【完結】イルシアの口を掃除したいだけの人生だった 作:烏何故なくの
『じゃあな、相棒。最期までいてやれなくて悪かったな』
アイノスのやつをぶっ倒した後、オレと相方はクソみてえな選択肢を迫られた。
それでも相方は、そこから更に第三の選択肢をもぎ取った。
オレは進化のときに消えることになるが、相方も進化した先でフォーレンと相打ちになる。
やっぱりオレらは同一の精神から派生した人格なのだと、ぼんやり思った。
死ぬのは怖い。
なんど経験したって、この感覚は慣れることはない。
でも、オレには守りたいやつがいる。
それはきっと……きっと幸せなことだ。
せめて、笑みだけは崩さないようにする。
口角に力を入れたまま、オレの視界は真っ黒になっていく。
【特性スキル〖双頭:Lv--〗を失いました。】
【特性スキル〖精神分裂:Lv--〗を失いました。】
【特性スキル〖意思疎通:Lv3〗を失いました。】
【特性スキル〖支配者の魔眼:Lv1〗を失いました。】
■■
うぉおおおおおお!!?
オレは必死になって〖転がる〗を使いながら、砂漠を走っていた。
背後には小さい玉兎が、オレを食おうと迫りくる。
相方の中に溶けて消えた後、気づけばオレは〖ドラゴンエッグ〗って姿になって砂漠に放りだされていた。
わからねぇことだらけだが、この世界が無事ってことは相方は無事にフォーレンを倒せたんだろう。
とりあえず、相方を探すことにした。
オレが転生してるなら、相方も転生してる可能性は高え。
しかしオレはランクFの卵。
まずは慎重にレベル上げを……と思っていた。
しかし玉兎を見つけ、思わずついていってしまったのが失敗だった。
相方が連れていた玉兎はおとなしく、察しのいいやつだったから、玉兎という種族そのものを警戒していなかった。
こ、このままじゃ美味しく食われちまう。
転がる速度を上げるが、玉兎は諦めようとしない。
ここで終わってたまるかってンだよ!
ぴゅぅーぴぃっ。
オレが全身に力を入れた瞬間だった。
間の抜けた〖ホイッスル〗の音が、オレの耳に届く。
聞き覚えのある音だった。
オレは方向を転換し、〖ホイッスル〗の音が聞こえた方向へ転がった。
急カーブしたから速度は少し落ちたが、構わない。体力を底まで振り絞り、この瞬間を凌ぐ。
数秒後、馬車が見えてきた。
しかし、馬車を引いているのは馬ではなく銀髪の男。
っていうか、ヴォルクだった。
「ぴゅぅーひぃっ」
「違いますぞアトラナート殿! お手本を見せましょう。ぴゅぅーぴぃっ!」
「……」
馬車の上ではトレントがアトラナートに〖ホイッスル〗を教え、アトラナートはそれを適当にあしらっている。
トレントの後ろの方でアロが〖ゲール〗を放ち、馬車に推進力を与えていた。
アロの足元で、小さな体に空気を蓄え全力で〖ホイッスル〗を鳴らす白いドラゴンがいる。
脳の奥が痺れたように動かなくなった。
しかし感動して足を止めるわけにはいかねぇ。最後まで全力で、馬車の進行方向に向かう。
そう思ったとたん、体が宙に浮く。
少し遅れて、鳥の魔物に掴み上げられたのだと理解した。
『見つけたのサ! 左の君!!』
……そういうお前は、ずいぶんいかつくなったな。