欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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斑目編開始という名のダイジェスト展開。


第十三話 虚飾も虚栄も割とどうでもいい感じ

マダラメパレス――。

そこは、芸術家斑目一流斎の安い虚栄心が作り出した、黄金に輝く趣味の悪い傲慢さが溢れ出す、異質な美術館だった。

海咲は一人敵の視線を掻い潜り、音もなく移動していた。 蓮たちは、まだ本格的にパレスに侵入する前で、斑目の弟子である喜多川祐介との関わりを深め、斑目の悪事を問うている頃だろう。

 

(原作通り、趣味の悪い場所ね……。ここにある作品は、全部が誰かの作品を奪ってタイトルだけ貼り替えたフェイクばかり)

 

パレスに飾られた、斑目のシャドウを模した斑目展と書かれた()()()の数々。やたらと美化されたそれ。

私はその前へ立つと、懐から一本のスプレー缶を取り出した。

 

「……少し、スパイスを加えてあげるわ」

『ふふ、いいわね。その価値のないガラクタに、毒を加えてやりましょう。……やりなさい、海咲』

 

頭の中に響く冷ややかなマスターシュの声を背に、私は迷いなくスプレーを走らせた。偶然持ってたとかではなく、当然事前に購入してきたものだ。

認知の影響か、思い描いた色が出るスプレーを駆使して、やたらとグラフィカルにキャンバスの中央に大きく刻まれたのは――「Fake(偽物)」の文字。そして、その隅にトランプのスペードマークと、クルーピエのサイン。

 

──海咲は侵入可能ないくつかの展示室を回り、同様に斑目を模した作品の全てに同様のメッセージを残すと、警備のシャドウが気づく前に颯爽とパレスを脱出した。

翌日。パレスの攻略を目的に、二度目の侵入を果たした蓮たちは、異様な光景に足を止めた。

 

「おい、なんだこりゃ!?いくらなんでも警備の数、おかしくねーか!?」

 

竜司の言う通り、美術館内のシャドウたちは殺気立っていた。廊下の角から、シャドウたちの怒声が聞こえてくる。

 

『……美術品を汚した不届き者がいる! 総員、警戒を強めろ! あの落書きを残した侵入者を、必ず捕らえて処刑するのだ!』

 

「美術品を汚した……? おい、ジョーカー! 俺ら、まだ何もしてねーよな!?」

「ああ。……少なくとも、落書きなんてしていない」

 

困惑する竜司をよそに、モルガナが斑目の顔が描かれている()()()の前で足を止めた。 そこには、無駄にデザインセンスの良い「Fake」という文字がスプレーアートで描かれていた。周りを見回すと斑目由来の作品と思われる全てに同じものが描かれている。しかもご丁寧にサイン付きだ。

 

『……ワガハイ、このサインに見覚えがあるぜ。……カモシダパレスの時に落ちていたカードと同じだ』

「クルーピエ、か。……彼女は、俺たちとは別にこのパレスに入っているのか?」

 

蓮は、荒々しく、けれどそこかしこにセンスを感じるそれを見つめた。一体何が目的でこれをやったのか。狙いが全くわからない。

 

『何がしたいんだ……? 敵じゃねーみたいだが、味方とも言い切れねぇな……。シャドウの数がおっかねぇけど、とにかく行くしかねぇ!』

「……そうだな。今は先を急ごう」

 

蓮たちは首を傾げつつも、警戒度の上がった虚飾の美術館へと再び足を踏み出した。

 

 

── 一方その頃。 現実世界の喧騒から離れた、地下迷宮メメントス。

 

「至高の魔弾!!」

 

存在を刈り取る弾丸が、逃げ惑うシャドウたちを無慈悲に粉砕する。

私は、パレスでの落書きのことなど忘れて、ただ黙々とシャドウを蹂躙していた。

勝利の息吹の効果で、全身の細胞が再び活性化されていくのを感じる。

進行するマダラメ編の裏側で、私は着実に戦闘経験を蓄えていた。

 

『あら……。ずいぶんと荒ぶっているわね。今回は大人しく傍観者を気取っている反動かしら?』

「……別に。ただ、あんなギラギラした金ピカの虚勢の山を見てたら、本物の手応えが欲しくなっただけよ」

 

マスターシュの皮肉をやりすごし、私はカモシダパレスが攻略された影響で開いた次の階層へと歩を進める。

これから雨宮くんたちが直面するであろう、斑目が隠す罪の精算の時に備えて。

とはいえ……今回はそんなに私が介入する要素ないと思うんだよね。

私がパレスに居なければ、イレギュラーなシャドウが現れることもないだろう。

それを確認する術がないのと、雨宮くん達に確認することも出来ないのが辛いところではある。

 

調和奪われし路へと足を踏み入れると、雰囲気がガラリと変わる。

出てくるシャドウはどうなるのかな――と思っていると、早速お出迎えらしい。

 

「相変わらず不定形のシャドウ……。せめてアナライズ出来ればいいのに」

 

二丁のピースメーカーで頭部と思われる部分を撃ち抜き、戦闘の感触を確かめる。

……うーん、なんか一体だけだと物足りない?

というか、これ私レベル上がり過ぎなんじゃないかと思うんだよね……。

現実でもステータスが適用されているというのは、相変わらずなんだけど。最近握力また増えた気がして。

 

ちょっとジョギングしてみたりもしたんだけど、全然疲れないし速度も大分おかしくてぇ……。

外であんまり目立ちたくないから結構抑えて走ってたんだけど、それでも陸上部っぽい子たちを余裕で抜いちゃったし。

原作でも怪盗団の皆の身体能力は認知世界では凄かったと思うんだけど、そこから考えてもちょっと派手めに私のステータス高すぎな気がする。

 

雨宮くん達は原作では、現実だと年齢相応の身体能力しかなかったと思ったし……。

とはいえ、レベルの上限が99までってことを考えると、いつか打ち止めにはなるはずだから……。

まあいいや!考えても仕方ないし。レベルダウンとか出来ないしね。

 

そんな事を考えてる間にも、シャドウは続々と寄ってきている。

――が、マハムドはマハムドオンに進化し、メギドラはメギドラオンに進化した。そのため、さして苦労もなく倒せてしまう。

相変わらず残りの二枠が埋まらないけど、スキルカードって一度も拾ったことないんだよね。

まあ、ほぼ初手で倒せるし今のところ特に欲しいスキルもないんだけど……。

 

しばらくシャドウを狩るが、どうにも手応えがない。これもしかして、上の思想奪われし路のほうがシャドウ強くない……?

 

『……海咲、つまらないわ。ここに私達が心躍る存在は居ない。無価値よ』

「同意するわ。……もう帰ろ」

 

珍しくローテンションなマスターシュの声に同意しながら、私はひとつ上へと登ってメメントスから脱出した。

はぁ……なんだかなあ。戦闘狂ってわけでもないし、()()()()()()()()とか思いたくないんだけど。

ため息をついて歩いていると、渋谷の喧騒の中でこちらに向かって歩いてくる見慣れた姿を見つける。

 

赤毛のポニーテールを揺らし、重そうな荷物を代わりに持ち、お婆さんの手を引いて渋谷の交差点を歩く少女。芳澤()()()ちゃんだ。

彼女は周囲の視線など気にする様子もなく、懸命にお婆さんをサポートしている。

だが、そんな彼女の背中に、通りすがりの若者たちが心無い言葉を投げかけた。

 

「けっ、見てみろよ。これ見よがしにいい子ぶっちゃってよ」

「典型的な偽善者だよな。目立ちたいだけだろ。ああいうのってだせぇよな」

 

かすみの肩が、微かに震えた。気付いてるだろうけど、彼女は何も言い返さず、ただ俯いて老婆を送り届けようとする。

その光景を見た瞬間、私の導火線に火がついた。

 

「――ちょっと、失礼」

 

目にも止まらぬ速さで若者たちの背後に回ると、その中の一人の臀部に、手加減した回し蹴りを食らわせる。

 

「うぎゃっ!? な、なんだお前!」

「あら、ごめんなさい。目の前にゴミが落ちていたから、つい蹴り飛ばしたくなっちゃって」

 

威圧を乗せて軽く睨む。それだけでモブ達は怯む。

よっぽど良いところに入ったのか、腰が抜けたように這いつくばるモブ。

スクランブル交差点に常駐する警察官も、チラッとこちらを見たがすぐにスルーした。

どうやら、見て見ぬふりをしてくれたらしい。……と思ったけど、一応目線だけこっち向いている。早々に立ち去ろう。

私はにこやかな微笑みを浮かべ、「ごめんあそばせ」とお上品に対応し、臀部を押さえながら呆然とする若者たちを放置して、お婆さんの手伝いを終えていたらしい、かすみちゃんの手を取った。

 

「行くわよ」

「えっ、あ、はい……!」

 

少し歩いた駅前のベンチ。私は足を止め、かすみちゃんに向き合った。

 

「あ、あの。ありがとうございます。こないだもお会いしましたよね?あ……私、芳澤かすみと言います!そういえばあの時、自己紹介をしていませんでした!」

「2年の東雲海咲だよ。……かすみちゃん、さっきの奴らの言葉なんて気にしなくていいからね?」

 

私は、どこか不安げな表情を浮かべる後輩の瞳を真っ直ぐに見つめて言った。

 

「周りがどう言おうと、私は貴女が正しいことをしたって思ってるよ。……いい? いくら偽善って周りが思っても、助けられた相手が感謝しているなら、それはもう『善』でしかないと思うの。だったら、あんな奴らに悪口を言われる筋合いなんて、一ミリも無い。そうでしょう?」

「……あ」

 

かすみちゃんは目を丸くし、それから噛みしめるように深く頷いた。

 

「なるほどです……! 相手の方が喜んでくださるなら、それが一番大切ですよね。……ありがとうございます、東雲先輩! 私、なんだか元気が出ました!」

「ふふ、それならよかった。……じゃあ、私はこれで。またどこかで見かけたら気軽に声かけてね」

「はい! 失礼します!」

 

元気よく一礼して去っていくかすみの後ろ姿を見送り、私の理性は一気に決壊した。

 

(あぁー! やっぱ可愛い! 礼儀正しい! 超絶いい子!! 蹴ってよかった! あの男のケツ、もっとボコボコにしとけばよかった……!)

 

内なるファン心理を爆発させながら、スキップしたい衝動を必死に抑えて四軒茶屋への帰路についた。

 

(……でも、彼女もこれから大変な運命に巻き込まれていくんだよね。……まだ先の事ではあるけど、出来る範囲で彼女のことも見守っておかなくちゃ)

 

――初夏の風を受けながら、海咲は新たな推しを守る決意を、静かに、けれど熱く固めるのだった。

一方、蓮達は喜多川祐介を仲間に加え、斑目への怒りを胸に抱き覚醒した祐介の身を案じ、撤退しているところであった。

海咲の悪戯で増殖したシャドウを律儀に倒しきり、存分に成長した彼らであったが、その原因を作ったのが海咲であるということは、当の本人は全く知らないままである。

 

「しっかし、お前いつの間にか知らねえペルソナ増えてるよな。どうやって増やしてんの?」

「……説明が難しいな。牢屋の中で、俺は囚人で……そこに態度の悪い双子の幼女と目の飛び出そうな鼻の長い年寄りが居て、そいつらにギロチンで処刑してもらって……」

「お前が何言ってんのか全っ然わっかんねえんだけど……」

「今回は、新しいペルソナも複数作れたからな。斑目のパレスは戦力向上には丁度良かった」

『わんさかシャドウが出てきたからな。最初はクルーピエのせいで大変だと思ったが、こうなってくるとアイツのおかげって言えるかもしれねえな!』

 

どうやら、意外と海咲のやらかしは彼らにとっては良い方向に作用したらしい。

 




良かった風に終わらせれば、良い感じに……ならないですよねー。
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