超かぐや姫!0 ~before full moon~ 作:ごーまん
自分だけの世界が欲しかった。
誰にも侵されることのない、
自分だけの水平線を夢想していた。
ハジメ:「………できた…!」
寂れたアパートの一角で、一人の少年が小さく声を上げる。
部屋には、所狭しと電子機器が置かれており、
日中であるにも関わらず、カーテンが閉め切られていた。
その切れ間から漏れ出す僅かな光が、
喜びに満ちた笑みを浮かべる彼を照らしている。
ハジメ:「俺の夢、そのための第一歩…。」
手に抱えられているのは、めがね型のデバイス。
当時、未だ誰も作り得なかった代物。
そのデバイスは、現実世界に、電子的な情報を投影し、
それを認識できるようにするものだった。
それは当時、世に出回っていたAR技術とは、全く異質な物であった。
ハジメ:「ここからだ。まだ何もないこの空間に、俺だけの世界を作るんだ…。」
彼は今、真っさらの画用紙の前に立っているような気分であり、
高揚で胸が張り裂けそうだった。
これは、この少年、井浦一が己の力のみで、
このデバイスを開発した瞬間であった。
弱冠13歳の時である。
柄にもなく舞い上がって、
意味もなくそれをつけたまま、外へとかけていく。
彼が今、
というよりその生涯で心血を注いでいるのが、
先に述べた自分だけの世界、
いわば仮想空間の構築であった。
無論、具体的な理論やプロセスなどは一切なく、
言わば机上の空論、
もっといえば、子供の与太話にすぎないようなものであった。
それでも、彼はそれを夢想せずにはいられなかった。
そんな彼が取り組んでいたのが、先のデバイスの開発である。
当然その足取りは軽かった。
向かう先は、彼のお気に入りの場所。
そこは、地元の人間でも知らないような辺鄙な場所であり、
行けば視界の限りを水平線が覆い尽くす、
そんな光景の見られる場所だった。
彼は、そこで沈んでいく夕日、
そして音もなく現れる月を眺めるのがすきだった。
彼の思い描く世界もこの風景に強く影響を受けていた。
息を切らしながら、その場所に辿り着く。
どうやら時間には間に合ったらしい。
今まさに夕日が沈む。
そして、月が現れようとしたその瞬間、
彼は目の端で神秘的な存在を目にする。
その存在の異質さの理由に気付くのに、そう時間はかからなかった。
長く切りそろえられた白銀の髪、
時代劇のような着物姿も然る事ながら、
最も衝撃なのは、
その足が地面について居ないことだった。
ここまでの情報だと心霊の類いのように思えるかもしれない。
だが、それが彼の心を掴んではなさいのには訳があった。
ハジメ:「これがないと…みえない…。」
何度かメガネ型デバイスをつけ外して確認するも、
それは間違いなかった。
あり得ないと感じた。
そんな者がこの世に存在するのか。
自分が一番に足を踏み入れたと思っていたこの拡張現実の世界には、
明らかに何らかの意思を持ったものが、既に存在していた。
ハジメ:「…う、宇宙人?」
正常な判断が出来ていないことを彼自身も認識していた。
しかし、意外にもこの超常的な現象を前に、
彼が、立ち竦むことはなかった。
それは一重に魅せられていたからに相違ない。
月夜に輝くその美しい風貌に。
彼は後に、この行動を後悔する。
だがもし、彼が再びこの時点に戻れたとして、
やはりその衝動を抑えることが出来たであろうか。
電灯に群がる羽虫のように、
彼はその引力に逆らうことが出来なかった。
そしてやはり、羽虫のように、
その光で自らの身を焼くのであろう。
?:「………。」
ハジメ:「いっ…!」
半ば無意識だった。
相手が振り返るまで、
自分の足がその未知の存在に近づいている、
ということに気付かなかった。
女は不思議そうに彼のことを見ている。
どうやら女の側からは、彼のことが見えているらしい。
いよいよ本当に宇宙人かと腹をくくっていると、
不意に女と目が合った。
とくんと胸がはねたかと思ったのも束の間、
急に女が動き始めた。
ハジメ:「……は!?」
突然のことに動揺するも、
いまさら見なかったことにするわけにもいかず、
必死にその後を追った。
辺りは暗く、
どんどん人気のない工場地帯へと進んでいく女。
進みながら、今日が命日かもな、
などと冗談交じりに考えながら走って行くと、
女が、ある倉庫の前で止まった。
それは、随分と奥まった場所にあり、
正直ここから自分の足で帰れる気がしない。
?:「……」
ハジメ:「…開けろ、ってことか…?」
ゴクリと生唾を呑む。
頭の中で様々な可能性が頭をよぎる。
なにがある?
死体?
それとも暴力団員の集会?
これそのものがUFOという可能性も…
そんなことを考えながら扉を開ける。
薄目で見るとそこには、
水槽に入った大きな筍と、小さい海洋生物がいた。
恐る恐る部屋に入ってみる。
特に事件性のある感じはしない。
むしろ、仄かに生活感があ、る。
?:「おや…?」
背後で声がした。
南無阿弥陀仏。
脳内を走馬灯が駆け巡る、
さしたる思い出もないが、心残りはある。
折角今日、夢への足がかりを掴んだというのに……
こんなところでしんでしまうとは…
?:「いや、悪いね。驚かす気はなかったんだが」
生きてる。
どうやら今日が命日ではないらしい。
恐る恐る振り返るとそこには、
こぎれいな服を身にまとい、
いかにも紳士といった感じの佇まいの男が立っていた。
随分と高齢なように見える。
ハジメ:「えっと、すいません。
すぐに出て行くので、
どうか命だけは、勘弁してください。」
すると、男は、
目をパチクリさせながら、大きく笑った。
?:「ハッハッハ。
そんな取って食いやしないさ。
ここを荒らしにきたって訳でもないんだろ?」
それを聞いて、俺は安堵した。
ここで彼の中の何かがぷつりと切れた。
それまで張っていた緊張の糸が切れたように、
その場に倒れ込んでしまった。
――――――――――――――――――――――――――――
次に気が付いたとき、
視界に映ったのは、見知らぬ天井だった。
朧げな目をこすりながら、上体を起こす。
眉間に手を当て、次第に鮮明になっていく記憶に意識を向ける。
そうしていると、声が聞こえてきた。
老人:「やあ、調子はどうかな?
といっても、こんな即席の寝場所では、
快眠というわけにはいかないだろうけど。」
その様子から敵意は感じ取れない。
不法侵入者である俺を咎めるつもりはないようだ。
まだ子供でよかった。心の底からそう思った。
ハジメ:「えと、昨日?はすみませんでした。
言い訳でしかないんですけど、
実は、その……女の幽霊?みたいなのを追ってたらここに来ちゃって…。
すぐに出ていくんで、
警察だけは勘弁してもらえませんか。」
俺の必死の謝罪を聞き、
老人は一瞬、目を丸くしたと思うと、
次の瞬間大きく笑い始めた。
老人:「いやいや、警察なんてとんでもない。
大体君をここまで連れてきたのは、
私たちのほうなのだからね。」
ハジメ:「?」
まるで要点を得なかった。
そんな俺の様子を察知して、老人が説明を続けた。
老人:「君もさっき言っていただろう?
女の霊。
そうか、そういう風に見えるのか…。
いや、すまない、こっちの話だ。
それで、その彼女が君をここまで連れてきたんだ。」
ハジメ:「つまり、あの幽霊は、
あなたが造ったものってことですか?」
老人:「とんでもない。
私にそれほどまでの技術はないよ。
ただ、彼女を支援しているもの、といったほうがいいかな。」
ハジメ:「?あれは、人工物ではないんですか?
それに、さっきから彼女、彼女って。
まるで自我でもあるみたいに。」
老人:「待ってくれ。」
疑問が疑問を呼び、
その答えを得るべく、
俺は次々と質問を投げかけようとしたが、
制される。
老人:「語るうえで一つ言っておきたいことがある。
ここから先の話は、他言無用でお願いしたい。
それが約束できないのなら、
話すことはできないな。」
ハジメ:「口約束に意味があると?」
老人:「あくまで念のための確認だよ。
そもそも君の眼を見ていればわかる。
君に、この話を聞かないという選択肢はないし、
聞いたうえで訳もなく公言するような人間ではない。
違うかな。」
ハジメ:「………。」
老人のただならぬ雰囲気に、
思わず口をつぐむ。
完全に見透かされているようだった。
ハジメ:「そうですね。
話の腰を折ってすみません。
他言はしないと約束します。
どうか話してください。」
老人は小さく、分かったとつぶやくと、
ゆっくりと話し始めた。
そこから語られた話は、
傍から聞けば、荒唐無稽なことの連続だった。
俺でさえ、
実際にこの目で、あの女の姿を見ていなかったら、
信じられなかっただろう。
彼女の正体は、
8000年以上前から存在している電子的な存在であるということ。
そんな彼女は、
喋るウミウシを介して、
この現実世界と関わりあっていたということ。
そして、彼自身もまた、
ウミウシによって、その存在を知り、
彼女の助けとなるべく、
彼女の核となっているタケノコ型のオーパーツを、
倉から盗み出したということ。
老人:「話は以上だ。
なにか、質問はあるかな?」
あまりのスケールに、
情報を処理しきるまでに時間がかかった。
が、真っ先に浮かんだ疑問点、
それは…。
ハジメ:「それってものすごい国際犯罪なのでは…?」
肩をすくめる老人。
コイツ…。
さっきの口止めもそういうことなのか?
犯罪の片棒を担がされたような気がしたが、
日本は若さに寛容だろう。
ばれたところでどうにでもなる。
図太くいくぞ。
ハジメ:「それで、俺をここに呼んだ理由は何なんですか?」
老人:「それは、君が初めて彼女の姿を"見た"からだよ。
この眼鏡。
これは、君が作ったものかな?」
そう言って彼は、
右手に握っている俺の眼鏡型デバイスを見せた。
それをそのまま、俺に渡す。
ハジメ:「そうです。
これは、俺一人で作りました。」
それを聞いて老人は、目を見開く。
老人:「それを一人で?
しかも、その若さ?
これは、期待以上だよ。」
クックックと笑った後、
俺のほうを向きなおして、こう告げた。
老人:「単刀直入に言う。
君の技術力を提供していただきたい。
君の力があれば、
きっと彼女の悲願を叶えさせられる。」
まっすぐな老人の瞳を見て、
その言葉に全くの偽りがないと確信できた。
もはや俺に断るという選択肢などなかった。
その日から、俺の生活は一変した。
それまで、まるで現実味を持たなかった俺だけの世界の創造は、
一気に現実味を帯びたものになっていったのだ。
以下補足
設定ガバガバ、すごいです…♪
諦めました。俺は雰囲気で二次創作を書いている。
軽く調べただけなんですけど、AR技術って1960年代とかから開発されてるんですね。そうでなくとも、一般普及した『ポケモンGO』が2016年。全然無理って感じだ。
一応、初めて彼女の存在を認識したという部分は変えたくないので、それらのAR技術とは、異なる技術をハジメが確立し、その技術をもって初めて彼女に姿が認識できた、という都合のいい解釈でお願いします。原作で出てきたコンタクトみたいデバイスも、実現可能性とか考慮されてるんですかね?
ワインの人も年齢的に、どうやって生きてんだみたいになってそうですけど見て見ぬふりをします。原作開始時点が2030年というのが厳しすぎたな。ドンマイ。
原作とrayのmv見ながら、8000年間のかぐやもといヤチヨの描写を見返したりしてたんですけど、この話の中では、かぐやもといヤチヨの電子体の見た目は、すでに、ヤチヨの見た目になっています。戦時中のかぐやの見た目が、元のままだったことがモヤっとしますが、自由に見た目変更できるんだったら、原作のイロハとの再開シーンでヤチヨとしての見た目を保ったままでいたことに違和感を覚えるので、電子の身でありながら、見た目は変化するという設定でやってます。そのほうが嬉しい。
FUSHIがどういう経緯で生み出されたのかも謎だったのでスルーしました。原作時点で、実体のウミウシは喋りようもなかったので、この話の時点で既に喋れないようになっていることとしました。そのほうが都合がいい。
少ない原作の描写から、なんとか読み解こうと、うんうん唸りながら見返していて気づいたんですが、まだ原作時間で15分ぐらいしか進んでなかった。完成させるって難しいんやなあ。
ノベライズ版は読んでないので、その中に書かれていることとつじつまが合ってなかったら、謹んでお詫び申し上げる所存。