超かぐや姫!0 ~before full moon~ 作:ごーまん
まぶたを開く。
体が重たい。
どうやらかなり長い時間眠っていたようだ。
スマホを開いて、時刻を確認すると昼前だった。
疲れがたまっていたというのも、
あながち間違いではなかったのかもしれない。
随分と深い眠りについていたようで、
未だに意識がはっきりとしていない。
何か夢を見ていたような気がするが、
思い出せないな。
だが、どこか懐かしい気持ちがしていて、
不思議と悪い気分ではなかった。
まだ重い身体を起こして、
暗い寝室から出る。
程なく、リビングのタブレットが光った。
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3連休。
あれからもこれといって何かする気は起きず、
ただ、ぼーっと過ごしていた。
しかし、自暴自棄になっていたわけではない。
むしろ今度こそ気持ちの整理がついたと言える。
俺はぼんやりと、
自分のやるべきことを考えていていた。
目的はただ一つ。
ヤチヨの運命の再会を果たさせたい。
そのために、俺にできることとは。
考えた末に思い至ったこと、
それは、その相手を知ることだった。
俺はそもそも、
8000年の時を経てヤチヨが会いたがっている運命の相手を知らないのだ。
無理もなかった。
先にも述べたが、
ヤチヨはなぜか、
過去、ともに過ごしてきた人間の中で、
俺にだけその話をしなかった。
真意は分からないが、
今になってヤチヨの考えが変わって、
俺にそのことを教えてくれるというのは、
少々楽観的思考が過ぎるように感じる。
むしろ、俺がそのことについて、
何かしようとしていることを知ったヤチヨ本人が、
その行動を変えることを懸念していた。
俺がしたいのはあくまで陰からの補助だ。
当事者の心境に、
直接影響を与えるようなことは本意ではない。
とは言っても、
正直、今の俺にできることはないと言って良かった。
なにせ、運命の相手について、
手がかりがなさ過ぎる。
おそらく、連休明けのライブで発表される“ヤチヨCup”。
その優勝者がキーマンであることは疑いようがないのだが、
それが誰であるのか、
ある程度の当たりをつけることすら叶わなかった。
確定的であることは、
その運命の人が、ツクヨミのユーザーであること。
これは、ヤチヨがツクヨミの創造を願ったことから明らかである。
が、今やその総ユーザー数は億を超える。
その中から、一人を見つけ出すというのは、
あまりにも非現実的な話であった。
気持ちを新たに、次なる一歩を踏み出したくて、
居ても立ってもいられないというこの瞬間に、
具体的な手立てが浮かばないというのは、
なんともやるせないものだった。
このまま優勝者が決まるまで、
俺はただ、舞台袖から眺めていることしか出来ないのだろうか。
ウンウンと唸っては見るが、
現状を打破する糸口は見つからず、
ただ時間だけが過ぎていった。
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連休最終日の夜。
俺は、リビングで晩飯を食べていた。
結論から言うと、
画期的な方法は何も浮かばなかった。
考えられるだけ考えた。
が、浮かばなかったものはしょうがない。
明日のライブで何か手がかりを得られることを願うのみである。
吹っ切れた様子で、飯をかき込む俺の姿を、
神妙そうな面持ちで見つめるヤチヨ。
昨日今日と、露骨に彼女の口数が少ない。
おそらく、俺の体調を気遣ってそっとしてくれているのだろう。
そんなことを考えていると、彼女が口を開いた。
ヤチヨ:「良かった、もうなんともないみたいだね。」
ハジメ:「おう、流石にあれだけ安静にしてりゃ嫌でも良くなるわな。
ご心配をおかけしました。」
そう言って、わざとらしく頭を下げる俺。
そんな様子を見て苦笑するヤチヨ。
どうやら、いつかの失言は後を引いていないらしい。
俺は、胸をなで下ろす。
ヤチヨ:「でも、なんか難しい顔してたよね?考え事?」
ハジメ:「あーー…」
このとき、俺は迷った。
後になって思えば、
ここで素直に、彼女の願いについて聞いていれば、
あんなに面倒なことにはならなかったのかもしれない。
俺は、いっそ彼女に運命の人のことを聞いてしまおうかと考えた。
朝日の話が正しければ、
8月末には、記念ライブがある。
詰まるところ、もう俺の力を要する工程はないということだ。
であれば、俺に対してそのことを隠しておく必要もないのではないか。
そう考えた。
何でもないみたいに、
気安く聞けば、答えてくれる。
そんな気がした。
ヤチヨの方を見る。
キョトンと首をかしげる彼女。
努めて自然体で、俺は質問を口に出そうとした。
…が、
ハジメ:「あ~~…、明日のライブ…、
場所自由だったよなぁ、と思って、
いいとこ取るためには、
どんくらいに行けばいいかな、みたいな?」
そんなことを口走っていた。
我ながら不自然にも程がある。
自分の取った行動が理解できず、少し混乱していた。
内心焦る俺をよそに、
ヤチヨは、あ~と言いながら、人差し指を立てなにやら思案している様子。
まもなく、何か思いついた様子で口を開いた。
ヤチヨ:「ね?明日のチケット出して?」
ハジメ:「んあ?おう…」
どうやら俺の挙動不審さには、気に留めていないらしい。
ヤチヨの言動の意図は汲めないが、
一旦一安心。
素直に彼女の言葉に従う。
ハジメ:「ほい。」
そう言ってチケットを見せる俺。
ふむふむといって俺のチケットを見た後、
なにやら手元で操作し始めた。
冷静になってみると怖い。
何をされるのだろうか。
ヤチヨ:「はい、できた!
チケット、更新してみて?」
言われた通りに更新する。
すると、なにやらチケットの右下に、
フリーハンドで文字が追加されていた。
ハジメ:「?なに、特別サービス………、ハグ付き?」
その文字を見て、思わず硬直する俺。
そんな俺にかまうことなく、
愉しげなヤチヨはこう語る。
ヤチヨ:「も~、しょうがないにゃ~。
確かに最近忙しくて全然ツクヨミで遊べてなかったもんね?
まあ、これから更に、ちょ~っと忙しくなるんだけど、
それは置いといて……。これは、前金!
いろいろ片付いたら、また遊んであげるから、
もう少しだけ我慢しててね~♪」
そういって揶揄ってくる彼女。
口を手を当て、目を細めるその表情に、
俺は、この時初めて、
己が言動の犯したミスに思い至る。
とんでもない勘違いをさせているようだ。顔が熱くなってきた。
ハジメ:「そ、そんなんじゃないやい!
子供じゃあるまいし!
大体、別に元々そんなにツクヨミで交遊があったわけでもないだろ!?
こんなことを考えてたわけじゃな――――」
ヤチヨ:「じゃあ、要らない?」
ハジメ:「……………。」
沈黙。
俺の必死の弁明もあえなく、
彼女の一言にシャットアウトされる。
俺は、もう一度チケットに目を落とす。
「ハグ付き」
その横に描かれたヤチヨの似顔絵と目が合う。
ハグ。確かに、これは、彼女が俺のためを思ってしてくれた彼女の厚意。ハグ。
それを無下にすることは忍びないハグ。
俺は、ヤチヨに向き直る。
その眼差しには、
揺るぎない信念がこもっていた。
ハジメ:「ありがとうございます!」
俺は、深々とお辞儀をした。
人生で90度のお辞儀をしたのは、
後にも先にもこれだけだった。
以下補足
言い訳させてください。
最初は、握手にしようと思ったんです、無難に。
でも、魔が差したんです、不意に。やったらええやんゆうてきはったんですわ。ハグ。
ここ数日ずっと考えていました。本当にハグかなあ。もっといいアクションあるんちゃうかなあ?
しかしながら、最終的にはこうなっちゃた。お↑れにも譲れへんモンはあるよ。
まじめな話をすると、この後の展開的に握手じゃ弱いなと思ったのは事実です。かといってハグでもないなとも思っていたので、悩んでいたんですが出ませんでした。人生経験の薄さ出てるなあ。
いうてハグはハグで味付け濃くておいしいので、アリかも知らんな。
後普通にヤチヨのセリフを「しょうがないな~」にするか「しょうがないにゃ~」にするかでも、めちゃ悩みました。が、基本的には、濃いめの味付けにしていこうと考えたためこうなりました。引けば老いるぞ。
目下の課題は、会話文のウェイトを増やすことなんですが、こんなんで悩んでたら先が思いやられますね。残念だ。