■広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:匿名

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 数の暴力。

 それがどれほど理不尽なものか。今の僕達は嫌というほど理解していた。

 一体なら倒せる。

 二体でも勝てる。

 三体でも工夫すれば何とかなる。だが十体を超えた辺りから話が変わる。

 疲労。

 集中力。

 判断力。

 体力。

 全てが削られていく。そして相手はそれを待っている。

 人間が壊れる瞬間を。

 獣のように。

 じっと。

 じっと。

 じっと。

 待っている。

 僕は魔族の爪を躱しながら後退した。肩で息をする。肺が焼ける。腕が重い。足も重い。それでも剣を落とさない。

 まだ終わっていない。終わらせるつもりもない。

 その時だった。

 通信魔法が震えた。耳元に展開される小さな魔法陣。雑音。風の音。そして女の声。

 

『聞こえるか』

 

 初めて聞く声だった。

 冷静で簡潔。感情を感じない。だが妙に安心感がある。

 

『こちらは狙撃魔法特化型だ』

 

 次の瞬間、遠方で閃光が走った。

 夜空を切り裂く一筋の光そして僕を殴り飛ばそうとしていた魔族の頭部が消えた。

 爆発したように血と肉片を撒き散らしながら、頭蓋ごと吹き飛んだ。何が起きたのか理解する前に、その巨体が崩れ落ちる。

 静寂。

 一瞬だけ戦場が止まった。

 

『射程に連れてこい』

 

 短い。

 それだけだった。だが十分だ。理解した。援軍だ。しかも強い。かなり。想定以上に。

 遠距離攻撃特化。おそらく視認外。数キロ先。いや、もっとかもしれない。そんな場所から正確に頭を撃ち抜いた。

 化物だ。

 僕は笑った。

 自然と。

 

「聞いた?」

 

 近くにいたゼータへ声を投げる。彼女は返り血まみれのまま肩を竦めた。

 

「聞こえた」

 

 金色の瞳が細まる。

 

「面白いのがきたね」

 

 口元が吊り上がる戦場で見る顔だった。獲物を見つけた肉食獣の顔。

 

「つまり、逃げながら狩れってことでしょ?」

「そういうことらしいね」

 

 さらに後方。ウィクトーリアも通信を受け取っていたらしい。

 剣を構え直しながら頷く。

 

「神の導きですね」

「違うと思う」

「そうでしょうか?」

「たぶん違う」

 

 たぶん絶対に違う。だが今はどうでもいい。重要なのは勝ち筋が生まれたことだ。僕は周囲を見る。

 敵だ。改造された魔族が大量にいるだが全部倒す必要はない。射程内へ運ぶだけでいい。

 それなら話は変わる。

 戦術になる。

 絶望ではなくなる。

 

「ゼータ」

「了解」

 

 言い終わる前に理解していた。

 彼女はそういう子だ。

 

「一番速い奴らを釣る」

「任せて」

「ウィクトーリア」

「はい」

「中央を維持してくれ」

「神に誓って」

 

 迷いのない返答。

 僕は頷いた。そして振り返る。

 敵を見る。魔族達を見る。

 あの上級尉官を見る。向こうも気付いていた。戦況が変わったことに。研究者の顔が歪む。

 不快そうに。

 苛立つように。

 

「援軍だと?」

 

 低い声。

 

「馬鹿な」

 

 焦り。

 それだけで十分だった。

 優勢だった側が焦った。

 なら、もう流れは変わり始めている。

 僕は剣を構えた。

 

「行くぞ」

 

 次の瞬間、三人同時に走り出した。逃げるためじゃない。誘導するために。狩られる獲物のように見せながら。

 実際には狩人の射線へ獲物を運ぶために。

 魔族達が怒号を上げながら追ってくる。殺意を撒き散らしている。だがその先には夜の彼方からこちらを見つめる狙撃手がいた。

 

 そして――次の瞬間。

 再び閃光が走った。

 一発。また一発。さらに一発。まるで天から裁きが降り注ぐようだった。

 狙撃という言葉では足りない。

 あれは戦場支配だ。敵がどこへ逃げようとどこへ隠れようと。どれだけ仲間を盾にしようと。

 関係ない。

 光が走り、そして死ぬ。ただそれだけだった。

 

「右!」

 

 僕が叫ぶ。

 直後、右側から飛び出した改造魔族の頭部が吹き飛ぶ。

 

「前方三体!」

 

 ゼータが叫ぶ。

 

 閃光。

 閃光。

 閃光。

 三体同時に地面へ崩れ落ちる。

 

「神よ」

 

 ウィクトーリアが祈る。

 魔法陣が展開され、魔族を足止めする。再び狙撃が降り注ぐ。

 逃げ場はない。

 死角もない。

 絶対的な精度。

 絶対的な火力。そして絶対的な冷徹さがあった。

 そこには感情がなかった。

 助けようという意思も。

 守ろうという願いも。

 怒りも憎しみも。

 何もない。

 ただ任務を遂行する機械のような殺意だけが存在していた。

 

 やがて最後の一体が倒れた。

 改造魔族は膝をつく。胸を貫かれていた。それでも立ち上がろうとする。

 生存本能か、あるいは改造された肉体の暴走か。

 どちらにせよ、苦しそうだった。人間だった頃の面影など既にない。だから僕は剣を振るった。

 一閃、首が落ちる。

 静寂。風が吹いた。血の匂い。焦げた肉の臭い。砕けた大地。戦闘の痕跡だけが残っている。

 ようやく長い戦いが終わった。

 

「……生きてる?」

 

 ゼータが座り込みながら言った。

 疲労を隠さない声だった。

 

「一応」

 

 僕も息を吐く。身体中が痛い。腕も肩も足も。どこが無事なのか分からない。だが生きている。

 それだけは確かだった。

 ウィクトーリアは静かに祈っている。

 

 倒れた改造魔族達へ。

 元人間達へ。

 敵味方の区別なく。

 その姿はどこまでも聖女らしかった。

 

 僕は空を見上げた。援軍がいた方角を。

 当然ながらもう誰もいない。撤退している。姿を見せる気も、名乗る気も、報酬を求める気も最初からなかったのだろう。だが、いくつか気になる点はあった。

 

 戦闘中、一瞬だけ見えた。

 遠方の丘陵地帯の狙撃地点。

 そこにいた人影。

 黒、そして。ワインレッド。

 その二色を基調とした装備と、特徴的な意匠。そして何よりあの異常な戦闘能力。

 

「……まさか」

 

 確信した。

 

「あれは死神部隊か」

 

 死神部隊。

 そう呼ばれる存在がいる。

 所属不明。

 目的不明。

 正体不明。

 どの国家にも属していない。

 どの宗教にも属していない。

 どの組織にも属していない。

 にも関わらず世界中で目撃されている。そして。現れた場所では必ず死人が出る。

 それも大量に盗賊団。魔族。教団。軍隊。貴族。王国騎士。聖教。

 

 全て関係ない。敵味方の区別なく攻撃する。

 

 正義も悪もなくただ殺す。その圧倒的な戦闘能力からいつしか人々は呼ぶようになった。

 死神、と。

 

「知っているのですか?」

 

 ウィクトーリアが尋ねる。

 僕は頷いた。

 

「噂程度だけどね」

「嫌な顔してるね」

 

 ゼータが苦笑する。僕は少し考えてから答えた。

 

「面倒ごとになる予感しかしない」

 

 それが正直な感想だった。

 魔族は分かる。

 教団も分かる。

 王国も分かる。

 聖教も分かる。

 どんな思想で。

 どんな理想で。

 何を目指しているか理解できる。

 賛同するかは別として。

 だが。死神部隊は違う。

 目的が見えない。

 思想が見えない。

 何を守り、何を壊したいのか。

 それが何も見えない。

 わからないものほど相手ほど恐ろしいものはない。

 

 風が吹く。戦場の死臭を運びながら僕は遠くを見る。闇の向こうの、どこかにいるであろう死神達をみる。そして思う。

 ディアボロス教団。

 魔王。

 聖教。

 国家間の対立。

 それだけでも十分に世界は不安定だ。なのにさらにその外側から。全てを切り裂くような存在が現れている。

 

「嫌な時代になりそうだな」

 

 僕の呟きにゼータは珍しく真面目な顔で頷いた。

 

「同感」

 

 ウィクトーリアもまた。

 祈る手を止めて空を見上げる。

 

「神よ」

 

 その声にはいつもの確信が少しだけなかった。

 

「どうか私達をお導きください」

 

 空は何も答えない。ただ夜だけが広がっている。まるで、これから訪れる未来そのもののように。

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
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