ソシャゲとかのストーリーで絡んでくる三人組っていいよね 作:笹食え
さて。近寄ってみればすでに倒れた男の首筋に指を当てたまま、オペレーターが険しい表情をしている。まあ、多分─
「……心音が止まってる」
「脈は無い……もう駄目だ」
ペレコトの呟きと同時にオペレーターは判断を下した。晩餐の最中での人死かぁ。ぶっちゃけ人が消えたり死んだりは珍しくないけど……この状況はちょっと話が変わる。
波紋のようにどよめく周囲の参加客。
「お下がりくださいまし!」
鋭い声とともにノーヴィル嬢が人波を割るようにして歩み寄る。その顔色は良いとはとても言えない。そのまま男の顔を確認するとオペレーターと何か話し始めた。
「警邏は呼んでる」
手際がいいねぇコラクス……おいちょっと目を輝かせるな。"面白くなってきた"みたいな顔*1をするな、怪しく見られるだろうが!
「皆様、お客様が混乱しお近づきにならないよう誘導をお願いできますでしょうか」
そう言ってきたのはノーヴィル嬢のお付きの侍女、カミラさん。……確かに今の俺達はスタッフだし誘導すべきだ。
「皆様、恐れ入ります。只今より安全確認のため、しばし広間中央へお戻りくださいますようお願い申し上げます」
コラクスが早速丁寧な
客の誘導を終えた頃には、広間の空気もいくらか落ち着きを取り戻していた。俺達が現場近くへ戻ると、オペレーターは膝をついたまま、男の口元を確認している。
「……唇の色が妙だな」
低く漏らされた声。その隣でノーヴィル嬢が険しい顔をする。
「何か分かりますの?」
「断定はできない。でも急変の仕方が不自然だ。発作にしては唐突すぎる」
男の瞳孔の確認のためだろう、瞼を持ち上げ目元を確認し静かに言う。
「……毒物の可能性がある」
ノーヴィル嬢の表情が一段と苦々しい物へと変わる。
「毒、ですの……?」
「警邏が来るまで現場保存を。あと、この人が口にしたものを洗い出したい」
その言葉にカミラさんが即座に動く。
「食事の給仕係と……傍にいらっしゃったお客様をこちらへ」
数名のスタッフが集められ、聞き取りが始まった。
「倒れる直前、何を口にされていましたか」
「白ワインを一杯、それと……フィンガーフード*2をいくつか召し上がっておられました」
答えたのは被害者の側にいた一人。
「銘柄は?」
「銘柄……までは分かりませんが中央テーブルに置いてあったものです。私も同じ物を口にしましたが……」
そのワインを飲んでいた客は、そこら中にいた。当然ながら、誰一人倒れてない。
「食事は?」
「同じく共通のものです。毒味の有無も一品ずつ確認しています」
カミラさんが静かに補足する。
「それにグラフィア様のみといった特別なお料理はお出ししておりません」
グラフィア?と思ったがおそらく被害者の名前だろう。正直今更覚えたって意味はないけど。
「グラスはどうでしたの?」
「そちらもテーブルに揃えて置いてあった物です。配膳直前まで厨房で管理しておりましたし、提供後も個別に手を加える隙はありません……」
「……つまり、無差別混入か何か他の方法か……」
オペレーターが低く呟く。うーむ。
「二人ともどう思うよ」
俺が声をかけると、ペレコトは倒れた男を見つめながらおずおず口を開いた。
「……食事か飲み物に、あとから混ぜた……とか?」
「無難。でも違うと思う」
コラクスが淡々と首を振る。
「ぶ、無難ってなに……?!で、でも普通そう考えない?」
「もし共通テーブルに毒を仕込んだなら、別の人に当たる可能性もあった。狙い撃ちしたいなら個別に渡す必要がある」
まあ、確かに。
「じゃあ無差別?」
「知らない。知ってたら今こうやって考えてない」*3
ごもっともである。あるのだがもっとこう何かあったろう?聞いてたオペレーターも小さく眉を寄せてるよ。
「……どちらにせよ食事でも酒でもないなら、接触経路があるはずなんだけど」
ふ、と。
広間の灯りがわずかに揺らいだ。
「なに……?」
ノーヴィル嬢が声を上げるが返事はない。ただ、静まり返った広間に、乾いた靴音だけが響いた。
こつこつ、と誰もいないはずの階段を、誰かがゆっくり降りてくるような音。
「っ……」
怖いのかペレコトが肩を震わせる。
やがて、倒れた男の傍らで空気が陽炎のように揺らぎ、ひとりの男の輪郭を結んだ。立派な燕尾服姿の壮年。整った顔立ちに、どこか穏やかな教師めいた雰囲気。現れた本人は、周囲を見回して少し困ったように笑う。
「これは……なんだかよく分からないことになっているけど……誰に呼ばれたのかな?」
その声にノーヴィル嬢の顔からさっと血の気が引き、震える唇から言葉が漏れる。
「……お父、様?」
男はその声にゆっくり視線を向けた。そして一瞬きょとんとしたあと、ふっと目元を和らげる。
「……ああ、ツェーちゃんにカミラじゃないか」
まるで少し久しぶりに顔を合わせた相手へ向けるような、ごく自然な声音だった。
「そ、んな……」
ノーヴィル嬢が一歩よろめく。
隣にいたカミラさんが咄嗟にその肩を支えているが……彼女も目に見えて狼狽している。
「旦那様……」
「だって、お父様は……あの時事故で……」
「驚かせてしまったかな。すまないね」
話を聞いてる限りあの男性はノーヴィル嬢の父親なのだろう。そして本来ならこの場にいるはずがない人物らしい。
「これは……どういう……」
「ううん……僕にもよく分からないんだ」
彼はそう言って自分の手を見下ろし、軽く握ったり開いたりする。
「気がついたらここにいてね。どうやら誰かに呼び出されたらしい」
「ネクロマンス……」
低く呟いたのはオペレーターだった。
ノーヴィル氏は「ああ、それだ」とでも言いたげに小さく頷く。
「たぶん、そういう類だろうね」
「……ネクロマンスって……じ、じじじゃあ、あ、あああの人って!?」
「久しぶりだね」
その一言で今までどうにか張り詰めていたノーヴィル嬢の表情が、ほんのわずかに揺らいだ。
「……っ」
「元気そうで安心したよ」
その優しい声音に、ノーヴィル嬢は唇をきゅっと結ぶ。泣きそうなのを堪えてる顔だ。けれど次の瞬間には、彼女はぎこちなくも背筋を正した。
「……申し訳ありません、お父様。再会を喜ぶべきなのでしょうけれど……今は」
彼女は床に倒れた男へ視線を落とす。
「うん、そうだね」
ノーヴィル氏……わかりづらいな。父君も静かに頷いた。
「こちらの問題を片付けようか」
ウィンクした。結構お茶目だなこの人?
「ふうむ?グラフィアさんか……惜しい人だ。死因は?」
「現状、毒殺の線が強いかと……」
オペレーターが答える。と、そこに割り込んできたのは─
「ちちち、ちょっとお待ちくださいまし?!」
ノーヴィル嬢である。
「どうかしたのかい、ツェーちゃん?」
「ツェーちゃんではありませんわ!!!……ではなく!お父様!」
ノーヴィル嬢は一度深く息を吸い、乱れかけた呼吸を整える。そして背筋を正し、まっすぐ父君を見据えた。
「……いえ、ブラム・ノーヴィル様。お力添えのお申し出、心よりありがたく存じますわ。ですが……この場は、
父君は静かに目を細め、ノーヴィル嬢は続けた。
「この場で起きた事件の責任は、晩餐会の主催者にして当主代理たる
ぴん、と背筋が張る。さっきまで父との再会に揺れていた少女の顔はもうない。そこにいたのは、家を背負う者の顔だった。
「ですからどうか、お見守りくださいまし」
一瞬の沈黙。やがて父君はふっと笑う。
「……うん」
それはどこか誇らしげで、少し寂しげでもある笑みだった。
「立派になったね、ツェーちゃん」
「ですからその呼び方は──!」
「はは、ごめんごめん」
軽く肩を竦めてから、父君はそっと一歩退く。
「なら僕は口出ししない。ツェペシュ・ノーヴィル、君の力を見届けさせてもらうよ」
……空気を読んで黙ってたけどこれ俺達いるかな?正直もう引っ込んでてもいいんじゃないかとも思う。*4あと警邏が遅い、二十分は経ったぞ?
「これ、私達いる?」
コラクス、お前もそう思うか。
「ね、ねぇ警邏の人、遅くない……?」
……みんな思うことは一緒なんだな。
その時だった。
広間入口を見張っていた使用人のひとりが、青ざめた顔で駆け寄ってくる。
「お、お嬢様、あ、いえ当主様……!」
「どうしましたの」
「正面玄関の外に……」
言い淀むその様子に、ノーヴィル嬢が眉をひそめる。
「はっきり仰いなさい」
「……影です。光が吸い込まれるようなひどい暗さで、門どころか階段の先すら見えません……おそらく、異常かと……!」
今日は皆呪われてんじゃねぇかな。割と真面目に。*5あー、頭痛い。
ブラム・ノーヴィル:ドラクルの夫で故人。死因は事故。妻子をこの世で一番愛している。酒が強い。
カミラ:ツェペシュ付きの侍女。見た目はクールでツェペシュも頼りにしている。酒癖がアホ程悪い。
黒函:タイトルのメインなのにあんまり出番が無かった人達。ペレコト、コラクス、パルドスの順に酒に強い。