■広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:匿名

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 翌日、朝の柔らかな光が差し込む治安維持組織の執務室。

 

 僕がデスクで書類に目を通していると、ノックの音と共にアルファが姿を現した。

 彼女はいつもの完璧な敬礼の後、少し緊張を含んだ面持ちで僕の正面に立った。その手には、今朝発行されたばかりの新聞やいくつかの公的文書が握られている。

 

「シド、おはよう。早速だけど、昨日のあなたの『偉業』が、もう上層部や一部のメディアの間で大きな波紋を呼んでいるわ」

 

 彼女がデスクに広げた紙面には、『悪魔憑きに有効な新技術、国内の合法研究所にて確立か!?』という刺激的な見出しが躍っていた。

 

 昨日の今日でこれだけの情報が回るとは、やはり注目度の高い案件だったわけだ。

 

「さすが国営の研究所、耳が早いねぇ。まあ、あの主任研究員たちの驚きっぷりを見たら、誰かが速報で上に報告しちゃうのも無理ないか」

 

 自分の天才的な仕事ぶりが世間に評価されていく状況を、芸能ニュースでも眺めるように気楽に楽しんでいた。けれど、正面に立つアルファに向けては、あくまで思慮深く、この事態の先行きを憂慮する冷徹な指揮官の顔を崩さない。

 

「……やはり、隠し通せるものではなかったか。アルファ、君はどう見る?」

 

 僕が低く落ち着いた声で問いかけると、アルファは腕を組み、知的な青い瞳を少し細めて考察を口にした。

 

「公的な機関が、この技術を基に本格的な『悪魔憑きの大規模支援』に乗り出すかどうかは……非常に微妙なラインね。表向きは人道支援を謳うでしょうけど、上層部の本音は別にあるわ」

「共通の敵、か」

 

 僕は彼女の言葉を引き継ぐように、静かに呟いた。

 

「ええ」

 

 アルファは深く頷く。

 

「皮肉な話だけど、この国、あるいは聖教も含めた既存の権力構造は、ディアボロス教団や魔族という『共通の恐怖』があるからこそ、内側の団結を保てている側面がある。もし悪魔憑きという『恐怖の象徴』が簡単に治療可能な病気だと証明されてしまえば、民衆の危機感は薄れ、国をまとめる求心力にも影響が出かねないわ」

「確かに。それ加えて」

 

 僕は椅子の背もたれに体を預け、あえて冷徹な現実を突きつけるように言葉を重ねた。僕は、物事の光と影を誰よりも理解している男だなのだら。

 

「この新技術――魔力暴走を逆算して制御するシステムが、魔族やディアボロス教団、あるいは国内の反政府テロリストたちの手に渡ってみるのを想像して見ると良いだろう。彼らはそれを『人命救助』には使わない。人体の魔力限界を強制的に引き上げる『兵器利用のブースター』として悪用するだろうね。そうなれば、事態はさらに面倒なことになる」

「……その通りね。教団の技術を解析して得た知見だからこそ、逆に彼らに奪われるリスクもある。だからこそ、国のトップたちも手放しでは喜べず、今頃激しい頭痛に悩まされているはずよ。この技術を秘匿すべきか、公表して国威発揚に使うべきか、彼らのキャパシティを超えているわ」

 

 アルファはため息混じりに、しかし僕の先見の明に改めて感服したような視線を送ってきた。

 

「政治の世界って本当に面倒だな。シンプルな世の中ではあることは難しいか」

 

 僕はデスクの上の支援プランをトントンと指先で叩き、アルファに優しい微笑みを向けた。

 

「国家の首脳陣がどう悩もうと、僕たちのやるべきことは変わらないよ。彼らが足踏みをしてゆっくり成長している間に、僕たちは僕たちのやり方で、あの少女たちを護り、導いていこう。それが僕達の理念の骨子だろう? アルファ」

「シド……。ええ、そうね。あなたがそう言うと思って、すでに受け入れ態勢の準備は進めているわ。国の公式な方針が決まる前に、彼女たちの身柄は私たちが完全に確保して、教団の技術解析部門へ配属するわね」

 

 アルファの瞳に、僕への狂信的なまでの信頼と、新たな仲間を救うための強い覚悟が宿る。

分かり合えない世界の中でも、対話を諦めず、しかし着実に自分の理想の『勇者』への道を進む僕の姿。

 彼女には、今の僕がそんな風に眩しく映っているに違いない。

 

「なるほど、この素早い手続きにはそういう背景があったわけか」

 

 僕はアルファから提出された、我が国の軍事装備と魔力運用の歴史データに目を通しながら、ぽつりと呟いた。

 国家の軍事バランスの変遷を鋭く見抜く、卓越した軍事戦略家だ。

 

 我が国がこれまで『筋肉モリモリマッチョマンの肉体強化!』と『大味なビーム砲ドカン!』しかやってこなかったの、アーティファクトのせいだったんだ。

 

 確かにボタン一つで便利な魔法が出るマジックアイテムがあったら、そりゃあ誰も面倒くさい呪文の理論なんて勉強しないよね。ゲームの初期装備に最強の武器があったら、わざわざ魔法使いのレベル上げなんて地味なことやらないのと一緒じゃん。わかるわかる、人間だもの。

 

 我が国は、アーティファクトという超常の遺物に恵まれすぎていた。術式や精密な魔力制御の理論がなくても、魔力を流し込むだけで多彩な属性攻撃や現象を引き起こせるチートアイテム。

 

 それがあれば、使用者に求められるのは「いかに肉体を鍛えて、いかに多くの魔力を注ぎ込めるか」という、極めて単純な脳筋スペックの向上に行き着くのは当然の帰結だった。

 

 逆に、そうした遺物の恩恵に預かれなかった他国は、生き残るために自ら多様な術式を構築せざるを得ず、結果として高度な魔法文化を発達させていったのだ。

 その格差が、今回の教団の『デチューン版ゾルトラーク(貫通魔法)』という形で、最悪の形で突きつけられたわけである。

 

「現在、我が国でもアーティファクトの技術を利用した銃器が制式採用されてはいるけど」

 

 アルファが、押収された軍用銃の設計図を指差しながら、厳しい表情で言った。

 

「兵器として量産を前提に『規格化』されている以上、一発の威力や出力は、完全に扱う火力の上限に引っかかる」

「あくまでサブ、か。数を揃えて、戦列を組み、メインのアーティファクトを補強する形で銃器を配備させる、と。一斉制圧するような『正面切った戦争』なら、我が国は無類の強さを誇るだろうね」

 

 僕は腕を組み、冷徹な軍師のトーンで引き継いだ。

 

「……だけど、神出鬼没なゲリラ戦や、市街地での局地戦、あるいは教団のような超高性能な暗殺特化の魔法を使われた場合、この規格化された大味な兵器では、対応が非常に辛い」

「ええ、その通りよ」

 

 アルファの瞳に焦燥が走る。

 アーティファクトに依存しきった我が国に、今、教団という形を変えた「魔法文化の波」が、圧倒的な暴力の津波となって押し寄せているのだ。

 

「シド、実は私たちのシャドウガーデンでも、基礎的な魔法術式の研究と開発は進めさせているの。だけど……どうしても、基礎魔法からの高度なレベルへの発展が難航していて」

 

 アルファは悔しそうに唇を噛んだ。

 

「術式を覚える手間の割に、結局、魔力量という元々の資質がなければ威力が上がらないの。研究員たちからも『これなら、既存のアーティファクトや銃に魔力を込めて撃った方が手っ取り早いし強いのでは』という意見が出てしまって……」

「うん、まあそうなるだろうな。ゼロから勉強して自作品を作るより、既製品を買った方が早いじゃん、ってなるのは自然な話だ」

 

 大量の時間とリソースを投入してまで、わざわざ地味な基礎魔法を学ぶ見返りがないと判断されるのは、組織の経営としては至極真っ当だった。

 

 僕はシャドウガーデンの研究員たちの「アーティファクトで良くね?」という至極現実的な愚痴に「だよねー」と全面同意していた。コスパの悪いイノベーションほど、現場に嫌われるものはない。しかし、僕はふっと物憂げに、だがどこまでも深い慈愛を湛えた笑みを浮かべて、アルファを見つめた。

 

「『アーティファクトや銃でいい』、か。それは、強者の論理だよ、アルファ」

「え……?」

「既存の兵器は、元から多くの魔力を持つ『強者』のために最適化されている。魔力が少ない『弱者』は、規格化された武器の底辺で使い潰されるだけだ。僕たちが目指すのは、強者と弱者が共に歩める世界。そして、苦しみだけに頼らない世界だ」

 

 僕は立ち上がり、窓の外の街並みを見下ろした。思慮深く、等価値で無意味な世界に自ら価値を与える男。

 

「誰もが見返りがないと諦め、リソースの無駄だと切り捨てる。だからこそ、僕たちがやる意味があるんだ。魔力量という資質に依存しない、術式の『効率化』と『構造改革』。教団の技術を解析した僕たちなら、そのブレイクスルーを起こせる。効率的な魔力制御回路さえ構築できれば、魔力が少なくても、教団の貫通魔法を凌駕する一撃を放てるようになるはずだ。……諦めずに、前進しよう」

「シド……ッ!」

 

 アルファの胸に、激しい衝撃が走ったのが分かった。

 世間が「コスパが悪い」と切り捨てる弱者のための技術開発に、僕がこれほど深い大義と未来を見据えていたなんて、彼女の予想を遥かに超えていたのだろう。ただの効率主義に陥りかけていた自分を恥じるように、彼女の青い瞳が、僕への狂信的な崇拝と尊敬でうるんでいく。

 

「制式銃を構えるより、手先から極細の魔力レーザーをスタイリッシュに放つ方が便利だろうしな」

 

 アルファの書類にサインを入れた。

 

「魔法術式の研究予算、倍にしておいて。彼女たちの未来への投資だ」

「ええ……! すぐに手配するわ。シド。あなたが進む光の道を、私たちはどこまでも支え続けるわ!」

 

 アルファは感動に肩を震わせながら、僕の提示した理想を現実にするため、凄まじい気迫で執務室を飛び出していった。

 

 僕はその後ろ姿を見送りながら、予算が倍になったことで、今度どんな格好いいオリジナル魔法を部下たちに仕込もうかと、内心で大いにニヤつくのだった。

 

「アルファ。僕たちが魔法に求めるべきなのは、山を吹き飛ばすような大規模な破壊ではないんだ」

 

 僕はデスクの上に広げられた、莫大な魔力をつぎ込んで放つ大魔術の理論書をそっと閉じ、彼女の知的な青い瞳を見つめた。

 

 僕達は世界の戦術パラダイムの根底をひっくり返そうとする、深謀遠慮に満ちた革新的な指導者だ。しかしスタンスは極めて気楽だ。

 

「派手な大爆発なんてアーティファクトのミサイルや大砲に任せておけばいい。僕が部下たちに教えたいのはさ、もっとこう……指先から鍵開けの魔力を出したり、気配を完全に消して壁を走ったり、コーヒーを理想の温度に温めたりするような、個人単位で気軽に使えるものだね。そういう小回りが利いて、使い勝手がよくて、見た目もスタイリッシュな魔法の方が良い」

「大規模な破壊ではない……? でもシド、教団の軍勢や魔族の圧倒的な物量に対抗するには、一撃で戦況を覆す広域殲滅魔法こそが求められるのでは……」

 

 アルファが不思議そうに首を傾げる。

 アーティファクトの「大味な高出力」に慣れてしまっているこの国の人人間としては、彼女の疑問は至極当然の反応だった。

 僕は首を横に振り、諭すように優しい声音で言葉を紡いだ。

 

「それは既存の『強者の戦い方』に囚われている証拠だよ。僕たちが本当に構築すべきなのは、徹底的な魔力効率と汎用性に富んだ、拡張性の高い独自の術式だ。――いいかい、アルファ。強い人には、その強さをさらに引き出す強い人用の魔法がある。逆に魔力の少ない弱い人には、その少なさを技術と効率で補う、弱い人のための魔法が必要なんだ。同じように、組織として戦うための戦術魔法もあれば、個人が日常やゲリラ戦で生き抜くための隠密魔法もある」

 

 僕は立ち上がり、ホワイトボードに向かうと、教団の『貫通魔法』の術式をベースに、さらに贅肉を削ぎ落とした極小の魔力回路の数式をサラサラと書き換えてみせた。

 

「大切なのは、画一的な強さを押し付けることじゃない。一人ひとりに合わせた『選択肢』を広げることなんだよ」

 

 その瞬間、アルファの目が見開かれた。

僕が提示した『選択肢を広げる』という概念が、彼女の脳裏に電撃のような衝撃を与えたのが分かった。

 

 この国がこれまでやってきたのは、アーティファクトという規格に人間を合わせる歪な軍事化だ。

 

 魔力が多ければ優遇され、少なければ見捨てられる。しかし、僕の説く魔法理論は、術式の方を「人間に合わせる」という、180度異なる人道的なアプローチだった。

 

「個人の資質や環境に合わせて、最適な術式を選択し、カスタマイズしていく……強者も弱者も、それぞれが自分の身の丈に合った最適な『輝き』を放てる世界……それが、あなたの目指す『強者と弱者が共に歩める世界』の具体的な形なのね、シド……!」

 

 アルファは感動のあまり、胸の前で両手を握り締め、その青い瞳に狂信的なまでの崇拝の光をみなぎらせた。世界を完全に否定するのではなく、敵の技術すらも咀嚼し、すべての人間がゆっくりと成長していけるための優しい選択肢を用意する。

 その思想に感動しているようだった。

 

「僕の考えた最強の汎用魔術基本パッケージ理論。めちゃくちゃ綺麗にまとまったね。これさえ配っておけば、あとはみんなが勝手に自分の好きなオリジナル魔法に派生させて、広がっていく」

 

 組織のスキルツリーがどんどん広がっていくみたいで、見てるだけでもワクワクする。その果てにあるのは混沌だろう。

 敵の味方がオリジナルの魔法で戦う未来。そんな未来にこそ、一人一人が輝く世界だからこそ陰は強くなる。

 

「ああ、その通りだよ、アルファ。僕たちの魔法は、人を縛るための兵器じゃない。人が未来を選ぶための自由と、その表象だ」

 

 僕は外面の完璧な微笑みを崩さないまま、彼女の決意を優しく後押しした。

 

 

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
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