広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:実験者

10 / 13
10

 

 廃村の広場は、魔力の残滓で空気が重く震えていた。土煙がまだ完全に晴れず、月光が断続的に差し込んで地面のクレーターを照らす。倒れた騎士たちの鎧が散らばり、血の匂いと焦げた金属の臭いが混じり合って鼻を刺す。

 

 解放された少女たちの泣き声は遠くに聞こえ、アルファが彼女たちを廃屋の奥へ導いている気配がする。広場の中央では、リューグナーが静かに立っていた。

 

 赤黒い血が彼の周囲を渦のように回り、毒々しい光を放っている。リューグナーが両手を広げた瞬間、赤黒い血が無数の鞭のように立ち上がった。致死性の毒血——触れただけで肉を溶かし、骨まで腐らせる。

 

 血の鞭が空気を切り裂き、毒々しい音を立てて僕に向かって殺到した。数十本の鞭が同時に襲いかかり、地面を抉りながら迫ってくる。

 

 僕は剣を構え、紫黒の魔力を一気に集中させた。核融合のエネルギーを刃に沿わせ、剣先からプラズマの奔流を放つ。紫の光が剣全体を包み、剣身が震えるように輝いた。赤い毒血が剣に触れた瞬間、激しい蒸発音が響き、血の鞭が次々と消滅していく。

 

 紫の光が赤を焼き払い、白い煙が立ち上る。毒血の残滓が地面に落ち、ジュッと音を立てて石を溶かした。僕は加速した。一気にリューグナーへ迫る。

 

 剣を振り上げ、残った毒血の鞭を切り裂きながら距離を詰めた。足元が抉れ、土が飛び散る。リューグナーは嘲るように笑い、血を操る魔法をさらに展開。

 

 赤い血の壁が僕の前に立ち塞がり、高さ三メートルを超える壁が音を立てて成長する。剣と血の魔法が正面からぶつかった。爆発が起きた。紫黒と赤黒の魔力が激突し、衝撃波が広場を揺らす。

 

 地面がさらに深く抉れ、石が飛び散る。熱風が顔を叩き、視界が一瞬白く染まった。爆風で体が後ろに押しやられ、足が地面を滑る。

 僕はすぐに体勢を立て直し、剣を握り直した。ゼータとウィクトーリアが、僕の隙を埋めるように動いた。

 ゼータは影のように回り込み、チャクラムを投擲。回転する刃がリューグナーの側面を狙い、血の壁を貫くように飛ぶ。

 

 ウィクトーリアは剣を掲げ、白金の聖なる光を放った。光の奔流がリューグナーの血の壁を貫き、隙を作り出す。ゼータのチャクラムがその隙を突き、リューグナーの肩をかすめた。血が飛び散り、リューグナーがわずかに後退する。リューグナーは小さく舌打ちした。

 

「少しはやるようだ」

 

 次の瞬間、見えない斬撃が迸った。空気が裂ける音。僕の左腕に熱い痛みが走り、血が噴き出す。黒いコートが裂け、鮮血が滴り落ちる。

 

 ゼータの頰に浅い傷ができ、血が一筋流れ落ちた。ウィクトーリアの聖衣の袖が裂け、白い布地に赤い線が引かれる。三人とも同時に傷を負う。

 

 リューグナーの血を操る魔法が、視認できない斬撃を生み出していた。

 空気そのものを切り裂くような、鋭い一撃。リューグナーは静かに言った。声は低く、しかし嘲笑を含んでいる。

 

「私は天才を嫌悪する。体系化されず、一世代限りの突然変異。魔法を研鑽する道程を知らぬ者達。醜く、耐え難い。そうは思わないか? 聖女よ」

 

 ウィクトーリアは傷を押さえながら、穏やかに答えた。声は変わらず落ち着いている。

 

「それが正しく使われるなら特に文句はありません」

 

 リューグナーは鼻で笑った。

 

「人間らしい。魔法に誇りを持たぬ者特有の考えだ」

 

 ウィクトーリアは剣を握り直した。白金の光が再び剣に集中する。

 

「魔法がそんなに大切ですか? ただの道具でしょう」

 

 リューグナーの瞳が細くなる。赤い血が彼の周囲でさらに激しく渦を巻く。

 

「我ら魔族、魔法使いにとっては魔力量と魔法の練度こそ誇りだ。人類種には分からないだろうが」

 

 ウィクトーリアは静かに前に出た。聖衣の裾が風に揺れ、白金の光が彼女の体を包む。

 

「なら、その誇りを打ち砕きましょう。チープでノーマルな人間の技で」

 

 リューグナーは低く笑った。笑い声が霧に溶けていく。

 

「傲慢だな」

 

 ウィクトーリアが一歩踏み出し、リューグナーに向かって剣を振り上げた。白金の光が剣に集中し、聖なる奔流が迸る。光の波がリューグナーを飲み込もうとする。

 

 リューグナーは血の鞭を再び展開し、二人の魔力が再び激突した。爆風が僕とゼータを吹き飛ばす。

 僕は地面に膝をつき、すぐに立ち上がった。左腕の傷から血が滴るが、魔力を流して止血する。ゼータは舌打ちしながら体を起こし、チャクラムを握り直した。

 

 ウィクトーリアとリューグナーの戦いが、広場の中央で始まった。聖なる光と毒血の魔法がぶつかり合い、爆音と閃光が連続する。ウィクトーリアの剣が血の壁を切り裂き、リューグナーの血の鞭が聖衣を狙う。

 

 二人の動きは速く、互いの魔力が空気を震わせていた。光と血が交錯し、地面が溶けるように抉れていく。爆風が周囲の廃屋を揺らし、瓦礫が落ちる。

 僕はゼータに視線を送った。

 

「援護する」

 

 ゼータは頷き、チャクラムを構えた。頰の傷から血が流れているが、瞳は燃えている。

 

「私も行くよ。聖女様、隙を作って」

 

 戦いは、さらに激しさを増した。土煙が立ち上り、月光が断続的に差し込む。血の匂い、金属の焦げる臭い、少女たちの遠い泣き声。騎士たちの悲鳴と、ゼータの荒い息遣い。僕は剣を握り直し、紫黒の奔流を全身に纏った

 

 廃村の広場は、魔力の残響で空気が重く歪んでいた。土煙がまだ完全に晴れず、月光が断続的に差し込んで地面のクレーターを照らす。

 

 赤黒い血が彼の周囲を渦のように回り、毒々しい光を放っている。血の鞭が地面を這い、ゆっくりと蠢いていた。リューグナーが低く笑い、両手を広げた。

 

 赤黒い血が地面から噴き上がり、渦を巻いて空間を塗りつぶす。

 

 領域展開——彼の魔法術式が発動した瞬間、僕の魔力が一瞬だけ抑え込まれる感覚がした。魔法の威力が削がれ、術式の効果が弱まる。紫黒の奔流が薄くなり、剣に纏わせていたプラズマが霧のように散る。

 

 広場全体が赤く染まり、月光すら血の色に変わった。僕は静かに息を吐いた。思わず仮面の下で、唇がわずかに上がる。

 

「……面白い」

 

 リューグナーの領域は、魔法を領域内で弱体化させるものだった。僕の核融合のエネルギーが、わずかに鈍る。だが、それで十分だった。むしろ、予想外の展開が僕の胸を少しだけ高鳴らせた。魔法に頼りすぎる相手が、魔法を封じられたらどうなるか——それを見たかった。

 

 僕は剣を鞘に戻し、ゆっくりと拳を握った。指の関節が鳴る。魔力を完全に抑え、肉体だけに集中する。

 

「領域展開」

 

 言葉を口にした瞬間、僕の周囲に漆黒の空間が広がった。

 

 【暗刻庭園】

 

 光が吸い込まれ、音が消え、色が失われる。黒い庭園が廃村全体を飲み込み、リューグナーの赤い領域と重なる。

 

 互いの領域がぶつかり、境界で黒と赤が渦を巻いて火花を散らす。魔法の必中効果だけが残り、必殺の追加はない。術式効果はシンプル——互いの術式を無効化する。

 

 リューグナーの血の鞭が、途中で力を失って崩れ落ちた。赤い領域が急速に薄れ、毒血がただの液体に戻って地面に垂れる。

 

 僕の紫黒の魔力も、霧のように薄れて消える。広場は一瞬で静寂に包まれ、月光だけが冷たく照らす。

 

 魔法なし。拳のみ。勝者あり。

 

 リューグナーの瞳が驚きに揺れた。瞳が大きく見開かれ、血の渦が止まる。

 

「魔法を、何だと思っている!?」

 

 彼は叫びながら、拳を振り上げて突進してきた。血の領域で鍛えられた肉体は、なおも強靭だ。拳が空気を切り裂き、僕の顔を狙う。

 風圧が頰を叩く。

 僕は体を軽く捻り、左腕で受け流した。衝撃が骨に響き、腕が痺れる。右拳をリューグナーの脇腹に叩き込む。鈍い音が響き、彼の体が折れ曲がる。肋骨が軋む感触が手に伝わる。

 

「便利な道具」

 

 僕は静かに答えた。声は低く、しかしはっきり響く。リューグナーは歯を食いしばり、血を吐きながら笑った。赤い血が唇から滴り落ちる。

 

「これだから人類は!」

 

 彼は体を捻り、肘打ちを放つ。僕は後ろに下がり、左足で地面を蹴って距離を取った。リューグナーが追撃し、連続の拳を繰り出す。左ジャブ、右ストレート、左フック。僕はそれを一つ一つ受け流し、カウンターを返す。

 

 拳と拳がぶつかり合い、骨が軋む音が響く。血が飛び、汗が飛び散る。リューグナーの拳が僕の肩をかすめ、皮膚が裂けた。熱い痛みが走るが、僕は無視する。

 

 僕は体を低くし、左アッパーを彼の顎に叩き込んだ。顎が仰け反り、歯が鳴る音がする。続けて右フックを側頭部に当てる。リューグナーの体がぐらりと揺れ、膝が折れた。彼はよろめきながらも立ち上がり、再び突進する。

 

 僕は一歩踏み込み、最後の右ストレートを放った。拳がリューグナーの顔面に直撃する。鼻骨が砕ける音が響き、血が噴き出す。彼の体が後ろに吹き飛び、地面に倒れた。動かなくなる。

 

 赤い血が地面に広がり、月光に黒く光る。

 領域がゆっくりと消えていく。黒い庭園が霧のように溶け、廃村の景色が戻ってきた。月光が僕の拳に滴る血を照らす。左腕の傷から血が流れ、肩の裂傷が疼く。息が少し乱れているが、胸の奥は静かだった。僕は拳を緩め、静かに息を吐いた。

 

「…終わった」

 

 ゼータとウィクトーリアが、僕の背後に立っていた。ゼータの頰に傷が残り、チャクラムを握った手が血で汚れている。

 

 ウィクトーリアの聖衣は裂け、袖から血が滴っていたが、表情は変わらず穏やかだった。僕は倒れたリューグナーを見下ろした。

 魔法なしで、拳だけで決着がついた。

 便利な道具を失った瞬間、彼はただの肉体だった。僕はゆっくりと拳を開き、血を払った。

 戦いは、終わった。

 

 

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。