欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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毎日投稿はなんとか頑張ります。


第十四話 人違いですぅ!

「ふむ……。ここが大衆の心の具現、メメントスか。実に興味深い、が……」

 

喜多川祐介ことフォックスは、独特の感性で歪んだ地下迷宮を見渡しながら、狐の仮面の下で眉をひそめた。

 

「おい、モナ。なんか今日、シャドウどもの様子がおかしくねーか? やけに殺気立ってるっていうか、ビビり散らかしてるっていうか……」

 

竜司が武器を構えながら、周囲を警戒する。その言葉通り、本来なら怪盗団を襲ってくるはずのシャドウたちが、何かに怯えるように逃げ惑い、あるいは過剰に攻撃的になっていた。

 

『ああ、ワガハイも気になってたところだ。……待て、この気配。シャドウとは違う、強大な何かが奥にいるぜ!』

 

モルガナの警告に、蓮が頷く。

 

「……行こう」

 

一行が通路を駆け抜け、フロア最下層手前の駅のホームを模したエリア前にある、開けたエリアにたどり着いた瞬間。彼らの目に飛び込んできたのは、凄まじい、まさに蹂躙という言葉がぴったりな光景だった。

 

「至高の魔弾――」

 

冷徹で、けれど気品に満ちた女性の声。 直後、空間そのものを抉り取るような漆黒の弾丸が着弾し、十数体のシャドウを一瞬で塵へと変えた。その中心に立つのは、フード付きのマントを翻し、二丁の拳銃を優雅に構える謎の人物。

 

「……クルーピエ!」

 

かけられた雨宮くんの声に、びくりと肩を揺らした。私は内心、盛大に冷や汗を流していた。

 

(うわあああ! なんでこんな時に来るの!? 油断した……レベリングに夢中になりすぎた!)

 

冷静を装ってマントのフードを深く被り直し、顔を隠した。そのまま何も見ていないフリをして、無言でこの場を去ろうとする。

 

「……待ってくれ」

 

だが、雨宮くんがその前に立ちはだかった。彼は不敵な笑みを浮かべ、怪盗服のポケットからクルーピエが残したカードを取り出して言った。

 

「助けてもらったお代……。取り立てるんじゃないのか?」

 

その言葉に、坂本くんと杏が「あっ!」と声を上げる。

 

「お代……ってこた、 待てよジョーカー、じゃあ、こいつがあの時の――」

「アンタがクルーピエ……!」

 

杏たちの視線がバシバシと突き刺さる。私は閉じた口の中で、軽く唇を噛みながら震える声を必死に抑え、平静を装って言い放った。

 

「……あら、よく覚えていたわね。でも、今のあなた達の実力じゃ、私にお代を支払うことはできないでしょう?」

 

言外にもっと強くなって出直しなさいと伝えたつもりで、ぷいっと顔を背け、出口へと歩き出す。

 

「お代はまだ貸しにしておいてあげる。……精算の時は、またいずれ。それまでに、もっと貴方達が積めるチップの価値を上げておくことね」

「あ、待てよ! お前、一体――!」

 

引き止める坂本くんの声を置き去りに、私はあっという間に去っていった。メメントスで鍛え上げられた身体能力は、今の彼らでは到底追いつけるものではなかった。

 

『……行っちまった。あいつ、マジでナニモンだよ』

 

呆然と立ち尽くす怪盗団の面々。一方、蓮と杏は、彼女が消えた方向をじっと見つめていた。二人の頭の中には、共通の「ある少女」の面影が浮かんでいた。

 

(喋り方こそ芝居がかっているが……あの声、同じ髪型にあの姿。それに、圧倒的なまでの強者感……)

 

蓮は隣の杏に視線を送ると、彼女もまた確信を得たように静かに頷いた。

 

「……やっぱり、そうなんじゃない?」

「ああ。……おそらく、間違いないな」

 

新入りの祐介だけが「お代……? 貸し……? 驚嘆するほどの逃げ足だったが……一体あれは誰だ?」と首を傾げる中、二人の心の中では、友人の東雲海咲に対する疑惑が、もはや確信へと変わりつつあった。

 

一方、シノノメ=サン。

 

(あー……終わった。絶対バレてる。雨宮くんの目付き、何かに気付いたような感じだったし……。あぁ……彼らの気配を失念してたなんて……。斑目編不参加の鬱憤晴らしに、あんなに派手に暴れるんじゃなかった……!あーもう!しょうがない!なんとか知らん顔しよう……!!)

 

 

現実逃避を決意した翌朝。登校のために家を出た私の足取りは、鉛のように重かった。そして、 よりによって今日一番顔を合わせたくない人物が、ルブランの前で待ち構えていたのだ。

 

「……おはよう、東雲さん」

 

雨宮くんが、静かだが逃がさないと言わんばかりの視線をこちらに向ける。私は心臓をバクバクさせながら、精一杯いつもの笑顔を浮かべて挨拶した。

 

「お、おはよ! 雨宮くん。今日も早いね。……あ、遅刻しそうだから、また後で!」

 

大分時間に余裕はあるが、支離滅裂な言い訳をして逃げるように駅へと急ごうとする。だが、運命は非情だった。

 

「ちょっと話があるんだ。一緒に登校しないか?」

 

雨宮くんに手を掴まれ、観念した私は「はいぃ……」としか言えなかった。

もうダメだぁ……終わりだぁ……。私のモブ生活が音を立てて崩れていくんだぁ……。あ、でも掴んでくる手がちょっと優しい……。

 

話があるとは言いつつ、切っ掛けを探っているのか。一向に話しかけてこない。

ちらりと横目で伺うと、彼の鞄が微かに揺れる。中からは、普通の人には猫の鳴き声にしか聞こえないはずの声が、私の耳に鮮明に届いていた。

 

『おい蓮、昨日のあのクルーピエ……やっぱりコイツだよな? 声質も背格好も、ソックリすぎだぜ。髪の色も一緒だしな』

 

(……っ、モルガナ! 声が! 声が丸聞こえなのよ! 聞こえてるんだからね、こっちは!!)

 

私は必死に聞こえないふりをしてスマホを見つめるが、隣からの視線が痛い。彼は時折、鞄の中のモルガナに何かを囁き返している。

……そっかぁ、髪の色かあ。フードとマスクがあるから大丈夫とか、冷静に考えたらそんなわけないよねぇ……。

 

『よし、あとでアン殿たちと合流して、本人を問い詰めようぜ。逃がさないように作戦を練っとけよ』

 

(全部聞こえてるわよ! やめて! 怖い! 誰か助けて!)

 

結局、ろくに会話もせず。

冷や汗を流しながら学校に辿り着き、午前の授業を終え、志帆と昼食を済ませて一息ついた時だった。

 

「海咲、ちょっといいかな?……屋上まで一緒に来て。話があるの」

 

杏が、いつになく真剣な表情で教室に現れた。教室の外には、雨宮くんと坂本くんが控えている。

 

(おぉ……チェックメイト、ね……。流石にもう、誤魔化すのは無理かぁ…………)

 

 

 

――屋上。人目を避けて辿り着いたそこには、喜多川くんを除く怪盗団の面々が揃っていた。

 

「……単刀直入に聞くぜ。お前が、昨日会ったクルーピエなのか?」

 

坂本くんの問いに、私は深く溜息をついた。

これ以上、知らぬふりをして彼らを欺くことに諦めを感じていた。 彼女はゆっくりと前髪を払い、ペルソナ使いクルーピエとしての冷徹な眼差しを彼らに向けた。

 

「……正解。あの時あなた達を助けたクルーピエは、私。東雲海咲だよ」

「やっぱり……! どうして今まで黙ってたの? 海咲、あんな力があるなら、私たちと一緒に――」

 

杏が嬉しそうに食い気味に誘ってくるが、私は静かに首を横に振った。

 

「ごめん、杏。私には私の考えがあって、独自のやり方で動いているの。貴方達怪盗団の活動は応援してるし、手助けするのはやぶさかじゃないわ。……でも、一つだけ言わせて」

 

声のトーンが、一段と低く、鋭く。

これは言わないといけない。これだけは伝えておきたいから。

 

「貴方達、日常生活で怪盗団のこと仄めかしてたりしない?まさか街中で吹聴してたりしないよね?」

 

予期せぬ言葉に面食らったのか、雨宮くんたちは息を呑んで黙りこむ。

心当たりはあるはずだ。だって打ち上げのビュッフェで周りの目を気にせずに、怪盗団を結成したはずだから。

原作と違って、現実である今だからこそ。彼らの行動を戒めるために必ず伝えておかなきゃいけない。

 

「街中ってそこら中に監視カメラがあって、そこら辺を歩いてる無数の人間も、全員その他大勢のエキストラじゃないんだよ?人の心の迷宮に入れる力が、自分達だけが持ってるものだと思ってる?現に私もその力を持ってたんだよ。この力を悪用する人だって居るかも知れない。その関係者が街中でそういう話を聞きつけて、狙ってきたらどうするの?監視カメラを自由にチェックできる人の中にそういう相手が居たとしたら?」

『……確かに、居てもおかしくはねぇ。味方ではあるみてぇだが、シノノメの存在が最たる例だ』

「私も貴方達も、無敵じゃない。もし警察や軍隊が怪盗団は危険だと判断して本気であなた達を潰しにきたら、その力に抵抗できる? ……忘れないで。一歩間違えれば、貴方達が危険人物として断罪される側になるかもしれない。シャドウとの戦いじゃなくて、現実での出来事って意味だよ?お願いだから、慎重に行動して欲しいの。雨宮くんならわかってくれるでしょう……?」

「ああ……痛いほどね」

「……そういうことだから、人が居るところでの発言には十分気を付けてね?お互い、頑張りましょ」

 

それだけを告げると、私はフリーズして考え込んでしまった彼らを残して、一度も振り返らずに屋上を去った。

 

(……はぁぁぁぁぁぁぁ!! 緊張した! 言い過ぎじゃなかったかな?私の言い分、めちゃくちゃ上からだったかも……。 もっと良い言い方あったかなぁ!?)

 

階段を駆け降り、人気のないトイレの洗面所で、私は自分の顔を確認する。 鏡の中の自分は、少し顔色が悪い。

 

「……ガバガバな言い訳だったけど、とりあえずは不参加の意思は伝わったかな……? でも、面と向かってあんなこと言っちゃったし、もう気まずくてルブランで呑気にカレー食べられないかも……」

 

ため息を吐きながら、先ほどのやり取りを思い返す。

この先に待ち受ける展開を、原作知識として知っているからこそ、あえて彼らを突き放すような物言いになってしまった。

今の時期浮かれ気味であろう杏と、主に坂本くんに向けて。

 

実際、私の介入で起こるであろうイレギュラーや、私が仲間に入ることで彼らの実戦経験の機会を奪ってしまいかねないという部分を考えると、加入出来ないというのは本音でもあるのだ。

人は一度楽を覚えると、そっちの方向へ傾いてしまうものだから。

彼らにはそんな風になってほしくない。

 

とはいえ、好き勝手動いてる私が言っていいセリフだっただろうかと、自己嫌悪に駆られる。

お前のほうがよっぽどだよと、罵られそうだ……。

 

(原作知識を持っているから、未来がわかる。なんて伝えられたら楽なのになぁ……。そもそも私自身、自分のこともよくわかってないのに偉そうに言えた義理じゃないよね……。……でも、さっきのことを切っ掛けに少しでも、明智くんやターゲット周りにマークされる危険を減らすことが出来れば……と思うんだけど)

 

──海咲の瞳には、この先に起こることを知る者としての目線と、友を想う切実なものが、複雑に混ざり合っていた。

それとは別に、やっぱめちゃくちゃ偉そうだったよねぇ……と1人ヘコんでいた。




なんか説教臭くてやだなあ……。杏と竜司、面倒な役押し付けてごめん案件。コミュの竜司はとても好きです。
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