■広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:あばなたらたやた

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23:失敗作たち

 

 実験棟・最上階。

 星輪樹の庭 と上位者のなりそこない

 実験棟最上階の巨大な扉の前で、僕達は足を止めた。

 ここまで長かった。

 患者。

 獣。

 聖教の残党。

 罠。

 狂気。

 絶望。

 実験棟という地獄そのものを踏破してきた。そしてようやく最奥へ辿り着いた。

 ゼータが扉へ触れる。

 古い金属。

 無数の傷。そして星輪の紋章。

 

「……開くよ」

「ああ」

 

 二人は扉を押した。

 轟音。数百年閉ざされていたような重々しい音と共に扉が開く。

 その先に広がっていたのは空だった。

 夜空。

 満天の星。冷たい風。そして一面の花畑。

 巨大な黄色い花々が咲き誇っている。

 星輪草。

 下層で見た花の巨大種。人の背丈を超える花々が庭園全体を埋め尽くしていた。

 幻想的だった。実験棟とは思えないほどに。

 まるで別世界。だが、その中心にあるものが全てを台無しにしていた。

 巨大な樹木。

 星輪樹。

 空へ向かって伸びる異形の植物。幹は人間の血管のように脈打ち。枝は腕のように捻じれている。

 そしてその根元に、それらはいた。

 青い肌。

 異様に長い手足。

 六本指。

 顔のない頭部。

 萎びた肉塊のような頭。

 患者達の末路を巨大化したような姿。

 全部で四体。 

 静かに庭園へ佇んでいる。

 ゼータの瞳が細くなる。

 

「……なるほど」

 

 低い声。

 

「ここまで来て、完成品ではなく失敗作……!」

 

 彼女の声には怒りが滲んでいた。

 異形達が動く。

 一斉に、二人の存在へ反応するように。

 頭部のない顔がこちらを向く。視線など存在しないはずなのに見られている。

 そう感じた。

 

「上位者のなりそこない」

 

 ゼータが呟く。

 

「教団と聖教の目的地。患者達の終着点。そして」

 

 短剣を抜く。

 

「全部失敗。神を信じ、人を踏みつけ、奪い去る者達。その犠牲者達に慈悲の死を与える。悪夢の終わりを」

「ゼータ、それ。スゴク良いと思う。手伝うよ」

 

【実験棟 失敗作たち】

 

 その瞬間、戦闘が始まった。

 一体が前へ出る。巨体とは思えない速度。拳が振り下ろされる。

 轟音。

 地面が砕ける。半歩だけ動き回避する。そのまま剣を振る。

 腕が飛ぶ。だが。倒れない。血も流れない。肉の中から青白い光だけが漏れていた。

 

「……なに、あれ」

 

 ゼータが言う。

 同時に後方の二体が両腕を掲げる。神秘の衝撃波。光弾が放たれた。

 ゆっくり。だが確実に迫る。避ける。

 次の瞬間、光弾が着弾。

 衝撃波が花畑を吹き飛ばした。星輪草が何十本も根こそぎ消える。

 ゼータが眉をひそめた。

 

「火力高い。気をつけないと」

 

 戦闘は続く。

 ゼータは理解したようだ。

 強い。

 実験棟で遭遇したどの患者よりも。どの医療者よりも。どの獣よりも。

 遥かに。

 

 巨体が踏み込む。

 花畑が吹き飛ぶ。

 地面が陥没する。

 六本指の拳が空気を押し潰しながら迫る。

 鈍重そうな見た目だった。だが違う。速い。異常なほどに早い。

 頭を下げると、その直後。

 拳が通過する。

 轟音。

 背後の星輪樹の幹が抉り取られた。人間なら跡形もなく消し飛ぶ威力。それを見たゼータが舌打ちする。

 

「患者とは別物だ」

「そうだな」

 

 だが、その光景を見た瞬間。

 ゼータは確信した。

 

「やはり失敗作です」

「なぜだ」

 

 僕が問う。

 ゼータは空を見る。

 歪んだ夜空。

 彼方。

 怪物達が必死に手を伸ばしている場所。

 

「呼んでいるんです。助けを、答えを、完成を」

 

 そして静かに言った。

 

「つまり、自分達では辿り着けなかった救いを」

 

 隕石の雨の中怪物達は空へ手を伸ばし続ける。

 まるで神を求める信者のように。

 まるで救済を求める患者のように。

 まるで完成を願う失敗作のように。

 

 ゼータは短剣を構える。

 金色の瞳は冷たかった。

 

「可哀想だとは思いません。ですが」

 

 加速する。

 

「哀れだとは思います」

 

 銀閃。

 首が飛ぶ。腕が飛ぶ。胴体が裂ける。

 失敗作が崩れ落ちる。

 人類が何万人も犠牲にして何百年も積み上げて。

 ようやく辿り着いたもの。

 それが空へ手を伸ばし続けるだけの怪物。

 だからこそ彼らは最後まで失敗作だった。

 

 さらに二体。

 後衛個体が腕を掲げ、神秘の衝撃波。青白い光弾が放たれる。

 速度は遅い。だが嫌な予感がした。横へ動く。次の瞬間。光弾が地面へ接触した。爆発。いや衝撃そのものだった。

 

 花畑が根こそぎ吹き飛ぶ。空気が押し流される。ゼータが十数メートル後方へ弾き飛ばされた。空中で体勢を整える。着地。足元の土が砕ける。

 

「……なるほど」

 

 ゼータの耳が伏せられる。

 

「正面から受けると面倒だ」

 

 前衛二体。後衛二体。そして連携が存在する。

 

 前衛が進路を塞ぐ。

 後衛が砲撃する。

 単純だが強力。

 広い庭園だからこそ成立する戦法。

 ゼータが前へ出る。短剣を構えて加速する。

 一瞬で距離を詰める。

 首。

 心臓。

 関節。

 人体なら致命傷となる場所を正確に斬る。だが手応えがおかしい。

 

「肉ではなく骨でもない」

「見た目なら濡れた樹木って印象だけど」

「そんな感触」

「っ!」

 

 次の瞬間、怪物の腕が振られる。

 ゼータは飛ぶ。回避。しかし遅い。風圧だけで吹き飛ばされた。

 数メートル。

 花畑を転がる。

 立ち上がる。

 無傷。だが表情は険しい。

 

「頑丈だ」

「骨が折れそうだ」

 

 シドが前へ出る。怪物が拳を振るう。

 回避。

 二撃目。

 回避。

 三撃目。

 回避。

 

 その全てが致命的。

 その全てが必殺。

 まともに受ければ終わる。だがシドは紙一重で避け続ける。そして剣を振るう。

 一閃。腕が飛ぶ。

 二閃。脚が飛ぶ。

 三閃。胴体が両断される。

 怪物が崩れ落ちた。

 

 だが星輪樹の根元が脈動した。

 肉が盛り上がる。

 骨が形成される。

 青い肌。六本指。顔のない頭部。新たな一体が立ち上がる。

 ゼータは数秒沈黙した。

 

「……補充されていますね」

「ああ」

「無限ですか」

「恐らく」

 

 最悪だった。

 戦闘は長引く。

 一体倒し、現れる。

 また倒す。

 また現れる。

 まるで終わらない。

 怪物ではない。

 現象だった。

 そしてゼータは気付く。

 違和感。怪物達を観察する。

 攻撃。

 移動。

 反応。

 全て。

 確かに強い。

 人類の大半を蹂躙できるだろう。だが、それだけだ。

 

「主」

「なに?」

「これ……って」

 

 ゼータは怪物を見る。前衛個体が拳を振るう。後衛個体が光弾を放つ。それだけ。何度見ても。それだけ。

 

「同じ行動しかできない。だから失敗作たちって事!?」

「あとは、最強の神の力や、教団の求める魔王や魔人に至る手段としても失敗だったのだろう。あれだけの被害を出して得た結論が、アプローチそものもの失敗だった」

「許せない」

 

 僕は怪物の腕を切断する。

 淡々と。

 

「主、私はこれを葬送したい」

「理由は?」

「単純です」

 

 ゼータは答える。

 

「強い。でも、でも!」

 

 短剣が閃く。

 怪物の膝が砕ける。

 

「患者達を見た。脳液を見た。アデラインを見た。研究記録も見も見た」

 

 ゼータは空を見上げる。

 歪んだ夜空。

 彼方。

 研究者達が見たかったもの。

 到達したかった場所。

 

「彼らが欲しかったのは力じゃなく、上位者であり、神秘であり、啓示であり、進化です。それは救い」

 

 怪物が咆哮する。

 顔もないのに、声だけが響く、空気が震える。

 強大。

 圧倒的だがゼータは首を振った。

 

「違う」

 

 そこに知性はない。

 啓示もない。

 変革もない。

 ただ強いだけ。

 巨大なだけ。

 壊れにくいだけ。

 

「研究者達は」

 

 彼女は花畑を見る。

 患者達を思い出す。

 アデラインを思い出す。

 頭だけになった者達を思い出す。

 

「何万人も殺した。何万人も壊したその結果が」

 

 怪物を見る。

 上位者のなりそこない。

 失敗作たち。

 

「大型で頑丈な怪物」

 

 その声には怒りがあった。

 失望もあった。

 一体を倒す。また現れる。さらに倒す。また現れる。終わらない。青い怪物達は次々に星輪樹の根元から生まれていた。

 

「果実みたいだ」

 

 樹木が怪物を実らせている。

 その光景を見た瞬間、ゼータが本気で嫌そうな顔をした。

 

「最悪」

「何がだ」

「全部」

 

 珍しく即答だった。

 

「患者を肥料にして、花を育てて、失敗作という怪物を実らせている。関わった奴らは必ず始末する」

「似たようなことを前も言っていたな。こう言うのは嫌いか。だが、理解できる」

 

 相手の体力が半分を切るのを感覚で理解した。

 その瞬間、空気が変わった。四体全てが動きを止める。そして。同時に空を見上げた。

 両手を掲げる。

 祈るように。

 願うように。

 助けを求めるように。

 ゼータの顔色が変わる。

 

「主」

「ああ」

「嫌な予感が」

「宇宙を空につくっている。そしてそこから落ちるのは」

 

 空が割れた。

 夜空そのものが裂ける。

 星々が歪み、闇が広がる。まるで宇宙の裏側が覗いているようだった。

 彼方への呼びかけ。

 人の声ではない合唱。そして隕石が降り始める。

 

「すごいな。擬似的な再現ではなく、本物を召喚しているのか。いや、上位次元のエネルギー」

 

 最初の一発。

 星輪樹の一部が吹き飛ぶ。

 続く二発。三発。四発。庭園そのものが崩壊する。花畑が燃える。地面が抉れる。空から降るのは岩ではない。

 凝縮された神秘。

 純粋な破壊だった。

 何十。

 何百。

 無数。

 世界そのものが僕を殺そうとしている。だが僕は動じなかった。

 隕石の雨の中を歩く。まるで散歩でもするように。ゼータも続く。彼女は苦笑した。

 

「本当に」

 

 短剣を構える。

 

「主といると、感覚が麻痺するね」

「そうか」

「そうだよ」

 

 だって、と隕石を避けながら笑う。

 

「普通は死ぬよ」

「死ななよ、僕だから」

 

 最後の一体。

 最後の失敗作。

 シドが剣を振るう。

 一閃。

 青い身体が崩壊し、光となって消えていく。

 静寂。風だけが吹く。星輪草が揺れる。そして星輪樹の根元に一つの鍵が落ちた。

 ゼータが拾い上げる。

 古びた鍵。

 時計塔の紋章。

 

「時計塔の鍵」

 

 彼女は夜空を見上げた。

 実験棟。

 患者達。

 アデライン。

 上位者のなりそこない。

 失敗作たち。

 全てが繋がっている。

 全てが誰かの願いの果てだった。だが、そこに救いはなかった。

 ゼータは静かに呟く。

 

「結局、人類は何になりたかったのかな」

 

 僕は答えない。ただ時計塔へ続く扉を見る。その向こうにさらに深い狂気が待っていることだけは確かだった。

 

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
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