異世界でもSUSHIたべたい俺と肉派な王女が食文化を根底からひっくり返すようです   作:るろうに2025

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第4話「とりあえずソイツぶっ倒せばいいんだな?」

 夕食も終わり、手を合わせ神への祈りを捧げる。二人は手慣れたものだが、見よう見まねな俺はどこかぎこちなかった。

 

 中世ヨーロッパ風の世界なだけあって、電気や水道などという文明の利器は当然存在しない。夜はランプ頼りだ。

 

「ありがとうございました」

 

 俺は席を立とうとするユーリに深々と頭を下げた。

 

「当然のことをしたまでさ、この村は来るもの拒まずってね」

「それにしても、ここまでさせてもらって……。なにかお礼でもできれば」

「うーん……」

 

 ユーリは顎に手を添えながら、深く考えるポーズを取った。

 

「じゃあ、皿の水洗いをしてくれるか?水場は外にある」

 

 

―――――

 

 

 裏手の水場は、石で組まれた簡素な流しだった。井戸から汲み上げた冷たい水が、細く絶え間なく流れている。

 

 俺は袖をまくり、皿を一枚ずつ洗い始めた。洗剤なんてものはなく、冷水が指をじんと痺れさせる。

 

「冷たっ」

 

 その刺激が肌を突き刺す度に、俺はこの世界のことについて考えを巡らせた。

 

 ――魚、メーアトキシン、魔族、魔王……。

 

 俺は元々運のない人生を送ってきたと思っていた。修学旅行は感染症で吹き飛んだし、就職にもだいぶ苦労した。

 

「まさか、ここまでとは……」

 

 それでも、まさか寿司のない世界に飛ばされるとは夢にも思っていなかった。

 

 ――寿司のない世界なんていっそのこと……。

 

 そう思った時、裏口からバナーが顔を見せた。

 

「食器洗い、進んだか?」

「まあ、これぐらいは」

「おっ、なかなか上手いじゃん。雑用係の仕事でもやってたのか?」

「ま……まあ……」

 

 回転寿司の調理場は、ある意味雑用係と言えるかもしれない。少なくとも、職人と言えないのは確かだ。

 

「……バナーは、魚食べたいと思わないのか?」

「うん?なんだ、藪から棒に」

「魚。焼きでも生でも、食べたいと思わないのか?」

「全然。あれは家畜の餌だ」

 

 バナーは腕を左右に広げ、当たり前のように言った。

 

「まあ、昔は食べてたらしいけどな」

「そうか……」

 

 俺はしゃがみながら夜空を見上げた。満天の星空は、都会寄りだった現実世界の街では見れないものだ。

 

「……なあ」

「ん?」

「そのメーアトキシンっていうのは、魔王が撒いたものなんだろ?」

「ん、ああ、そうだけど」

「じゃあ……」

 

 俺は立ち上がった。瞳には確かな炎が宿っている。

 

「とりあえずソイツぶっ倒せばいいんだな?」

「は?」

 

 バナーは驚いた顔でこちらを見た。

 

「な、何言ってんだ。数百年もの間、数多の勇者すら倒せなかった強敵だぞ?今日知ったばかりの奴が倒せるわけ……」

「いいや、倒す。倒して俺はこの世界に寿司を広める」

 

 俺は拳をグッと握りしめた。強い覚悟をきめながら。

 

「ま……まあ覚悟は伝わったよ。でもどうする?金もないんだろ?」

「それは……とりあえず店を開いて稼ぐ」

「何の店なんだ?」

「もちろん、寿司の店だ」

 

 バナーの呆れ顔が次第に深まっていくのが分かる。

 

「じゃあ……まずはギルドに行かないとな。この島の真ん中、一番大きい街にある」

「島?」

「そこからか……」

 

 バナーが額に手を当てる。明らかな面倒臭さが滲み出ている。

 

「この島、マハー島の中央にマハーという街がある。この村の何十倍もでかい。そこまでの牛車が明日出る予定だ。それに乗るといい」

「街か……そこまで行けば。ありがとう!」

「ふっ、どういたしまして。今日は早く寝ろよ」

 

 

―――――

 

 

 翌日。広場の中央に牛二頭に引かれた屋根付きの牛車が止まっていた。

 

 俺はすっかり乾いたコートを身にまとい、周囲の目を気にすることなく牛車に乗り込もうとした。

 

「昨日はありがとう、色々教えてくれて」

「いえいえ。まさか魔王を倒すなんて言うとは思わなかったよ」

「それが俺の使命な気がして……」

 

 俺は開いた手のひらを見つめた。どう倒すのか、これからどうするのか。全く見当がつかなかったが、それが唯一の道であるような気がした。

 

「これ、持っていきな」

 

 バナーがバスケットを差し出す。

 

「中に果物がいくつか入ってる。三日ぐらいの旅だ、腹減ったら食べな」

「……ありがとう」

 

 俺は言われるままにバスケットを手に取った。結構ずっしりとした重さがある。

 

「じゃ、達者でな!」

 

 バナーが右腕を突き出し、親指を立てる。

 

 ――ここでも合図は同じか。

 

 俺も倣って親指を立ててみせた。

 

 それは、途方もない旅へ出る、決意の合図だった。

 

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