【完結】イルシアの口を掃除したいだけの人生だった 作:烏何故なくの
『さ、口を開けて?』
イツマデ先生に言われるがまま、俺は口を開ける。
先生は手慣れたふうに素早く俺の口を掃除すると、隣にいた相方の口に移っていった。
リトヴェアルの森で、俺は自分の都合で蘇生しちまったアロのレベル上げを行っていた。
アロは無事に〖レヴァナ・メイジ〗へと進化し、俺は一休みに竜神の祠へと戻って食事をしていた。
イツマデ先生とも長い付き合いになったな……。
ニーナと玉兎はアーデジアで別れたが、イツマデ先生は俺についてきた。『イルシアくンについていった方が、おいしい思いができそうだからネ』と言っていた。
……食欲からでた言葉だとしても、結構嬉しかったぜ。
というかウロボロスになって、双頭になっちまったからな。
川の水を飲む時、川下に歯垢が流れるようになっちまった。俺、相方の歯垢飲むなんて絶対に嫌だからな。
双頭竜ライフには口のケアがかかせねえ。
『イツモアンガトヨ』
相方が口を開けると、イツマデ先生はぴょいっと口から飛び出し、地面に着地してたたらを踏んだ。
……なんか、ふらついてんな?
『ン~~~、左の君の口はいつにもまして芳醇だったネ! ボクぁもうご機嫌だよぉイルシアくン』
な、なんだ?
どこか目がとろんとしていて、まさしく千鳥足って感じだ。
あ、もしかして、さっき相方が酒を飲んでたからか?
相方に口を開けてもらう。
つんとする酒精が鼻を突いた。
口のなかの酒の水分だけで酔っぱらうなんて、案外酒に弱いのかイツマデ先生。
まあウロボロスとはサイズが違いすぎるからな。酔うのに必要な酒の量も変わってくるだろう。
相方はウワバミだろうしな。
『ここはひとつ、一曲歌おうか。ハレナエで聞いた吟遊詩人の曲を、ボクは暗記していてね。……ラ、ラ、ララ………』
イツマデ先生が、口を開けて大声で歌いだした。
この小さい体のどこにこんな力があるのかと疑問に思うくらい、よく響く声だった。
なんていうか、腹の奥が重たくなるような迫力のある歌だ。
「……ガァッ」
相方は気分良さそうに目を細める。
ドラゴン丸出しの相方も、音楽を解する感性はあるらしい。
祠の奥からアロも出てきた。
何度か声を出そうとして諦め、手を叩いて場を盛り上げることにしたようだ。
『ラララ、ラララ、イェ~~~~ッ。……ご清聴、ありがとうございました』
歌い終わったイツマデ先生に、俺は思わず〖ホイッスル〗を使った。
ぴゅぅーぴぃっという高い音が、夜空に吸い込まれる。
これが〖ホイッスル〗さんの正しい使い方な気がするぜ。
「ぴゅ、ぴゅぃ~~~~ッ」
相方が俺の真似をして〖ホイッスル〗を使うが、魔力が乗ってない。どこか間の抜けた音になっている。酔っ払っているからだろう。
ここはひとつ、俺が手本を見せてやろう。
「ぴゅぅーぴぃッ」
「ぴゅ、ふす~~~~」
「ぴゅーふぃっ」
「ぴゅっぴゅっぴゅ……」
「かぜ…まほう……〖ゲール〗」
俺と相方が〖ホイッスル〗対決をしている最中、突如アロが魔力を練り上げる。
歌いすぎて怒らせたかとびっくりしたが、そうではなかった。
アロが〖ゲール〗を放った先には、ウデムシのような細長い手足を持った魔物、アビスがいた。
それも一匹ではない、五匹もいやがる。
ほ、〖ホイッスル〗のし過ぎで呼び寄せちまったのか?!
俺はイツマデ先生やアロ、トレントが襲われないように、全力の〖ドラゴンパンチ〗をアビスに向かって繰り出した。
10分後、アビスの体液だらけになった祠の中で、俺は息を荒げていた。
〖ホイッスル〗は危険だ。調子にのって連打したくなる。