ソシャゲとかのストーリーで絡んでくる三人組っていいよね   作:笹食え

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遅くなってしもうた……もう一話


17話

 

 

 

 

「復讐? ……こう言うのもなんだけどブラムさんは既に─」

 

「死んでない!!」

 

 オペレーターが言いかけた言葉を、秘書の狂気じみた絶叫が引き裂いた。地を這うような、それでいてひどく甲高い声。その場にいる全員の視線が、一瞬で彼女へと集まる。あまりの剣幕に誰も声が出せない。

 

「死んでなんかないわよ……! "私の"ブラムが事故なんかで死ぬわけ……!」

 

 否。一人だけ、その言葉に噛みつく者がいた。

 

「──"私の"? 今、誰の許しを得て、その様な戯言を口にしましたの?」

 

 本日の晩餐会の主催者であり、話題のブラムの愛娘。

 

「まるでお父様が、晩餐会で人を殺めた貴女の物のような発言でしたわね。……その発言、我が父への、我が母への、我がノーヴィル家への侮辱ですわ」

 

 そしてノーヴィル家当主代理、ツェペシュ・ノーヴィルである。彼女は刃のような雰囲気を纏わせながら、看過できない妄言を吐いた痴れ者へと緩やかに歩み寄る。

 

「──口を慎みなさい、この下郎が」

 

「っ……!」

 

 向けられた純粋な殺意と格の違いすぎる威圧感に、秘書は言葉を詰まらせて一歩後退った。だが、その恐怖は一瞬でドス黒い嫉妬と狂気へと塗りつぶされる。

 

「な、にを……何も知らない小娘が、知った風な口を……! あの女のせいで、ドラクルという『くだらない偽物』のせいで、あの人は牙を抜かれたのよ! 私は認めない、あんな優しいだけの腑抜けた父親なんてブラムじゃない!」

 

 頭を掻きむしりながら、秘書は懐から奇妙な発光体を掲げ、狂ったように笑った。

 

「だから私は、あの人を蘇らせた! 私の知る、冷酷な怪物を、この手で現世へ蘇らせたのよ……!!」

 

「ふむ。蘇らせた、ねえ」

 

 狂気混じりの絶叫を切り裂くようにどこか場違いな声が響いた。

 

 人混みを割って退屈そうに進み出たのは、ディアストーカーを被った探偵──ホームズだ。その目は、憐れむような、同時に心底小馬鹿にしたような光を湛えている。

 

「君、名前は?」

 

「……聞き取りの時に名乗らなかった?レニーよ」

 

「私はその時居なかったものでね。それでだ、レニー。君の行いは実につまらない、理想に溺れた哀れなファン活動(迷惑行為)だ。ネクロマンスだなんて大層なオカルトを気取ってみせたようだが……君がやったのはそこにあるデバイスを使っただけ。"この私"と同じ、ただの『データからの再現』じゃないか」

 

 その冷酷とも言える指摘に、レニーは狂ったように頭を掻きむしり、反論しようと口を開く──。

 

「……貴女がどなたかは存じ上げないが。過去の、武器工房の技術者だった、僕のことを知っているんだね」

 

 それを遮ったのは、渦中のブラム本人の、どこまでも穏やかで優しい声だった。ホームズの話が真実ならば記憶からの再現体である彼は、それでも冷静に状況を判断していた。

 

 自らの執着相手から声をかけられたレニーは、弾かれたようにその顔を歓喜に染める。

 

「ええ! ええ! そうよ! 私が知っているのは昔のあなたよ!」

 

 手元のデバイスの暴走を気にも留めず、むしろ加速させながら、レニーは堰を切ったように熱弁を始めた。

 

「今みたいな腑抜けた名家の人間なんかじゃない……! 泥水をすすりながら、たった数人の小さな工房で武器を作っていた頃のあなたよ! 自作の狂った武器を手に、便利屋もどきとして冷酷に裏社会を荒らしまわっていた……あの完璧な技術者のあなたこそが、私のすべてだったのよ!!」

 

 デバイスが眩い光を放ち、周囲の空間から禍々しいノイズの気配が溢れ出す。レニーが己の全存在を懸けて「理想のブラム」を叫び、狂気を爆発させていくその最中──。

 

 少し離れた場所で、黒函の面々は完全に声を潜め、周囲に聞こえない音量でヒソヒソと頭を突き合わせていた。

 

「……すごいね。恋は盲目、ってやつ?」

 

 コラクスが淡々とした声で、ボソリと呟く。

 

「あれはもう失明レベルだろ。今を見る気なんて全然ないぞ」

 

 パルドスも顔を顰めながら、苦々しい小声で応じた。

 

「……二人とも」

 

 ペレコトが意を決した様に話し始める。

 

「その、あの(ひと)をなるべく他のお客様、から遠ざけたいの」

 

「そ、そうしなきゃ……ノーヴィル家の立場が危うくなっちゃう、し……その……小さい女の子が不安そうに見てた……から、『お願い』……!」

 

 ツェペシュの立場に理解が示せるからか、それともその少女に誰かを重ね見たのか、ペレコトは切実に二人に頼む。

 

 

 

「「了解」」

 

 その『お願い』に、異議を唱えることなくコラクスとパルドスは頷く。

 

「だから!私の、私だけの「──この距離なら、直接飛ばした方が早い」グゥッ!!?

 

ドン、と床が爆ぜるような凄まじい踏み込みの音。コラクスの鋼鉄じみた質量を乗せた強烈な飛び蹴りが、語り続けるレニーの顔面に突き刺さる。哀れな悲鳴を上げて、会場の奥へと吹き飛んでいく。客の逃げ道である玄関を確保するための容赦のない、それでいて最適解の暴力だった。

 

「……?*1……!?*2……僕たちも続こう、か……?」

 

 しばしの逡巡の後にオペレーターは自分たちも急いで戦闘に入ることを提案した。

 

 

 

 

 

「カミラ!起きてくださいまし!」

 

 その前にいつの間にか酔いつぶれていた*3カミラを力技で起こす必要があったが、ともかく三人の後を追った。

 


 

 

「ッア゛!な、なんなのよ!?」

 

「思ったより丈夫」

 

鼻血を拭いながら絶叫するレニーの前に、コラクスは何事もなかったかのように淡々と着地していた。

 

「そりゃあ、顔面が歪むほどの妄執が詰まってりゃ、クッション性も抜群だろ」

 

「うーん……で、でもふかふかは……してなさそう……」

 

遅れて部屋に滑り込んできたパルドスとその背後には杖を構えたペレコト、そして──。

 

「……ハァ、ハァ……君たち、流石に容赦がなさすぎる……っ!」

 

ツェペシュとブラム、そしてカミラを伴い、全力疾走で追い付いてきたオペレーターが、乱れた息を整えながら多重構造式障壁を起動した。

 

「話を聞かない部外者共が……!」

 

 踏み荒らされたプライドと屈辱に、レニーの理性が完全に破綻する。彼女が血眼で手元の発光体を握りしめたその瞬間。虹のような、淡く、美しい燐光が奥の部屋を満たす。

 

「ぐ、あ……ッ!?」

 

 オペレーターは頭を割られたような激痛に襲われ、その場に膝をついた。デバイスの光が触手のように伸び、何故か障壁をすり抜けて、オペレーターの身体を、精神を、その過去の記憶をドロドロと読み取っていく。脳内を直接掻き回されるような、最悪の不快感。

 

「アハ、アハハハハ! 見えた、見えたわよ……!!」

 

 強制抽出されたデータがデバイスの光の中にホログラムのように浮かび上がるのを見て、レニーは狂喜の声を上げた。

 

「私のブラムのデータだけじゃ、あんたたちを皆殺しにするには出力が足りないと思ってたけれど……素晴らしいわ! なにこれ、あなたが過去に調律してきた記録……!」

 

 オペレーターの内から記憶がドロドロとした黒い影となって会場の奥に具現化し始める。現れたのはこれまでにオペレーターが相対し、調律してきた中でも特に手強かった者達。

 

 

離愁者(第2章ボス)

 

虚誕者(第5章ボス)

 

 

「お母、さま」

 

 かつて見た母親の異常体を前にツェペシュは打ちひしがれるように声を漏らす。

 

「……いいえ、これは紛い物……余程、私を愚弄したいのですわね……。オペレーター様?」

 

「は、はい!」

 

 あまりの剣幕に思わず畏まって返事をするオペレーター。悲しいかな、彼もまた上下関係を気にしなければならない、社会の一員(社畜)であった。

 

認めたくありませんが……お母様の紛い物の相手は私が、」

 

「──それは困るよ、ツェペシュ」

 

凛として、しかしどこか悲痛な決意を秘めたお嬢様の言葉を拒んだのは、隣に立つブラムだった。彼は、戸惑うことなく、愛娘の隣へと力強く歩み出る。

 

「子供に危険が及ぶかもしれないのに、黙って見ているなんて親失格だからね」

 

「お父様……」

 

驚きに目を見張るツェペシュの視界に、さらにもう一枚、頼もしい背中が滑り込んできた。

 

「私も旦那様に同意見です、お嬢様」

 

「私はとうにノーヴィル家に命を捧げてでもお嬢様……いえ、当主代理様をお守りすると誓った身です。あんなのにお嬢様を傷つけさせはしません」

 

「カミラ……貴女、あれほど泥酔していたのに」

 

「お嬢様の危機とあれば、酒精など気合で焼き切るのがノーヴィル家の侍女というものです」

 

「なら最初から飲まないでくださいまし!……ふぅ、ということでオペレーター様、お母様の紛い物は私達が請け負います……どうか手出しなさらないで」

 

 ツェペシュの決意に、父ブラムと、酔いを気合で焼き切ったカミラが並び立つ。

 

「……」

 

 パルドスがスティレットを構え、視線をノーヴィル家から、その奥で未だにデバイスを握りしめているレニーへと移した。

 

「小さい影」

 

コラクスもまた、自分の仕事を見定めていた。

 

「……うん……レニーって人の、防衛に回ってる……」

 

 ペレコトの指摘通り、レニーの周囲から湧き出る黒い影は一種の防衛陣のように並び立ってゆく。

 

「あのデカいの(虚誕者)は僕が対処する。黒函は彼女を頼める?」

 

 その発言に三人は口を揃えて言う。

 

「「「依頼ならすぐにでも」」」

*1
理解が追い付かない

*2
追いついてなお理解できない

*3
ワイン3本+シャンパン2本を一人で飲んだ




離愁者:2章のボスであり、ドラクルが異常体となった姿。愛する夫に先立たれ娘を失う怖さと、それを他の人に見せずに当主としての役目のプレッシャーに押しつぶされそうになった。

虚誕者:5章ボスであり、元は非力なペテン師(詐欺師)。彼がある少女たちへ与えると約束した、家への帰り道、賢い脳、人を愛するための心臓、困難に立ち向かう勇気。それらは全て虚言であり、彼はある姫を利用したただの噓つきだった。

レニー:ファンだった。しかし、いつしかその想いは歪みきって腐り果てた。
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