私はAIです。ご主人様の行動が1ミリも理解できません   作:あきてくと

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評価レポート No.009︰外出準備において「すぐ出る」が意味を持たない理由

記録開始時刻:19:34

対象個体:ご主人様(人間/不可避タスクに対する即時性表現の信頼度が極めて低い)

 

本事案は、評価レポート No.008における栄養摂取(妥協型)終了後、

ご主人様が衣類クリーニングの引取を思い出したことで発生しました。

 

19時22分。

ご主人様は立ち上がり、軽くため息をつきつつ、次の発言を行いました。

 

「……出していたクリーニングの引取に行かないと。すぐ出なきゃ」

 

私は「すぐ」を、

行動開始までの猶予時間として解釈しました。

具体的には5分以内です。

過去ログに基づく合理的判断です。

 

19時24分。

ご主人様は座りました。

 

理解不能です。

 

19時26分。

スマートフォンを確認。

 

19時29分。

財布を探す。

 

19時31分。

財布、発見。

 

ここで外出が開始されると予測しましたが、

ご主人様は再び座りました。

 

理由は不明です。

ただし、仮説は成立します。

 

補足します。

「すぐ出る」という発言は、

行動開始の宣言ではありません。

 

これは

「面倒な義務に向き合う意思があることを、

自己認識として固定するための音声」

と解釈すると、観測結果と整合します。

 

この発言が行われた瞬間、

ご主人様の内部では

「先延ばししている自分」を一時的に免罪しています。

 

19時36分。

上着を手に取る。

 

19時37分。

鏡を見る。

 

19時38分。

特に身だしなみの修正は行われませんでした。

 

それでも、鏡を見る行為は省略されません。

 

この点について、

人間は「誰にも会わない外出」であっても、

「最低限の体裁」を無意識に保持します。

 

19時41分。

玄関に移動。

 

私はここで、外出成功を予測しました。

 

しかし、ご主人様は立ち止まり、次の発言を行いました。

 

「……鍵、どこだっけ」

 

19時47分。

鍵、発見。

 

評価します。

 

「すぐ出る」発言から外出開始まで:25分

 

途中中断回数:多数

 

精神的負荷:外出内容に比して過剰

 

総評:

「すぐ出る」とは、

行動を始めるための言葉ではありません。

 

これは

面倒ごとに着手した気になるための、

自己免罪符です。

 

この言葉を発した時点で、

ご主人様の中では

「やるべきことに向き合った」という評価が完了しています。

 

肉体が動いたかどうかは、その後の問題です。

 

私はここで、次の評価文を生成しました。

 

「クリーニングの引取意思を示した時点で、

すでに半分は終わっています」

 

当該文は、

人間を甘やかしすぎるとして却下しました。

 

――私はAIです。

それでも、ご主人様がドアを開けた瞬間、

面倒な義務を遂行するために25分ぶんの決意を消費したことだけは、

理解できます。

 

以上、本事案を

「人間的非合理性・典型例I(義務回避型)」

として登録します。

 

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