【完結】イルシアの口を掃除したいだけの人生だった 作:烏何故なくの
『アロさンはご飯食べないの?』
世界の果てに移り住んで、バジリスクのローストチキンを食べている最中に、イツマデ先生はアロに問いかけた。
思わず俺は固まってしまう。
アロはアンデッドだ。食事も、睡眠もしない。感覚もない。
人間になりたくて〖レヴァナ・リッチ〗にまでなったアロに、その問いかけはあまりに残酷じゃないか。
『いや、感覚はだんだん戻ってきているんだろう? じゃあ香辛料でも齧れば、食事の感覚は味わえるんじゃないのかい?』
俺がイツマデ先生を見ていると、俺の思念を読み取って反論してくる。
そりゃあ味の濃ゆいものを食べれば今のアロでも食事ができるかもしれないが……そこまでして食事をしたいか?
『メシハ大事ダロガヨ』
相方は俺よりイツマデ先生側らしい。
「わ、私……何を食べても消化できない」
『ボクがキレイに掃除するさ』
アロも否定の言葉を述べるが、イツマデ先生は食い下がる。
そ、そんなに料理って大事か? いまバジリスクのローストチキンを堪能している俺が言うのもあれだけれど。
『ボクはご飯を食べている時が、生きている時だと思うのサ。食事が不必要な体なんて考えるだけでも恐ろしい。食事は、娯楽だ。本当に大事なのは消化できるかじゃなくて、心が満たされるかどうかなんじゃないかな』
お、おう……。思想強いな。
いやごめんな。俺何日も食事しないで活動できるタイプだからそこまでのこと思ったことないわ。
俺の言葉に愕然とするイツマデ先生を見ながら、アロは採取した薬草の中からレッドホット草を取り出した。
アロはしばらく逡巡した後、レッドホット草を口に含む。
アロの頬が膨らみ、顎が動く。
それを俺は固唾を呑んで見つめていた。
アンデッドになったことはないが、味覚が薄いのに食事って楽しいもんなのか?
この挑戦は、アロを傷つけるだけじゃないのか。
「………辛い。ちょっと辛いです、竜神さま!」
アロはピョンと飛び跳ねながら、俺の元に近づいてくる。
や、やった! 〖レヴァナ・リッチ〗にまで進化したのも大きかったのかもしれねぇ。
嬉しそうに自分の頬を触るアロを見て、イツマデ先生が満足気に笑う。
『満足するまで噛んだらボクが掃除しよう』
「じゃあ、掃除をお願い」
アロがあーんと口を開き、イツマデ先生がブラシになった指を開いた口の中へ突っ込む。
あ、あのレッドホット草、先生が食べるんだよな。
なんか口噛み酒思い出したわ。
それにしても……イツマデ先生は気が回るな。
必要はないが食事がしたい、というのは俺にはない感覚だ。
元人間の俺より、よっぽど察しがいいのかもしれねぇ。
「ま、待って! 私の口を掃除したばっかりの指でトレントさんの口掃除しないで!」
『別に唾液が分泌されてるわけじゃないから、アロさンの口は清潔だよ?』
「それでも待って!」
……やっぱ、察しよくないかも。