
世界が変わる。世界を変える。この言葉を日常で聞く機会がそう多くないだろう。凡百の人間に世界を変える力はなく、それでいて世界の変化に流されていくのが常であるからだ。しかし、一時だが僕は世界を作り、終わらせた。いやどちらかといえば僕が作ったのではなく、作ってもらったのだ。
特撮作品__「ワールドセイヴァー・プリテンダー」。これが僕が主演を務めさせてもらった、俳優としての処女作だった。傑作かどうかはさておいて、未熟ながらに魂を込めて、必死になって演じたのだ。一年間の撮影が無事に終わり、俳優仲間たちはそれぞれのキャリアを形成しステップアップしていった。その中で僕は今、この作品を題材としたヒーローショーに出演していた。
<第三者視点>
ヒーローショーの目的は何か?早い話販売促進だ。それなら現行作品を題材にすればいい。しかしながら悲しいかな「ワールドセイヴァーシリーズ」はプリテンダーで打ち切りとなった。細かい理由はいくつかあるが、一番は少子化によってメインのターゲット層がここ20年で縮小したことだ。更に挙げれば、おもちゃの販売収入が採算に合わないことが挙げられる。複数の作品を手掛ける制作会社からすれば別の特撮シリーズでいいのだ。しかしながら、このシリーズを長年愛した奇特な施設があった。ここ「塚本サミュエルパーク」だ。そして最後のワールドセイヴァーシリーズのヒーローショーが開かれようとしていた。
「
「あ、はい大丈夫です。うん、喉良し。髪型良し、表情良し…うん、本当に大丈夫です」
「はい、オッケーでーす。いやぁテレビで見た
「あはは…」
ヒーローショーの現場スタッフが一人の若い男に来やすく声をかける。このショーに出演する俳優、蘭彼方は苦笑いを浮かべている。親近感が、会ってこんなにすぐに湧くということは芸能人としてのオーラや気迫とかは無いのだろうか?
「いやいやそういうんじゃなくって、応援したくなる感じなんスよ
「え、声に出てました?」
「いや声じゃなくて顔。まぁそんなところが応援したくなんだろうな!変に芸能人ぶって偉ぶんねえっスから!!」
そうなのだろうか。ふとカバンにあるお守りに手が行く。それはレンズであろう部分が砕けている。撮影道具だったプリテンダーの変身デバイスだ。最終話の撮影中、最後のシーンの終わりに破損したため監督からの好意でもらったものだ。これを撫でている時は去年から今年にかけての一年間の撮影を思い出す。過酷な一年だった。スケジュールもすべてプリテンダー漬けとなった。体調を崩すのはもってのほかで崩しても現場に立ち続けた。だがそれだけ過酷でも、それだけ成長した意義のある一年だったのだ。その想いをこめて破損したデバイスを撫でる。気持ちが落ち着いた。自身の登場シーンまであと2分ほどだ。ショーの開始前に観客がどれだけいるのか見た。開始15分前にもかかわらず4割ほどしか席が埋まっていなかった。おそらく赤字だろう。申し訳ないが打ち切りの長寿シリーズのアンカーとはこんなものなのだ。そう自分に言い聞かせ、
「待たせたな!世界を救うトリックスターの登場だ!!」
役をなりきる。塚本サミュエルパークは交通の便が悪い。高速道路は近くにあるが、市街地からはかなり離れている。こんな場所まで来てくれたのだ。せめて来てよかったと思ってほしい。
火花が散らない。それどころかずっとこっちに向かってくるではないか。
(台本と違う!)
表情を作りながら、
(着ぐるみのせいで視界が悪いから気づいていないのか?でも台本では撃たれたらのけ反るはずなんだけど…)
蘭はそう考えていた。
だが彼は知らない。たった今自分に近づく怪人がフィクションの外から来たことを。彼は気づいていない。その眼には純粋な殺意が宿っていることを。
突如アイズェルが構えた銃から光線が発射された。発射された刹那、
突然の出来事に観客席から悲鳴が上がった。その間にも光線は撃ち込まれる。観客席に楽屋のブースに。悲鳴に血が混ざる。日曜日の平和なヒーローショーが地獄に様変わりした。
ステージ中央にいる、この地獄の主役となった
(いや、わかっている。わかっていることは一つ、本物だ。本物のアイズェルだ)
そう、本物だ。フィクションが現実に現れたのだ。劇中のように明確に人間に殺意を持って。
(怪人が本物ってことは、プリテンダーがいないと撃破できない。作中の設定まで本物なら、現代兵器も効かない。倒した後すら…)
そう気づき絶望した。それはそうだ。現実に怪人が現れても、都合よくヒーローが助けてくれるわけがない。
「「助けて!!!プリテンダー!!!」」
だが、観客席からの高い声で沈殿しかけた意識は浮上する。そうだ。自分はプリテンダーなのだ。飽くまで役であろうとも、子どもからすれば本物なのだ。そうして彼は覚悟を決める。諦めずに戦う覚悟を。もうすでに絶望はした。だが、それでも諦めはしなかった。そんな蘭の覚悟に呼応するかのように、手ぶらだったはずの右手には、鞄にあるはずの破損した変身デバイスが握られていた。
おそらく、蘭はこれからの戦いを無我夢中になって忘れてしまうことだろう。だからこそ誰でもない我々で見守ろう。ヒーローの誕生を!
「チェンジ!!」
叫びと共に腕に巻いたデバイスのスイッチを押す。壊れた思い出は生まれたての姿に新生する。そして、眩い光を放った。光が落ち着くと、蘭はワールドセイヴァー・プリテンダーに変身していた。
「ウオォォォォ!!!!」
前述の通り、無我夢中の戦い方だ。殴りも蹴りも素人同然。それでも勢いのままにアイズェルを圧倒していた。肉体スペックを十全に扱いきれてないにもかかわらずだ。戦いとはノリが良い方が勝つのだ。当然の結果だった。
「必殺技だ!!!」
蘭は叫ぶ。腕のデバイスのスイッチを2回押す。
「必殺タ~イム!!!マスカレイドスマッシュ!」
アイズェルにとどめを刺す、そのための処刑の開始用音声がデバイスより流れた。
光をまとった拳がアイズェルに突き刺さる。当たった瞬間、拳からの衝撃によりアイズェルは爆散した。
そのまま、蘭の変身は解除された。そして彼はまるで眠るかのように気絶した。
「目が覚めましたね。
彼の受難はまだまだ始まったばかりなのだ。
現場スタッフ君...明るい青年。芸能人としては腰の低い蘭に好感を持つ。アイズェルの襲撃により死亡
塚本サミュエルパーク...園長がディープな特撮オタクな大型レジャー施設。交通便が悪く、年々収益が落ちている。それでも毎年ヒーローショーを開くなど園長は特撮の世界を盛り上げようとしていた。最後のワールドセイヴァーシリーズのヒーローショーを見ていたため怪人により死亡
アイズェル...特撮作品「ワールドセイヴァー・プリテンダー」に登場する怪人。現代兵器が効かず、ワールドセイヴァーの攻撃しか効かない特徴を持つ。さらなる能力を有するようだが...?