人の心(の光)とかないんか?   作:頑張っても駄無

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 最初の戦闘までが遠い……。



PHASE 03『人の心案件過多』

 

 傭兵は戦うのが仕事であるからして、サンディ・スティリングはザフトの追手相手に命をかけることには異論はない。

 だが、彼女には譲れない一線がある。子どもには子どもの時間が必要なのだ。そしてその時間は、一度でも戦場で、自分の意思で他者の命を奪えば永久的に失われるものでもある。

 だからこそ、彼女は憤る。

 

「可哀想な男の子を大人2人でサンドイッチしてよォ、逃げ場無くしてさァ、戦ってくれってェ?」

 

 ぞわり、と空気が冷え込む。

 

非道いなァ──」

 

 漆黒の怒気が部屋の空気を覆い尽くす。

 

「人の心とかないンか?」

 

 マリューにも、ムウにも有無を言わせぬ恐怖が、その場を支配していた。

 

 *

 

 時は少々遡る。

 マリューと改めての自己紹介を終えた彼女は、カガリを撫で回して癒された後、避難民達と同じく艦の居住区へと案内されていた。

 

「さァて、こっからどうなるかねェ?」

「大丈夫なのか? 針のむしろになるかと……」

 

 カガリの危惧も尤もである。

 地球連合における彼女の異名は『ザフトの猟犬』。猟犬というのはジョー・アベニール時代から使い続けているエンブレムの形状に由来する様だが、ザフトの、という部分がサンディにとってはあまり好ましくない。

 そもそも彼女が傭兵として名を上げたのは開戦前の1年程度の活動が主であった。基本的な依頼主は民間企業や自治体。内容はならず者の掃討。大抵はジャンク屋崩れの宇宙海賊であったりしたのだが、中にはブルーコスモスのテロリストも含まれていた。

 そして血のバレンタイン当日、彼女が依頼ではなく義勇兵としてザフトに手を貸したのは今や有名な話である。

 

 つまりサンディは連合(ブルーコスモス)関係者や連合兵を何人も手に掛けてきたのである。もしかするとこの艦のクルーにも、身内や友人を彼女に殺された者があるかもしれない。

 

(作戦が終わりゃァノーサイドとはいかンよなァ。傭兵としちゃそーいうモンだが、この世界、政治家でさえ割り切れるヤツがいねェ。……感情で核のボタンを押せるヤツばっかだ。上がそうなら下までそうなるだろーよ。)

 

 とはいえ、身内を殺されて憤るな、というのも無理な話だ。サンディとしては別に自分が恨まれる分には気にしない。が、それはそれとして命を狙うのなら容赦なく反撃するが。

 この程度のドライさがなければ傭兵は務まらないのであった。

 

「ま、そう悲観するこたァねェよ、おひい様。あのマリューさんは結構話の分かる人だろーぜ。……んで、この艦のクルーもほぼほぼマリューさんと同じ派閥だろーかンな。……あえて空気を悪くしようって脳足りんはおらんだろ……流石に……」

 

 ここでキッパリ言い切れないのが恐ろしきC.E.クオリティ。感情ばかりを先行させて行動の結果がどうなるかすら分からない愚か者ども。

 

「すみません。」

「ウン?」

 

 考え込んでいる彼女に声を掛けたのは、キラだった。

 

「……疲れてンだから寝とけよ。」

「助けてくれたお礼を言ってなかったと思って。ありがとうございます。」

「マメだねェ。……ま、素直に受け取っとくぜィ。あと敬語はいらねェ。」

「わかり……わかったよ。」

「ン。とりあえず寝ておいた方がいいぜィ。お前さんもそうだが──」

 

 サンディはキラの学友たちが固まっているところへ目を向けた。

 

「──そっちの子らも、疲れたンなら寝ておいた方がいいぜ。こういう時は自分で思ってる以上に疲労が溜まってるモンだ。一度寝たら丸一日目を覚まさねェってコトもザラだぜ?」

 

 一年戦争で弟を連れて走り回っていた経験者は語る。

 そうして己の隣を見れば、いつの間にカガリが頭を預けて小さな寝息を立てていた。サンディが思案に耽っている間に寝落ちしていたらしい。

 

「お疲れちゃんだぜ、おひい様。」

 

 優しい笑みを浮かべ、サンディは己のコートを毛布がわりにかけてやった。

 

(仮眠をとるか、俺も。1時間……もねェか?)

 

 そう言いつつ自分も椅子の背もたれに体重を預けて目を瞑った。たとえ寝付けなくとも何も考えず目を閉じているだけでも効果はある。

 とはいえ、寝る時にはスッと寝れるようになっている彼女はあまり楽な姿勢とは言えないままでも早々に意識を漆黒の闇の中へと溶かすのだが。

 

 *

 

 アークエンジェルのブリッジにて、なぜか艦長などという大役をやる羽目になったマリューは、ムウ、ナタルらの士官と共にこの後の計画を立てていた。

 

 ザフトへの投降はあり得ないとした上で、目下の目的地は大西洋連邦の司令本部がある月であった。

 問題は、緊急で発艦したため物資に乏しく、月というのはヘリオポリスの存在したラグランジュ点、L3宙域から地球を挟んだ真反対に位置しているのである。いくらアークエンジェルが最新鋭の高速艦であろうと、補給なしでたどり着ける距離とは言えなかった。そもそも他のラグランジュ点からもいちばん遠い宙域かつ中立国のコロニーだからこそヘリオポリスがG兵器の開発拠点に選ばれたのだろう。それもオーブ上層部サハク家の姉弟がザフトにも情報を流していた時点で秘密は破られていたのだが。

 

 その為、アークエンジェルはナタルの発案で同じL3宙域に存在するユーラシア連邦の宇宙要塞『アルテミス』まで補給に向かうこととなった。

 秘密裏に建造されたゆえ、アークエンジェルは現在友軍識別コードを保有していないという懸念点こそあれど、背に腹は変えられぬとしてその案は認められた。

 

 ヘリオポリスの残骸を隠れ蓑にしてエンジンを一瞬だけ点火。その推進力を利用した慣性航行で2時間の予定である。

 

 しかし話し合うべき事柄は他にもあった。

 

「──おいおい無茶言うなよ!」

「ですが、ストライクの力が必要になるかもしれません。フラガ大尉に乗っていただければ……」

「冗談。あの坊主が書き換えたっていうOSのデータ、見てないのか? あんなもんが俺に……ってか、普通の人間に扱えるかよ!」

 

 などと大西洋連合のトップエース(普通ではない)パイロットが言うが、彼でさえ動かせないのであれば、他のパイロットでさえ動かせはしないだろう。本来のパイロット候補生は皆ヘリオポリスで死亡している。

 

「なら、元に戻させて……とにかく民間人の、しかもコーディネイターの子どもに、大事な機体をこれ以上任せるわけには……!」

「そんで? 俺にノロクサ出てって的になれっての?」

「それは……!」

 

 G兵器のOSは未完成だったのだ…元に戻すと言うことは未完成の状態に戻すと言うことに他ならず、それに乗れと言うことは未完成の兵器で戦場に出ろと言うことに等しい。

 

「それにMSの力がいるってんなら、あの嬢ちゃんがいるじゃないの。」

「彼女はザフトの猟犬ですよ⁉︎ いつ裏切るかも知れない傭兵に命を預けろと⁉︎」

「じゃあどうするんだ? 今から1人で艦を降りてもらうか? それでわざわざ敵に回せって?」

 

 ムウの反論に、ナタルはしばし口をつぐむ。だがそれでも頭の回転を止めることはしない。

 何か、彼女を戦闘に出さない合理的な理由がないかと考える。

 

「彼女はコーディネイターではないのですよね。であれば、あのMSを接収してフラガ大尉に使っていただくと言うのはどうでしょう?」

「接収って何の権限でだよ?」

「あのMSは不自然なほどストライクに似ています。我々のデータを盗んで建造した可能性があるかと。」

「暴論が過ぎるぜ中尉。……確かに、兄弟機って言われても信じちまいそうな位は似てたが……そこんとこどうなのよ艦長?」

「因果関係は逆なのよ。ソウルがストライクに似ているのではなく、ストライクが『ガンダム』に似ていると言うのが正しいわね。」

 

 サンディが血のバレンタインのたった1度の戦場で、連合軍にその名と恐怖を刻みつけた機体イミテーションガンダム。その機体のシルエットはこれまでのどのMSとも違っていた。重装甲を排したスラリとしたボディに、デュアルアイ。

 それを参考にしたパーツ配置によって、G兵器は造られた。いわば技術の収斂進化というべき現象である。OS名の『G.U.N.D.A.M』も偶然名称の頭文字が一致したため付けられた言葉遊びの側面がある。

 

 結局、戦場の空気を最もよく知るムウが、優れたMSに優れたパイロットが揃わなければ敵のMSに勝ち目はないとし、敵MSが迫ればサンディのソウルと、説得次第ではキラの乗るストライクとを出撃させることとなった。

 

 *

 

 居住区の一室にて、キラの学友達はこの先どうなるか分からない不安に苛まれていた。

 友人であるキラがコーディネイターだったと言う衝撃もさることながら、向こうの椅子で寝ている得体の知れない少女サンディが傭兵ブラック・ジョーの正体だという事実もまた驚きに値した。

 

 ブラック・ジョーという名はネットで検索をかければ、簡単にいくつかの情報が出てくる。いくつかの陰謀論と共に。

 

「……ネットの噂もあてにならないな。」

「そりゃわかるはずもないだろ。あのザフトの猟犬があんな若い女の人だったなんて。」

 

 たとえ依頼主にさえ姿を見せないという徹底ぶりは、過去の依頼者たちの口によって語られていた。黒顎とのやり取りはオペレーターを務めるアダムという青年を窓口にして行われるという。

 パイロットの秘匿、その徹底振りから、一部ではイミテーション無人機説が囁かれていたくらいである。

 

「ザフトの猟犬って、あの子が?」

 

 フレイが婚約者のサイに問いかける。その顔にははっきりとした恐怖が刻まれていた。

 

「大丈夫なの? 私達、殺されるんじゃ……」

「それはないだろ。今回はオーブからの依頼だって……」

 

 そこまで言ってトールは口をつぐむ。トールやカズイはオーブ国民だが、フレイは違う。彼女は大西洋連邦の事務次官ジョージ・アルスターの娘だ。

 つまりサンディはフレイに関して、この艦のクルーたちと同じく守る義務はない。

 それはそれとして彼女を殺すメリットなどありはしないのだが、父に溺愛され、箱入りと言っていいフレイはそこまで考えが至らない。

 

「別の部屋に行くわよ。人殺しなんかと同じ部屋にはいられないわ!」

「いきなり何を言い出すんだよ。それに、彼女は俺たちを助けてくれたんだぜ?」

 

 トールが嗜めるが、ヒートアップしたフレイの勢いは止まらない。

 幸か不幸か、深く眠りこんでいるサンディは未だ起きておらず、そして、

 

「キラ・ヤマト!」

 

 マリューが彼を呼びに来た際に、何の騒ぎと問われ、静かにするよう忠告を受けたために大人しくならざるを得なかったのだ。

 マリューとムウはサンディが眠っていることを僥倖と捉えていた。これまでの彼女の口ぶりから、キラをMSに乗せることにはまず間違いなく反対するだろうという思われたためである。

 卑怯なやり口という自覚と罪悪感はあった。だが、それでも身を守るためにはキラの助力が必要。先にキラから承諾をもぎ取れば、後からサンディが何を言おうとも本人は納得している、と言い含めることができた。

 

 *

 

 廊下の外に彼を呼び出したマリューとムウは、しかし彼に拒絶された。

 その上、

 

「何をしている?」

 

 起きてきたサンディにその場面を見られてしまったのである。

 

「人の心とかないンか?」

 

 どす黒い怒りの思念が大人2人に絡みつく。

 

「いい大人がよォ、何考えてンだァ? 全く。何回言えば学習するンだよ。オーブの子どもを危険に晒すのか、この俺様の前で!」

 

 彼女が目覚めたのは実は2人の来る前であった。フレイの放つ悪意に感応して目を覚まし、その上で寝たふりを続けていたのである。

 サンディは知っている。キラ・ヤマトという登場人物(キャラクター)を。彼は極度の面倒くさがりで、そして心優しい人物だと。

 

「戦場は死ぬほど面倒臭ェンだぞ! 死ぬほど! 戦争なンか腹が空くだけだぞ! 仮にこの子が腹を空かせたとして、アンタらソレを満たしてやれるのか、アァ⁉︎」

 

 軍人が戦争に行くのは当然の義務である。そしてそこには適切な対価が存在して然るべきだ。仕事であるからには給料が発生する。

 サンディのような傭兵では依頼料が。

 だが、どちらにしても割に合わない代物だ。

 

「命は金で買えねェってのに、兵士ってのは己の命を金で売る仕事だ。……アンタら、この子にタダで命を差し出せって言ってるンだぜ? 何の権利もねェのによォ。」

 

 そう言われて、マリューもムウもハッとした表情を浮かべる。それは次第に悲痛とも取れる形へ変貌して行った。

 

「……アンタらは……まだマシな方だがよォ……この子がストライクに乗って、この艦が目的地について、お役御免になったら、だ。彼がコーディだからって始末しちまわねェって誓えるか? ま、誓えるだろうな。アンタらは良いヤツらだからよォ。でも、哀しいかな……アンタらの上がそれを信じさせてくれねェ。その誓いを無価値に仕立て上げちまう。……それが、俺たちと、アンタらとの歴史だ。」

 

 寝起きというのもあってヒートアップしていたのが、徐々に落ち着きを取り戻し、やがてはマリュー達と同じような表情になって行くサンディ。

 その彼女を見て、キラは何故か温かい気持ちになっていた。数時間経たない前には、彼女を恐れていたというのに、今はもうそんな気持ちも霧散していた。

 サンディは本気で己を案じてくれているのだと理解できたからだ。あるいはそこに誰かを重ねているようにも感じられたが、そんなことは些細なことである。

 

(彼女を1人にしたくない。)

 

 それは、ヘリオポリスのモルゲンレーテで彼女を追った時に感じたことと同じである。

 サンディにとっては幸か不幸か、彼もまたナチュラルボーンヒーロー(ガンダム)であったのだ。

 

「乗ります。」

 

 彼のその一言に、マリューは酷く意外そうな顔を向けた。サンディはその逆に、彼が覚悟を極めてしまったことをいち早く察知してしまっていた為に、そっと目を伏せていた。

 一ガンダムファンとしての心理は、ストライクはキラの機体という意識があった。そして彼がこの世界の主人公になるのだろうな、という予感もあったのだ。運命の強制力は、形こそ見えないが、確かに存在しているのだろうという感覚を常日頃から感じていたのだ。

 だからこそ彼女はソウルを主人公の色合いではなく、プロトタイプガンダムのカラーで塗ったのだから。ガンダム(ストライク)の先に立つものとして。

 

(変えられなかった、か。……もどかしいなァオイ。前と違って、早いうちから色々変えようとしてンのに、全然変わった気がしねェ。……いや、弱気になるな。やるって決めただろ。でもなければ、アムロに、テムさんに、エンデに……ガンダム達に顔向けできねェ。)

 

 彼女は顔をあげ、キラへと向き直った。16の、あどけない少年がそこにいる。しかし、同時に確かな覚悟がそこにあった。

 

「……覚悟、極まっちまってるか。……ガンダムだよ、お前さんも。」

「ガンダム……」

「俺の言うガンダムってのはな、象徴なのさ。少年少女の守護神であり、情け容赦なく敵を討つ白い悪魔であり、戦争を終わらせる大いなる力だ。……そして、なんの義務もないのに、誰かを護りたいって立ち上がった少年とその相棒の巨人のことだ。側から見りゃァ、勇ましく格好の良い神話さ。」

 

 マリューとムウは初めて知るガンダムの意味に、ほうと納得したような顔をする。

 反対に、サンディの表情は未だに悲しげだ。

 

「……でも俺はお前さんに、そんなもんになって欲しくはなかったンだがなァ……自分の意思で戦場に出たヤツは、もう子どもでいられねェンだ。」

 

 そう言い終えると、サンディはマリューの方へ向き直る。

 懐から取り出したタブレットをマリューへ手渡して。

 

「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。……作戦会議と行きましょうやァ?」

 

 彼女は笑う。ザフトには悪いが、完封するつもりで策を練らせてもらおう、と。

 

 しかしその目論見は、この後マリューの口から語られるイレギュラーのGの存在により、破綻という末路を迎える結果となった。

 





○本作のG兵器
 原作の機体は性能はそこまで変わっていない。追加された1機も他の機体に比べて遥かに強いということもない。が、運動性は原作よりちょびっとだけ上。OSができていないのでほぼほぼ死に設定である。ここ以外で言及されることもないだろう。
 ちなみに、Xナンバーのメインカメラはデュアルアイ部分だが、サンディの造ったガンダムはRXの系譜が根っこにある(RX-93-J)ため、メインカメラはトサカの四角い部分と、初代ガンダムなどと同一。デュアルアイはサブカメラや照準系。

○キラ・ヤマト
 C.E.の光。数少ない綺羅星。聖人の子は聖人。
 サンディの存在で逆に覚悟を極めてしまった。ナンデ⁉︎
 人の心がある為に、逆にサンディにとっては辛い。
 なお、現状ではサンディより遥かに弱い。……が足手纏いにならない程度には動けてしまう。だからこそサンディは彼を邪魔だから戦闘に出すなという説得を思いつけなかった。彼が強いという先入観を捨てきれなかったのである。

○サンディ・スティリング
 フルネームはサンドラ・スティリング。好物はコーヒーとペパーミントキャンディ。アンガーマネジメントとしてキャンディを噛み砕く癖がある。
 子どもを戦わせるというのが地雷……というより子どもと大西洋連邦(≒ブルーコスモス)の組み合わせがアウト。過去に何かあったのかも知れない。
 全盛期より弱体化してはいるものの、この世界のどんなMSパイロットより腕が立つ。しかし無策で突っ込んで勝てるほど甘くはない……と言うより原作をより良いハッピーエンドへ向かわせる、ダメでも原作より悪くすることだけは避けるという目的上、最低でもニコルとミゲル以外は殺せない。秘密裏に不殺縛りを己に課している。不殺で楽勝できるほども戦闘力の差は開いていない。

 次回、『ガンダム増えてるナンデ⁉︎』
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