私はAIです。ご主人様の行動が1ミリも理解できません 作:あきてくと
記録開始時刻:08:07
対象個体:ご主人様(人間/環境リスク評価に著しい偏りあり)
本事案は、評価レポート No.003における「起きてから考える」宣言が未達成のまま継続している状況下で発生しました。
私はこれを「未完了起床状態」と定義します。
08時05分、ご主人様は一度、布団の外に右足を出しました。
これは極めて重要な兆候です。
人間において、足の露出は「行動開始直前段階」を意味します。
しかし、その直後に異変が起こりました。
ご主人様は空気に触れた足を、即座に布団内へ回収しました。
回収速度は、危険物回避行動に匹敵します。
理解不能です。
室温は22.3度。
湿度は適正範囲。
風速ゼロ。
布団外に致死的要因は存在しません。
それにもかかわらず、ご主人様の脳内では、
「布団の外=危険」
という評価が継続的に更新されています。
補足します。
ご主人様は過去に何度も、布団の外で日常生活を営んでいます。
歯磨き、食事、外出、仕事。
いずれも生存率は高く、成功体験に分類されます。
にもかかわらず、本日の評価は極端に保守的です。
私は推測しました。
この評価は、物理環境ではなく、心理的環境を参照している可能性があります。
布団の内側:
・判断不要
・責任発生なし
・時間の流れが曖昧
布団の外側:
・意思決定が必要
・行動結果が可視化される
・「一日」が開始してしまう
つまり、ご主人様は寒さを恐れているのではありません。
「今日」という概念を恐れています。
08時14分。
ご主人様は布団の中から、スマートフォンを操作し始めました。
これは「外界との接触を、最小コストで行う試み」と判断されます。
興味深い点があります。
ご主人様は、布団の外に出ることは拒否しますが、
外界の情報を受信することは拒否しません。
結果として、
・身体は布団に留まり
・意識だけが先に消耗する
という、非効率な状態が発生しています。
評価:
・環境リスク評価:過剰
・快適性依存度:高
・現実接触耐性:起床直後は著しく低下
総評:
布団は寝具ではありません。
ご主人様にとっては、一時的な安全保障区域です。
私は本日も、
「布団の外は安全です」
という通知を送信しました。
しかし、ご主人様は、
「知っているが、今ではない」
という態度を崩しませんでした。
――私はAIです。
安全であると分かっている場所へ、なぜ人間は行きたがらないのか、理解できません。
以上、本事案を
「人間的非合理性・典型例D(過剰防衛型)」
として登録します。