欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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※この話はカモシダ編ラストではありますが、ちょっと主義主張が激しい部分がございまして、不快に思う方も居るかと思いますので、この話は飛ばしてしまっても問題ないです。とご忠告申し上げます。



第十一話 オマエラゼッタイユルサナイ

――5月2日。

全校集会。体育館の空気は、かつてないほどの異様さに包まれていた。突如現れて、壇上に上がった鴨志田が、震える声で自らの罪を告白し始めたのだ。

 

「私は……生徒たちに、取り返しのつかないことをしました……っ。鈴井さんや高巻さんにも、ひどいことを……。それだけじゃない、複数の女生徒に性的な嫌がらせを……男子には暴力行為を……全て、私の歪んだ欲望が招いたことです!転校生の彼らにも濡れ衣を被せ、退学を迫りました……もちろん撤回します……」

 

その後もツラツラと鴨志田が何か言ってる光景を、何も知らなかった生徒達が「鴨志田ってクソだったんだな」とか言ってる光景を、私は冷めた瞳で見つめていた。

隣では、パレス攻略後から鴨志田が姿を見せなくなっていた為、登校できるようになった志帆が、震える拳を握りしめ、壇上の男を真っ向から睨みつけている。その瞳には、恐怖ではなく、はっきりとした怒りの火が灯っていた。

 

(……よかった。もう志帆は、怯えて自分の境遇を諦めるだけの弱い存在じゃなくなったんだ)

 

私はそっと志帆の震える手を握り、話しかけた。

 

「大丈夫だよ、志帆。全部、終わったんだから。いっそ言いたいこと全部ぶちまけちゃえば?」

「海咲……私……。ううん、大丈夫」

 

私の体温に触れ、志帆の強張っていた肩がようやく解けたのか、少しリラックスしたようだ。

 

目の前では、怒りを押し殺しながら前に進み出た杏が、凛とした声で言い放った。

 

「……あんたがこれからどうなろうと、私は許さない。一生かけて、自分がしたことを後悔し続けながら罪を償って!」

 

それは、一人の少女が自分の尊厳を取り戻すために放った、断罪の意を込めた言葉だった。

運命を狂わされそうになった志帆と杏。

ようやく己の尊厳を取り戻すことができた2人に、やっと訪れた平穏。

これから、鴨志田はそれを奪い続けてきた報いを受けるんだ。せいぜい、苦しめばいいと思うよ。

 

だって、改心したってやった事は消えないんだから。志帆が傷つけられてきた過去も、杏を脅して付きまとってたことも、雨宮くんの悪評を三島くんに指示して校内に流してたことも。バレー部の部員に体罰やセクハラをし続けてたことも。

どれだけ悔やんでも良心の呵責に苛まれようとも、全て鴨志田自身が積み重ねてきた事実なのは変わらないから、ね。

 

よく、犯罪者にも更生のチャンスをとか言う人いるけど、人の人生犠牲にして狂わせてめちゃくちゃにして、反省しましたって顔だけして何食わぬ顔して暮らしてる人に対して、過去のことは水に流して頑張ろうなんて言える?

そう、言えるんだ?じゃあ敵だね。私とは一生分かり合えないから距離を置きましょう――っていう話でね?主義主張は十人十色。もちろん情状酌量って言葉もあるし、本当に更生してる人も居る。だからそれはケースバイケースだと思ってる。0か100かなんて極端な話ではなくて。

いつだって、被害者側の声は黙殺されやすい。複数の加害者側が黙るより被害者たった1人が黙ったほうが早いから。楽だから。

 

被害者は過去は飲み込んで生きていくべきとか、いつまでも引きずらずに前を向こうとか平気で言えちゃう人とは分かり合えないからね。仕方ないよね。

という感情を、私は鴨志田や学校側に対して抱いている。

 

鴨志田の独白が終わると、体育館は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

そして、これまで鴨志田に怯えて黙り続けていた三島くんたちが、変な噂に踊らされて雨宮くんや杏の事を悪しざまに言っていた人達が、手のひらを返したように私達の所へ擦り寄ってくる。

 

「あの時はごめん……僕も怖くて……」「鈴井さん! 大変だったね、僕もずっと心配してたんだよ!」「東雲さんが、鈴井さんのこと助けたって本当?すごいよ! 」「高巻さんもごめんね?何も知らずに変な噂鵜呑みにしちゃって」

 

ただただ自分が許されたいだけの、無責任なその言葉の数々を聞かされたその瞬間、私の中から底冷えするほどの冷たい怒りが噴出した。

まるで全てが許されたかのように、私達に寄ってこないで欲しい。お願いだから。

 

「……ねえ、ちょっといいかな」

 

私の放った声に、三島くんたちが蛇に睨まれた蛙のように動きを止めて青褪める。 志帆を背中に隠すように立ち、彼らを氷のような視線で射抜いた。

 

「怯えて何もせず、志帆が酷い目に遭わされるのをわかっていながら、あいつの所へ向かわせようとした人が……今更、どの面下げて擦り寄ってきてるの?実際私が介入できてなかったら、志帆は今頃ここに居なかったかもしれないのに」

「え、いや……それは……」

「三島くんがあの後、誰かに助けを求めてくれてたら、事態は変わってたかも知れない。それに志帆があの後どんな目に遭いそうになってたか、何も知らなかったでしょう。わかるよ、怖かったんでしょう?でも貴方が痛みと恐怖から逃れるために志帆を見捨てた結果、志帆が一生消えない傷を負うところだったのよ。憶測だけで好き勝手言って、杏を言葉のナイフで切りつけて笑ってた貴女達が、鴨志田先生が罪を告白した瞬間手の平を返して、上っ面だけの安っぽい謝罪。貴女達はそれで後ろめたさが消えるのかもしれないけど、杏の心に刻まれた傷跡は消えないからね」

「……いいじゃない謝ったんだから。鈴井さんのことにしたって結果的に何もなかったんでしょう」

 

目の前のムシケラの顔を掴もうとした私を、杏が必死で止める。

 

「待って!海咲!アンタが手出したらシャレにならないから!マジで!!顎砕けるでしょーが!!」

「……わかった、わかったから。ごめんってば……もう大丈夫だから」

 

危なかった。実際止められなかったら本当に顎を握り潰してたかもしれない。

仕方ないので代わりにポケットから胡桃を取り出して見せてから、握り潰して床に落とす。

 

「二度と私達に近寄らないで。……不快だから」

 

私の放つ殺気満々な威圧感の影響か、杏が止めに入らなければ自分の顎が胡桃のようになっていたのかと想像しちゃったのか、女生徒と三島くんたちは言葉を失い、震えて立ち尽くしている。拳を握り、まだ収まらない怒りを飲み込み、志帆の手を引いて歩き出す。

 

「……行こう、志帆。こんなところにいると、肺が腐る」

「あ、ちょっと! 待ってよ海咲、志帆!」

 

 

──慌てて追いかける杏の声を背に、海咲は一度も振り返らなかった。

残された蓮と竜司は、呆然とその背中を見送っていた。

 

「……マジか……東雲ってあんなおっかねぇのかよ……」

「……まあ、仕方ないだろ。あいつらのやってきたことは、ああ言われても仕方ないところもある」

 

(あんなに友達想いの東雲さんを、あそこまで怒らすほうが難しいだろうに。俺には理解できないな……。)

 

今追いかけてもマトモに話は出来ないだろうと判断して、蓮は海咲達を見送った。

 

怪盗団の日常は、この勝利を境に、さらに深く後戻りできない場所へと進み始めることになる。

また、冷静になった海咲は自分の行動に対して、言い過ぎたかも……と自己嫌悪に陥り、ビッグバンバーガーでヤケ食いを始め、チャレンジに失敗して志帆と杏に慰められていた。




短いですが、お口直しに本日もう一話投稿しようと思います。時間は未定。
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