異世界でもSUSHIたべたい俺と肉派な王女が食文化を根底からひっくり返すようです   作:るろうに2025

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第6話「魚は嫌いよ」

 レモンイエローの髪に濃黄と白のスカート、頭にはピンクの花飾り。明らかにこの場にいるむさくるしい野郎どもとは一線を画す美少女。

 

 そんな異質な雰囲気がいきなり押し寄せたもんだから、当然皆の注目は少女へと注がれた。

 

 少女は日傘を畳み、ギルドのボロい床を緑色のハイヒールで踏みしめる。

 

 そして、空いている席に座り、こう言った。

 

「ここなら肉料理を出してくれるんでしょうね?オークのステーキがいいわ」

 

 そのあまりにも不釣り合いな発言に、俺の肩から一気に力が抜けていく。中学生ぐらいのそんな幼なげな体格から飛び出すには、あまりにも男じみていた。

 

「姫様!ここにおられましたか!」

 

 少女から遅れること数十秒。今度は重武装をした長身の傭兵二人がギルドの戸をくぐってきた。

 

「姫様、このような低俗な場所にいてはなりません」

「いいかしら?低俗かどうかはあなたが決めることじゃないわ。私が決めることよ」

「それはそうですが……」

 

 姫と呼ばれた少女は毅然とした態度で畳み掛ける。

 

「それに、他の店では肉料理を出してくれなかったじゃない。私は肉が食べたいの。ちょっと!誰かいないの!?」

 

 少女が足組みをし、フンッと鼻を鳴らす。相当ストレスが溜まっているようだった。

 

 俺はあまりに突然の出来事にすっかりフリーズしてしまった。だが、仮にも接客業をしていた身としては、その失礼な態度は目に余るものがあった。

 

「ちょっ……ちょっと」

 

 少女に向かって手を伸ばそうとした時、誰かが俺のことを制止した。

 

「おいバカ!やめろ!」

 

 その男は、俺より頭一つ低身長で軽い顎ひげを生やしていた。

 

「なにしてるんだ、あのお方はレト様だぞ!」

「レト……?」

「知らないのか?レト・マリーナ・ロサンティス様、この王国の第二王女だぞ!」

 

 ――は!?

 

 俺はそんな王族に話しかけようとしていたのか!?というか、どうしてそんな身分の人がこんな場所に!?

 

 そんな疑問を口にするまでもなく、ギルドの空気は張り詰めたものに変化していった。

 

 レトと呼ばれた少女――第二王女は、肘をテーブルに突き、頬杖をついたまま、つまらなそうに店内を見渡している。

 

「……遅いわね。まさか、私に出す肉すら用意できないの?」

 

 その声は澄んでいるのに、どこか人を刺すような鋭さがあった。

 

 やがてやってきたウェイトレスの女子に対しても王女は、

 

「私、仮にも王女なんだけど」

「す、すみませんでした!」

 

 と威圧的な態度をとった。

 

「大変失礼いたしました!ただいま、厨房の方に確認を……」

「確認?もう十分でしょ」

 

 王女は冷たく言い放ち、テーブルを人差し指でコンコンと叩いた。

 

「私はオークのステーキが食べたいと言ったのよ、野菜じゃなくて、肉よ」

「は、はい……ですが本日は仕入れの都合で……」

「言い訳は結構」

 

 ウェイトレスの顔がみるみる青ざめていく。

 

 その様子を、俺は見ていられなかった。

 

 気づけば、足が一歩前に踏み出していた。

 

「ちょっ、やめろ!」

 

 顎ひげの男が腕を掴むが、俺はそれを振りほどいた。

 

「……あの」

 

 静かな声で呼びかける。ギルドの空気が、さらに一段階凍りついた。

 

 レトはゆっくりとこちらに視線を向けた。黄金色の瞳が、まっすぐ俺を射抜く。

 

「なにかしら」

「あの……肉料理が食べたいのは分かりましたが……それでも店側にも事情が……」

「あなたは店のなんなの?このギルドの支配人?」

「いえ……ただの冒険者……見習い……と言いますか」

 

 周りの人達がざわめきを見せる。

 

「おい……アイツ、王女に説教してるぞ……」

「死んだわアイツ……」

 

 王女は嘲笑った。

 

「なら立ち去りなさい、ほら、コイツを連れてって」

「で……でも!肉料理以外にも美味しいものは沢山……!」

 

 俺の脳裏に、ユーリの言葉が蘇る。

 

『その魚は船で王都に運ばれてる。王家の貴重な食事としてな』

 

「それこそ、寿司とか……!」

「スシ?」

 

 寿司。その言葉に王女の語気が急変した。

 

「はい!生の魚を切り分けたものを、米の上に……」

「魚は嫌いよ」

 

 王女が即答し、俺は言葉に詰まった。

 

 だけど。

 

「……嫌いでもいいんです。でも!一度本当の寿司を食べてほしいんです!本物の、宝石のような寿司を!」

 

 王女はフンッと再び鼻を鳴らした。その意図はすぐに分かった。

 

「面白いわね、アンタ」

「……?」

「そこまで言うなら、私を喜ばしてみせなさい。そのスシとやらで」

「は……はい!ありが……」

「た・だ・し。条件がある」

 

 王女は左手の人差し指一本を立てた。

 

「今日から一ヶ月。その期間内に私を唸らせる魚料理を振る舞うこと。魚はこちらで用意するわ。それが出来なかったら……」

「……出来なかったら」

「そうね。不敬罪で終身刑はどうかしら?」

 

 王女は笑みを浮かべて言った。しかし、口に反して目は全く笑っていない。

 

 ――本気だ。

 

 俺は唾を飲んだ。

 

「……分かりました」

「ふふっ、よろしい。行ってよし」

 

 手払いをする王女の言葉のままに、俺は立ち去ろうとした。

 

「最後に一つ、名前を聞いてもいいかしら?」

 

 俺が振り向くと、王女と視線が合った。

 

「マグロ……」

「マグロ?」

「本間鮪と言います」

「ふーん」

 

 そして、王女は最後にこう言った。

 

「変な名前ね」

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