人の心(の光)とかないんか?   作:頑張っても駄無

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 キリの良いところまで書こうとしたら一万文字超えてしまいました。
 ……次回はもう少し短くまとめたいなあ。



蛇足編:機動戦士ガンダムSEED
PHASE 01『白黒のガンダム』


 

 C.E.30年頃にピークを迎えた遺伝子編集ブーム。それによって生み出された新人類コーディネイターと、遺伝子操作されない旧来の人類ナチュラルとの対立構造は根深く、いつしか戦争へともつれ込んだ。

 きっかけは、それそのものはある事件だった。だがそこに至るまでの歪みと軋轢

は、40年の時をかけて蓄積していったのだろう。

 受精卵の段階で遺伝子操作を受けることで生まれついての超人となる『コーディネイター』と遺伝子操作を受けないで生まれた『ナチュラル』。生まれついての格差がそこにあった。

 個人で見た時には確かにコーディネイターはナチュラルに勝る。しかし彼らはマイノリティだ。マジョリティたるナチュラルからの迫害、数の暴力に追い出されるように、彼らは宇宙に居住地を移していった。その際たるものが、地球と月間のラグランジュ点の1つ、L5宙域の工業コロニー群『プラント』であった。

 

 プラントは豊富な宇宙資源から得たエネルギーを、化石燃料の枯渇した地球に供給していた。しかしその利益の多くは地球の国々に搾取されていたのである。

 プラントはその搾取に怒り、独立と対等貿易を地球に求めた。しかし話し合いは毎度決裂し、その度にプラント・地球間の緊張は高まっていく。

 

 *

 

 その戦乱の中をMSに乗って駆け抜ける傭兵がいた。コールサインは『ブラック・ジョー』。

 組織には属さない独立傭兵(フリーランス)チーム『黒顎』のリーダーにして、最強の傭兵候補の1人とされていた。曰く、『ジョーか劾か』と。

 しかしこの劾、すなわち叢雲劾という男は『サーペントテール』という組織の長でもあり、組織の規模の差で総合的な評価は叢雲劾の方が上であった。サーペントテールには劾の他にも潜入任務担当や情報収集担当がいるが、黒顎の実働者はジョーただ1人である故だった。

 

 だが、戦場で出会った時にどちらが運が悪いかと聞かれれば、どちらもさしたる変わりはない。ただ、どちらがより恐ろしいかと聞かれれば、皆口を揃えてジョーと答える。

 

 その恐怖は、正体不明のお化けを恐れる心理が近い。

 ジョーは依頼主にさえ顔を見せず、声もボイスチェンジャーを介している。仕事中、たとえ補給のタイミングでもコクピットから降りることはなく、したがってその傭兵の人間味を知る者はいない。

 何より、ジョーのMS、識別信号名『IM-78 イミテーション』もまた正体不明の機体であった。異教の神を模したかのような巨人。プラントの軍事組織ザフトのMSのような重装甲とモノアイではなく、すらりとしたボディと2本の角を持った二つ目の頭部。顔の形状も兜を被った人間に面覆をつけたかのよう。

 誰が造ったのか、どれほど強いのか、その正確なスペックを把握できないがための恐怖。

 

 ジョーはその機体を『ガンダム』と呼んだ。

 しかし、誰1人としてその言葉の意味を知る者は無かった。

 

 *

 

 国連の首脳陣が纏めて暗殺されるというテロを経て、その代わりの新たな国際機関として発足した『地球連合』はプラントをテロの首謀者と断定、宣戦布告を行う。その僅か3日後に引き起こされた『血のバレンタイン』事件により、戦争は過激化の一途を辿ることとなった。

 事件当日、ザフトと連合軍の艦隊戦において、ザフト側の義勇兵として参加していたジョーは、コロニー『ユニウスセブン』に撃ち込まれた核ミサイルの余波に巻き込まれたものの生還。

 しかし、機体を失ったことで傭兵としての仕事を一時休止することを告げ、何処かへと去ったのであった。

 

 *

 

 キラ・ヤマトが彼女達と初めて出会ったのはカトウ教授の研究室だった。

 いつものようにラボへと入ってくれば、見知らぬ人物が2人、壁際に身を寄せるようにして立っていた。

 片方は帽子を目深に被り、顔は良く見えないが、自分たちと同年代か少し下の少年に見えた。後から知ったのは少年ではなく少女で、同い年であるということだった。名前はカガリ・ユラ。

 

 そしてもう1人が彼女、サンディ・スティリングだった。

 

 彼女は「黒」かった。

 

 真っ黒な髪をウルフカットにし、羽織っているトレンチコートもまた黒い。

 前髪は一房色が抜けて白髪になっているし、肌は白く目は赤い。全体で見れば黒以外の色もそれなりに持っているのにも関わらず、どうしてこうも黒を感じるのか。

 身長は150半ばと小柄であるのに、どこか異様な存在感が彼女にはあった。鋭い目つきと、ギラリとした歯を見せる笑みはその口調も相まって凶暴性を感じさせる。

 

 纏う雰囲気の得体の知れなさの割に、受け答えは理性的。それがまた正体不明のお化けのように感じられて彼はそこはかとなく怖かった。

 しかしそう感じているのはキラ1人だけのようで、友人達はいつもと変わらず課題やお喋りに興じている。

 キラだけがそればかり気になってしまい、教授から追加された課題に手をつけることも、フレイ・アルスターの手紙について聞こうとするトールの口を塞ぐことも忘れてしまっていた。

 

 *

 

 中立国オーブ首長国連邦の所有する工業コロニー『ヘリオポリス』は鉱山の小惑星に筒形のコロニーが刺さった形をしており、中には国営軍需産業会社モルゲンレーテの社屋や工廠、将来の技術者を育成する工業カレッジに、民間人の居住区を持つ。

 

 オーブはこの連合とプラントの戦争が始まると、すぐさま中立の声明を発した国であり、そのためこのヘリオポリスに済む人々も戦争はどこか遠い場所のことのように感じていた。

 今日、この日までは。

 

 突如として轟音と凄まじい揺れがヘリオポリスを襲った。少年少女は慌てつつも、すぐさま部屋を飛び出して行く。

 

 最寄りのエレベーターは不調で動かず、一同は非常階段へと向かう。

 ちょうど登ってきた職員によって、この揺れが隕石のような自然現象ではなく、ザフトによる人為的な攻撃であることが告げられた。

 

 オーブが連合と通じているなど知る由もない少年少女達は事態が良く掴めないまま、職員に促されて避難を続けようとした。

 だが、カガリはその身をひるがえして逆方向へとかけて行く。一瞬遅れてサンディが彼女を追った。

 

 そのさらに後ろをキラは思わず追いかけた。流石に女の子(サンディ)を見捨てることができなかったのである。

 2人に続いて工場区へ来ると、背後の爆発によって戻れなくなったキラ。その際の爆風でカガリの帽子が飛び、それまで少年と思っていたのが少女であると知った。

 

「この高身長どもめ……。」

 

 歩幅の差により、途中でキラに追い抜かされていたサンディは、もう少しで崩れた残骸の下敷きになるところだった。

 

「とっとと避難するぞ、おひい様。お前さんもだ。付いてくるこたァなかったンだ。むしろアッチの子達に付いてやらなくてよかったのか?」

「あっちにはサイがいるから。それに女の子を見捨てるなんて。」

「私のことは男だと思っていたくせに。」

 

 カガリがぼそりと呟く。

 

「とにかくシェルターに行くべきだぜ。」

「それなら工場区に行けば……。」

「よし……おひい様、頼むから勝手に動かないでくれ。何のためのボディガードだよ。」

「悪い……。」

 

 3人は連れ立って進む。サンディが先頭で危険がないか警戒し、キラが後ろを注意する。カガリは真ん中に挟まれる形で勝手な行動を牽制された。

 

 *

 

 工場の外では4()台のトレーラーが立ち往生していた。荷台にはそれぞれMSが積まれている。

 その荷を守らんと地球軍兵士がライフルを撃つが、一瞬にして返り討ちとなった。

 

「運べない部品及び工場施設は全て破壊との命令だ! ──2つ足りないが、まだ中か?」

 

 ザフトのMS奪取チームリーダー『()()()()()()()()』が指示を飛ばす。

 報告ではこのヘリオポリスでは6()機の新型が作られているとされていた。未だ工場から運び出されていない2機は『アスラン・ザラ』率いる別働隊に任せて見送ると、ミゲルも他のメンバー、『ディアッカ・エルスマン』、『イザーク・ジュール』、『ニコル・アマルフィ』達と同じく機体のコクピットに滑り込んだ。

 

「各員搭乗後速やかに自爆装置を解除しろ!」

 

 その寸前、他の仲間に注意するのも忘れない。鹵獲対策の自爆機能に巻き込まれれば目も当てられないからだ。

 シートの横からプログラミング用のキーボードを取り出し、ハッキングによって容易く自爆システムを無力化する。

 

 情報漏洩を防ぐためのシステムである以上これほど容易く解除されては意味がない。しかし現実としてそうなっているのは、遺伝子編集を受け、才能豊富なコーディネイター(ザフト)とそうではないナチュラル(地球連合)との格差の縮図でもあった。

 

 *

 

 予定調和の如き光景にサンディはため息をつく。

 

(中立の癖して連合に擦り寄ってたオーブもそりゃ悪ィがよォ、警告なしで攻撃して、あまつさえ民間人にも被害を出してるザフトもザフトだ。道徳心に人道、軍規(ひとのこころ)とかないンか?)

 

 いきなり攻撃する必要があったのかと言いたいくらいだった。中立国の癖して、なぜ連合と共同開発してるんだというのを言葉で言うのが最初にすべきことだろう、と。

 

(言葉より先に手が出る……この頭C.E.どもめ!)

 

 しかし、果たしてこれからどうすべきだろうか。

 サンディとしては、どこかのシェルターにカガリを預けた後、身軽になって己のMSを取りに行きたい訳である。

 ほんの一月ほど前にロールアウトしたばかりの彼女の新型『RX-M78-SS ソウル』はヘリオポリスに入港後、モルゲンレーテの格納庫に秘密裏に運び込まれた。傭兵ブラック・ジョーからの正式な依頼としてモルゲンレーテに整備を委託したのである。

 

 そんなこんなで格納庫のキャットウォークの上に出ると、眼下では銃撃戦の真っ只中であった。

 

「──これ……って……」

(お、キラが寝そべってる『ストライク』を見つけたな。……俺のガンダムはここじゃねェか。……俺以外に動かせねェからザフトが間違えて持ってっちまう心配はいらねェが……)

「サンディ、あの機体は……」

「残念だが俺のじゃねェ……他人の空似だ。」

「遅かったのか……」

「完成したモンをザフトに見られた。言い逃れはできねェな。とりあえずおひい様はシェルターへ行け。俺はソウルを探しに行く。流石に持ってかれちまうと帰ってこねェかンな。」

 

 サンディはトレンチコートの内側から銃を抜いた。護身用としては行き過ぎなくらいのマグナム弾使用の拳銃だが、今や骨董品といってもいいリボルバーである。

 

「私もついて行く。」

「バァカ。こっから先は死地だぜ?」

「ふん。シェルターよりお前の隣の方が安全だと豪語してなかったか?」

「そりゃあの場のノリだぜ。」

 

 行きのシャトルで言ったこと覚えてやがったか、とサンディは悪態を吐いた。

 実際のところ、サンディの言う事もあながち間違いではないのであるが、それはそれとして現状カガリの存在はサンディにとって足手纏いでしかない。

 

「とにかくシェルターへ行け。どの道1人分しか空いてねェンだ。」

 

 言ってから「しまった」と思った。

 なぜ、まだシェルターに行っていないのにそれを知ってるのか説明できない、と。

 

「1人分しか空いてないのならなおのことだ!」

(だよなァ。キラを入れて俺と一緒に来るって言うよなァ。今は時間が惜しい。こうなったおひい様は聞きゃしねェから仕方がないぜ。)

 

 流石に獅子の娘、剛気なことだ、とサンディは思った。本当なら戦場に連れて行くのは褒められた行いではない。しかし、果たしてシェルターが絶対安全である保証もまたないのだ。

 

「すまん少年、シェルターには1人で行け。俺達は今から左ブロックへ向かう。」

 

 キラに向き直ってそう告げ、有無を言う前にカガリを抱き上げると、いわゆるファイアーマンズキャリーの姿勢でサンディは走り去ったのだった。

 

(さて、この先どうなるかねェ。彼が避難すれば、その場合は無事にオーブ本土へ帰国するだけだ。主人公として戦う羽目にはならねェ。……だが、運命ってのは存外しつけェモンだ……ドッチに転ぶか、見極める必要があらァな。)

 

 果たして、彼女のガンダムがあったのはモルゲンレーテの別エリアである。

 トレーラーの上で寝転がって、コクピットハッチは開けっぱなしだ。

 

 そして、招かれざる先客がいた。薄暗い格納庫の中で、サンディの姿を認めるや否や、警告もなくいきなり発砲してきたのである。

 

(殺気で動きを読むのは簡単だがァ、あの身のこなし……ただモンじゃねェな。)

 

 柱に身を隠し、サンディもマグナムをぶっ放す。その弾は敵の右肩をかすめただけだったが、その衝撃で敵は銃を取り落とした。

 形勢不利と見るや、敵兵は走り去っていった。サンディは後ろから撃とうか迷いつつも、隣にカガリがいることを思い出してやめておいた。

 

「今のはザフトか?」

「いや。多分汚いカミーユの手のモンだろーぜ。ザフトのパイスーじゃ無かったかンな。」

「誰だカミーユ……。」

 

 コクピットや機体に爆弾などが仕掛けられてないのを確認してから、中へ入ってスターターボタンを押す。

 

〈パイロット、サンドラ・スティリングを確認しました。システムロックを解除します。〉

 

 システムボイスがそう告げる。女性の合成音声で、イメージに一番近いのは某ずんだの妖精だろう。先ほどの兵士は襲撃のどさくさに紛れてソウルを盗もうとしたのだろうが、そもそもこの機体はジョーの脳波と静脈パターンをスキャンして起動キーとしている。だからこそハッチを開けっぱなしでも困らなかったのだ。

 

 兎にも角にも、システムを起動後はさっさとハッチを閉める。モニターは古き良き3面タイプ。そもそもこの世界において一般的な三面モニターを古いと言うのはサンディぐらいのものだが。

 

「『GUNDAM.Battle Operation.System』……」

 

 サブモニターに映ったOSの名前をカガリが読み上げる。C.E.における『ガンダム』の定義はOSの頭文字を繋げるとGUNDAMになるというものだが、そんな都合よくGUNDAMになる単語をサンディは思いつけなかったため、いっそそのまま『ガンダム戦闘用OS』という意味の名前を付けた。

 

「どれどれ……バッテリーも推進剤も満タンだ。コイツ動くぞ。」

 

 格納庫のMS固定フックを強引に振り解き、左足をトレーラーの横に降ろす。そのまま立ち上がらせ、機体を一歩前に前進させる。

 

「ぐ……ぅっ……。」

「大丈夫か⁉︎」

「意外と……揺れるんだな……」

 

 不慣れなカガリには悪いが、耐G機能のあるリニアシートは1つしかない。コクピット内に置きっぱなしにしていたヘルメットを彼女に被せはしたが、Gそのものを軽減するには弱いだろう。

 

「武器は……ウッソだろオイ!」

 

 辺りを見渡すが、専用のビームライフルやシールドといった手持ち武装は近くには見当たらない。こうなると武器は内蔵火器の頭部75mmバルカン『イーゲルシュテルン』だけだ。

 しかもこのバルカン、RX-78-2のものより15mmも口径が大きいくせして、ザフトのMSを撃墜できるだけの威力ははっきり言って、ない。威力が低いというより、ザフトMSの装甲がやたら分厚いのが原因ではあるが。

 

「戦うのか?」

「……オーブの守衛隊はすでに警告出して、無視されてンだ。十中八九は実力行使でねェと追い出せンぜ。……しっかし武器がねェなァ。サーベルも取り外されてらァ……」

「おい、アレは武器じゃないのか?」

「アレか。アレかァ……」

 

 彼女の指す先には確かに武器があった。あったが、半分以上おふざけで設計した武装であった。

 

「弱いハズはねェが、重力下だとなァ……。」

 

 その武器が1番威力を発揮するのは無重力下でだ。コロニーは遠心力による擬似重力ゆえ、一旦それを振り切って宙に浮けば無重力になるが、それほどの推力を出せばカガリが耐えられるか不安であった。

 

「まァ、ないよりはマシだな。コトと次第によっちゃァ意外と悪くねェか?」

 

 とりあえずそれだけ拾い、サンディは機体をモルゲンレーテのドックから出すのだった。

 

 *

 

 サンディとカガリが走り去った後、キラは逡巡の後に追いかけようとした。

 しかし、キャットウォークの下での銃撃戦で、背後から撃たれそうになっている女性兵士を見て、思わず「うしろ!」と叫んでいた。

 

 彼女はキラに向かって「来い!」と叫ぶ。キラとしては彼女が自身の身を案じるがためだと考えたが、実際には異なる。

 無論、彼女の中に子供の身を案じる思いがなかったわけではないが、それだけではない。ここにあるMSは地球軍の最重要機密である。それを見られてしまった以上、何事もなく解放するわけにはいかなかった。

 

 女性の有無を言わさぬ剣幕に、キラは従うしかなかった。

 

 そして紆余曲折を経て、彼は彼女と共に連合製MS『GAT-X105 ストライク』のコクピットに居た。

 ストライクはPS(フェイズシフト)装甲によって物理攻撃を無効化する防御力を持つが、しかしその反面OSは未完成と言ってもいい有様であった。

 

 そんな状態でザフトのジンを相手取らなければならないのがストライクの現状である。しかも操縦席の女性兵士は、軍人だが技術畑の人間であって正規の人員ではない。

 

 そして、ストライクの足元近辺には逃げ遅れたキラの友人達がいる。

 このままでは彼らが巻き込まれると思った彼は女性兵士から操縦桿を奪ってストライクをジンに体当たりさせた。

 

「……無茶苦茶だ! こんなお粗末なOSでこれだけの機体、動かそうなんて!」

「ま、まだすべて終わってないのよ! しかたないでしょう!」

「──どいてください! ──はやく!」

 

 キラは女性をどかして操縦席に座ると、プログラム入力用キーボードを引き出し、その場でOSの書き換えをはじめてしまった。その指捌きはまさに神業と言っていいほど正確で迅速だった。

 

 しかし黙ってOSの書き換えを待ってやる理由はジンにはない。サーベル(重斬刀)を振り上げ、迫って行く。

 

 だが、その攻撃がストライクへと振り下ろされる事はなかった。

 

 突如として横から殴りつけるように弾丸の雨がジンを襲ったのである。それら75mm弾はジンの装甲を貫くことこそなかったが、連射によってバランスを崩させることには成功していた。

 

「……あれは……?」

 

 その機体のシルエットはどことなくストライクに似通っていた。しかしPS装甲を起動したストライクが青、赤、白なのに対し、その機体は胴体が黒と白、所々に赤というカラーリングをしていた。頭部にはV字に配置されたブレードアンテナを持ち、顔立ちもストライクと瓜二つ。

 

 頭部バルカンの位置はストライクよりやや高い位置だが、口径や発射音などからストライクのものと同じイーゲルシュテルンと推測できた。

 

「イーゲルシュテルンではジンを倒すことはできない……。」

 

 全く見覚えのない機体だったが、ジンを攻撃しているということは味方の可能性が高いだろう。

 いくら装甲を貫けないとは言え、バルカンを雨霰と受け続けたジンは、良い加減に鬱陶しくなったのか、未だ動かないストライクからソウルへと視線を移した。

 

 サーベルを振り上げ、猛然と向かっていくジン。

 だが、次の瞬間、その機体の姿が消えた。

 

 いや、実際に消えたのではない。アポジモーターを噴かして後方へと跳躍、飛び退ったのだ。

 次の瞬間、ジンの胸部には直径2mほどの金属球がめり込んでいた。おそらくはコクピットもろともパイロットもぺしゃんこに潰れて即死しただろう。

 金属球には8つのスラスターが備わり、後部から伸びたワイヤーは件のMSの左腕に固定された巻き取り機に接続されていた。

 

「ジンを一撃で……」

 

 技術者だからこそ、そのMSがどれほど高いポテンシャルを持つか理解できた女性兵士は、それがストライクの方を向いた時、恐怖を覚えた。

 その右肩にペイントされたエンブレムは、ある傭兵のパーソナルマークである。その傭兵はザフト派とされ、地球軍の一部からは恐怖の象徴のようにも扱われていた。

 

 そのマークは、赤く染まった牙を剥く黒い獣のシルエット。獣は己を縛る鎖を引き千切りながら、運命の輪に喰らい付いている。

 

〈そこの白いモビルスーツ、連合軍だな? 改めて、傭兵部隊『黒顎』のブラック・ジョーだ。識別信号を見て貰えりゃ分かると思うが、今はオーブに雇われてる。……アンタらはオーブの敵か、味方か?〉

 

 オープン回線越しにボイスチェンジャーで加工されたであろう低い声が、ストライクのコクピットに響いた。

 キラの隣、連合の女性兵士は無線に向かって声を上げた。

 

「こちら大西洋連邦所属マリュー・ラミアス大尉です。……今、個人回線の周波数を送りました。以降の通信はそちらでお願いします。」

〈了解だ。こちらはオーブ雇われとして民間人の安全確保を主目的としている。邪魔はしないで頂きたいが、異論はないな、レディ?〉

「ありませんが、戦況が落ち着けば、一度こちらと合流していただきたく思います。」

〈承知した。〉

 

 通信を終えると、ラミアス大尉は息を吐いた。どうやらあのブラック・ジョーは思っていたよりよっぽど話の分かる存在らしい。

 

 *

 

 ラミアス大尉との通信を終えたサンディは有線式破砕球(所謂ガンダムハンマー)『ラースプラネット』のワイヤーを巻き取り、構え直した。

 

(今のジン……原作だとミゲルが乗ってたハズだよなァ? 断末魔が別人だったぞ? ちょいとズレてやがンなァ。)

 

 彼女の感応波が拾ったジンのパイロットの断末魔。彼女はてっきりザフトのエースパイロット、ミゲル・アイマンを撃破したものと思っていたが、どうやら件のジンのパイロットはそうでないらしい。

 

「けっ、おいでなすッた!」

「サンディ?」

 

 ──おまえはいつでも邪魔だな、ムウ・ラ・フラガ!

 

 ──きさま……ラウ・ル・クルーゼ!

 

 突如としてサンディの脳裏に言葉が奔る。

 強いプレッシャーを放つ2人が、近くで戦っているのを感じとったのだ。

 地球連合のトップガンで『エンデュミオンの鷹』の異名を持つ男ムウ・ラ・フラガとザフトの隊長格にして今回の襲撃の指揮を執る男ラウ・ル・クルーゼがお互いの機体を駆りながら、コロニー内部へと侵入してくる。

 

「構えろ、ガンダム!」

 

 すぐさま回線を開き叫ぶ。うっかりストライクをガンダムと呼んでしまったが、それどころではなかった。──ドォン……と大地が揺れる。

 

 新たなMSがコロニーに穴を開けて、そこから舞い降りてくる。後に続いてムウのMA『メビウス・ゼロ』が追いかけてきたが、機銃で貫かれて落ちていった。パイロットは無事なようだが、戦力としてはもう数えられはしない。

 

 サンディは冷静に頭部をクルーゼの『シグー』に向け、イーゲルシュテルンをロックした。それとは別に、クルーゼとの個人回線を開き、ボイスチェンジャーを起動する。

 

『とんだご挨拶だな、クルーゼ。』

 

 クルーゼとの個人回線を開き、一応話し合いを試みる。

 

〈その声はブラック・ジョー、活動再開していたとは知らなかったな。〉

『今はオーブの雇われだ。全く、文面での通告もなくいきなり攻撃とは……非道いことをしてくれるな。これ以上は許容できない。大人しく引き下がってはくれないか?』

〈残念だが、今更引き下がっては君に殺された部下に顔向けできんよ。〉

『では仕方ないな。実力で排除させてもらう。』

 

 そう告げて通話を切るや否や、機銃の雨霰がソウルとストライクを襲った。

 PS装甲で物理攻撃が無効なストライクと違い、ソウルにそんなものはない。だが、当たらなければいいだけなのだからサンディにとっては大した問題でも無かった。

 

「ぐぅぅぅうぅ……」

「ヤッベ!」

 

 そう。サンディにとっては。同乗するカガリはそうもいかない。パイロットスーツもなく、リニアシートの恩恵も受けられない彼女はサンディの繰り出す滅茶苦茶な軌道に耐えられないのだ。

 

(どうする? ここでクルーゼを落とせるならしたいが……ハンマーのワイヤーは地上からじゃなァ……)

 

 しばしの逡巡その時、またしても轟音が響いた。クルーゼの侵入時よりもさらに大きな音だ。カガリは咄嗟に耳を塞ぐ姿勢を取り、サンディも一瞬首を竦めた。

 

 ヘリオポリスの一端、鉱山の岩盤が衝撃で崩れつつあった。もうもうと立ち込める土煙を掻き分け、白亜の大天使が姿を現す。

 

 ──戦艦……コロニーの中に……⁉︎

 

 少年の驚きが感応波を通じて伝わってくるが、サンディもまた慄いていた。

 ストライクを始めとするG兵器、別名Xナンバーと同じくして秘密裏に建造されていた新型艦『アークエンジェル』。全長300メートルはあろうかという巨大さと重厚さで、それでいて落ちてくるような危うさもなく悠然と空を飛ぶ。

 

「なんてことを……」

(同感だぜ、おひい様。ソウルの識別信号はオーブ軍の貸与品だから撃ってくるこたァねェとは思うがよォ。)

 

 大天使はクルーゼのシグーを認識すると、船尾よりミサイルを発射した。シグーはミサイルを迎撃しながらコロニーシャフトに回り込んで盾にする。シャフトに当たったミサイルが爆発する度に地表が揺れて嫌な音を立てる。

 

「地震なんか目じゃねェ恐怖だなァオイ……」

 

 地球が崩れることはまずないだろうが、人工物であるコロニーはそうも行かない。

 

「連中ヘリオポリスをぶっ壊す気かよ! 人様(他国)のコロニーだぞ?」

 

 サンディは己の胸中に怒りが渦巻くのを感じた。

 コロニーの中でお構いなしにミサイルを乱射するアークエンジェルも、そのミサイルをコロニーを支えるシャフトを盾にして回避していくクルーゼにも。

 

「おひい様、だいぶ無茶をする。覚悟はいいか?」

 

 先ほど撃破したジンのサーベルを拾い、サンディは問う。

 

「他に活路があるのか?」

「ない。……ヤツを追い出さねェことにはなァ。」

「ならやれ。私のことは気にするな。」

「合点承知だ、レディ。」

 

 バックパックに備わった4門のアポジモーターと、その両脇に接続された高起動バーニアユニットを最大出力で点火。バッテリーを余分に消費するが、その分凄まじい加速を可能とする『SB(スピードブースター)システム』を全開で、コロニーの擬似重力を振り切る。

 急激なGに身体が軋み、悲鳴を上げる。サンディさえそうなのだからカガリにはなおのこと。

 

 ものの数秒でシグーに肉薄し、サーベルを一閃。

 

「避けた⁉︎」

 

 が、それも織り込み済み。そのまま蹴りを放って姿勢を崩しつつ、反作用で距離を置く。

 

「本命はコッチ。」

 

 ラースプラネットの破砕球が射出され、スラスターを噴かしながら肉薄する。が、それも躱される。

 瞬間、サンディの視界に閃きが迸る(ニュータイプの音)

 

 射出された破砕球がスラスターを噴かし、強引に軌道を曲げて背後からシグーを狙う。このハンマーはサイコミュを搭載した質量ビット兵器としての側面を持つ。それを利用した初見殺し。

 

 だが、その瞬間、シグーを駆るクルーゼもまたその殺気を感じ取っていた。

 すんでのところで回避に移り、コクピットもろとも圧殺されることは無かったが、シグーの左脚を粉砕される。

 

 ──ここは一度引かせてもらおう。

 

「逃すか、と言いたいがなァ。」

 

 サンディは横目でちらとカガリを見た。かなり辛そうな表情をしている。

 

(俺の仕事はオーブ国民の安全確保……そして何よりおひい様の護衛だ。目的を履き違えるな、サンディ・スティリング……!)

 

 クルーゼは去った。ならば次にすることはアークエンジェルクルーとの話し合いである。

 ブラック・ジョーは地球連合、特に大西洋連邦からは嫌われている。マリュー・ラミアスはともかく、堅物のナタル・バジルールをどうやって丸め込んだものだろうか。

 

(最悪、ムウ・ラ・フラガに精神感応で原作知識叩き込んで共犯者になってもらうかァ?

……やめとくか。もう随分うろ覚えだかンなァ。というか、アムロでさえSANチェックで寝込んだンだ。このタイミングでエースパイロットをダウンさせるのはいかンなァ。)

 

 考えるべき事は他にもある。モルゲンレーテに預けたあと、なぜか取り外され持ち去られたビームライフル、ビームサーベル、ビームジャベリン、対物理衝撃シールドといったソウルの専用武器がどこへ行ってしまったのかも探さねばならない。

 予備は一応存在するが、それは宇宙港に停泊しているサンディの個人シャトルの中だ。取りに行く余裕があると彼女には思えなかった。

 

 兎にも角にも、彼女はストライクと合流すべく、バーニアを吹かすのだった。

 





○『IM-78 イミテーション』
全高:18m
本体重量:59t
装甲材質:ルナチタニウム合金(胴体部)
     超硬スチール合金(その他)
動力:バッテリー
設計:サンディ・スティリング
製造:ジャンク屋組合(ギルド)

 外見は初代ガンダムをC.E.ナイズドしたもの。カラーリングはメタリックグレイで、ほとんど無塗装の成形色。頭部バルカンはジンの機銃を流用したものであり、頭部後方が白いガンダムのように伸びているが、弾倉は胴体でなく頭部の中に格納されている。
 胴体部のルナチタニウムはジャンク屋数名と共同で廃棄されたコロニーの中に組み上げた低重力炉を用いてチタンとイットリウムから精製したものであり、品質は低いが、同じ厚さの超硬スチールよりかは硬い。
 内部の構造や部品の多くがジンからの流用であり、武装もそれに準ずるが、最低限のサイコミュを搭載し、マグネット・コーティングも施されている。

○『RX-M78-SS ソウル』
全高:18m
本体重量:47t
装甲材質:オーブ・ルナチタニウム合金
動力:バッテリー
設計:サンディ・スティリング
製造:モルゲンレーテ

 外見は横浜ガンダムをC.E.ナイズドしたもの。各部にアレンジが入っており、バックパックは高機動型ガンダム、頭部はガンダム7号機に近いデザインになっている。カラーリングはプロトタイプガンダムのそれ。
 ふくらはぎの下、肩アーマーの側面に四角い中型スラスターが追加されており、その他円い小型スラスターが姿勢制御用に肩アーマーの前後や膝、腕部側面、脚部側面に増設されている。
 本体重量もかなり軽く、ノーマルのストライクが64,8tのところ、47tで推力では勝るため機動力は高い。反面PS装甲ではないので物理防御で劣る。

○『SB(スピードブースター)システム』
 バッテリーの消費量を増やしてスラスターの電圧を上げ、推進剤の燃焼温度を上げることで爆発的な加速を可能とするシステム。肩部スラスターをはじめとした側面のスラスターで使用すればスライド移動も可能。リニアシートとサンディのNTゆえの耐G能力がなければまともに扱えない。
 イメージ的にはACのクイックブースト。使い過ぎにはご用心。

○有線式破砕球『ラースプラネット』
 いわゆるガンダムハンマーだが、鉄球部分のデザインは〈GQuuuuuuX〉版が近く、鎖ではなくワイヤー式。腕の横に巻き取り機を固定して扱う。
 試作型のサイコ・フレームを内蔵しており、不規則な軌道を描いてぶつけられる。プラネット(惑星)の名を冠するのはそれが由来。ワイヤー部分には高圧電流を流すことも可能でヒートワイヤーも兼ねている。
 なお、他の武装を持ち去ったのはサハク家の手の者。これだけ置いて行かれたのはサイコミュの存在を知らず、ただの鉄球と思われたため。

○ジョー・アベニール
 身長175cmで実はアムロより高い。スリーサイズは上から89、62、89。腹筋は割れている。
 射撃戦は不得手(アムロと比較して)であり、反面格闘戦を好む。喰らいつくかのように肉薄することも「猟犬」と呼ばれる所以。エンブレムはアルファベットの『J』を変形させて犬の横顔にしたもの。発想はアムロのエンブレムと近い。
 足癖が悪く、デブリや敵機体を蹴って加速する戦法を好む。

○サンディ・スティリング
 身長154cmで前世と比べて20cm以上縮んでしまった。スリーサイズは上から80、53、77。やっぱり腹筋は割れている。また、首から下は全身くまなく傷だらけ。
 前世に比べてはっちゃけているので、割とその場のノリで動く。語録だって口にする。
 実は全盛期(第2次ネオ・ジオン抗争)に比べて実力は劣っている。肉体的に小柄なため、前世の感覚で体を動かそうとしてズレが生じたり、追いつかなかったり。サイコミュを組み込むことでこの辺りをカバーしているが、脳疲労の蓄積も早くなっているので長期戦ができなくなってしまっている。
 割とスピード狂かもしれない。
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