超かぐや姫!0 ~before full moon~ 作:ごーまん
連休が明けた。
と言っても俺は大学生。
しかも単位は粗方取り切っているため、
休みでなくとも大した負担はない。
この日も昼過ぎから2コマの授業を受けて、
夕方には帰宅した。
腑抜けたスケジュールもさることながら、
今日に限っては、自分自身もまた腑抜けていた。
あの日、
ヤチヨの運命の人の捜索は取り止めようと決めたはずだったのだが、
結局未練が消えず、
意味がないと考えながらも、
俺は朝からあることをし続けていた。
それは、ツクヨミの新規ユーザーの確認である。
これでも一応管理人だからな。
それくらいの権限はあった。
そうはいっても、約一億人のユーザーを持つツクヨミ。
既存のユーザーに、該当人物がいたとして、
それを見つけ出すのは現実的でない。
だが、これまでヤチヨは、
ツクヨミの管理をし続けていたのにも関わらず、
運命の人に逢おうとする素振りを見せなかった。
つまり、運命の人は新規ユーザーである可能性が高い。
であれば、今現在、
その人物はツクヨミにはおらず、
ターニングポイントであるヤチヨカップ当日に満を持して登場する。
そんな可能性を考えていたのだが…
ハジメ:「ま、そんなうまい話はないか…」
自宅のモニターに表示されているユーザー名のリストを見ながら、
そう溢す。
モニター上では、
凄い速度で名前が上から下へと流れていた。
ツクヨミは、今やそのシェアを海外まで拡げようとしている。
当然、新規ユーザー数も凄い数だ。
到底追いきれるものではない。
俺としても、
そこまで期待をしていたわけではなかった。
けれど、何かしていなければ落ち着かなかった。
そんな心境で今日一日、新規ユーザー名のリストを眺めていた。
チラリと時計を見る。
デジタル時計は19:35を指していた。
ハジメ:「潮時だな…」
そういってデスクを漁る。
しばらくして自分のスマコンを発見した。
ライブの開始は、20:30だが、
今日のライブは自由席だった。
良い席を確保するには、
ある程度前もって到着している必要がある。
ふと昨日の一件を思い出す。
ハグ…
自分でも鼻の下が伸びているのが分かる。
別れの時はもうすぐだと覚悟できている筈なのに、
それとこれとは話が別だった。
つくづく短絡的な生き物である。
よく考えれば、ユーザー名を見ただけでは、
運命の人など分かりようもないではないか。
やはり、ハグのことで冷静さを失っていたのだろう。
既に頭はライブのことで一杯だった。
そうと決まれば、
いち早くライブ会場に参上しようと、
スマコンを装着した。
そうして、モニターの電源を落とそうと目を上げたときだった。
瞳が、流れていく文字列の中、一つの名前を捉えた。
ユーザー名:「かぐや」
俺は直ぐさまリストの流れを止める。
そして「かぐや」についての詳細情報を確認した。
そのアバターに特段変わったところはない。
女子高生、いや、中学生くらいだろうか?
派手めな印象を受ける。
何の変哲もないに思えたが、
俺の心中は穏やかではなかった。
ヤチヨの正体について、
俺の中には一つの仮説があった。
それは、あまりにも荒唐無稽な話で、
仮説と呼ぶには、些かファンタジーすぎるものではあったが。
しかし、あの倉庫にあったタケノコ型の物体。
そして、8000年という長い年月。
嫌でも連想せざるを得なかった。
日本最古の物語、竹取物語。
その中に登場するかぐや姫のことを。
今この瞬間において、
「かぐや」と言う名前は、
あまりにも大きな意味合いを持っていた。
――この目で確かめなければならない。
すぐに俺はそう考えた。
彼女は必ずライブに来る。
確信があった。
俺は、目を閉じてツクヨミに接続する。
既に俺の頭から、
ライブに参加するという選択肢は消えていた。
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時刻は20:25。
俺は、ミニライブの会場の全貌が見渡せる、
少し離れた場所にいた。
まもなく、ミニライブが始まる時間となっていた。
が、まだ「かぐや」を発見できていなかった。
俺の持っている権限では、
新規ユーザーのアカウント情報しか得られず、
個人情報の観点から、リアルタイムの位置情報などは得ることができない。
つまり、彼女が今どこで何をしているのか分からなかった。
これまでの間で、
ツクヨミ内の新規ユーザーが誘導されるロケーションは確認した。
しかし、彼女がそこを通過した形跡はなかった。
ツクヨミに慣れ親しんだユーザーが、
「かぐや」に付き添っているのかもしれない。
そうなると、
一層、俺の予想の信憑性が増す。
その付き添いがミニライブのチケットを持っているのだろう。
やはり、「かぐや」は、ここに来る。
既に会場は、来客で埋め尽くされていた。
俺は、権限を用いて、
片っ端からその人々のアバターをスキャンする。
ミニライブということもあり、所要時間が少ないため、
これほどの人数では、全員を確認することは不可能だ。
俺は、祈るように捜索を続けた。
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Another view
タイマーを見る。ライブの開始までは10分を切っていた。
ヤチヨ:「ふぅ……」
小さく息を吐く。
目線を落とすと、
手が小さく震えているのが見えた。
何度やってもこの瞬間には慣れないな。
緊張、
不安、
そして期待感。
8000年生きた中でも、これほどまでに心揺さぶられる瞬間は、そうなかった。
FUSHI:「やちよ、大丈夫?」
ちょこんと肩に乗ってきたFUSHIがそう告げる。
ヤチヨ:「ん~~~、やっぱいつも通り、って訳にはいかないかな~?」
正直に打ち明けた。
そう、今日のミニライブは、いつもとは違った。
今日は、あの娘が来るはずだから。
運命は決まっている。それは、これまでの年月で痛いほど実感してきた筈なのに、
いざこの瞬間になると足が竦んだ。
正しく輪廻は巡るだろうか。
彼女らは、今ここにいるのだろうか。
胸に手を当て、俯く。
そんな様子を見てFUSHIがこう告げる。
FUSHI:「大丈夫!おいらが付いてる!」
ヤチヨ:「…ありがと~」
そういってFUSHIを優しく撫でる。
そうだ、いつもと変わらない、
こうやって二人で乗り越えてきたのだ。
それは、これからも変わらない──────
しかし、少し間を経て、FUSHIが口を開いた。
FUSHI:「…それに、一応あのバカタレもいるから!」
ヤチヨ:「………。フフッ、あはははは」
その言葉を聞いて目を丸くした。
が、堪えきれず吹き出してしまった。
まさか、ほんの10年前までは、考えもしなかった。
二人だけだと思っていたのに。
こんな展開が訪れるなんて、
8000年生きても、人生分からないものだ。
?:「極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ。」
いつかの言葉が頭をよぎる。
当時は半信半疑だった、その言葉。
今では、そうだと思える気がした。
ヤチヨ:「ハグ、彼のためだって思ってたけど…」
案外自分のためだったのかも?
そんなことを考えた。
タイマーを見る。
残り時間は1分を切っていた。
私はステージの光が差す方に向き直る。
もう、震えはなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
舞台上にでかでかと表示されたカウントダウンが進む。
観客がその数字を呼ぶのが聞こえた。
光の粒が像を成し、大きな鳥居を形成する。
程なく、その瞬間が訪れる。
ゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
低い鐘の音とともに、彼女が姿を現した。
ヤチヨ:「おまたせ!…えっへへへ♪
やおよろ~~~!
神々の皆?今日も最高だった~?」
その瞬間、会場では堰を切ったように歓声が巻き起こった。
ヤチヨ:「うんうん、よぉ~し!今宵もみんなを誘っちゃうよぉ~~!
Let’s go on a trip!」
ライブが始まった。
焦るな。
速度を上げるあまり、精度を欠いては本末転倒。
見落とすことがないよう、しっかりと名前を確認する。
全神経を視覚に費やす俺の耳に、
歌が流れ込んできた。
ヤチヨ:「幾千の~♪ 時を巡って今~♪ 僕ら出会えたの~♪」
いつかの自分のことを思い出した。
ぼんやりと考えていたヤチヨの約束のこと。
いざ、その瞬間になってこの歌詞を聞くと、
込み上げてくるものがあった。
諦めるわけには、いかない。
必ず、見つけ出す!
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しかし、結局最後まで「かぐや」を見つけることは出来なかった。
ライブは、全ての楽曲を歌い終え、一区切りとなり、
舞台上ではヤチヨが告知の話を始めていた。
俺は捜索を続ける傍ら、
内心、心が折れかけていた。
頭上に垂れてきたと思った蜘蛛の糸は、
どうやら望んだ結末まで導いてくれないらしい。
すると、なにやら会場で大きな音がした。
慌てて目をやるも、すぐにそのことを後悔する。
音の正体は、牛車ならぬ虎車が、
ライブ会場に乱入した音だった。
相変わらず、目立ちたがり屋なやつだと呆れた。
今はそんな状況ではないというのに。
アキラ:「よう、子ウサギども! お前らの帝様が来たぜ!」
そのまま高く手を上げ、指を鳴らす。
すると映像が流れ始めた。
短いパフォーマンスを経て、
ヤチヨに対して高らかに宣言するアキラ。
アキラ:「というわけで、俺たち 優勝するから。ヤチヨちゃん、コラボよろしくね。」
大衆からすれば、優勝候補筆頭の「Black onyX」。
だがこの場で二人だけは、そうならないことを確信している。
俺は、チラリと舞台上のヤチヨに目を向ける。
ここからだと遠くて、その表情が判別できなかった。
ヤチヨ:「最高のライブを約束するから みんなドシドシ参加してね!
一緒にハッピーになってめでたししちゃお~!」
告知も終了し、会場にお開きの雰囲気が漂い始める。
タイムオーバー。
その単語が頭をよぎった。
瞬間、力が抜ける。
「かぐや」の捜索を諦めようとしたその時だった。
?:「やちよぉぉぉ~~~~~っ!!!!!!!」
会場内で彼女を呼ぶ声が聞こえる。
声の主に目をやる。
探し求めていた人物がそこにいた。
かぐや:「かぐやがヤチヨカップ優勝する!
そんで絶対コラボライブする!
いろ――――むぐぅ!?」
そういって大声で宣言する彼女。
が、途中で連れに言葉を遮られていた。
やはり、一人ではなかった…。
そんな様子を見て思わず笑いが溢れた。
ハジメ:「ははっ、眩しいな…。」
真っ直ぐと自分の意思を押し通すことの出来る強さ。
俺には、直視することが出来なかった。
もしも、俺に彼女の強さがあれば、
違ったエンディングを迎えることができていたのだろうか。
しばらくの間、俺はその場で立ち尽くした。
ぼんやりと彼女らの様子を窺う。
まもなくして、ヤチヨが彼女らの元に駆け寄っていったのが見えた。
その様子を眺めながら、
いつかの仮定は、自分の中で事実へと変わっていった。
それは、あまりにも凄惨で、救いのないシナリオだと思った。
先にツクヨミから姿を消しすかぐや。
残された一人と手を取り合うヤチヨの様子が見えた。
初めて見る、とても優しい表情をしていた。
ハジメ:「見つけた“運命の人”」
俺は、彼女のユーザー名を確認する。
予想外な名前に目を丸くした。
ハジメ:「…。フッ、これも運命、なのかな…。」
その名前を見て乾いた笑いが溢れた。
その人物のことを俺は既に知っていた。
ユーザー名:「いろは」
空中に表示されたウィンドウを閉じて、俺はその場を後にした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ヤチヨ:「なんで来なかったの?」
ハジメ:「…あ~~~…」
時間にしてライブ終了から半刻ほど後、
俺は会場でヤチヨに詰められていた。
なぜこんなことになっているのか。
きっかけは、ライブ終了後、
俺がツクヨミからログアウトしようとしていた時に来た、
ヤチヨからの1通のメールだ。
それには「来て」という短い文章と、
ライブ会場の位置が指定されていた。
呼び出しである。
無視するわけにもいかず、
言われた通りに来てみたら、
あからさまに不機嫌なヤチヨが現れて今に至るというわけだ。
ヤチヨ:「…会場、どこにも居なかった。」
そう言ってこちらを見つめるヤチヨ。
なぜか、いつもと違い、
幼い背格好になっている。なんで?
ハジメ:「いや、悪い。急用が出来ちゃってさ?」
しらを切ることは、経験上無意味だと分かっていた。
嘘のような話だが、
彼女は過去、いかなるライブにおいても、
観客席にいる俺を見つけていた。
ヤチヨ:「…ハグまで付けたのに。」
ハジメ:「…………あ。」
そういって頬を膨らませていじけるヤチヨ。
それを聞いてようやく思い出した、ハグのことを。
言葉が出なかった。
俺は、なんてもったいないことを。
覚えてさえいれば、
ライブに参加しながら「かぐや」を捜索することだって――――
いや…………
そう考えかけてやめた。
覚えていたとしても、
やはり俺は、同じ選択をしただろう。
ハジメ:「ハグ、そっかぁ…」
そうはいっても割り切れない。
こんな機会はもう二度とないだろう。
がっくりと肩を落とす。
ヤチヨ:「………」
視線を感じる。
目を上げると、なにやらヤチヨがこちらを見ていた。
哀れんでいるのだろうか、
はたまた普通に、俺の様子を見てひいているのだろうか。
ハジメ:「…なんだよ?」
ヤチヨ:「あれは、ライブに呼ぶための口実というか……
なんか、キミが元気なかったからで………
別にハグぐらい、ライブに来なくてもやってあげるよ?」
ハジメ:「……」
その言葉を聞いて、愛しさが込み上げてきた。
が、かつてのように、
それが自分に注がれない未来を憂うことはなかった。
いろはとかぐや。
この目で見ることが出来て良かった。
純粋にヤチヨの幸福だけを願うことができた。
それを前にして、
己の恋慕など矮小なものに感じられた。
決意を新たにする俺。
彼女の気持ちをじっと噛み締めていた。
そんな俺をチラチラと見ながら、
なにやらもじもじしているヤチヨ。
突如として体に触れた柔らかな感触に、すぐには理解が追いつかなかった。
ヤチヨ:「………えい!」
しばらくして、
自分が抱きつかれているのだと分かった。
ヤチヨ:「えへへ、どう?うれしい?」
同時に、自分の中に込み上げてくるものを感じた。
あまりの感情の奔流に涙がこぼれそうになった。
それが、
後悔なのか、
嫉妬なのか、
はたまた純粋な喜びなのか、
俺には分からなかった。
ただ、また振り出しに戻りたくなかった。
決意を固めたばかりじゃないか…!
ヤチヨ:「へ?わわ、ちょっとまっ!!?」
俺は、ヤチヨを抱きしめた。
その小さな体には、
一体どれほどの重荷がのしかかっていたのか計り知れない。
ハジメ:「…大丈夫。」
必ず成し遂げる。
そう誓いながら、強く。
これは、俺だけの願いではない。
8000年、彼女と共に生きた人々皆の願いでもある。
最後に託されたものとして、
俺が8000年の願いに終止符を打つ。
そう心に決めた。
以下補足
今回の話は、個人的に最初の山場というか、大事なシーンだと思っていたので頑張りました。こういう感情に沿った文章というのは、どうにも背中がかゆくなるというか、あまり得意ではないですね。
劇場で改めて、原作を見てモチベーションが戻ってきたので、このまま書き上げてしまいたいところです。
一応後半の山場は既に書いていて、自分の中ではちゃんと終われる感じが出ているのですが、なにゆえドーパミン中毒者なため、つなぎの部分を書くのがつまんなくて難航しています。しょうがないね。
今回の話を書くにあたって、本編のセリフを引用するべく、ちょくちょく見返しているのですが、これができるのは、明確にネトフリの強みですよね。ありがたいなあ。
これでようやく原作30分時点ぐらいまで来れました。個人的には主人公とかぐやの絡みのディティールに自信があるので、さっさとそこまで行きたいですね。
そういえば、サブタイトルを追加しました。自分、中二病が抜けてないので、良くないかなとも思ったんですが、普通に見返しにくいので付けました。出したからには、日和ません。これが俺のセンスです。よろしく。
最後に軽く、この二次創作内での設定を書いておこうと思います。
1 主人公の権限について
これは、その辺丸っと、うまい具合に本編に貼り付けたいと思っているのですが、中々難しいですね。ツクヨミの運営権は、民間の企業に売り払っているのですが、主人公は、企業から運営用アカウントをもらっているみたいなイメージです。主人公は、ツクヨミの運営については興味なしですが、その環境の利用については自由に享受する権利があるというのが、最初の契約でしたから、その名残ですね。
2 FUSHIに扱いについて
FUSHIがかぐややいろはを威嚇するのは、気を抜くとヤチヨが泣いてしまうから、という設定をどこかで見た気がします。そこから解釈を広げて、この作品では、FUSHIはヤチヨの原始的な感情を基に行動している存在ということになっています。ヤチヨの繕っていない純粋な本音の代弁者みたいな感じですね。
それを踏まえると、この話でFUSHIの言葉に対して笑みがこぼれたヤチヨの心境が見えてくるかと思います。私の文章力故に、見えてこないようにも思えます。
3 星降る海について
一応この歌も、主人公がヤチヨに贈ったものとなっています。歌詞についての言及があったのはそのためですね。過去の自分がなんとなくヤチヨの約束のことを思って綴った歌が、まさに約束の時に歌われて、彼も思うところがあったんだと思います。