異世界でもSUSHIたべたい俺と肉派な王女が食文化を根底からひっくり返すようです   作:るろうに2025

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第1話「……鮪じゃねえか」

 寿司。それは、日本が世界に誇る食文化の花形。

 

 寿司。それは、生魚を食す日本独特の文化。

 

 寿司。それは、魚と米の織りなすハーモニー。

 

 そんな寿司と一口に言っても、そのバリエーションは様々だ。それこそ名人が握る寿司はまるで宝石のように扱われ、一貫うん千円という値段でも日本中から人が集まる。

 

 俺はまさに、そんな寿司職人になりたかった。手から宝石を生み出す魔術師になりたかった。

 

 そんな俺が今何をしているかというと。

 

「三十六卓、ハンバーグ寿司!」

「はいよ!」

 

 某回転寿司チェーンで平社員Aをやっていた。

 

 

―――――

 

 

 調理場に入り、手を洗い、透明手袋をはめる。

 

「機械の調子は……良さそうだな」

 

 炊飯ロボ、シャリロボ、ロボ、ロボ、ロボ。

 

 金属のテカリが目を疲れさせる空間の中で、俺は各種点検を済ませる。

 

 回転寿司チェーンの調理場というのは、どこも同じようなものらしい。雪崩のように訪れるお客さんを捌くために、酢飯の調理やシャリを握るといった寿司に欠かせない工程は、全て機械任せだ。

 

「じゃあ、鮪さん。あとはお願いします」

「分かりました、お疲れ様でした」

 

 ネット状の帽子を頭に被り、ペコリと腰を軽く曲げる。本間鮪(ほんままぐろ)という俺のネームプレートが腐って見えるのも、いつものことだ。

 

 さて、今は日曜日の夕方。ファミリー層で溢れかえる、まさしくゴールデンタイムだ。調理場も当然の如く修羅場と化す。

 

「ちょっと!イカオクラまだ!?」

「はい、もうすぐできます!」

「四番卓からジュースの苦情来てるよ!」

「すみません!確認します!」

 

 怒号、ベル音、タッチパネルの電子音、どこからともなく聞こえる油の音。

 

 それらが一斉に耳に流れ込んできて、脳がぐちゃぐちゃにかき混ぜられていく。忙しさはもはや暴力に近い。

 

 だが、身体は勝手に動く。染み付いた動きというやつだ。

 

 レーンに並べられた均一的なシャリの塊に、あらかじめ用意されたネタを乗せる。

 

 どれもこれもが全て一緒で、形が整っていて、そして。

 

「味気ない……」

 

 自分で包丁を握ることも、シャリを握ることすらしない。

 

 退屈。

 

 そんな言葉が頭を駆け巡る。

 

「これのどこが寿司職人だよ……」

 

 子供の頃、俺は寿司職人に憧れた。

 

 親が贅沢をさせたいとの一心で連れてくれた銀座の名店。そこの寿司はいつも食べていた回転寿司とはまさに別格だった。

 

 白い調理着を身にまとい、鋭い包丁さばきでネタを仕上げ、酢飯の形を整えていく。

 

 その仕上がった姿は何一つとして同じものはない。なのに、その全てが芸術品で、宝石だった。

 

 それに比べ……。

 

 自分は手元に並んだハンバーグ寿司を見つめた。

 

 寿司に……ハンバーグ!?

 

 ハンバーグ!!??

 

 ありえない。あってはならない。ふざけている。

 

 それでも、その気持ちを吐露できない自分が一番ふざけているように感じた。

 

 

―――――

 

 

 夜の二十三時。客もいなくなり、もぬけの殻になった店内で、俺はテーブル席を見下ろした。

 

「俺も昔は回転寿司好きだったんだけどなあ……」

 

 回転寿司。確かに、その功績は大きい。江戸時代から続く屋台寿司の形を最も受け継いでいるとも言える。

 

 しかし。

 

 ――機械が握った寿司は、寿司なのだろうか……?

 

「……切ないな」

 

 俺はそう呟きを残し、静けさが漂うエントランスを抜け、店を後にした。

 

 スロープを下り、歩道に立つ。俺は振り向き、店の看板を睨んだ。

 

 ――いつか、自分の店を持ってやる。

 

 そう、いつか。俺は手をギュッと握りしめ、覚悟を新たにした。

 

 その時だった。歩道を、強い風が吹き抜けた。

 

「うおっ!?」

 

 台風並みの強風が身体を大きく揺らす。細身寄りの俺は思わず吹き飛ばされそうになった。

 

 風は、ただの突風ではなかった。

 

 生暖かく、妙に生臭い。

 

 まるで巨大な海のうねりが、そのまま街路に押し寄せてきたような――そんな異様な感覚があった。

 

「ここは海なし県なのに……!」

 

 俺は思わず空を見上げた。暗い雲が渦巻いている。

 

 その中に、光る何かがあった。落ちてくる何か。

 

 その正体が分かった時、俺はふっと笑みを浮かべた。

 

「……鮪じゃねえか」

 

 やがて、その光る物体、鮪は、俺の脳天に直撃した。

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