広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:実験者

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 会議室は、いつものように冷たく静かだった。

 天井から吊るされた鉄製の燭台が、六本の蝋燭を灯し、橙色の揺らめく光が石壁に長い影を落としている。

 

 厚い石の壁が外の音を完全に遮断し、部屋の中は僕たちの息遣いと、時折紙をめくる乾いた音だけが響く。

 長い楕円形のテーブルには、オルムで集めた報告書、地図、盗聴魔導具から抜き出した羊皮紙のメモが散らばっていた。中央に置かれた水晶球が、淡く青白く光を放ち、部屋に不気味な冷気を加えている。

 

 僕はテーブルの主座に座り、背もたれに体を預けて足を組んだ。黒髪が額にかかり、黒い瞳で二人の顔を交互に見る。右側にアルファ。

 金色の長髪が蝋燭の光に輝き、蒼い瞳は無表情のまま、地図に指を這わせている。彼女の指先は細かく動き、すでに何度も線をなぞった跡が残っていた。

 

 背筋はぴんと伸び、膝の上で両手を軽く組んでいる。左側にゼータ。白髪のショートヘアが耳の上で揺れ、金色の瞳が退屈そうに天井をさまよう。猫獣人の尻尾が椅子の脚に絡まるようにゆっくり動き、時折ピクンと跳ねる。

 

 彼女は肘をテーブルにつき、頰杖をついて報告書を斜め読みしていた。

 

「さて……集めた情報を整理しようか」

 

 僕が静かに口を開くと、二人が同時に視線を上げた。

 

「オルムの教会裏の隠し部屋で発見した荷物。表向きは『聖なる癒しの薬』だが、中身はゾルトラーク派生の体液と、人類種の生体サンプル。ラベルは聖教のものだったけど、更に追跡調査すると『魔王軍残党の魔族への輸出』しているらしい」

 

 アルファが淡々と補足した。

 

「奴隷商人だった。取引相手は魔族。生き残った魔族——特に幹部クラスが、各地で暗躍している。魔族は人類種を喰らう。強くて数が多い。だからこそ、昔、勇者たちによって魔王軍は滅ぼされた。でも、根絶やしにはできなかった」

 

 ゼータが鼻を鳴らした。

 

「だから今も、奴隷として人類種を買い集めてるんだろうね。喰らうため、実験のため、娯楽のため……何にせよ、生きてる人間を商品扱いだよ。気持ち悪い」

 

 僕は地図の上に指を置き、交易路の線をなぞった。

 

「問題は、どう動くかだ。ゼータ、君の案は?」

 

 ゼータは頰杖を崩し、体を起こした。尻尾が勢いよく一振りする。

 

「取引現場を襲撃して、奴隷を解放する。ついでに商人と魔族の連絡係を捕まえて、情報を吐かせる。すぐに動けるし、被害を最小限に抑えられる。奴隷たちは今、この瞬間も苦しんでるんだよ?」

 

 彼女の金色の瞳が、鋭く光った。怒りと焦りが混じっている。アルファが静かに首を振った。

 

「それは短期的な救済にしかならないわ。取引現場を叩けば、奴隷は解放できるかもしれない。でも、敵はすぐに別のルートで取引を再開する。魔族の本拠地がわからない限り、根本解決にはならない」

 

 彼女は地図に指を置き、複数の交易路の交点を指した。

 

「何回か取引を見逃して、追跡する。尾行、監視、情報収集を重ねて、敵の本拠地を特定する。それを一気に叩く。長期的に見て、被害を根こそぎ断てる」

 

 ゼータが眉をひそめた。

 

「見逃すって……その間に、何人喰われるかわからないよ?  そんな悠長なことしてたら、救える命が減るだけだ」

 

 アルファの声は変わらず冷静だった。

 

「感情で動けば、敵に先を読まれる。魔族は狡猾だ。現場を叩いても、幹部は逃げる。本拠地を潰さなければ、奴隷貿易はなくならない」

 

 僕は二人の言葉を聞きながら、テーブルに肘をついた。

 

「メリットとデメリットを整理しよう」

 

 僕は指を一本立てた。

 

「ゼータ案——取引現場襲撃&即時解放」

 

・メリットとしては即効性が高い。奴隷を今すぐ救える。情報を即座に抜き出せる可能性もある。治安維持組織として動けば、表向きの英雄像を保ちつつ、民衆の支持を得やすい

 

・デメリットは敵の本拠地がわからないまま。魔族はすぐに別の商人を探す。捕まえた連絡係が、核心を知らない可能性が高い。短期的に終わらせても、再発のリスクが残る

 

 次に、もう一本指を立てた。

 

「アルファ案——追跡&本拠地特定」

・メリットは根本解決の可能性が高い。一網打尽にできる。魔族の残党ネットワークを壊滅させられる。長期的に見て、人類種の被害を大幅に減らせる。

 

・デメリットは時間がかかる。その間に奴隷が喰われ、死ぬ。精神的に耐えがたい。情報収集に失敗すれば、すべて無駄になるリスクもある。

 

 部屋に沈黙が落ちた。蝋燭の炎がパチパチと音を立て、影が壁を這う。

 ゼータが小さく舌打ちした。

 

「私は……やっぱり現場を叩きたいかな。待ってる間に人が死ぬなんて、嫌だ」

 

 アルファの瞳が、わずかに揺れた。

 

「私は……本拠地を潰したい。根本を断たなければ、救った命もまた同じ目に遭う」

 

 僕はゆっくり息を吐いた。

 

「もう一つ、迷う点がある」

 

 僕は視線を二人に交互に向けた。

 

「これを、治安維持組織として動くか。それとも……シャドウガーデンとして動くか」

 

 ゼータの耳がピクンと立った。

 

「シャドウガーデンなら、躊躇なく現場を潰せる。表の顔を気にしなくていい」

 

 アルファが静かに頷いた。

 

「治安維持組織として動けば、証拠を残し、帝国の法で裁ける。でも、魔族相手に法は通用しない。シャドウガーデンとして動けば、徹底的に破壊できるが……表の秩序を乱すリスクがある」

 

 僕は水晶球を見つめた。青白い光が、僕の黒い瞳に映る。

 

「どちらも、正しい。どちらも、間違っているわけじゃない」

 

 二人が同時に僕を見た。

 

「決めるよ。まずは……両方やる」

 

 僕は地図に指を置き、交易路の起点を叩いた。

 

「今夜、取引現場をシャドウガーデンとして襲撃。奴隷を解放し、情報を抜き出す」

 

 ゼータの尻尾が勢いよく振れた。

 

「了解!」

「その情報を基に、アルファが追跡ルートを構築。本拠地が判明したら、治安維持組織として表沙汰にし、一網打尽にする」

 

 アルファの唇が、わずかに緩んだ。

 

「わかりました、シド」

 

 僕は椅子から立ち上がり、蝋燭の炎を見つめた。

 

「光と闇、両方を使って遊ぼう。どっちの顔も、最高に楽しむよ」

 

 部屋の影が、ゆっくりと動き始めた。僕たちは、もう動き出した。

 

 廃村は、霧に沈んでいた。古い石畳の道は苔に覆われ、崩れかけた家屋の屋根から雨水が滴り落ちる音だけが響く。かつては小さな集落だったのだろうが、今は誰も住んでいない。

 

 木々が道を塞ぐように伸び、月光すらまともに届かない。遠くで梟が低く鳴き、風が枯れ葉をざわめかせる。僕たちは影のように近づいていた。

 

 アルファが僕の右側、ゼータが左側。黒いローブを纏い、足音を殺して進む。三人とも息を潜め、魔力を抑えていた。

 

 廃村の中央広場に、ぼんやりとした灯りが揺れている。松明の橙色の光が、フードを被った人影を浮かび上がらせていた。

 

 人類種の男たちと、角を生やした魔族。低い声で何かを交渉している。広場の周囲に荷車が五台並び、鉄格子の檻の中に幼い少女や女性が詰め込まれていた。彼女たちは口を布で塞がれ、怯えた目で外を見ている。

 鎖の擦れる音、すすり泣きが、風に混じって微かに聞こえてくる。僕はゆっくり息を吐いた。

 

「ゼータ、できれば何人かは捕らえられると嬉しい。情報を吐かせるために」

 

 ゼータの金色の瞳が、暗闇の中で光った。猫耳が動き、尻尾が静かに揺れる。

 

「了解、主。任せて」

 

 彼女は小さく頷き、影に溶け込むように体を低くした。チャクラムを両手に握り、すでに狩りの準備ができている。アルファは無言で僕の隣に立った。

 

 金髪がローブのフードからわずかに覗き、蒼い瞳は冷静に敵の配置を捉えている。彼女の剣は、まだ鞘の中。だが、魔力がすでに全身を巡り始めていた。

 

 僕は深く息を吸い、ゆっくりとフードを脱いだ。

 

 黒髪が風に揺れ、黒い瞳が月光を反射する。体内の魔力が一気に解放され、紫黒の奔流が僕を包む。核分裂と核融合のエネルギーが渦を巻き、衣装が瞬時に変わる。

 

 黒いコート、長いマント、仮面のような覆い——シャドウ。

 

「シャドウガーデン、出撃」

 

 僕の声は低く、しかし廃村全体に響き渡った。瞬間、世界が動き出した。アルファが一歩踏み出し、剣を抜く。銀光が閃き、最初に飛びかかった人類種の男の首が宙を舞う。血飛沫が霧に溶け、悲鳴が上がる前に二番目の男の胸を貫いた。

 

 彼女の動きは無駄がなく、完璧だった。

 魔族の一人が咆哮を上げ、角から黒い魔力を放つが、アルファはそれを軽くかわし、剣を振り下ろす。

 

 魔族の腕が根元から落ち、地面に転がった。僕はゆっくり歩を進めた。紫黒の魔力光が全身を纏い、直剣を抜く。剣先からプラズマのような粒子が零れ落ちる。

 

 魔族の残りが僕に向かって突進してきた。爪を振り上げ、牙を剥く。僕は指を軽く鳴らした。黒紫の障壁が展開し、魔族の攻撃をすべて弾き返す。

 

 次の瞬間、僕の姿が消えた。再び現れたのは、魔族の背後。剣が一閃。核融合のエネルギーを集中させた斬撃が、魔族の体を真っ二つに裂いた。

 

 鮮血が噴き出し、地面に赤黒い染みを作る。

 

「逃げるな」

 

 僕の声は静かだった。広場の端で、荷車の御者たちが慌てて馬を走らせようとする。だが、影からゼータが飛び出した。彼女の動きは猫のように素早い。チャクラムが回転し、投擲される。

 

 一枚が御者の肩を貫き、もう一枚が馬の脚を斬りつけた。馬が嘶き、荷車が傾く。ゼータは瞬時に距離を詰め、逃げようとした人類種の男の首根っこを掴んだ。

 

「動くなよ。主の命令だ」

 

 彼女は男を地面に叩きつけ、縄で縛り上げる。もう一人の魔族が横から襲いかかるが、ゼータは体を翻し、チャクラムを喉元に突きつけた。

 

「捕まえた。二人。……あと少しで三人目も」

 

 ゼータの声が、暗闇に響く。僕は荷車に近づき、鉄格子に手を置いた。魔力を一瞬流すだけで、格子がねじ曲がり、溶けるように消えた。少女たちが怯えた目で僕を見上げる。

 

「もう大丈夫」

 

 僕は優しく言った。表の顔——シドの顔に戻りつつある声で。少女の一人が、震えながら手を伸ばしてきた。僕はそれをそっと握った。アルファが周囲を掃討し終え、僕の隣に戻る。

 剣に付いた血を軽く払う。

 

「現場制圧完了。生き残った敵は三人。ゼータが捕縛済み」

 

 ゼータが縛られた三人を引っ張ってきて、僕の前に跪かせる。

 

「情報を吐かせるよ、主」

 

 僕はゆっくり頷いた。

 

「そうだね。まずは……ここから始めよう」

 

 廃村の霧が、ゆっくりと晴れ始めていた。月光が、血と鉄の匂いに満ちた広場を照らした。

 

 

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
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