異世界でもSUSHIたべたい俺と肉派な王女が食文化を根底からひっくり返すようです   作:るろうに2025

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第8話「覚悟はあるんでしょうね」

「すみませんでした!!」

 

 男子は二人並んで見事な土下座をしていた。あまりにも綺麗すぎて謝罪の教科書にでも載りそうなぐらいだ。

 

「……どうしても謝りたいってんなら食材買ってこい。お前はネイズ通り、お前はグランゼ通り。ほら早くいけ」

 

 赤髪の女が両手を叩き合わせると、男子は「はい!」と言って裏口の方へと走っていった。

 

 ――こんなに怖い人なのか……。

 

 身震いするほどの圧倒的威圧感。元の世界ならパワハラで訴えられてもおかしくない程だ。

 

 ――でも、ここで踏み出さなければ……。

 

 俺は間違いなく牢屋行きだ。それだけは避けなければ。

 

 唾をゴクリと飲み込み、足を一歩踏み出す。

 

「あ……あの……」

「あ?」

 

 女性の目が鋭く光る。虎の尾を踏んだような恐怖感が背筋を走る。

 

「わ……私、こ……ここで修行を……」

 

 眼光は依然俺を睨んで離さない。いつのまにか後ろに立っていたドッジが援護射撃をする。

 

「俺たち、ここで料理人の修行を受けようと思ってんだ」

「……はぁ」

 

 ため息がキッチンに充満する。呆れ返ったような、疲れ果てたような声。

 

「また使えねえ奴が来たか……。どうして今日はこんなにツイてないんだか……」

 

 女性は壁にもたれかかった。

 

「あたしはケリー・コムス。ここ、ロンゴン通りイチの料理人だ。あんたらは?」

 

 ケリーというらしい女性の顎がクイっとこちらをさす。

 

「わ……私は、本間鮪、と言います。こっちは……」

「ドッジ・ランドクだ!」

 

 再びため息が紅色の唇から吐き出される。

 

「どっちもまあ個性的ね……褒めてないわよ」

 

 ケリーは手にトマトに似た野菜を取った。

 

「いい?あたしたちは底辺職に見えて、その実、傭兵や冒険者にも勝るとも劣らない程の重要職なの」

 

 彼女はトマトにかぶりつき、話を続ける。赤い果肉が唇につく。

 

「全ての生物は分け隔てなく輪廻転生する……ジェラグ教の教えよ。このトマーテもそう。新たな生命へと生まれ変わる……」

 

 天井を眺めたケリーに、それまでなかった哀愁が漂う。

 

「あたしたちはその輪廻の手助けをする、まさに神々の仲介者みたいな存在だ。それが分かってない奴らのなんと多いこと……」

 

 再び鋭い眼光がこちらを睨みつける。俺の背中を刺激が走る。

 

「あんたらは分かってるんでしょうね?」

「は……はい!」

 

 突然の質問に俺は情けない声で答えた。ケリーは「ふーん」と声を上げ、トマーテをテーブルに置き、

 

「まあ、ならアイツらよりはマシか」

 

 と呟いた。

 

「で?修行したいって言ったわね。覚悟はあるんでしょうね」

「もちろん!なんだってするぜ」

 

 ドッジが威勢よく答えるのを、俺は口を結んで見ていた。

 

 ――余計なことを……。

 

 その懸念はものの見事に的中した。

 

「なんでも、と言ったわね?いい度胸じゃない。じゃあやってもらおうじゃないの」

 

 そう言うと、ケリーは床に置いてあったボロ雑巾を拾い上げ、俺たちの前に投げつけた。

 

「これで床掃除をしろ、埃一つ残すな」

「……え?」

「聞こえなかったのか?床掃除だ、早くしろ」

 

 俺が困惑する中、ドッジはさっさと雑巾を手にし、客席の方へと向かっていった。ケリーが床の雑巾を指さす。

 

「ほら、早くやれって」

「し……失礼ですが、雑巾掛けが料理人に繋がるとはとても……」

 

 確かに、現実世界では雑務として床掃除やゴミ出しもする。だけど、魔法もありそうなこの世界で、わざわざそんなことをする必要はあるのだろうか?

 

 そう疑問に思っていると、ケリーは看破したのか、

 

「はぁ……。そこまで言わないとダメか?」

 

 うんざりしたような顔で額に手を当てて言った。

 

「……あんた、料理を作ることが単なる作業だと思ってる?」

「え……?」

 

 問い返した俺に、ケリーはゆっくりと視線を向けた。その目は、さっきまでの怒号とは違う、底冷えするほど静かなものだった。

 

「料理っていうのは、一種の儀式よ。さっきも言ったように、輪廻転生のね。儀式には適した場所と、方法があるの。あんたはそこらへんの路地裏で儀式をするのか?」

「いえ……しません」

「儀式は確かに魔法でもできる。だが、手ですることで食材、ひいては生き物への感謝を伝えることができる。そのことをよく覚えておくんだな」

 

 俺は灰色の雑巾を見つめた。

 

 ――食材への、感謝……。

 

 胸の奥で、何かが静かに噛み合った気がした。

 

 俺はゆっくりと雑巾を手に取る。湿り気を帯びた布は思った以上に重く、指先に冷たさが伝わってきた。

 

「……分かりました」

 

 そう答え、俺は膝をついた。石造りの床の硬さが膝にダイレクトに伝わる。

 

「ところで、一つ聞いてもいいですか?」

「……なんだ」

「さっきの二人はどうして叱られてたんですか?」

 

 顔を上げる俺を見ないようにするためか、ケリーは顔を逸らしてこう言った。

 

「……アイツら、トマーテを半分残しやがった。ふざけやがって」

 

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