異世界でもSUSHIたべたい俺と肉派な王女が食文化を根底からひっくり返すようです   作:るろうに2025

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第3話「毒!?」

 喉の奥が焼けるように痛い。吐瀉物が地面に垂れ落ちる。

 

 口の中が胃液特有の苦味と奇妙な甘さ、そして悪臭で満ちる。

 

「ゲホッ……ゲホッ……」

 

 えずきが止まらない。目から涙が自然と溢れる。

 

 膝をつき口を手で覆う俺を、少年は呆れ顔で見ていた。

 

「だから言っただろ、それは餌だって」

「餌にしても……!こんなことにはならないだろ……!」

 

 少年がはあっとため息をつく。

 

「その餌には毒があんだよ」

「毒!?」

「そう、毒。メーアトキシンっていうな」

 

 俺は顔を上げ、刺身をパクパク食べる豚を睨んだ。豚は特に吐くこともなく活気に溢れている。

 

「じ……じゃあ、あの豚はなんで食べれるんだ?」

「オークな。オークは元々魔族側の生き物だ。だからメーアトキシンだって中和できる」

 

 ――魔族?中和?

 

 頭の中を疑問符が満たしていくのを感じる。メーアトキシンと魔族とやらに何の関係があるのだろうか。

 

「どうやらその顔からして、魔族も知らないみたいだな」

 

 少年は再びため息をついた。

 

「まあ……俺んち寄ってくか?胃の中ぶちまけて腹も減っただろ」

 

 

―――――

 

 

 広場脇の石造りの階段を登った場所、ちょっとした畑が並ぶ横にその家はあった。

 

「ここか?」

「そうだ」

 

 他とあまり変わらない二階建ての中世ヨーロッパ風の家。その扉を少年は威勢よく開けた。

 

「父さーん!帰ったよ!」

「おお、お帰り。遅かったな」

「ちょっと拾い物してね」

 

 そう言うと、少年は俺の方に目配せをした。少年の父らしい口髭を生やした男は、俺を見るなり警戒心を尖らせた。

 

「そいつは誰だ?」

「だから拾い物だって。浜辺に流れ着いてたんだ」

「浜辺?魔族の仲間じゃないのか?」

 

 俺は『拾い物』扱いをされたことに若干の不快感を抱きながら、思ったことを口にした。

 

「あの……その魔族ってなんですか?」

「魔族を知らないだと?」

 

 男はより目を尖らせた。鋭利な眼光が俺の胸に突き刺さる。

 

「……どうやら、その言葉に嘘はないようだな」

 

 男の口角が少し緩む。誤解が解けたらしい。

 

「失礼した。俺はユーリ・ガナード。こっちはバナー・ガナード。俺の一人息子だ」

 

 ユーリがバナーというらしい少年のことを指さす。バナーの短めの茶髪が元気よく跳ねる。

 

「それで、魚は捕ってきたか?」

「それが今日は大漁でさ!いろんな奴がいたよ」

「おお!オークも喜ぶなあ」

 

 バナーが「うん!」と屈託のない笑顔で言う。相当嬉しかったらしいことが表情から伝わってくる。

 

「……ところで、あんたの名は?」

「……へ?」

「名前だよ、いつまでも拾い物じゃ失礼だろ」

 

 俺は喉の違和感を押さえながら、背筋を伸ばした。

 

「本間……鮪です」

「ホンマ・マグロ?変な名前だな」

「まあ、元の世界でも珍しい名前だったので」

 

 俺は左手で短めの髪をボサボサとかきながら言った。

 

「じゃあ……ホンマって呼べばいいのか?」

「あっ……マグロの方でいいですか?」

 

 ユーリはこの会話を面白く感じたのか、ぷっと吹き出した。

 

「ハハハ、面白い奴だな。せっかくだし、夕食食ってくか?浜辺にいたってことは、メーアトキシンも体内に入ってそうだしな」

 

 

―――――

 

 

 家の中は、思ったよりも暖かみがあった。

 

 石壁には乾燥させた薬草や獣の骨が吊るされ、暖炉には小さな火がくべられている。木製の長机と椅子が並び、質素だが清潔だった。

 

 俺は席につき、部屋中を見回した。よく読んだ異世界転生ものの小説がいかに表現として正確だったかを知った。

 

 やがて、ユーリとバナーがそれぞれ陶器の大皿を持って、席にやってきた。

 

「待たせたな。これがここの村の伝統的な食事だ」

 

 俺は並べられた食事を見て、正直に言うと少し肩透かしを食らった。

 

 ふかし芋。

 葉野菜のサラダ。

 茹でた豆のスープ。

 少しばかりの赤身の肉。

 

 そこに、魚はなかった。

 

「やっぱりないか……」

 

 その様子を見たバナーが少し茶化した様子で言う。

 

「こいつ、浜辺の魚を食おうとしたんだぜ」

「ほう……魚が好きなのか。珍しいな」

 

 俺はフォークをサラダに伸ばしつつ、この世界の食事情について質問を飛ばした。

 

「どうしてこの村では魚を食べないばかりか、オーク……の餌にするんですか?」

「何も知らないんだな、空から降ってきたのか?」

 

 ユーリが茶化すように笑う。

 

「まあ簡単に言えば、数百年前にグスタフという魔王が海に毒を撒いてな。それで俺たちみたいな人間は魚を食えなくなっちまったってわけだ」

 

 ――魔王……毒。

 

 典型的な異世界転生ストーリーではありながらも、こうして目の前で言われると衝撃的なものを感じる。

 

「でも、ならどうしてあのオークは魚を……?」

「それは、オークが元魔族だったからだな。あのオークは魔族だったのを俺たちが長い期間をかけて食用にしたんだ。だから、魚も食べられる」

 

 ユーリの言葉に、俺のフォークを持つ手が止まる。

 

 目の前には素朴な芋と野菜。暖炉の火がぱちりと鳴る音だけがやけに大きく聞こえる。

 

「……つまり、人間は魚を自由に食べられない世界、ってことですか」

 

 自分でも驚くほど静かな声が出た。ユーリは目を閉じて頷く。

 

「そうだ、だからここの村の食事は野菜と少しの肉だけだ。たまに毒のない魚も捕れるが……」

「そうなんですか?それはどこに!?」

 

 俺の目に光が灯り、尻が少し持ち上がる。だが、その期待はすぐに打ち砕かれた。

 

「その魚は船で王都に運ばれてる。王家の貴重な食事としてな。まあ今の王女はもっぱら肉しか食べないらしいがな」

「そう……ですか……」

 

 俺は持ち上がった尻を再び椅子に据えた。

 

 ――この世界は、俺の望んだ世界じゃない。

 

「俺はどこまでツイてないんだ……」

 

 天井を見上げ、俺は小声で呟いた。

 

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