超かぐや姫!0 ~before full moon~   作:ごーまん

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ハジメまして。

 

ハジメ:「じゃあ、俺はこのへんで、」

 

 

技術提供の件について、

老人から粗方の説明を聞き終えた所で、

俺はその場を後にしようとした。

 

 

老人:「ああ、分からないことがあれば、

    随時きいてくれ。」

 

 

その言葉を背で聞きながら、

ドアノブに手を掛けたとき、

ふとあることを思いだして振り返った。

 

目を向けた先は、

老人ではなく、女のほうであった。

 

 

ハジメ:「そういえば、名前………

     いや、いいや。」

 

 

そう言って、言葉を遮る。

 

その様子を見て、

老人が口を開いた。

 

 

老人:「ああ、すっかり言い忘れていた。

    今、彼女との連絡はチャットでの文通で行っているんだ。

    肉声という音波は、電子的な彼女には届かないし、

    彼女もまた空気を震わせることが出来ないから、

    それを届けることが出来ないからね。

    ちょうどいい。

    名前、彼女に直接聞いてみるといい。」

 

 

そう言ってチャット用の端末を差し出す老人。

しかし、俺がそれを受け取ることはなかった。

 

 

ハジメ:「いや、名前は彼女の口から直接聞くことにします。

     そういう契約ですもんね?」

 

 

そう言って老人の方を見た。

彼はにやりと笑って

全く、頼もしいね。

とだけ述べ、端末を引っ込めた。

 

どうせ、ずっとチャットでやり取りするのも面倒だ。

彼女とのやり取りの方法には当てがある。

まずは、それから作ってしまおう。

 

今度こそ帰ろうとドアに向き直ると、

今度は老人の方が俺を呼び止めた。

 

 

老人:「すまない、最後に一つお願いが……」

 

 

要件を聞いて、

俺はメガネ型デバイスを彼に差し出した。

 

老人はそれを身につけると、

ゆっくりと彼女の方に向く。

 

 

老人:「そうか、キミはそういう姿をしていたのか…」

 

 

美しい、

そう小さく呟くその姿が、

俺の目に、強く焼き付いた。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

あの日から、早一週間が経過しようとしていた。

 

老人の財力は本物で、

契約通り、

俺が望んだモノは、数日の内に支給された。

おかげさまで開発は滞りなく進んでおり、

直に、彼女との直接のコミュニケーションを試すことが出来る程になっていた。

 

その方法は、至って単純で、音声を電気信号に変換すると言うものだった。

彼女の姿を見たときからなんとなく予想していたが、

案の定、彼女が発声の素振りを見せたときに、

何らかの電気信号が出ていることが分かった。

 

電子的な存在にしては、

あまりにもその形が現実の生物に沿いすぎている。

であれば、

当然現実の生物と同等の機能を持ち合わせているはずだと考えた。

 

一体どういう経緯で発生した存在なのか。

疑問は絶えないが今は置いておく。

 

それさえ分かれば後は簡単で、

こちらからは肉声を電気信号に変換して発信し、

あちら側からの電気信号を受信して、

音声データにサンプリングする機構さえ作れば、

コミュニケーションの問題は解決だった。

機材さえ揃えば何の問題もない。

 

もう一つ、

彼女本人からチャットで欲しい機器の要望があったが、

そちらも大した手間ではなかった。

 

翌日、

俺はあの倉庫に全員を呼んで、

最初の成果発表を行うこととした。

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

老人:「いやはや、こんなに早く実現できるとはね。」

 

ハジメ:「まあ、俺の予想が正しければ、

     ですけどね。

     ていうか、この程度のこと、

     それだけの財力があれば、

     すぐに実現できたんじゃないんですか?」

 

 

機器の調整をする俺に対して、

そんな風に言う老人。

俺の言葉を聞いて、

小さく笑ってこう返す。

 

 

老人:「そうでもないさ。

    未知の存在を前にしても臆さず、

    既知の技術に応用するというのは、

    そう簡単なことでもないと思うがね。

    …それに、今言ったのは、

    何も技術だけの話ではないさ。」

 

 

そういってちらりと彼女の居る方を向く老人。

てんで当を得なかったが、

そのまま流す。

辺りはすっかり暗くなっていた。

 

粗方の準備を終え、

後はこちらから語りかけるのみとなった。

このマイクに話した内容がそのまま、

彼女に伝わるはずだ。

 

そこでふと、マイクを握る手が震えているのに気付く。

だがすぐにそれが高揚から来るものだと分かった。

 

直に、眼前の未知の存在と意思疎通が出来るかもしれない。

俺は、意を決して口を開いた。

 

 

――――――――――――――――――――――

Another view

 

 

 

 

 

ずっと一人きりの世界だった。

 

目に映る光景は確かに本物だけど、

そこに音はなく、触れることも出来ない。

 

ただただ移ろいゆくその光景を眺めることは、

私が一人きりであることを、

私に自覚させるには十分過ぎたが、

永すぎる時は、

いつしかそんな感覚すら忘れさせてしまった。

 

静かな世界。

それは、美しく、そして冷たかった。

 

そんな世界は、

永遠に続くような、

そんな気がしていた。

 

不意に世界に亀裂が入った。

 

 

?:「あ、あ~~~、マイクテスト中、マイクテスト。

   聞こえますか?

   聞こえてたら手挙げて欲しいんですけど、」

 

 

私は考えるより先に手を挙げた。

声が聞こえた。本当に。

 

私は声の主に目をやる。

 

 

?:「お、まじか。

   マジで通じてる。

   おっけ、じゃあ、次はそっちの信号を受け取るために…」

 

 

そういって、

再び機材をいじり始める少年。

 

いつもと変わらぬ風景。

音も発さず、

触れられぬ冷たい世界で、

彼だけが熱を帯びているように感じられた。

 

この時になって初めて、

自分の心臓が早鐘を打っていることに気付いた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

予想以上の高揚感だった。

 

自分の作ったものが、

未知との橋かけとなっている。

もっと知りたい、もっと繫がりたい。

そんな気持ちが溢れていた。

 

相手からの電気信号を受信するため、

急ぎ、機材の準備をする傍ら、

ふと彼女に頼まれていたものがあったのを思い出した。

 

我ながら冷静さを欠いていたと自覚する。

大きく深呼吸をして、

マイクを手に取る。

 

彼女に、

先に頼まれていたものを見せる、と伝えそれを出した。

 

出したのは、いわば“鏡”だ。

 

原理は、鏡とは異なり、

先のメガネ型デバイスで読み取った彼女の像を、

そのままモニターに映している。

 

これが、彼女から頼まれていたものだった。

理由の察しはついている。

電子的な彼女の像が、

現実世界に投影されることは当然ない。

 

つまり、彼女はこの8000年の間、

自分の姿を認識していなかったということになる。

そんな彼女が真っ先に、

自分の姿を見たいと思うことは、

想像に難くない。

 

そうして、再び受信用の機器の準備に取りかかろうと、

目線を下ろした時だった。

 

下ろされる自らの視界の端が捉えた彼女の表情。

それを俺は、

生涯忘れることがなかった。

 

そっと自身の白髪をなでながら、

目を細める彼女の表情からは、

8000年の哀愁が漂っているように思えた。

 

最も、たかだか十数年しか生きたことのない俺には、

到底量りきることなど出来なかった。

 

いつか、理解できる時がくるのだろうか…

 

そう思って我に返る。

中断していた作業を再開する。

幸い、機材に不備はない。

これで彼女の声が聞こえるはずだ。

 

俺が、彼女に発声を促すべく、

マイクに手を掛けたその時だった。

 

 

?:「ヤチヨ。」

 

 

芯の通った美しい声だった。

俺は、思わず顔を上げる。

彼女の後ろには美しい満月が顔を覗かせていた。

 

 

?:「はじめまして。

   私の名前はヤチヨです。

   アナタの名前は、なんですか?」

 

 

俺は、そっと口を開いた。

 

 

ハジメ:「ハジメ。井浦一。」

 

 

にっこりと微笑む彼女から、

俺は目が離せなかった。

 

これが初めてヤチヨと言葉を交わした瞬間だった。

 

 

 




以下補足

トリノコシティ、好きですねぇ...

私は元々、ワールドイズマイン一本でやらせてもらっていたんですが、聞けば、YouTubeに投稿されている楽曲の中には、劇中で使われていないものもあるそうではないか。いざ聞かん。

そして冒頭に至るというわけですな。


今回の話は、大部分がこのトリノコシティの歌詞から影響を受けたものになっています。歌詞を見ながら、それをそのまま原作に落とし込むことに違和感に感じたことも、こうやって二次創作を書いている動機につながっています。

これは、あくまで自分の中の設定ですが、この作品の中では、ハジメが後にヤチヨに贈った曲の一つに、この曲があるということになっています。

実際の曲をそのように扱うことは、あまりにも自分本位な解釈であるために、本文中で明言することは止めたのですが、私としては、第三者か見たヤチヨの想いというのが、このトリノコシティの歌詞のちょうどいい落としどころのように思ったのでここに書いときます。

ハジメからはそんな風に見えていたんだな、なんて考え、改めて自分を客観視して、ちょっぴりおセンチになって歌うヤチヨ。

これが気持ちいいです。



原作で語られていない小説版の補足、それを思うとなんだか辻褄が...と思い、手が止まってしまいますが、とりあえず終わらせることを第一にして、ある程度は目をつぶろうと思います。ご容赦下しあ。
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