広げろ、陰の実力者の、解釈を!! 作:実験者
ウィクトーリアは自ら村の中を回り始め、倒れている死体を一つずつ丁寧に抱きかかえて教会へと運び始めた。
僕とアルファ、ゼータも周囲を警戒しながら、その作業を手伝った。
死体は重かった。冷たくなった肌の感触、固まり始めた血の臭い。一つ運ぶたびに、胸の奥がざわつき、吐き気のようなものが込み上げてきた。
それでもウィクトーリアは表情を変えず、祈りの言葉を小さく唱えながら作業を続けていた。ようやく全ての遺体を教会の中に運び終えた頃、陽はすでに傾き始めていた。
教会の中は薄暗く、埃っぽい空気が淀んでいた。古い木の床板が軋む音が、妙に大きく響く。ウィクトーリアは祭壇の前に遺体を丁寧に並べ、聖教の教えに基づいた祈りの言葉を静かに唱え始めた。
その声はとても優しく、慈愛に満ちていて、まるでこの村で起きた惨劇など最初からなかったかのように穏やかだった。
彼女の金髪が薄い光の中で柔らかく輝き、黒い目隠しが神秘的な影を落としていた。僕は壁際に立ち、彼女の祈りを聞きながら周囲を警戒し続けた。
アルファとゼータもそれぞれの位置で緊張を保っている。
しかしその時、誰も予想していなかった異変が、静かに始まろうとしていた
祈りが続く中、突然異変が起きた。アルファの体が、ぐにゃりと不自然に歪んだ。まるで目に見えない手に掴まれたかのように、彼女の細い体がねじれ、形を失いかけた。
美しい金色の長髪が激しく揺れ、蒼い瞳が大きく見開かれる。その瞬間、彼女の唇から鋭い叫び声が飛び出した。
「シド……!」
アルファの声が、薄暗い教会の中に大きく響き渡った。
「アルファ……!」
僕は即座に反応し、足を踏み出して小部屋の方へと駆け寄った。心臓が激しく鳴り、魔力が自然と指先に集まる。しかし、小部屋に飛び込んだ瞬間、僕は息を飲んだ。
そこにアルファの姿はなかった。部屋の中はがらんとしており、古い埃がゆっくりと舞っているだけだった。壁も床も何も変わらず、ただ静かに時間が流れているように見えた。ゼータが慌てて周囲を見回しながら、声を荒げた。
「なんだ、これ! 何が起こったの!?」
ウィクトーリアも祈りを中断し、黒い目隠しの下で困惑した様子を浮かべた。
彼女の声はいつもより少し震えていた。
「アルファさんは……どこへ行ってしまったのですか?」
「見てなかったんだな。アルファはこの小部屋に、引きずり込まれるように消えた」
僕が答えると、ゼータが歯を強く食いしばり、拳を握りしめた。
「ということは……魔族か、それに準じた敵対者の攻撃が始まったってことか……」
その言葉がまだ完全に終わらないうちに、今度はゼータの姿が忽然と消えた。一瞬前までそこにいた白髪のショートヘアに金色の瞳を持つ猫獣人が、跡形もなくいなくなっていた。
空気がわずかに揺れたような気がしたが、それ以外に何の痕跡も残っていない。僕はすぐにウィクトーリアの傍に戻り、彼女の細い腕を強く掴んだ。
「ウィクトーリアさん、絶対に離れないで。今、攻撃されています」
彼女は黒い目隠しの下で、冷静に状況を分析しようとした。声は穏やかだったが、わずかに緊張が混じっていた。
「何者かが潜んでいるのですね……一人ずつ消していくなんて。既に死んでいると考えた方がいいでしょう」
「いいや、生きている」
「なぜ、そう言えるのですか?」
僕は足元に落ちていたゼータの靴を素早く拾い上げ、魔力を注ぎ込んだ。すると靴は小さな蠅に姿を変え、ぶんぶんと羽音を立てながら飛び始めた。
その蠅は落ち着きなく教会の中を飛び回り、まるで何かを探しているように見えた。
「ゼータが消える直前、この靴が落ちた。それを蠅に変えたんだ。今も主人の元へ帰ろうとして、ウロウロしている。死んでいたら、こんな反応はしないはずだ」
ウィクトーリアの表情がわずかに変わった。
目隠しの下で、彼女の唇が小さく動いた。
「探せるのですか?」
「生きている。さっきからあの辺りを、ゼータを探して飛んでいる。それは確かだ。ゼータは小部屋の中にいる。しかし物陰に隠れて、攻撃してきている」
「敵の能力を見極めない限り、やられますね……逆に言えば、それが短所。正面戦闘は弱いのかもしれません」
「勝算はある」
僕は蠅の動きを基準に、周囲へ次々と攻撃を仕掛けた。魔力を凝縮した鋭い斬撃を放ち、壁を深く削り、床板を抉り、影の隅々を切り裂く。
教会の古い柱が震え、埃が舞い上がった。しかし、手応えは全くない。敵の姿はどこにも見えず、攻撃はすべて空を切るような感覚ばかりだった。
「そこだ……その辺にいるはずだ。ここにいるはずだ……何かがおかしい」
何度も繰り返し攻撃するが、まるで相手が空気の中に溶け込んでいるかのようだった。息が少しずつ荒くなり、額に汗が浮かぶ。ウィクトーリアの声に、焦りがはっきりと混じり始めた。
「逃げましょう。ここは危険すぎます」
「逃げる? あり得ない」
「蠅が近づいてきます! 敵が、こちらに向かってきています!」
僕は彼女の目を見つめ、静かだがはっきりとした声で言った。
「ウィクトーリアさん。僕が情報を残す。任せました」
次の瞬間、強烈な衝撃が僕の体を襲った。
目に見えない刃のようなものが腹部を深く貫き、鋭い痛みが全身に広がった。熱い血が勢いよく噴き出し、教会の床に赤い飛沫を散らした。僕はわざとその血を大きく飛び散らせ、ウィクトーリアの目の前で膝をついた。
血の跡をはっきり残し、攻撃された結果を彼女にしっかり見せる。これで、敵の攻撃パターンや能力のヒントを残せるはずだ。教会の冷たい床に、僕の血がゆっくりと広がっていく。
激しい痛みの中で、僕は静かに息を吐いた。意識が少しずつ遠のきながらも、僕はまだ戦えると自分に言い聞かせていた。
ヒロインで見たいのは?
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人外(エリザベートやアウロラなど