超かぐや姫!0 ~before full moon~ 作:ごーまん
待ちに待った連休初日。
にもかかわらず、
俺は何かするわけでもなく、ただただいつも通り過ごしていた。
結局あの流れ星を見た後、
何事もなく帰宅し、家に着くなりベッドに即ダイブをかました。
流石のヤチヨも、休日まで俺の起床時間について騒ぎ立ててくる訳ではなく、
俺はぐっすり昼前まで眠りこけていた。
起き抜けに、途轍もない空腹感に襲われた。
が、作るのが面倒くさい。
最近、飯を食うことの面倒くささが常軌を逸してきていて、
空腹感に勝ることが度々ある。
でも、食べないと始まらないからな~、でもめんどくさいな~などと、
少しの間ベッドでもじもじしていると、インターホンが鳴った。
あれ、なんかAmazonでなんか頼んでたっけ?
そんなことを考えながら出ると、それは飯の宅配だった。
宅配員:「お代は頂いてますので、」
そう言って宅配員は去って行った。
チラリと自分のスマホを見る。
すると、電源がついて、ヤチヨが顔を見せる。
少し怒り顔だ。
ヤチヨ:「また食べるの面倒くさがってたでしょ?
駄目だよ?ちゃんと食べないと。」
やっぱりか、
どうやら俺の様子を見かねて、ヤチヨが宅配してくれたらしい。
そこまでしなくても、飯ぐらい食うけどな?食べるよな?
…流石に、そう思いたい。
だが実際、こういうことは珍しくなかった。
ヤチヨがライバーとして稼いでいるお金は、当然、彼女の口座で管理されている。
実体のない体でどうやってと思わないこともないが、
今の時代、何とかなるものなのだろう。
時の人と言うこともあって、その額は計り知れない。
そのお金で、時々このように俺に、ご飯を食べさせてくれることがあった。
余談だが、俺は彼女に楽曲提供をしているため、
その分のマージンを貰っていたりもする。
そんなに頻繁に行っているわけではないが、それでもかなりの額を貰えており、
ありがたいことに、俺が過度なバイトなどをせずとも学費などを賄い、
生活が出来てるのは、それが理由だった。
ヤチヨ:「ホントはちゃんと自炊して欲しいんだけど、
食べないよりかはマシだから。」
正直ありがたいのと申し訳ないので半々といった感じだ。
俺にヒモの素質はないらしい。
じゃあ、さっさと自分で飯を作って食えと言う話なのだが、
それはまた別問題なんだよなあ…。
ハジメ:「ありがたく、頂戴いたします…!」
部屋に戻り、タブレット端末に移動したヤチヨに向かって、
俺は勢いよく手を合わせる。
その様子を見て、彼女はやれやれといった感じで微笑む。
ヤチヨ:「はい、どうぞ。召し上がれ。」
食べ始めると、やっぱり腹減ってたんだなあと気づくところまでが常だった。
後は、そこから学んで自分から食べ始めるだけなんだが…
そんな風に考えながらガツガツと飯を頬張る俺を眺めながら、
ヤチヨがポツリとつぶやく。
ヤチヨ:「…出来ることなら私が作ってあげたいんだけどね?」
ふむ。それはいい案かもしれない。
なんか宅配だと施されてる感が満載だが、
手料理となると、急に振る舞われてる感が強くなる気がする。
それならば心置きなく頂戴できるというものだ。
俺のヒモとしての素質も捨てたもんじゃ無いな。
俺のこれからの開発に、新たな展望が見えたところで、飯を平らげた。
ハジメ:「ごちそうさまでした!」
ヤチヨ:「お粗末様でした。」
すさまじい速さで完食した俺に、若干引き気味な彼女であったが、
優しい口調でそう返した。
俺の口元についている米粒を指摘したりしながら、
流れで問いかけてきた。
ヤチヨ:「そういえば、次のライブは来てくれるの?」
ハジメ:「んあ、えっと3日後だっけ。
えっと…あった、ほい。」
そう言って俺はスマホを操作し、電子チケットの映った画面を見せる。
ヤチヨ:「そっか、じゃあ今回も張り切っちゃうよ~♪」
ハジメ:「おう、期待してる。」
ぱーっと顔を明るくさせた後、
フンスと息巻く彼女を俺はそっと眺めていた。
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所変わって、俺は今、仮想空間ツクヨミの一角にいる。
そもそも、仮想空間ツクヨミとはなにか。
簡単に言うと、そこは、ユーザーそれぞれがクリエイターとなって、
お互いに交流し合うことの出来るインターネット上の空間だ。
そして、俺とヤチヨが創り上げた世界でもある。
まあ、正確に言えば、創ったのはその基盤だけなのだが。
流石に、これほど大規模なものを一人で開発するのは、
現実的に考えて不可能だ。
俺は、この世界の構築のメカニズムと、
それに基づいた一つの具体的な空間を創った。
その後、ある程度のツクヨミの管理権を自分に残したまま、
そのノウハウと運営権を民間の企業に売った。
なぜ、この世界を作るに至ったのか。
紆余曲折あるが、
端的に言うと、それが俺の願いであり、彼女の願いでもあったからだ。
彼女の願い、それを本人の口から直接聞いたわけではない。
というか、聞いたけど教えてくれなかった。
彼女は、これまでの時代で様々な人間と関わってきた。
そしてそれらの人々には、自身の願いを打ち明けてきたらしい。と俺の前任が言っていた。
俺だけ聞かされていないのは納得いかない。
だからその時、
俺の前任者に、彼女の願いについても聞いたのだ。
前任者は、最初、
彼女が言わないのなら、私の口から言うべきではないと頑なな様子だったが、
俺の強情さに根負けしたのか、少しだけ教えてくれた。
曰く、彼女には逢いたい人がいるそうだ。
8000年を超えて逢いたい人など、なかなかロマンティックな話ではないか。
そのために彼女は、
電子的な自分と現実世界の人間とが、
直接触れあうことの出来る世界を望んでいたのだろう。
そして、俺もそんな彼女の願いを叶えてやりたいと思った。
…チクリと胸が痛む。
あまり思い出さないようにしていたのだが、
あんまりにも釣れないのでついつい余計なことを考えてしまった。
そう、俺は今、ここツクヨミで釣りをしている真っ最中だったのだ。
俺がこの世界で作った唯一のゲーム作品。
その名も”極・釣り道”だ。
その内容は、エンタメとしてのゲームの釣りというより、現実の釣りを深く追求したものだった。
釣りゲームらしいインタフェースをことごとく排除し、
竿を握る感覚や釣り人本人の精神状態などを、可能な限り反映したそれは、
自分でも驚くほどの再現性を有しており、
そのリアリティの高さ故に、一部の層から根強い人気があった。
俺は、日ごろから、こうしてこの世界の片隅で一人、釣りをしているのが好きだった。
現実世界の釣りと違って、その場に行く必要がないため、
手軽に釣り気分が楽しめるというのも人気の一つらしい。
そうやって、ぼーっと時間が過ぎるのを眺めていると、一通のメールが届いた。
やっと来たかと思ってその内容を確認しようとメニューを開く。
一応、今日は人との約束があってここに来ていたのだ。
その約束の相手とは、ネット上のゲーム仲間。
そいつとは、お互いゲームの腕前が近かったという理由で、
時たま交流することになった仲だった。
ネット上での付き合いであるため、
その素性については、お互いによく知らない。
両者とも、詮索するタイプでもなかったため、ずっと知らないままだが、
唯一、そいつが俺よりも年下であることは分かっている。
それを知った時は、俺より年下で大した腕前だと感心したが、
それ以上に、そいつの高い成熟ぶりに驚いた。
高校生なんて、もっとガキだろう。
よほど波乱万丈な人生を送ってきたのだろうか。
そんな印象を受けた。
実際、約束に対しても律儀な奴で、これまでの付き合いで遅れることなど一度もなかった。
俺は、たまにある。
だから、今日の遅刻は、意外も意外。
まだ夏前だが、近々雪でも降るんじゃなかろうか。
そんなレベルだった。
ハジメ:「…げッ…!?」
が、俺はメールを見て顔を顰める。
あまりのショックに、そのままそのメールを削除しそうになった。
メールの差出人は、約束した人間ではない。
送信主のところには、「帝アキラ」と書かれていた。
しかも、その内容は、既にこちらに向かっているというもの。
がっくりとうなだれて、これからどうやってそいつを撒こうかなどと考えている時には、
時すでに遅し。
まもなくして、先方がお見えになっていた。
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アキラ:「よう、元気してたか?って、そんな露骨に嫌そうな顔すんなよ…」
ハジメ:「お前がその格好で来るときは、碌なことがないからだろ、朝日。」
アキラ:「馬鹿お前、今はアキラだ!
誰かに聞かれたらどうすんだよ!?」
そういって、俺の口をふさぐコイツは、酒寄朝日。
俺の古くからの腐れ縁で、
インターネットゲームの黎明期から、一緒にゲームをしている仲だった。
今でも一緒にゲームをしているが、その時は本名を文字った名前のアバターを使っている。
この「帝アキラ」というアバターは、所謂お仕事用のものだった。
そのため、この格好で俺の元に来るときは、たいてい厄介ごとが多い。
アキラ:「それで、俺たちのチームに入るって話、考えてくれた?」
ハジメ:「お前それいつまで言ってんだよ。
当時ならまだしも、今の俺にそんな実力がないことはお前もわかってるだろ?」
これは謙遜でもなんでもなく、紛れもない事実だった。
今の俺の実力は、せいぜいエンジョイ勢の実力派に毛が生えた程度で、
贔屓目に見てもプロゲーマーなどには遠く及ばない。
というか、別に俺は当時から、頭一つ抜けている猛者みたいな実力ではない。
大体、朝日にキャリーされてた、懐かしいな。
アキラ:「別に、今となっては、プレイヤーとして入れ、って訳じゃない。
コーチや監督として、お前のゲーム理解度の高さを貸してくれ…
って、まあこれも、もう何度目の勧誘だって話だよな。」
そういって笑いながら、ポリポリと頭を掻く朝日。
全くだ。
こいつは昔から、仕事のていで俺と話すとき、決まっていつも勧誘から入る。
いつの間にかそういう流れが定着してしまっていた。
アキラ:「まあ、今回に関しては、来る国際戦で、
いつも届かないあと一歩を埋めるために、
割とマジで入ってほしいんだが…」
ハジメ:「ハイハイ、それで、本題は?」
そういって軽くあしらう俺を見て、朝日は肩をすくめる。
そうしてここに来た理由を語りだした。
アキラ:「今日お前に聞きたいのは、近々開催されるヤチヨカップのことについてだよ。」
ハジメ:「…ヤチヨカップ?」
その時俺は、背筋に冷たいものが走る感覚に襲われた。
それがなぜなのか、すぐには分からなかった。
以下、補足
書いているうちに感じるのは、ヤチヨってこんなこというんかな…?
これだけです。
疑問の原因は明確で、本編のヤチヨの登場シーンがそもそも少ないこと、特に、本性をさらした後のヤチヨの描写は、アパートでの語らいの前後しかないです。
そんなところから解像度を上げることは、大変困難ですが、世の中には、帝と乃依というきわめて少ない供給から、針の穴を通すようにして見出している人もいるそうなので、文句は言っていられません。
ならばどうするか…
一つは、「月見ヤチヨ」としての振る舞いを強く反映させるということ。
しかし、これをするということは、同時に強い武器を失うことになります。それは、アイドルなどをヒロインとして取り扱う作品に多く散見される、ヒロインの持つ二面性。つまり、所謂”世間で人気なあのコが、僕にだけ見せる一面”というやつです。僕は、これが好きです。
そのため、この案を採用するわけにはいきません。みんなの前では、明るくふるまうヤチヨが、僕の前だけでみせるオフな一面を捻出することが、私の目下の至上命題となりました。
つまり、今のヤチヨの(いや…これ言ってるかな、)みたいな言動も、(言っててほしいから言わせてみよう)としている、私の行動は、私が、私の挑戦的な姿勢を忘れていないということの表れであると捉えることができます。そう言い聞かせています。
実際のところ、ヤチヨは、相手がいい加減な感じの性格だった場合、こんな感じの接し方をするとは思っています。問題は、あくまでディテールの部分だけで。
これは、ヤチヨがイロハの影響を受けていることから来ており、そのことについては、本編でも言及されていたように思います。これもまた、かぐやとヤチヨが異なる存在であるということを強く示していると感じる部分でもありますが、今は置いておきます。
なのでこれからも、これって、ヤチヨか…?となる部分も度々現れるかと思いますが、それは、挑戦的な姿勢の表れということで、過ぎた捏造は抑えつつ、可能な限りトライしていこうと考えています。
そして、願わくば、公式が本編後ヤチヨを供給してくれることを切に祈っております。
以下、設定補足
酒寄朝日と井浦一の交流は、KASSENの前身となったゲームがあると仮定して、そのゲームからの付き合いということになっています。
本編内のKASSENのバージョンが8.なんとかだった気がするので、モチーフ元のリーグオブ何某が今15周年であることから考えて、その前身となったゲームがあってもおかしくはないなと判断しました。
本編内のヤチヨの、前は帝につきましてよ、みたいな発言もあったので、そこら辺含めて過去編を書きたいのですが、こういう時の、上手い話の展開のさせ方が分かりません。しかしながら、ワンp-スの単行本買ったとき、上から見て黒が多かったら、過去編が多いからという理由でげんなりしていた当時の俺を、今の自分が見て見ぬふりすることは許されない。
上手いこと織り交ぜたいなあ...