■広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:匿名

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 全てが終わったのは、それから数日後だった。ディアボロス教団の研究施設は摘発され、生き残った研究員達は拘束された。

 改造魔族達の遺体も回収される。

 聖教との協議も行われた。

 そして長い議論の末、聖女ウィクトーリア本人の立会いの下で、正式な共生協定が結ばれた。

 

 人間。

 獣人。

 エルフ。

 その他の種族。

 信仰の違いがあろうと、共に生きることを目指す。

 

 完全な平和ではない。

 争いも偏見も残るだろう。

 けれど前へ進む意思だけは確かに存在していた。

 それで十分だ。少なくとも今は。

 

 

 報告書を机へ置く。

 

「以上で報告終了」

 

 そう言って椅子へ座る。ようやく肩の力が抜けた。目の前ではアルファが静かに資料へ目を通している。

 相変わらず仕事が早い。

 僕が持ち帰った情報。

 聖教との交渉結果。

 教団施設の調査結果。

 死神部隊に関する推測。

 それらを一つずつ整理していく。

 数分後。

 彼女は資料を閉じた。

 

「お疲れ様、シド」

「ありがとう」

「本当に」

 

 アルファが苦笑する。

 その笑顔を見て僕は少し違和感を覚えた。

 疲れている様子が垣間見れる。

 彼女の目元がほんの少しだけ重いような雰囲気だ。肩も普段より下がっている。表情には出している。だが分かる。

 長い付き合いだ。

 僕よりもむしろ彼女の方が働いていたのだろう。

 現場は僕達、後方支援はアルファ。

 どちらも大変だ。ただ彼女はそれを言わない。

 言えない。責任感が強すぎるから。

 

「アルファ」

「なに?」

「仕事は終わり?」

「今日の分は全部」

「デートしない?」

 

 沈黙。

 一秒。

 二秒。

 三秒。

 そして。

 

「…………え?」

 

 珍しく固まった。

 優秀な副官。

 完璧超人。

 冷静沈着。

 その全てが吹き飛んだ顔だった。

 

「デート?」

「うん」

「私と?」

「他に誰がいるの」

「そ、それはそうだけど……」

 

 急に視線が泳ぎ始める。

 耳も少し赤い。

 可愛い。普段見ない反応だから余計に。

 

「急ね」

「疲れてそうだったから」

 

 僕は正直に答える。

 

「休憩も必要だと思う」

 

 アルファは少しだけ目を丸くした。それから。柔らかく笑う。

 

「そうね」

 

 優しい笑顔だった。

 

「たまには甘えてみようかしら」

 

 数時間後、僕達は王都の美術館へ来ていた。

 大理石で作られた巨大な建物。

 歴史を感じる荘厳な雰囲気。

 僕もアルファも芸術には詳しくない。だからこそ新鮮だった。

 

「展覧会って知っている?」

 

 歩きながらアルファが言う。

 

「価値のある絵が飾られるらしいわ」

 

「らしいって」

「詳しくないもの」

 

 少し照れたように笑う。

 

「たまには芸術品に触れてみるのもいいわね」

「そうだね」

「確か海と陸と空、だったかしら」

「テーマ?」

「ええ」

 

 アルファがパンフレットを見る。

 

「自然を描いた作品展らしいわ」

 

 そして。

 少しだけ楽しそうに続けた。

 

「いい絵があったら買い付けましょう」

「そんな野菜みたいに」

「大事なことよ」

 

 真面目な顔だった。

 

「部屋に飾れば癒やされるもの」

 

 なるほど。

 確かにそうかもしれない。

 

 最初の展示室。

 そこには巨大な海の絵が飾られていた。

 青。蒼。碧。

 様々な色が混ざり合う。

 波が描かれている。ただそれだけなのになぜか目を奪われた。

 

「綺麗だ」

 

 思わず呟く。

 アルファも頷いた。

 

「そうね」

 

 しばらく二人で見つめる。

 静かな時間だった。

 戦場では得られない時間。

 命のやり取りもない。

 陰謀もない。

 血も流れない。

 ただ絵を見る。

 それだけ。

 なのに不思議と心が落ち着いた。

 

 

 次の展示室。

 草原。

 森。

 山岳地帯。

 様々な陸の景色が並んでいる。

 その中の一枚の絵の前でアルファが足を止めた。

 夕暮れの森だった。

 木漏れ日。

 差し込む光。

 静かな小川。

 どこか懐かしい風景。

 

「好きなの?」

 

 尋ねる。

 アルファは少しだけ考えて。

 

「分からないわ」

 

 そう答えた。

 

「でも」

 

 青い瞳が絵を見つめる。

 

「帰ってきた気分になる」

 

 エルフとして生まれ。

 故郷を失い。

 教団に囚われ。

 そして今。

 シャドウガーデンにいる。

 彼女の人生を思えばその言葉の意味は軽くない。

 僕は何も言わなかった。代わりに隣へ立つ。

 それだけで十分だと思った。

 

 

 最後の展示室。

 空。

 空だけを描いた作品が並んでいた。

 青空。

 夕焼け。

 星空。

 曇天。

 嵐。

 様々な空。

 その中で僕達は一枚の絵の前で立ち止まる。

 朝焼けだった。

 夜が終わり。

 光が差し込む瞬間。

 暗闇と光の境界線。

 その絵を見ながらアルファが静かに言う。

 

「少しだけ」

「うん」

「未来は明るいと思ったわ」

 

 僕は絵を見る。そして思う。

 

 勇者が倒した魔王とは別の魔王がいる。

 教団もいる。死神部隊もいる。

 問題は山積みだ。きっとこれからも戦いは続く。

 それでも。

 今日くらいはそういう未来を信じてもいいのかもしれない。

 

 僕は隣のアルファを見る。

 彼女もこちらを見ていた。

 

 目が合い、少しだけ笑う。そして僕達は戦いではなく。穏やかな時間を選んだまま、美術館の奥へ歩いていった。

 

 美術館を出る。

 外は快晴だった。

 雲一つない青空。

 暖かな陽射し。

 風も穏やかで、戦いも陰謀も存在しないような平和な午後だった。

 僕とアルファは並んで歩く。

 特に目的地も決めずただ時間を使うためだけに。

 そんな贅沢な時間。

 

 ふと。

 

 アルファが足を止めて、空を見上げた。

 太陽を見つめる。眩しそうに目を細めながら。

 

「いい天気ね」

 

 その声は柔らかかった。

 

「太陽が輝いているわ」

 

 僕も空を見る。

 確かに眩しい。

 雲一つない。

 どこまでも続く青空だった。するとアルファが続ける。

 

「光は強ければ強いほど闇を濃くして、見えなくなる」

 

 まるで詩のような言葉だった。あるいは哲学か。アルファらしい。優しくて、真面目で、少し難しい。

 僕は思わず笑った。

 

「格好良いね」

 

 するとアルファは少しだけ胸を張った。得意そうに、だけど照れ隠しみたいに。

 

「ええ」

 

 青い瞳がこちらを見る。

 

「貴方を支えるのだから」

 

 一拍。

 そして。

 

「情けない姿は見せられないわ」

 

 そう言って微笑んだ。

 

 僕は少し考える。

 アルファは強い。優秀だ。責任感もある。誰よりも周囲を見ている。だけど。その分だけ無理をする。誰かを支える側に回り続ける。だから時々思う。彼女自身を支える人間はいるのだろうか、と。

 

「頑張るのは素晴らしいと思う。だけど、僕の前では情けなくてもいいと思うけど」

 

 僕が言う。

 アルファは首を傾げた。

 

「そう?」

「うん」

「どうして?」

「僕も結構情けないし」

「それは否定できないわね」

「即答だ」

 

 酷い。本当に酷い。しかしアルファは楽しそうだった。

 珍しく本当に楽しそうだった。

 

 王都の広場へ出ると噴水と子供達に露店が目に入った。

 平和な光景。戦場とは別世界だった。僕はベンチへ腰を下ろした。アルファも隣に座る。しばらく沈黙。心地良い沈黙だった。

 何も話さなくていい。

 何も証明しなくていい。

 ただ一緒にいるだけでいい。

 

「ねぇ」

 

 アルファが言う。

 

「何?」

「全部終わったら何をしたい?」

 

 不意の質問だった。

 全部。

 つまり新しい魔王やディアボロス教団。

 死神部隊。

 全てが終わった後、そんな未来の話。

 

「難しいな」

 

 少し考える。

 正直、考えたことがなかった。目の前の問題を解決するだけで精一杯だったから、だから思いついたことをそのまま口にする。

 

「楽しく暮らしたい」

 

 アルファが笑った。

 

「雑ね」

「本音だよ」

「具体的には?」

「そうだね」

 

 考える、そして少しずつ形になる。

 

 

「朝起きる」

「うん」

「仕事に行く」

「うん」

「帰る」

「うん」

「ご飯食べる」

「うん」

「寝る」

「……」

「終わり」

「おじいちゃんかしら」

 

 呆れられた。

 

「アルファは?」

 

 逆に尋ねる。すると彼女は少し考えて、珍しく、本当に珍しく、夢を見る少女みたいな顔になった。

 

「家が欲しいわ」

「家?」

「ええ」

「今もあるじゃん」

「違うの」

 

 アルファは首を振る。

 

「帰る場所」

 

 静かな声だった。

 

「戦場じゃなくて、任務でもなくて、命令でもなくて、ただ帰る場所」

 

 青い瞳が遠くを見る。

 未来を。

 

「庭があって、花があって、静かで、平和で、皆がいて」

 

 そこで少し笑う。

 

「たぶんゼータは勝手に入り浸るわね」

「ありそう」

「ベータは本を持ち込む」

「絶対やる」

「ガンマは経営計画を持ってくる」

「やるな」

「デルタは庭で寝る」

「確実に」

 

 二人で笑った。

 容易に想像できる。

 

「そして」

 

 アルファが続ける。

 

「貴方もいる」

 

 風が吹く。

 穏やかな風だった。

 

「毎日じゃなくてもいい。ずっと一緒じゃなくてもいい。でも」

 

 彼女は少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らした。

 

「帰ってくる場所として、そこにいてくれたら嬉しい」

 

 僕は空を見る。

 青空。

 太陽。

 眩しい光。

 確かに光が強ければ影も濃くなる。闇はなくならない。争いもなくならない。

 きっと未来にも困難はある。それでも、今この瞬間だけは。

 そんな未来を信じてみたい。

 

「いいな」

 

 僕は言う。

 

「その未来」

 

 アルファがこちらを見る。

 

「そう?」

「うん」

 

 そして、自然と笑った。

 

「帰る場所があるのは、きっと幸せだから」

 

 太陽は高く輝いていた。まだ見ぬ未来を祝福するように。

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
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