広げろ、陰の実力者の、解釈を!!   作:実験者

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 廃村の広場は、血と霧に包まれていた。月光が薄く差し込み、石畳に倒れた魔族の体から流れ出た黒い血が、ゆっくりと染み込んでいく。

 

 鉄の匂いと生々しい肉の臭いが混じり、風が枯れ葉をざわめかせて運んでくる。荷車の残骸が散らばり、壊れた鉄格子が地面に転がっていた。

 

 

 解放された少女たちはアルファに導かれ、少し離れた廃屋の影で膝を抱えて震えていた。

 彼女たちの小さなすすり泣きが、静寂の中に微かに溶け込む。僕たちは捕まえた敵を広場の中央に並べさせた。

 

 三人の人類種の奴隷商人と、二人の魔族。

 

 縄で手足をきつく縛られ、膝をついて地面に跪いている。商人たちは顔を青ざめさせ、額に汗を浮かべて震えていた。一人の魔族は肩を深く斬られ、黒い血を滴らせながら荒い息を吐いている。

 

 もう一人はゼータのチャクラムで喉元を浅く切られ、声を出せずに睨みつけている。瞳に宿るのは、憎悪と恐怖の混じった光だった。

 

 僕はゆっくり歩み寄り、シャドウの仮面の下から静かに言った。

 

「奴隷は助けた。後は情報の回収……拷問?」

 

 言葉を口にしながら、僕は少し困ったように首を傾げた。拷問のやり方なんて、ふわふわした知識しか持っていない。映画や小説で見た残酷なシーンが頭をよぎる——鉄の棒を熱して押し当てる、爪を剥ぐ、水責め、電気……でも、実際のところ、どうやってやるのか、具体的にわからない。

 

 痛みを最大限に与えつつ、相手を死なせずに情報を引き出す方法なんて、僕の遊びの中には入っていない。

 ゼータが僕の横に立って、軽く笑った。金色の瞳が暗闇で妖しく光る。

 

「ゼータ、君に任せても良い?」

「うん。やらせてほしい」

 

 彼女の声は静かだったが、どこか楽しげだった。尻尾がゆっくりと揺れ、捕らえた魔族の一人を足で軽く突く。魔族が低く唸るが、ゼータは気にせず、チャクラムを指先でくるくると回した。僕は頷いた。

 

「ならお願い。シャドウガーデンは情報獲得を優先に動いて証拠を揃えて。それでお膳立てして、正式な任務として奴隷商人と魔族を潰す」

「了解。任されたよ。必ず情報を持って帰るよ」

 

 ゼータはそう言って、捕らえた者たちの方へ歩き出した。彼女の足音は軽く、しかし確実に近づいていく。チャクラムを片手に、ゆっくりと屈み込み、一番震えている商人の顎を掴んで顔を上げさせた。

 

「まずはお前からね。ゆっくり、丁寧に聞かせてくれる?」

 

 彼女の声は甘く、しかし底知れぬ冷たさを帯びていた。その時——僕の魔力探知に、大量の反応が引っかかった。遠くから、しかし確実に近づいてくる。数十、いやもっと。統率された動き。奇襲ではない。

 

 堂々と、正面から来ている。魔力の質が違う——聖教のものだ。純粋で、しかし強引に押しつけてくるような、信仰の色が濃い。

 

「ゼータ」

 

 僕は静かに声をかけた。

 

「敵?」

 

 彼女は耳をピンと立て、尻尾を硬くした。捕らえた商人の顎を離し、すぐに僕の横に戻る。

 

「不明。だけど奇襲するタイプではないし、数もいる。警戒して待機」

「了解」

 

 ゼータはすぐに捕らえた者たちを後ろに下げ、僕の横に立った。アルファも剣を構え直し、僕の背後に位置を取る。

 僕は魔力を始動させた。紫黒の奔流が全身を巡り、加速の準備を整える。心臓の鼓動が速くなり、視界がわずかに鮮明になる。

 

 核分裂と核融合のエネルギーが渦を巻き、戦闘のボルテージが急速に高まっていく。体が熱くなり、指先が微かに震える。

 

 カチャ、カチャ。金属の擦れる音が、霧の向こうから聞こえてきた。鎧の関節が擦れ合う、統率された軍勢の足音。ゆっくりと、姿を現したのは——真ん中に立つのは、豪華絢爛な白と金を基調とした聖女衣装を纏ったウィクトーリア。

 

 黒い目隠しが月光に映え、アッシュブロンドの金髪が風に揺れる。純白のドレスが霧の中で淡く輝き、まるで光そのものが形を成したようだった。

 

 その後ろには、フルフェイスの騎士鎧を着た信者たちが整然と並んでいた。魔力が滾り、鎧の隙間から青白い光が漏れている。

 統率が取れていて、まるで軍隊のようだった。二十人以上、いや三十人近く。槍と剣を構え、静かに前進を止める。ゼータが低く呟いた。

 

「異端審問部隊テンプラー……そのリーダーがまさか聖女様だったなんてね」

 

 彼女の声には、明らかな苛立ちと嘲りが混じっていた。耳が伏せられる。金色の瞳が、ウィクトーリアを鋭く射抜く。ウィクトーリアは静かに手を上げ、信者たちに停止を命じた。

 彼女の視線が、僕たちを捉える。ゼータは一歩前に出た。

 

「バラバラにして、ぐちゃぐちゃにして、街の目立つところに飾ってあげるよ。こうして聖女様が出張ったってことは、私達は排除目標なんでしょう?」

 

 声は低く、しかし鋭い。ゼータの瞳には、明確な敵意が宿っていた。彼女の過去——呪いで一族を失い、救われなかった痛みが、今、ウィクトーリアの存在にぶつけられている。

 

 ウィクトーリアは穏やかに、しかし確信を持って答えた。

 

「皆さん。投降してください。私達と話し合いましょう。皆さんはまだ正しい在り方に戻れます。邪悪に堕ちたとしても、その精神は光に戻ることはできます」

 

 ゼータの唇が歪んだ。

 

「有難い説法だね。自分の思考と選択ではなく、誰かに与えられた役割の中で人を救うのは楽しい? 聖女様」

 

 ウィクトーリアは静かに首を振った。

 

「貴方はそう言うでしょうね。私の導きの友人さん。貴方は私の友なのです。それが神の言葉です」

 

 ゼータは吐き捨てるように言った。

 

「イカれた狂信者め。気色悪い」

 

 ウィクトーリアの表情は変わらない。目隠しの下から、慈愛に満ちた視線がゼータに向けられる。

 

「友人との話し合いは、あとでやりましょう。まずは邪魔な者達の排除です」

 

 彼女はゆっくりと両手を広げた。魔力が一気に高まる。白と金の聖衣が光を帯び、周囲の空気が震え始めた。信者たちの鎧から青白い光が漏れ、槍の穂先が揃って僕たちに向けられる。

 

 それに合わせて、僕とゼータも臨戦態勢に入った。僕の紫黒の魔力が渦を巻き、ゼータはチャクラムを両手に構える。アルファは剣を抜き、静かに息を整えた。

 ウィクトーリアが静かに言った。

 

「私が上、皆さんは下です」

 

ゼータが嘲るように笑った。

 

「いいの? 高いところから落ちた方が痛いよ?」

 

ヒロインで見たいのは?

  • シャドウガーデン(アルファ、ゼータなど
  • 現在の者達(アレクシア、ローズなど
  • 過去の者達(ベアトリクスやリリなど
  • 人外(エリザベートやアウロラなど
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