「さあ、始めましょうか。……私との
目の前に立つのは漆黒の処刑人、一つ目の
両手に握ったピースメーカーをクルリと回転させ、不敵な笑みを浮かべる。目の前に立ち塞がるのは、鴨志田の歪んだ防衛本能が具現化した、漆黒の鎧を纏った巨大な処刑人……人?……まあいい。先ほどの一撃で斧は弾き飛ばしたが、その肉体からは、これまでのシャドウとは比較にならないほどの濃密な敵意が放出されている。
『さあ、海咲! 遠慮はいらないわ。私たちがこの世界で積み上げてきた『力』……存分に見せつけなさい!』
マスターシュの挑発的な声に応えるように、私は地面を蹴った。
「遅い!」
処刑人が予備の大剣を抜き放ち、横薙ぎに振るう。だが、その一撃を紙一重で見切り、身体を低く沈めながら懐へと滑り込んだ。
メメントスでの過酷な連戦で培った反射神経が、思考するよりも早く身体を突き動かす。
ズドンッ! ズドンッ!!
至近距離から放たれた二発の銃弾が、処刑人の鎧の継ぎ目を正確に捉えた。硬質な音が響き、火花が散る。
並のシャドウなら一撃で消滅するほどの威力だが、一つ目の処刑人はたじろぎこそすれ、倒れる気配はない。
「……チッ、硬いわね」
私は舌打ちをし、バックステップで距離を取る。
やはり、イレギュラーな存在である自分を排除するために生み出された、特別な個体なのだろう。
「なら、これはどう?」
再び前進。今度は真っ直ぐに突っ込むと見せかけ、直前にステップで急激な方向転換を行う。処刑人の大振りの攻撃を空振りさせ、その死角へと回り込んだ。
変わらず、鎧の継ぎ目を狙って弾丸を撃ち込む。
――が、それも弾かれる。
かったいなあもう!しつこい敵は嫌われるよ!
でもまあ敵としては嫌われるっていうのは褒め言葉になっちゃうかな!!
「マスターシュ!」
メギドラを放ち牽制する。
耐性があるのか、効きがイマイチのようだ。
股下を抜けて急所を狙うも見事に防がれる。いや、オスかメスかもわからないんだけど……。
これじゃ千日手だ。相手の攻撃は当たらない。でも私の攻撃は防がれる。
とはいえ、相手の鎧が再生する様子はない。
だったら、同じ所を何度も狙えばいいだけ……!
何発でも撃ち込んであげる!予備玉は存分に持ってきてるからね!!
狙いも定まらずに、武器を振り回す処刑人。
当たったら危ないけど、そんな大振りの攻撃に当たるわけないでしょ。
メメントスのシャドウ達は、もっと危ない斬撃を放ってきたよ。一歩間違えばすり潰されそうな打撃を打ち込んできたよ。怪盗団の皆の気配を感じて見つからないように撤退した日もあったけど、ここ数日間は結構な頻度で死線をくぐり抜けてきたんだ。
ただ、硬くて力が強いだけの相手に負けてられないって!
「そこぉっ!」
剥き出しの目を狙った一撃が、ガードを弾いて急所を掠める。
一瞬の間、怯んだ隙を逃さずに――!
「貫いて!マスターシュ!!」
呼びかけに応え、海咲の背後に青白い炎を纏った貴婦人が顕現する。マスターシュは優雅に、けれど目にも留まらぬ速さで二丁の魔銃を構えると、私の意思に合わせて引き金を引いた。
「至高の魔弾!!」
私とマスターシュ、計四丁の銃口から放たれた弾丸が一点に収束し、巨大な弾丸となって処刑人の瞳を撃ち抜く。
『グオォォォォォッ!!?』
着弾し、内部から炸裂するように装甲を貫き、身体の奥の核を直接攻撃するクリティカルヒット。処刑人の巨体が大きく揺らぎ、苦悶の咆哮を上げた。
「……フフ、ようやく膝をついたわね」
息を整え、倒れ伏した敵を見下し、勝利を確信する。だが、油断はしない。完全に消滅するまで、トリガーから指を離すつもりはなかった。
「これで終わりよ。……貴方の存在そのものを、この場から消し去ってあげる」
破壊の意思を込め、最後の連射を浴びせる。 二丁の黄金の銃から放たれる弾丸が光を失った無防備な一つの目へと降り注ぎ、目を失った処刑人は断末魔の叫びと共に、黒い霧となって霧散した。
静寂が戻った通路で、ピースメーカーの硝煙を吹き飛ばし、銃をホルスターに収めた。 額に滲んだ汗を拭い、私は雨宮くんたちが向かった奥の部屋へと視線を向ける。
「……さて。前座は片付けたよ」
そこから聞こえてくるのは、戦闘の音ではない。これから始まる、本当の決戦の嵐の前の静けさだ。
「ここからが、本番よ。……雨宮くん、杏、坂本くん……とモルガナ。貴方たちの『反逆の意志』、特等席で見せてもらうからね」
──海咲はフードを深く被り直し、音もなく走り出した。
誰も知らない、けれど確実に彼らの勝利を支えた最高の助っ人として、彼女は最後の戦場へと向かう。
── 一方、その頃。 パレスの最奥、王座の間にて。
「くそっ……!何故わからないんだ!俺からは何もしていない!鈴井が勝手に俺に言い寄ってきたんだ!!」
「ふざけるな!!どんなに誤魔化したって全部わかってんのよ!アンタが今までしてきたことは!」
「お前が……っ!お前が俺の言うことを聞いていれば、鈴井はレギュラーのまま大会に出れたし何も起こらなかっ……ひいぃ!?」
その言葉に杏は怒りを爆発させ、シャドウ鴨志田の顔のすぐ横にアギを放った。
あまりに身勝手で、自分本意な聞くに堪えない醜い言い訳。
「私の友達のおかげで、志帆は助かった。でもそれがなかったら志帆は……志帆はアンタに……っっ!!」
『いっそひと思いにトドメ刺しちまうか?ワガハイもう聞いてらんねぇよ』
「そうね……それもいいかもね」
「ひっ、や……やめてくれぇ!!」
「クソ野郎が。……俺もモナの意見に賛成したくなってきたぜ」
「……待て。モナの言う通りなら、ここで死ねば鴨志田は現実でも死ぬかもしれないんだろ?事態が解決しても、鴨志田が死んでしまったことを知ったら、鈴井は冷静でいられると思うか?むしろ、トラウマを増やすことになるかもしれない」
蓮がそう指摘すると、一同は口を閉ざす。
「そう……だな。わりぃ、冷静じゃなかったわ……」
「ごめん……私も、熱くなりすぎてた……。そうだよね、志帆を救うために私達が殺人犯になっちゃうのは、違うよね……」
「ああ……今は、オタカラを奪って『改心』させよう。それでもうまく行かなければ、その時は……」
『……まあ、オマエラがそれでいいならいいけどよ』
鴨志田は、生殺与奪を握られたこの状況で、ただ隙だけを伺っていた。
こいつらから逃げ延びて、このオタカラを絶対に見つからないように隠してしまえば――!
そう思ったときには、もう身体が動いていた。
王冠を象ったオタカラを抱え、一目散に逃げようと試みる。
「っ!ちょっ、逃さないわよ!!」
『絶対に逃がすんじゃねーぞ!ここで逃げられたら最悪こっちの負けだぞ!』
完全に隙を疲れた形になった蓮達は、スキルを放ちながら急いで鴨志田を追いかける。
だが、逃げ足は早く、出口を潜ろうとしたところで――銃声が二発響いた。
「……ぃぎっ、ぎゃぁぁぁあああああああ!!?痛い、痛いぃ!!俺の手がぁ!!」
一発目の銃声はオタカラを持つシャドウ鴨志田の手を貫き、二発目の銃声は残った手を完全に吹き飛ばした。
「なんだ!?いきなり鴨志田の手が……!」
『おそらく、さっきのヤツだ。どっかで見てたんだろうぜ……』
転がってきたオタカラを確保したモルガナが、容赦ねぇな……と悔しそうに呟きながら確信したように言う。
彼は、名も知らぬペルソナ使いから、詰めが甘いと叱責されたように感じていた。
唇を噛み締め、味わったことのない痛みを堪えながら、全てを諦め膝をつき涙を流す鴨志田のシャドウを見下ろし、竜司が荒い息を吐く。
蓮の手には、モルガナから受け取った歪んだ欲望の結晶――オタカラが握られていた。
「ぐうぅ……それを奪われてしまったら、俺は……俺はこれからどうしたら……」
「……償え、全てを」
「…………わかった……俺は、現実の俺の中に帰る……。必ず……償う」
そう言い残して、痛みに苦しみながら鴨志田のシャドウは消えていった。
「……俺たちの勝ちだ」
蓮がやや微妙な表情で頷く。だが、勝利の余韻に浸る暇はなかった。 城全体が激しい振動とともに鳴動し、天井から瓦礫が降り注ぐ。パレスの主が敗北を認め、消えたことで、世界そのものが崩壊を始めたのだ。
「まずい、城が崩れるよ! 脱出しなきゃ!」
杏の声に促され、四人は出口へと走り出す。その道中、彼らは足を止めた。 先ほど、あの謎の協力者とシャドウが対峙していた通路だ。
そこには、言葉を失うほどの激しい戦闘痕が刻まれていた。 分厚い石壁は抉れ、地面には巨大なクレーターのような跡。そして、先ほどまで彼らを追い詰めていた処刑人の姿は、跡形もなくなっていた。
「……マジかよ。あいつ、一人でこれだけのモンをやってのけたってのか?」
竜司が戦慄する中、蓮の足元に、一枚のトランプのカードのようなものが刺さっているのが見えた。 蓮がそれを拾い上げると、そこには優雅な筆跡でメッセージが記されていた。
『お代はいつか取り立てに参ります――クルーピエ』
「お代って……。助けてもらったのはありがてーけど、なんだかおっかねーな……」
「……とにかく今は脱出が先だ。行くぞ!」
蓮はそのカードを懐にしまい込み、崩れゆく城の中を駆け抜けた。
竜司が転んだりと、トラブルがありつつも無事脱出を果たす怪盗団。
路地裏に出た彼らは、イセカイナビの目的地が消去されましたというアナウンスを聞きながら、作戦の成功を理解した。
オタカラが金メダルに変化しているのを見て、モナから説明が入る。
曰く『アイツにとってその金メダルが、王冠にも匹敵するオタカラだったってことだろ』と。
過去の栄光に縋り付いて、虚栄と虚飾に塗れた男。それが鴨志田だった。
最後の最後まで悪足掻きをして、今まで自分が知らなかった痛みを与えられた途端に心が折れて、負けを認めた弱い人間。
やがて、彼らは解散し学校を後にした。
いくばくかの不安を抱えながら――。
雨宮くん達の後ろ姿を見送りながら、私はようやく安心して息を吐く。
「はぁ……なんとかうまくいって良かった……。最後逃げられそうになったときは、どうしようかと思ったけど」
原作でも悪足掻きはしていたが、あんなに生き汚く最後まで足掻くとは思ってなかった。
メッセージを残すにあたってクルーピエと名乗ったのは、なんとなく自分の怪盗服から連想した。
クルーピエとは、カジノの卓で進行役や補佐を務める人たちのこと。ギャンブル怪盗なんて名乗るわけにもいかないし、急遽コードネームを考えたのだ。
もし今後呼ばれることがあったとして、ディーラーとか呼ばれるよりクルーピエと呼ばれたほうが収まりがいいからね!
とにかく、これで漸くカモシダ・パレスの攻略が終わった。
あとは、鴨志田の改心を待つだけだ。そうすれば、志帆は救われて雨宮くん達も退学を撤回される。
ペルソナ5Rの世界としては、やっとチュートリアルが終わったってところだけど、それでも私からしたら大きな節目をひとつ乗り越えたのと同義だ。
彼らは最後の最後で詰めが甘かったけど、きっと次は大丈夫……だと思う。
この先のハッピーエンドという未来を掴むための一歩は、彼らのお陰で踏み出せた。
今回のことを教訓にして、私は出来るだけ介入しないようにしようと誓う。
……だって、絶対今回知らないシャドウ出てきて苦戦したの私のせいだし。……本当にごめんなさいと心の中で彼らに謝りながら、帰路に着く私であった。
やっとチュートリアル終わりました。
怪盗服衣装はそのうちイラスト用意しようと思います。