人の心(の光)とかないんか?   作:頑張っても駄無

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 蛇足編です。

 基本は3人称なので信頼していい語り手ではあります。



蛇足編:機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
PHASE -1,0『RX-93-J』


 

 宇宙戦艦ラー・カイラムのMS格納庫に2体のMSが並んでいた。最終調整のため、アストナージはじめとしたメカニック班がせかせかと働いている。

 

「俺がガンダムに乗るンは解釈違ェなンだがなァ……」

「文句を言わないでくれジョー。きみはロンド・ベルでも指折りのパイロットだ。リ・ガズィではきみの実力を発揮しきれない。僕達にはきみのようなエースを遊ばせている余裕はないんだ。」

「分ァってるよアムロ。……ソレでもやっぱり、な。」

 

 アムロ・レイの横で仏頂面をしたままコーヒーを飲んでいる彼女の名はジョー・アベニール。階級は中尉で、ロンド・ベルでもアムロに次ぐエースパイロットと目される存在だった。身長は高く金髪で、スタイルもいい。しかし、黒い瞳には光がなく、顔の表情は仏頂面が張り付いたかのように変わらない。機嫌が悪いということはなく、遺伝的なものであるが。

 腐敗した地球連邦上層部はアムロ・レイを悪魔のように恐れるが、ジョー・アベニールはその悪魔の猟犬などと言う異名を付けられていたのである。その実力はアムロ・レイと同等。条件さえ揃えばシミュレータ上とはいえ彼を落とすことさえあった。

 うまく首輪さえ付けられたのであれば、アムロへのカウンターに使えたかもしれないが、彼女がこれほどの腕を見せ始めたのはカラバでアムロと出会ってからである。それまでの彼女はパイロットとしては養成校で優秀な成績を残していたが、群を抜いて高いほどでもなく、またそれ以外の面では問題行動こそないが、さして優秀な生徒というわけでもなかった。

 

 それでも連邦軍に入ってからはジオン残党相手にジムⅡを駆り、3分で敵機を12機、それも一切の被弾なしで落とすということをしでかした。そのためNT疑惑により検査場をたらい回しにされたが、その時の結果はNTではないという結論に落ち着いたのである。

 しかし優秀なパイロットであることに違いはなく、ティターンズはガンダムMk-Ⅱのテストパイロットとして彼女を欲した。地球生まれ地球育ちのアースノイドであるということも理由の1つだった。

 しかし、彼女はそれを蹴り、脱走兵としてカラバに所属した。弟エンデ・アベニールとともに。

 

 そしていつしか彼女はアムロ・レイの相棒が如く行動を共にするようになる。アムロの戦闘技術を間近でどんどんと吸収し、いつしか彼と同等の技量を持つまでに至った。

 彼女はアムロの側を滅多に離れず、親しげに談笑する様子を何人もが目撃していた。口さがない者などは彼女を「アムロに腹を向ける雌犬」などと呼んだ。悪魔の猟犬というのも、そのニュアンスを含んだ上での半ば蔑称のようなものである。

 

「気にいらないのか?」

「いや。光栄だよ。夢だったしなァ。エンデのヤツ、羨ましがるだろーぜ……」

 

 『RX-93-J ジョー専用νガンダム』とでも言うべきその機体は、アナハイムによって製造されたアムロのνガンダム、そのエラーパーツや余剰パーツを一部ジェガン系のパーツで補って組み上げた機体である。そのため、厳密にはRX-93の型番をそのまま当てはめるには不適合なMSと言えるだろう。頭部はジェガンの物を流用しており、後付けのV字アンテナの他、バルカンポッドを頭部の左右両方に持つが所謂ガンダム顔ではない。カラーリングも相まってジョーは「01ガンダムみてェだな」と感想を述べた。

 

 ロンド・ベルはシャアの隕石落としを防ぐというこの上ない大役を任された部隊ながら、軍上層部の腐敗と日和見、無理解と慢心から、満足なMSの配備を受けられなかった。本来であればνガンダム1機を製造するだけでもやっとのことであったはずである。

 2号機の製造を強く勧めたのは、ロンド・ベルMS隊1のエースにして、νガンダムの設計者アムロ本人であった。

 彼女の腕がアムロと同等ということは、つまりアムロと同じ問題を抱えていることでもある。並のMSの性能では彼女の操縦に付いてこれない。ジェガンでは彼女の要求に満足に応えることはできず、リ・ガズィは悪くはなかったがシャアに勝つにはまだ物足りない。

 

 多少の無理を押してでも彼女にガンダムタイプを融通すべきだとアムロは周囲を説き伏せた。

 

「買い被りすぎだと思うがなァ。俺がアムロと同等か?」

「シミュレータで僕相手に5割は勝つじゃないか。」

「シミュレータは所詮シミュレータだぜ。……アムロ、アンタはこの宇宙世紀でも上から2番目のパイロットなンだぜ? その1番目も机上の空論でしかねェから事実上の1番だ。俺なンぞがそれと同格ってのが信じられねェ。」

「そうまで言われる1番目は誰なんだ?」

「迷いのねェシャア・アズナブル……ヤツが迷ってないタイミングなンてねェからな。事実上存在し得ねェ。」

「……あいつは今も迷っていると?」

「多分なァ。でもなければフィフス・ルナから俺が生きて帰れはしなかったろうよ。」

 

 泥のようなコーヒーを飲み干し、ジョーは紙コップを握りつぶした。

 

「アクシズは落とさせねェ……コレ以上地球を痛めつけるのは勘弁だぜ。」

 

 宇宙世紀以前の地球温暖化や環境破壊に、宇宙世紀が始まってからも重力に魂を引かれた人々に食い荒らされた地球。一年戦争でのコロニー落としによる海面上昇は場所によっては10mとも言われ、各地の沿岸線は地図を書き換える羽目になった。

 ジョーの前世、西暦時代の日本にはまだ辛うじてあった四季は消え去り、天然物の海鮮を一般人の贅沢で食べることはほぼ不可能となった。

 

「地球から離れたくねェ気持ちが分からねェとは言えねェよ。でも、皆んなで一緒に上がりましょって約束だっただろうが。……なァアムロ、ホントはよォ、こうなる前にシャアを捕まえて、一緒に政界進出するプランがあったンだわ。アイツの才覚とカリスマなら圧倒的な支持を持って連邦を変えられたかもしれねェ。ぶっちゃけ連邦政府を転覆できなくもねェネタもあったしなァ。」

「そんな物が実在するのか……?」

 

 その名をラプラスの箱。正体は宇宙世紀憲章のオリジナルであり、内容が世に知らしめられれば今の連邦政府の正当性を揺らがせるとまで言われている。

 巨大企業アナハイム・エレクトロニクスの発展の裏にはこの箱があったとも。

 

「俺がソレを知ってるってバレたら間違いなく消されるから他言無用で頼むぜィ?」

 

 ジョーは艶っぽい笑みをアムロへと向けた。

 

 *

 

 転生者ジョー・アベニールはこの〈逆襲のシャア〉の時代になって、一つ気がかりなことがあった。

 

(アムロのガールフレンドはどいつだァ?)

 

 宇宙世紀を舞台とする作品群は同じタイトルを冠し、同じ時代を描いた物でも媒体によって細部や、物によっては結末までもが異なる場合がある。〈逆襲のシャア〉でもジョーが知るのは劇場版であり、他には小説の〈ベルトーチカ・チルドレン〉が存在する。

 

(シャアの乗機はナイチンゲールじゃなくてサザビーだった。となると劇場版の方……にしちゃァチェーンがアムロと付き合ってねェンだよなァ。かと言ってベルトーチカとは別れてるって聞いたしよォ……?)

 

 これは他ならぬジョーの所為である。

 彼女は前世を男性として生きた。しかし今世では女性の肉体を持つ。しかし彼女はそのギャップを自覚しきるより早く戦争の騒乱に巻き込まれた結果、その自認が全くのあやふやとなってしまった。

 女性の体で、しかもスタイルは良く、またメカオタクという部分でアムロと話があうジョーがアムロの側から滅多に離れないのでは他の女性がアタックする隙もあった物ではない。

 なおジョーとして男友達としての感性で接しているためそのことを自覚しようもない。

 

(まァいい。現状の第一目標はクェスの生存だ。……でないとハサウェイが闇落ちしてチェーンが死ぬ……。数年後、〈閃光のハサウェイ〉フラグが立っちまう。……コレをへし折るのが第一だぜ。シャアはアムロに任せるしかねェ。)

 

 クェスとハサウェイとはしばらくの間行動を共にはしていたものの、ジョーは13歳の小娘の行動力を舐めてかかっていたらしい。ジョーの静止を振り切ってクェスはシャアの元へと行ってしまった。

 

(……アレが13歳ねェ……ガンダム三大悪女が13歳? ……って言うかギュネイは18だよなァ……(シャア)のこと言えるのか、ロリコンめ!)

 

 そもそもシャアはクェスを好いていない。幸か不幸か、おそらくは後者であろう。彼女はその性格と振る舞いでシャアの寵愛を得られなかった。優れたNT能力はあるが、それを含めて単なる戦争の道具としてMSに乗せられたのみである。

 あるいは真に愛したであろうララァ・スンのことを踏まえても、才があれば戦場に連れ出すのかもしれないが。

 

(シャアに必要なのは母親じゃなくどついてやるダチだった、か。……ガルマが死んだ時点で叶わねェこったか。)

 

 あるいはこの期に及んでなお、アムロにその役を期待しているのかもしれない、アムロや地球に住む人々にしてみればこの上なく迷惑極まりないことに。

 

 *

 

 戦端が開かれて暫く。

 ネオ・ジオンのMSを既に10機近く落としてなお、敵の勢いは止まらない。その士気を下げるには、やはり首魁たるシャアを討つしかないのだろうと思えた。

 

「それはアムロ(主人公)の役目だ。俺みたいなの(脇役)の狙いは最初から露払いだ!」

 

 そして、恐れ多くも己はロンド・ベルの最強に次ぐとされるのだから、狙うは特大の露である。

 

「今度は逃さんぜ。」

 

 アムロのガンダムを狙うギュネイのヤクト・ドーガに向けて牽制のバルカンを放つ。

 

〈アムロはシャアのところへ! コイツは俺が引き受ける!〉

〈任せるぞ、ジョー。〉

 

 必要最低限のやり取りで、それで良かった。

 ネオ・ジオンの戦力でアムロを足止めできる者などギュネイくらいのもの。そのギュネイを抑えてしまえば、宇宙世紀最強のパイロットがフリーになる。

 

「ええい、どけ、ガンダムもどきが!」

 

 アムロを倒し、ガンダムを己の物とすることを目論むギュネイにとって、目の前のバイザー顔は目障りな偽物に他ならない。

 

 ギュネイの部下を次々と撃墜しながら、ジョーはギュネイの思念波を探る。彼は強化人間ではあるものの、シャアの命令により精神面の調整はされておらず、その結果従来の強化人間より精神が安定している。結果無作為に思念をばら撒いて居場所を教えてくれる事はない。

 

 それはそれとして18歳の若者らしい向こう見ずさと調子に乗りがちな全能感を持つが、それは格上たるジョーの前では重しでしかなかった。

 

「18歳か……子どもではないが、さりとて大人ではない。望んで戦場に出て、望んで殺した。」

 

 ネオ・ジオン軍エースの1人を下し、ジョーは息を吐く。バズーカは使い切り、シールドは破壊された。バイザーは砕け、中のモノアイもその役目を果たせない程度には損傷してしまった。

 だがまだサブカメラが残っている。非可動モノアイの両側に増設された簡易のディアルアイを点灯させればそれで済む。

 

 これしきで止まっている余裕はないのだ。ギュネイの断末魔、その感応波が精神に絡みつくのを抑え込み、飲み下して端へと追いやる。引っ張られ過ぎれば戻って来れなくなるのが戦場だ。

 

「哀しいけど、コレ戦争なのよね。」

 

 休憩する暇もなく、新たなプレッシャーを感知したジョーは機体を転身させた。頭の中に、幼い少女の苛立ちが奔る。

 

「クェス・パラヤ、か。」

 

 おかしな話だ。ギュネイ・ガスを殺した自分が、今度はクェス・パラヤを救おうとしている。ジョーは己を嗤った。なんとも不平等だ。

 いや。実際のところ、ジョーはクェスが好きではない。命をかけて救いたい相手かと言えば全くそんなことはない。彼女を助けたいのは、それが巡り巡ってハサウェイの為になるからだ。彼がテロリストのマフティー・ナビーユ・エリンとなるかどうかの一因であるからだ。

 ハサウェイを救えば、ブライト・ノアの心が壊れることもなく、連邦軍退役後のレストラン経営という老後の楽しみも翳りなく守られるだろう。

 

〈スゥ中尉、あのMAは俺が相手する。離れておいてくれ。〉

 

 ケーラ・スゥとその乗機リ・ガズィは無事だ。ギュネイと接敵する前にジョーが彼を下したのだから。だが戦場にはクェスの駆る巨体α(アルパ)・アジールが存在する。

 もし彼女がケーラや他のロンド・ベルの仲間をこれ以上攻撃するのなら、その時は己が討つ。故に一度だけ。救うチャンスは一度だけだ。それ以上は何もしない。

 

 無線で他のMSを撤退させるが、1機だけ向かってくるのを止めないジェガンがあった。

 

〈ハサウェイか。〉

〈アベニール中尉⁉︎ どうして?〉

〈勘だ。悪いが、お前の説得は後だぜ。〉

 

 ビームサーベルを抜き放ち、α・アジールへ向かっていくジョーのガンダム。それを見とめたα・アジールは頭部からメガ粒子砲を放つ。巨体ゆえのジェネレータ出力から繰り出される19,5MW(メガワット)の大口径ビームの威力は実際凄まじいが、所詮当たらなければどうという事はない。

 そしてそのビームは諸刃の剣でもある。α・アジールのコクピットを防護するI(アイ)フィールドのバリアを自ら突き破ってしまうのだ。バリアはしばらくすればまた元通りになるが、その隙を逃すジョーではない。手にしたビームサーベルを形成する物とIフィールド同士をぶつけて干渉し、二刀でもって強引に切り込む。

 殆ど密着するまでに接近を許したクェスは頭部のメガ粒子砲を拡散モードで発射しようとしたが、それが実行されるより早く、コクピットの横にビームサーベルが突き立てられた。

 

 ──クェスゥゥー⁉︎

 

 脳裏にハサウェイの絶叫がこだまするが、無視して手を動かす。

 メガ粒子砲のエネルギーが逆流し、ジェネレータに入り込む。暴走した熱が燃料の重水素や巨体を動かす豊富なプロペラントに引火。大爆発を引き起こした。

 その閃光を背に、ジョーのガンダムが飛んでくる。

 

〈ほらよ。〉

 

 ハサウェイのジェガンに投げ渡されたのは赤く塗られた球体。α・アジールの脱出ポッドだった。

 

〈コイツをくり抜くのにサーベル2本ともロストだぜ、全く世話の焼ける……〉

〈アベニール中尉?〉

〈このワガママ姫サマは、ま、ネオ・ジオンに攫われてたってトコだろうぜ。異論はないな少年(ボーイ)?〉

 

 クェスが自らの意思でシャアに着いていくその現場に居たはずなのに、ジョーはそう言って笑みを浮かべる。通信越しで見えないはずなのに、彼女が優しく微笑みかけているのをハサウェイは感じ取った。

 

〈ハサウェイ・ノア、保護した民間人をラー・カイラムまで護送しろ。生きて戻って、この()を救ってやれ。〉

〈救う?〉

〈そうだ。この娘に必要なンは、オマエさんみたいなヤツだろうさ。……やってみせろよ、ハサウェイ! オマエさんもNTなンだから、なんとでもなるハズだ!〉

〈わかりました。やってみせます。〉

〈それでこそ男の子だ。じゃ、行け。〉

 

 ハサウェイの通るルートに流れ弾は無く、敵もいない。このまま行けば2人は無事に帰れるだろう。

 

(さて、アクシズは……まだ止まらンか! ……アムロは……あそこだな。)

 

 激しくぶつかりあう白い流星と赤い彗星。

 ジョーはその場所へ機体を向け、スラスターを吹かした。今更己に何ができるとも思えないが、残った武装を確認しながら。

 

(バルカンの弾薬はまだある。ビームライフルもまだ余裕だ。)

 

 バズーカとシールドはギュネイとの戦いでロストし、サーベルは2つともα・アジールと共に爆散したが、それを差し置いてもまだ戦う余裕はある。だが、それはシャアを倒すことを考えないならばである。シャア相手に格闘戦が封じられるのは厳しい。

 

 だが、それよりも優先すべきアクシズの落下を阻止において、シャアの生死などどうでもいい。アクシズを止められなければ、シャアを倒したところで、試合に勝って勝負に負けている。

 

 *

 

 ジョーがアクシズに到達したその後まもなく、ロンド・ベルの攻撃によってこの小惑星は2つに割れた。

 飛び散る岩石の破片を躱しつつ、ジョーはシャアのプレッシャーを追う。コクピットの周囲に緑色の虹が散っているのを感じながら。

 

 ──私の勝ちだな。今計算してみたが、アクシズの後部は地球の引力に引かれて落ちる。貴様等の頑張り過ぎだ!

 

 ──ふざけるな! たかが石ころ一つ、ガンダムで押し出してやる!

 

 前世で散々聞いたやり取りが、ジョーの脳裏を奔っていった。

 

(……やっぱり、こうなるのか! ……クソ、なンで連邦のアホンダラはシャアにアクシズを売っちまったンだよ!)

 

 ジョーは首を振った。こうなることを己は知っていたではないか、と。あるいは、弟を人質に取られてしまうとは言えティターンズ行きに同意し、Mk-Ⅱ奪取のあれやこれやに乗じてシャアとコンタクトを取れば逆襲そのものが起こらなかった可能性だってあるではないか。

 

(俺は臆病だっただけだな。)

 

 彼女は機体をアムロのガンダムの、その隣へと向かわせた。アポジモーターも各部スラスターも全力で吹かしてアクシズを押す。

 

 ──単純計算で2倍だぜ? やっぱかっけェな、ガンダムってヤツァよ。

 

 ──ジョー? やめてくれ、こんなバカなことに付き合う必要はない!

 

 ──オイオイそりゃねェだろ。地球を救う大役をオマエ1人で独占する気かァ? 俺にも付き合わせろよ、水臭ェ。

 

 アムロの切ない叫びすら聞き流す。彼女は奇跡を信じている。人の心の温かみを信じている。

 

 機体から漏れ出す緑色の光に惹かれ、連邦兵やネオ・ジオンのMSまでもがアクシズを押すのに加わった。

 だが1機、また1機と脱落していく。中には機体のオーバロードで爆発し、命を散らす者もいた。

 

 ──やめてくれ!

 

 アムロの、その悲痛な叫びが最後の引き金だった。

 緑色の光はアクシズどころか、地球全体を覆い尽くしたのである。

 

 光の奔流に押し出され、2機のガンダム以外が押し除けられ、無事に宇宙(そら)へと戻される。

 

 ──選手交代だ!

 

 アムロの頭を言葉が奔った。奔ってしまった。ジョーが何をしようとしているかも、伝わって来てしまう。心を閉ざし、思考を読まれぬ術を持つ彼女が、それをすることすら忘れて一つのことに注力しようとしていた。

 

 突如として接触回線が開かれる。それはつまり、MSがアムロのガンダムに触れたことを意味する。

 

〈ジョー、何を⁉︎〉

 

 突如として大きな衝撃が二重に彼を襲った。

 物理的にガンダムが蹴り出される衝撃と、サイコ・フレームによって極大化された彼女の精神感応による記憶の流し込みである。

 

 膨大な情報の奔流に精神が飲み込まれようとするのを、アムロは必死でもがいた。ガンダムの操縦席へ戻り、なんとかジョーの元へ戻ろうとする。

 

 ──ラ……ララ……ラ……ラ……──

 

 不思議な音が、耳をくすぐる。

 

「やめてくれジョー! 行かないでくれ!」

 

 その声は、感応波の濁流をかき分けることもできず、結果ジョーに届くことはなかった。通信回線を開くことさえ忘れていた。

 ジョーにとってアムロがそうであったように、アムロにとってもまたジョーは得難い仲間であった。

 

 ガンダムに残されたわずかな推進剤を使い切る勢いで、アムロはペダルを踏み込む。しかしそれは緑色の光の波によって容易く押し出されてしまった。

 

 突如として、回線が開いた。しかしそれは、ほんのごく僅かな間でしかなかった。

 

〈ヘイ、アムロ! 長生きしろよ!〉

 

 その言葉が、アムロの聞いた、ジョーの最後の声であった。

 

 ジョーのガンダム以外のMSが離れていくほどに、緑色の光は強さを増す。

 アムロはガンダムが離されていくまま、ただその光を見つめていた。

 光を伝えるのは、戦場に撒かれたミノフスキー粒子。耳をくすぐるララ音は、静かに泣くように響き続ける。

 

 サイコ・フレームに力を吸われ続けるジョーの命の灯火が、尽きようとしているのをアムロは感じていた。

 その最期の瞬間、緑色の光はますます膨張し、アクシズの輪郭さえ見えないほどに膨れ上がった。

 

 ──なんだ! 何が起こっている⁉︎

 

 ポッドの中でシャアが喚く。

 ただ温かい人の心の光だったそれは、いつしか絶叫するかのように空間を引き裂き、その向こうの刻へとアクシズを吸い寄せていた。相反転したミノフスキー粒子に飲み込まれ、やがて光が消える。

 そこには、もう何もなかった。アクシズも、ジョーのガンダムも。

 

 後にアクシズ・ショックと呼ばれるこの現象は、ジョーの知識を受け継ぐアムロだけが正しい名を知っていた。

 『ゼクノヴァ』と。

 

 その光景を目の前にしたネオ・ジオンの兵士たちは次々と投降し、こうして第2次ネオ・ジオン抗争は終焉を迎えた。

 





○ジョー・アベニール
 アムロと同い年で、弟エンデより4つ上の姉。TS転生者。割と信頼しちゃダメな語り手。

 男の名前なのに、なんだ女か。

 外見は女体化したエンデ先生。背が高く胸もある美人。だが目は死んでいて、常に仏頂面。仏頂面は多分アベニール家の遺伝。

 神様転生ではないが、チート転生者である。ただし神様に会っていない(チュートリアルがない)のでその自覚は最期の最期までなかった。その能力を(命と引き換えに)フルに使えば、その魂の位階の高さゆえに、一方的な現実改変を引き起こせるほど。やろうと思えばデウス・エクス・マキナにでもメアリー・スーの怪物にもなれた。その場合はターンAか伝説巨神が止めに来て、太陽系を崩壊させつつ相打ちになるが。

 現時点で宇宙世紀でのトゥルーエンド√は2つ。

 初代ガンダムの時代にサイド7に移り住み、ジーンの襲撃に際して『プロトタイプガンダム(RX-78-1)』に乗り込んで、以降ホワイトベース隊の一員としてアムロのメンタルケアを行いつつ大筋をなぞるルート。
 2人がかりでシャアを捕虜とし、セイラさんと一緒にぶん殴って修正する。
 戦後の軟禁も、そうなる前にアムロと2人で頑張って退役する。

 もう1つはティターンズ発足後、ガンダムMk-Ⅱのテストパイロットとして着任。
 その後、カミーユ母を人質とした作戦に際して離反、エゥーゴに所属してカミーユのメンタルケアを行いつつ大筋をなぞるルート。
 ブレックス准将の暗殺を防ぎつつ、着々とティターンズを追い詰める。またシャアからは結構興味を向けられるかも? 前世男ゆえに男の価値観がわからなくもない上で、NT能力が凄まじく高い。……シロッコにも狙われるか?

 純粋なパイロットとしての技量は0,95アムロ・レイであり、彼とM.A.V.を組めるほど。そもそも1人マヴ戦術ができるが。
 NT能力は実はない。脳の構造や分泌物質自体はオールドタイプと変わらない。NT能力と思っているのは魂の格が他より高い為にできたこと。その能力に無意識下で『NT能力』というテクスチャを貼り付けただけ。そのため基本的にはNTの域を越えることはできない。ただNT能力換算で1カミーユほどの力がある。カミーユと違って自分の意思でオンオフできるように鍛えた。

○エンデ・アベニール
 割と1番の被害者かもしれない。ガンダムに憧れを抱いていたのに、仲の良かった姉を連れて行ってしまったのもガンダムだったということになる。おいたわしや弟上。
 また、姉が見せたゼクノヴァのせいで、実弟であるエンデも何かあるのでは、と連邦上層部やアナハイム、NT研究所に目を付けられる。それについてはアムロの取りなしでどうにかなった。
 彼は、出世コースを外され、技術実習生のところに型落ちのジムⅡに乗って送られた。そしてそこで整備途中のジムⅡに無理やりガンダムヘッドを取り付けた並のジムⅡの方が万倍マシな有様の機体でテロリストから子ども達を守った。
 ──だが、エンデにとっては……

○アムロ・レイ
 実はベルトーチカに別れ話を切り出されたのはジョーがいつも近くにいたせい。アムロは文句を言っていい。
 ジョーの押し付けていった知識と遺言を元に行動指針を定め、まずはエンデ関連を解決する。ラプラスの箱の中身も知っている他、いざとなれば自分もゼクノヴァを起こして連邦議会を消し飛ばすぞ、と言外に脅すこともできる。
 ジョーのしでかしたことは、結局原作改変役をアムロに押し付けただけでしかない。そのことに憤りがないわけではないが、一方でジョーが抱えていたものの扱いの難しさを知るとそれも仕方がないと考える。せめてもっと早くに出会っていれば……。アムロは文句を言っていい。
 シャアについては連邦上層部が全く信用ならないため、戦死と報告した。殺すことも目を離すこともリスクがある為、監視し続けることを選んだ。アムロは文句を言っていい。
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