【完結】イルシアの口を掃除したいだけの人生だった 作:烏何故なくの
リリクシーラとの戦いが終わり、ひとときの平穏が訪れた。
とはいっても、明日にはウムカヒメの元に訪れなきゃいけないわけだが。
俺はアトラナートが海で釣ってきた魚を食べ、地面に寝転がる。
『さ、アトラナートさん、口を開けて?』
「……ン」
アトラナートは不承不承といった顔で、口を開けた。
珍しいもん見ちまったな。
普段はイツマデ先生の歯磨きをクールに断るアトラナートが……。
やっぱり戦いの後だから疲れてるんだろうか。
そう思うとイツマデ先生の体力は無尽蔵だな。命を懸けた戦いが終わった直後に他人の口のケアか。
イツマデ先生の口掃除は自分の食事の時間だと考えると、やっぱイツマデ先生、相方並みに食い意地張ってんな。
俺らの中で一番人里に馴染めそうなのはイツマデ先生だと思ってたが、案外俺らのなかで一番野生的なのかもしれねえ。
二番目に人里に馴染めそうなのはヴォルク。
『ハ? ずいぶんな評価をしてくれるのサ』
念話を使ってイツマデ先生が不服そうにする。
いやまあ、イツマデ先生の口掃除は趣味よりももっと切実な本能とかからくるんだろうなとはぼんやり思ってたけど。
でも俺らの中で一番ワイルドなのは先生じゃね?
『ボクの口掃除には【わびさび】があるのサ。ハレナエの貴族との交流で鍛え上げられたボクの想像力を侮らない方がいいよ。数値にすれば【文化人力:500】を軽く越える……』
なんだよ【文化人力:500】って。そんなステータスねぇよ。あったとて何に使うんだよ。
俺が呆れていると、イツマデ先生が大げさな動作でため息をつく。
『そうだね、例えば……アトラナートくン』
「ナンダ」
『君にはメイド服が似合うと思うんだけど』
「ハ?」
アトラナートがガチ目の困惑の声を漏らす。
そうだよな、人間の衣服に関する知識とかないよな。
まあ人間の衣服に関する知識がある俺もめっちゃ困惑してるけど。
『普段は主を雑に扱うけど、その内側には熱いものが流れているクールな女性……これは最新のフリフリメイド服一択サ』
俺の脳裏に、濃紺のワンピースに白黒のフリルが付いたエプロンを身に付けたアトラナートの画像がよぎった。
頭部には猫耳のカチューシャが添えてある。
ね、〖念話〗のスキルで無理やりイメージ画像を差し込んできやがった。
というかこれ、あきらか日本のメイドカフェのメイド服だろ?!
ハレナエどうなってんだ。
かつて今ほど俺の前世とこの世界に繋がりがあると実感したことはあっただろうか。
『ウッ!!』
後ろを見ると、トレントさんが胸を、いや幹を押さえて悶えていた。
ど、どうした? 敵か?
『に、ニンゲンの衣服一つでこれほどまでに印象が変わるとは……。侮りがたし……』
ト、トレントさん……。