超かぐや姫!0 ~before full moon~ 作:ごーまん
夢を見ている。
遠くに見える微かな後ろ姿を、必死に追いかける夢。しかし、決して届くことのない夢。
結末は、いつも決まっていて、いつも俺は追いかけることをやめ、足を止めた。
そんな夢をもう何度も見ている。
?:「おはよ〜。起きて~?起きないと遅刻するよ~」
現在時刻は、午前8時。
社会人であれば、むしろ遅いような時間であるかもしれないが、
大学生の俺、
この上なく早い時間だった。
今日は週に一度の一限がある曜日だったのだが、
昨晩、連れがどうしてもとしつこいので、
遅くまで、ゲームに費やしてしまった。
おかげでろくに眠れていない。
?:「ねえ、聞いてる~?ねえ?ねえってば~?うわ!」
ハジメ:「聞こえてるよ、きこえてる~zzz」
俺は、声の発生源であるスマホを手に取り、
その電源を躊躇なく切った。
このまま今日の授業はふけってしまおう。
出席日数にも余裕があるから問題ない。
そうして、再度眠りにつこうとしたその時だった。
?:「こらーーーッ!!!また寝るつもりでしょ~~~~!!!」
電源を切ったはずのスマホから爆音が鳴り響く。
あまりの音量に俺は、ベッドから飛び起きた。
俺は恨めしそうにスマホを見る。
そこには、美しい銀色の長髪が目を引く女の子が映っていた。
?:「そんな顔してもダメ。
どうせまた、大学さぼる気だったんでしょ?」
ハジメ:「別に、まだ欠席回数には余裕があるんだから、
一日ぐらいいいだろ?ヤチヨ。」
ヤチヨ:「そんなこと言って。
出席回数が足りなくなりそうになって、
単位落としかけたの忘れたの?」
ジト目で俺にそうつぶやく。
返す言葉もない。
彼女の名前は、ヤチヨ。
歌って踊れるAIライバー「月見ヤチヨ」として世間で知られており、
今、ネット上で一大ムーブメントとなっている。
そう、あくまで”世間では”、そういうことになっていた。
しかし、事実として、彼女はAIなどではなかった。
その正体は、およそ8000年も前から地球上に存在している、
意志を持つが実体を持たない、電子思念体だったのだ。
こんなこと言っても、誰も信じないだろうが、
この話は、何も俺一人が妄信していることではない。
彼女は、その8000年という長い月日を、
代々、特定の人と関わり合いながら歩んできた。
俺もその一人であり、
これらの話も、俺の前に彼女に寄り添っていた人から聞いたものだった。
尤も、彼女の姿形を認識できるようになったのは、俺の代からなのだが。
この画面に映っているのは、
そんな彼女のオリジナルで、
今は俺の作ったスマホの専用アプリケーションを介して、交流をはかっている。
コミュニケーションを取りやすいのはいいのだが、
こうやってお説教を食らうのが玉に瑕。
家から通う大学生は、こういうの慣れっこなんだろうか。
俺が、アプリの権限をいじって、
こちら側からしか開けないように、仕様を変更しても、
すぐに彼女は、その内部を書き換えて元通りにした。
流石は、電子思念体、
おそるべき情報技術能力だった。
俺は、諦めてベッドから出る。
というかそもそも、さっきの爆音で完全に目が覚めてしまった。
何としてもさぼりたいと思っていたわけではないし、
結果オーライかもしれない。
朝の支度もほどほどに俺は、家から出ようとした。
ヤチヨ:「モバイルバッテリー、持った?」
スマホからそんな声が聞こえてくる。
カバンに入れた記憶がない。
踵を返して部屋に戻ると、
枕元に置いていたままだったそれを見つけた。
手に取って、カバンの中に入れる。
ハジメ:「ありがとう、助かったよ。」
エッヘンと胸を張るヤチヨ。
モバイルバッテリー。
今となっては、どこに行くにしても欠かせないものになっている。
まあ、原因は、ヤチヨなのだが。
こいつがスマホから、ことあるごとに出てくるせいで、
バッテリーの減りがマッハなのだ。
忘れたらシャレにならん。
イヤホンをしながらの通学。
道中はヤチヨと話していることが多い。
傍から見ると、独り言を言っている変な奴なのだが、
今の時代、イヤホンで通話している奴なんてざらにいる。
だから俺も平気だろうと開き直っていた。
今日は、夜までキャンパスにいる予定がある。
授業自体は始めと終わりにしかないのだが、
それらが必修であるため、このような時間割を組むほかなかった。
おのれ、教務係。
空いている時間は、図書館でほかの授業の課題をしたり、
寝たり、
ヤチヨと話したりと、
適当に時間を過ごした。
そうしてようやく最後の授業を受け終わる。
ハジメ:「疲れた~。家帰って寝よ。」
大きく伸びをして、帰宅の準備をする。
疲労した体とは対照的に、俺の心は晴れやかだった。
その理由は、明日から3連休。
平日も休日も変わらんような大学生でも、
やはり連休はうれしいものだ。
ヤチヨ:「お疲れ様~。私も一緒に帰りたいところだけど、
今日はこれから配信があるので、先に帰るね~。」
ハジメ:「おう、がんばれよ~。」
そういって、バイバイと手を振りながら去っていくヤチヨ。
程なくしてスマホの画面が消える。
YouTubeを開くと、ちょうど配信が始まったという通知が来た。
あたりも暗くなっており、これ以上外でする用事もないため、
俺も、まっすぐ帰路につく。
ハジメ:「結構星見えるんだな。」
久しぶりにこんな時間に一人で帰っていることもあってか、
普段だと目を向けないところに注意がいく。
俺は、ぼーっと空を見上げながら帰っていた。
こんな都会のど真ん中でも、星がきれいに見えるほど、
今日の空は雲一つなく輝いていた。
その刹那、一筋の光が視界を奔る。
ハジメ:「うわッ!?流れ星ッ!ラッキー!
なんかお願いしとくか。えーーーと……」
目をつぶり、うんうんとうねりながら、願い事を考える。
今困ってること…
意外とパッと出ないものだな、なんて考えて、ふと閃く。
(もうちょっと、あとちょっとだけの間でいいから、今の生活が続きますように…)
そんな些細な願いしか出ないほど、俺は今の生活に満足していたのだ。
しかしながら、そんな願いとは裏腹に、
この流星こそが、俺がいずれ来ると考えていた、夢の終わり。
その始まりであるということを、まだ知る由もなかった。
以下、補足
簡単に執筆に至った理由や、本作の目標、主人公の設定を書いておこうと思います。
まず、理由についてですが、結論から言うと、映画の「超かぐや姫!」のエンディングに納得がいっていないからです。
特に、ヤチヨが八千年の時を超えたかぐやであるという事実が発覚してからの展開に強い違和感を覚えました。
そして極めつけは「ray」のmv。ここで自分の中の煮え切らなさに確信を持てました。
それは、私自身がかぐや≠ヤチヨと考えており、公式側も、かぐやとヤチヨという二つの存在を提示しているということです。
そう考えると、やはり本編のラストには、強い疑問が生まれます。
本編の最後、彩葉は、自身がヤチヨに対して行ったパンケーキを食べさせるという誓いを、彼女に機械の体を与えるという方法で解決しました。
しかし、その見た目は当時のかぐやそのものでした。ですが、彩葉と共に過ごしたかぐやは今、月でバリバリ社畜している筈です。
ノベライズ版を読んでいないので、実は、そっちで捕捉があるのか分からないのですが、この展開は、流石に混乱しまくった次第であります。
いや、ヤチヨを愛せよ。さもなくば、月に行けよ。
ヤチヨという名前、その見た目は、ツクヨミで活動する上での仮の姿であり、本質ではないとも考えましたが、再開シーンでの演出的に、見た目は全く気にしてないよ、みたいな感じではないと思います。
つまり、私は、ヤチヨは八千年の時を超えるうちに、自分のことをかぐやとは呼べないと感じ、自ら、ヤチヨと名乗る瞬間があったと考えました。
そこが見たいけどないので、頑張って考えよう。
ついでに、ヤチヨをかぐやではないとした場合、いろかぐという百合に挟まっていないことになるので、適当な男も生やしておこう。それでヤチヨ自身を愛せたら嬉しいやん、と言う案配です。
そういうのを書くというのが、本作の目標になってます。
最後に、登場人物の設定を載せます。
井浦 一 (いうら はじめ)
本作の主人公。男子大学生で、見た目は酒寄兄の人相を悪くした感じ。情報系分野において卓越した能力を持っており、幼少の頃から一人でpcに張り付いていた。ツクヨミの創設者であり、ヤチヨのライバー活動のマネジメント及び楽曲提供をしている。趣味はゲーム。
すごく性能を盛りましたが、彩葉の性能を考えるとむしろ足りてないくらいに思えます。
モチーフは、まんま浦島太郎なので、特に、ツクヨミでのアバターにそれを反映したいですね。
ちょろっと出てきた、ハジメの前にヤチヨといた人というのは、作中で出てきたワインの紳士を想定しています。
正確に年数を調べてないんですけど、ハジメの幼少期ならギリ存命かな?と考えてそういうことにしました。私が彼を好きだから。