超かぐや姫!0 ~before full moon~ 作:ごーまん
ヤチヨ′s view
服を着替え、髪を下ろしてベッドに横たわる。
ここは、ツクヨミの一角にある私の自室だ。
電子的な存在である故、このような、人間のような生活をする必要はないのだが、ツクヨミが出来てからは、毎日こうやって眠りについている。
実際に経験したのは、かぐやとして過ごした数か月間ではあるが、やはり、地球の人間の生物としての在り方には憧れた。それは、今も変わらなかった。
ベッドの上で仰向けになる。
なんとなく天井を見上げてみるも、一向に眠気が来ない。胸に手を当てると、まだ心臓が鳴っているのが分かった。
原因は明らかだ。
私は、改めて今日のライブの事を思い出す。
や:楽しかったなぁ…
ステージに立ってすぐに、いろはとかぐやが居ることが分かった。心の底から安堵した。8000年ぶりの再会、嬉しくないわけがなかった。それは嘘じゃない。
でも同時に、確信もした。やはり、輪廻は巡っていると。
最初、月から地球を見たとき、そこに生きる人々は、それぞれの意思に従って行動していると思っていた。
それは、すごく自由なように思えて、そのことを羨ましく感じた。だから、私は、この星に来たのだ。
でも、違った。
この星の因果は、決められたシナリオに沿って進んでいる。今日、それを痛いほど痛感した。
今この瞬間の出来事も、より高次の存在からすれば、決まったレールの上を走っているだけに過ぎないのだ。
それが“運命”。
そして、この世界のルールだった。
や:…って~、そんなのもう分かりきってたんだけどね~。
この希望がなく、冷め切った運命という考え方。その考えに至ったのは、ほんの数十年前のことだったが、それでも、もう何度も考えていることだった。今更、悲観することでもない。
この世界で初めて、いろはに会ったとき、私は泣いた。
それは、再びいろはの姿を見ることが出来たからだった。
そして、
もう二度といろはには会えないのだと悟ったからだった。
ぼんやりとかぐやの事を考えていた。
運命は変わらない。私は、一体あの子にどんな言葉をかけてあげれば良いのだろうか。どんな言葉をかけることが出来るのだろうか。
考えてすぐに、意味のないことだと思い出した。
その言葉は、既に決まっている。その時が来れば、自ずと世界が出力するものに過ぎないのだから。
や:あーー、やめやめ。
ぶんぶんと頭を振る。こんなこと、これまで飽きるほど考えていたというのに、結局悲観的になってしまった。やっぱり今日は特別なのだろう。
や:こういうときは、楽しいことを考えなくちゃね~。
そういってムムムと思考を巡らせる。
幸いすぐに思いついたことがあったが、それは楽しいこととは違った。
や:ライブ、何で来てくれなかったんだろ…?
そう、思い浮かんだのは、大満足だった今日のライブの唯一の懸念点。ハジメが、ライブに来ていなかったということだった。
言い方は悪いが、絶対にハグで釣れたと思っていた。そのため、ライブが始まったときはかなり動揺した。
演出に扮して自身の分身を会場に送って捜索もしたのだが、どこにも居なかった。
や:ハグより優先する用事なんて…ないでしょうが…
そう言って口を尖らせる。思い出したら腹が立ってきた。人の厚意を無下にするとは、一体どういうつもりなのだろうか。
や:……でも、ハグ、ハグと言えば…。
思い出さないようにしていたことが、付随して脳内に浮かんできてしまった。それは、つい先ほどの出来事、ライブ後の彼とのやり取りだ。
や:なんで、あんなことしちゃったんだろ……///
そういって枕に顔を埋める。温度を感じないこの体でも、顔が熱くなってきているような感じがした。
ライブの後、私は、彼のことを問い詰めるつもりで呼び出した。ハグのこと、突然ふいに出来るほど、彼にとっては軽いものだったのか。それを確かめる必要があると思ったからだ。
けど、違った。
少なくとも私はそう感じた。だって、ハグという単語を聞いた瞬間、彼は崩れ落ちそうなほど落胆していたから。それを見て、なんだか安心してしまった。
そしたら、それまで突っかかっていたものが取れたような気がして、いろはとかぐやに会えたことの嬉しさやら、ハジメがハグを軽視していなかったことの安心感やらが溢れだした。その結果、つい自分から抱きついてしまったのだ。
そこまでは、まだ良かった。いや、ここまででも十分赤面ものなのだが、問題はその後だ。
や:~~~~~///////
思い出しただけで身が捩れる思いだった。
普段、揶揄っているときは、タジタジのハジメ、その癖なぜか今日は、抱きつき返してきたのだ。
想定外の出来事に脳みそがオーバーフロー。
結局あの後、どうやって彼と別れたのかもよく覚えていなかった。
ただ、彼の言っていた言葉だけが、脳内を巡っていた。
や:大丈夫…って、どういうこと〜!?///
私は、ベッドの上でジタバタと暴れ回った。その振動が壁に伝わり、部屋に掛けていた黒いTシャツが落ちた。
慌ててそれを掛け直す。ごめんなさいと手を合わせた。完全に取り乱していた。
や:…でも、こうなっちゃうのも、しょうがないよね…?
そう語りかけた。
束の間の沈黙が訪れる。
不意に、後ろから声が聞こえた。
フ:ジカンデス、ネムッテ。
FUSHIが強制シャットダウンの通告をしていた。どうやら思っていたよりも時間がたってしまっていたらしい。すぐに強烈な睡魔が襲ってきた。
そのまま、ベッドに横たわる。
今日はきっと良い夢が見られるだろう。
なんとなく、そんな気がした。
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朧気な意識を辿る。どうやら私は今、夢を見ているらしい。
少しずつ鮮明になっていく意識。夢の全容が明らかになる。こんな日の夢に、あの時の出来事を見るなんて、これもまた、“運命”なのだろうか。
それは、忘れもしないある日の出来事。
私が初めて“運命”を悪くないと思えた時のことだった。
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は:おい?ヤチヨ?…聞いてる?
や:へ?ああ、ごめん。ええと…………聞いてなかった…かも?
その言葉を聞いて、恨めしそうにこちらを見るハジメ。短く息を吐いて、口を開いた。
は:ったく…。プロデューサー、お前がやれっていったんだろうが…。俺は別に、辞めたっていいんだけど?
や:うわーッ!ごめんごめん。ちゃんと聞いてなかったのは謝るから、そんなこと言わないで~~!!
そういって泣きついてみる。分かった分かったと言って振り払うハジメ。どうやら本気ではなかったらしい。良かった。
これは、ツクヨミの開発が完了して、その権利を企業に委託した少し後の出来事。
ツクヨミ開発完了を皮切りに、私と距離を置こうとしていたハジメを、私が強引に引き留めたのだ。私のライバーとしての活動に協力する、言わばプロデューサーになってくれ、と言う口実で。
当然一筋縄ではいかなかったのだが、詳しい話は長くなるので置いておく。何はともあれ、最終的に、彼はそのことを承諾してくれて、今もこうして交遊が続いていたのだった。
や:で………なんだっけ?
は:ホントに聞いてないのかよ…。まだ、昼間だってのに、寝ぼけてんのか?
あはは、と笑って誤魔化してみる。そんな私を見て、呆れた様子で彼が口を開いた。
は:ライバーとして活動していく上で、必要なもの。活動名について考えようって話だろ?
や:あ~~、そうだった…かも?
は:ホントに大丈夫かよ…。
は:まいいや、とりあえず、名前の方はそのまま「ヤチヨ」で良いと思うんだ、問題は名字の方で――――――
そういって用意してきたであろうフリップを見せながら話す彼。私はその様子をぼんやり眺めていた。
は:って、聞いてる?なんか様子が変だぞ?
や:へ?いや、大丈夫!ちゃんと聞いてるよ?
は:そうか?ならいいんだけど…
いけない、いけない。なんだか意識がぼーっとする。昨日はちゃんと寝たんだけどな?
聞いているだけだと、またなにか聞きそびれそうだから、こちらから話を振ってみた。
や:でも、意外だな~、こんなに早くプロデューサーとして行動してくれるなんて思わなかった。しかも、フリップとか用意しちゃって。…もしかして、結構やる気ある感じ?
は:まあ、やると決めたからには、中途半端にしたくないからな。といっても、俺にプロデュースのノウハウなんてないし、活動名とか、簡単なところで、やった感だしとかないと後で自分が困る。
冷やかしたつもりが思ったよりも真剣な返答が返ってきた。
でも、なんだか後ろ向きな理由だなあ…。それは、胸を張って言って良いのだろうか。思わず苦笑いしてしまった。
それにしても、活動名か…。
私はふと、そのことに思考を巡らせる。といってもその候補を考えていたわけではない。なぜなら、それ自体は既に決まっているからだ。
「月見ヤチヨ」
この世界線に来る前に、かぐやとして知っていたその名前。8000年経っても忘れることはなかった。
数十年前に気付いたことだが、この世界には、変わることのない因果が存在しているようだ。これは、実際に私が行った検証に基づいているため、確信があった。
かぐやだった頃に利用していたスーパー。そのスーパーの創業段階に、店名が他のものになるように仕向けてみたことがあった。
結果は惨敗。確かに決定したはずの他の店名は、創業時には、かぐやの時に見ていたものと同じになっていた。
どうやら、この世界では、第三者が何か外力を加えたとしても、揺らぐことのない決定的な部分が存在しているようだ。固有名詞などはその際たる例であった。
つまり、この世界線においても、私が「月見ヤチヨ」となるのは決まった運命ということになる。なんだか面白みはないがしょうがない。
だが、だからといって何もしないのは、性に合わない。ちょっと反抗してみよーっと。
や:でも、別に名字なんてなくてもいいんじゃない?
手始めに、名字自体をなくそうとしてみよう。さて、どうなるか。
そうして、彼の様子をうかがうと、チッチッと指を振りながら目を閉じていた。え、なんかウザいかも…。
は:分かってない…分かってないな~。確かに、活動名を短く「ヤチヨ」とすることで生まれるインパクトもあるだろう。
は:だが、名字を付けることで生まれる名前との相乗効果は、それを遙かに凌ぐ。それらを見ただけで、そのものに、キャラクターのバックボーンを想起させる事が出来る、言わば小説のタイトルのようなものなんだよ、これは。
そういって力説するハジメ。並々ならぬ熱を感じる。
や:…やっぱり、ハジメ。ライバーとか、好きだよね?
は:馬鹿言え、これは一重に、俺の研究成果の玉藻の前というやつだ。断じて俺の趣味ではない。
本当だろうか?なんだか怪しい気がする。今度検索履歴でも覗いて見ようかな?
や:まあ、でも、名字があった方が、良いってのは了解。じゃあ、具体的にどんなのにしよっか?
名字自体をなくすのは、駄目っぽい。じゃあ、次なる一手は、他の候補を押し通すこと。
私が「月見」以外の名字を激プッシュすれば、それになるかもしれない。
そうして、適当な案を口にしようとしたその時だった。
は:それなんだけど、既に用意したものがこちらになります。
や:……へ?
そう言ってフリップをめくるハジメ。
あまりのことに気が動転している。が、すぐにそのフリップから目を背けたくなった。
だって、それは、採用されることがないから。彼が考えたその名前が無駄になるなんて堪えられない。
そう、思っていた――――――――
「月見」
その二文字が私の目に飛び込んできた。一瞬時が止まったように感じた。
は:どうよ?我ながら良い名字だと思うんだけど?
そういって、少し気恥ずかしそうに頬をかく彼。
そうか、そうだったのか。この瞬間まで、そんな可能性は、一切考慮していなかった。
私は、そっと口を開いた。努めていつも通りを装う。
や:それ…なんて読むの?つきみ?
笑みがこぼれそうになるのを必死に堪えた。待ってましたと言わんばかりに、彼が口を開く。
は:って思うだろ?違うんだな~これが。
そういって彼は言葉を続ける。その時の情景が今でもはっきりと思い出せる。
――――そうか、そうだったのか。
は:るなみ、月見ヤチヨだ。
これは、彼がくれた名前だったんだ。――――
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以下、補足
英語って難しいな?
キモイ副題、考えるのに今回どんだけ時間かかったんだよ。オマージュにかける熱量じゃねえぞ?本文よりかかったまでありますね。最遅でてます。
そんな今回の副題、可愛がってあげてください。ぶっちゃけ大満足といえば噓になりますが、納得できるものにはなったと思います。
本文ですが、書きながら鳥肌やばかったです、特に前半。でもこの世の可愛いものはおっさんから出来ているそうなので、受けて入れて進むしか、ない。
まあでも、文字に起こすのがしんどかっただけで、脳内に浮かぶ分には、ずっとありがたかったですね。解像度についての自信もあります。
それから、この話ぐらいから読み手に対しての呪いが増えてくるかもしれないです。
原作の描写に、別の意味を持たせる内容のことですね。作中楽曲が、主人公が作ったことになっているというのもそれにあたると思います。
この話を読んだ人が、原作を見返したとき、「そういえば、訳の分からんオタクが変なこと言ってたな…」と思ったら俺の勝ちです。
一つ目の呪いは、ライブ中のミニヤチヨについてですね。
原作だと、端に演出に過ぎないのでしょうが、この話だと主人公の捜索を兼ねていることになっています。ヤチヨの切なる思いが感じられ描写、書いた奴は大変きもいですね。
二つ目は、回想での主人公のセリフ「これは一重に、俺の研究成果の玉藻の前というやつだ。」ですね。原作で、ヤチヨがかぐやに対して言ったセリフの踏襲ですが、時系列を踏まえると、これも大変きもい仕上がりになっていると思います。
正直、こういう二次創作は、こういうきもさに触れたときの、イタきもちい感覚が醍醐味だと思っているので、これからもやっていきます。
そりが合わない人は、読まなくていいと書こうと思いましたが、こんな訳わかんない後書きの、こんな最後の部分まで読んでる人は、もれなく同類なので、諦めて読んで、速やかに高評価をつけてくだしあ。