ソシャゲとかのストーリーで絡んでくる三人組っていいよね 作:笹食え
一人は失意と、一人は死と、一人は過去と踊る
薄暗い路地裏に、湿った鉄と油の匂いが淀んでいる。
頭上の庇から規則正しく落ちる水滴が打ち捨てられた瓦礫を叩き、静かな水音が響き続ける。
「はあ……」
そこに一人の女が座り込んでいる。
濡れたコンクリートの冷たさも、膝を打つ泥の感覚も、今の彼女にはどうでもよかった。
彼女の手には、使い慣れた─いや、慣れてしまった小振りの刃物が握られている。その刀身からは、まだ温かみの残る赤い液体が伝い落ち、地面に歪な斑点を作っていた。
今の彼女には、もはや目指すべき場所など存在しなかった。
家を飛び出し、何を求めればよいのかの答えを得られないまま、ただ時の流れに流されてきた。手を差し伸べてくれる者も、導いてくれる標も現れなかった。
ただ生き延びるためだけに選んだ道は、自身も恐れ、忌避していたはずの「命を奪う殺業」であった。
選択肢はなかった。逃げ場もなかった。感情を遠ざけ、思考を停止させ、ただ肉体を動かすだけの作業。
そこに誇りはなく、信念もなく、残るのは底なしの虚無感だけであった。
"仕方がなかった"
"こうしなければ私が死んでいた"
もう何度繰り返し考えただろうか?人の指を落とし、首を裂いた感触は未だに抜けない。それでもなお自身の行いを正当化し続ける、その足元に大きな血溜まりが形成されていく。
彼女はその黒ずんだ赤の表面を、光の消えた瞳で虚ろに見つめ続けている。
まるで水鏡となった血溜まりの底に映る自分の顔は、酷く曖昧で、生気を感じさせない。
"これで良かったのかな"
その問いが頭の片隅を掠めるが、すぐに霧散する。いまさら否定する言葉も、開き直って肯定する理由も、彼女には残されていない。
目の前の相手が助けを求める叫びも、殺すことへの恐怖による涙も、すべて摩耗し尽くされた。
「……行かなきゃ」
やがて彼女は、ゆっくりと瞬きを一つ刻む。
血溜まりに映る己の姿を睨みつけ、振り返ること無く夜闇へと歩き出すのだった。
弾痕に刀傷、そして大量の血液。明らかに激しい戦闘があったと断言できる状況だ。
しかし戦場の喧騒はすでに去り、残されたのは静寂と冷気だけである。
そこの石畳の上に、一人の人間が倒れていた。うつ伏せに伏したその姿に、もはや動く気配はない。
背中の真ん中を貫通し、深々と石畳に突き刺さっているのは、一筋の長槍であった。
彼女は常に一人で戦い続けていた。他者を頼ることなく、己の技術と武器だけを信用し、あらゆる局面を単身で突破してきた。
しかし、個の武力には明確な限界が存在する。
退路を断たれた過酷な消耗戦。手当てのなされない傷の蓄積。孤立無援の中で削り取られていく集中力。さらに不運だったのが、今回の相手の手数が豊富だったことだろう。
限界は、きわめて淡々と、必然として訪れた。なによりの皮肉は、彼女の命を断ち切ったその武装にあった。
彼女が生涯を通じて憧れ、追い求め、到達せんとしていた洗練された「槍」。
その一つを手中に収めた圧倒的な存在の手によって、彼女は完璧に打ちのめされたのである。
背後からの不意打ちでも、卑劣な罠でもない。
ただ、純粋な技術と威力の差によって、彼女の防御は容易く砕かれ、背から槍を穿たれた。
突き刺さった槍の穂先は、冷たい石畳を深く割っている。
刃から伝う血が、彼女の身体を濡らし、地面へと黒い円を描いて広がっていく。
憧れたものに届かず、それどころか自らを殺す刃として突きつけられた事実。すべては一瞬の衝動の中に消え去った。
はたして最期に彼女は何を思ったのだろうか。勝てなかった無念?憧れの槍を持つ相手への嫉妬?それともこうなったことへの後悔?それも今となっては知る由もない。
刃を握りしめていた指先は、すでに力を失い、脱力している。彼女は言葉を残すこともなく、ただ一筋の槍に縫い付けられたまま、冷たい地面の一部と化していた。
空間の境界が曖昧な、果てのない暗雲の中、男は一人、どこへ行き着くかも分からぬ歩みを続けている。
彼には道を示してくれる仲間はおらず、留まるべき拠点も存在しなかった。
導く者も、並び立つ者もない旅は、何の意味も生み出さず、ただいたずらに時間を消費するだけの無為な漂流であった。
男の精神を縛り続けているのは、かつて己を導いた「師匠」という絶対的な存在の影である。
行動を共にしたが離反し、それからは自らの足で立ち、自らの意思で歩んでいるつもりでいた。しかしながらその実、彼の行動のすべては師匠の残した規範の域を出ていなかった。
『気にかけてくれる誰か』とも出会わず、『ひたすらに実直な誰か』の影響も受けなかった結果、彼の自我意識はついに表出することはなかった。
自らを、意志を持たない操り人形であると認識した瞬間、彼の世界は決定的に歪んだ。
"自分など、最初から存在していなかったのではないか"
自身の存在を裏付ける記憶は信用ならず、その考えに囚われた男の顔面は、存在しないはずの「黒い絵の具」を塗りたくられたかのように塗りつぶされている。
目も、鼻も、口も、人間としての表情のすべてが黒い靄のような境界線の中に消失し、そこにはただの空白だけが残されている。
個としての自我を失った者の顔は、誰からも認識されず、自身すらも定義できない。
さらに、彼の四肢と体躯には、細く強靭な透明の糸が無数に絡みついている。
頭上から伸びるその糸は、男の意志とは無関係に彼の肉体を牽引し、虚ろな歩みを強制させている。
"自分など、最初から存在していなかったのではないか"
塗りつぶされた顔の奥で、先程と同じ、されどもはや思考とも呼べないナニカが渦巻く。
糸に引かれるままに足を前に出し、黒い顔を揺らしながら、男は無の領域を永遠に彷徨い続ける。
残されたのは、自我を喪失した人形の形骸だけであった。
「ん……くぁ……」
「ん、パルドス。ペレコト起きた」
「また随分寝てたな……」
「……いまなんじぃ?」
「21時。依頼終わりで疲れ寝してそんまま」
「うなされてた。平気?」
「うーん……何か夢を見たんだけど……忘れちゃった」
「夢ねぇ」
「パルドスって将来の夢とか無さそう」
「おう待てや、なんで俺が出てきたんだ?そういうコラクスは、あー……」
「二槍一対のヴァハとバズウを手に入れる」
「出会った時から……それ、ずっと言ってるもんね」
「初めてあの二振りを見たときから決めてる」
「俺達は見たことも聞いたこともなかったけどな」
「無知蒙昧」
「あ、あはは……ところで……お腹、空いちゃった」
「「同じく」」
「あれ?二人とも食べてなかったの?」
「私は武器の整備」
「俺は結果報告のまとめ」
「そっかぁ……ちょっと遅いし、食べに行こうよ。何がいい?」
「フライドポテト」
「ポテト単品夕食はキツいって」
「大丈夫、ハッシュドポテトも付ける」
「ポテトの域を出てないだろそれ」
「む……文句が多い。それならパルドスは何が食べたいの」
「俺?俺は〜……そうだな、唐揚げとか?あとさっぱりしたサラダ」
「……じゃあピザ、とか?サイドメニュー多めに……」
「……私達は嬉しいけどペレコトは何か食べたいもの無いの?」
「え?う、うーん……クラムチャウダー?」
「だったらそっちにしよう」
「で、でも二人はポテトとか唐揚げが食べたいんじゃ?」
「ポテトと唐揚げはいつ食べても変わらないけど夏のクラムチャウダーは珍しい」
「物珍しさで……!?」
「……お?ここのピザ屋、サイドにクラムチャウダーあるぞ」
「決定。そこで」
「は、早い……」
ペレコト:別にクラムチャウダーはそこまで好きという訳ではない。
コラクス:フライドポテトは好きだが、ハッシュドポテトはそこまででもない。
パルドス:唐揚げは好きだが、だんだん油がキツくなってきた。
◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎::::::::::"私の"愛弟子は上手くやっているようだな。