欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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本日は増量気味でお送りします。


第十五話 アナザーエンカウント

(うあぁ……恥ずかしい。死ぬ。穴があったら入りたい……っ!)

 

結局誰かに自分の失態を聞いてほしくて、色々とかなぐり捨てて来てしまったその日のルブラン。

カウンターの端で、私は冷めかけたコーヒーを前に項垂れていた。

昼間の屋上での御高説を思い出すたび、顔から火が出そうになる。

 

「……マスター。私、雨……友達に偉そうに長々と説教がましく講釈垂れちゃいまして。今思うと、ただの痛い奴だったんじゃないかって……もう……気になって気になって……」

 

新聞を流し見していたマスターが、眼鏡の奥で目を細めて笑った。

 

「まあ、そう気にすんなって。熱くなって本音をぶつけ合うのも、青春ってやつだろ。お前さんみたいに真っ直ぐ怒ってくれる奴は、相手からしてみりゃ案外貴重なんだぜ」

「そうでしょうか……。あ、雨宮くんには内緒にしておいてくださいね」

「……噂をすれば、だ」

 

カランコロン、と入り口のベルが鳴り、雨宮くんが店に入ってきた。

うおぉ……と、頭を抱える私と、苦笑するマスター。

マスターはすべてを察したように、雨宮くんに顎をしゃくって言う。

 

「……なるほどな。おい、ここじゃ他のお客さんも来る。大事な話があるなら、上でゆっくりしてこい」

「……わかりました。行こう、東雲さん」

「えっ、あ、はい……」

 

ギシリ、ギシリと鳴る階段を断頭台に登る死刑囚のような気持ちで上り、たどり着いたのはあの屋根裏だった。

 

(うわあああ! 屋根裏だ! 本物の屋根裏部屋! 段ボールの置かれた棚も、あの古びたソファや机も!……聖地巡礼というか、もはや聖地じゃん!感動……!)

 

一人、心の内で聖地巡礼の喜びに浸る。いやまあそんな事言い出したら、この世界そのものが全て聖地になってしまう。しかも、数秒前まであれだけ悩んでいた事も浮かれきった私の頭の中にはもはや1ミリもなかった。

 

とはいえ。

 

「……そこ座って」

 

雨宮くんに促され、ぎこちなくソファに腰を下ろした。彼の鞄の中からモルガナが顔を出し、ベッドの上に飛び乗る。

 

「……東雲さんの言う通りだ」

 

雨宮くんが、静かに口を開いた。

 

「俺たちのどこかに、ヒーローみたいに目立ちたい、持て囃されたいっていう浮ついた空気があったのは確かだ。……少し、気をつけるよ。君に言われなきゃ、俺たちは足元を掬われていたかもしれない」

『ワガハイも同感だぜ。特にリュージの馬鹿は最近怪盗チャンネルの影響か、調子乗ってたからな。シノノメの言葉で少しは思い直してくれりゃいいんだけどな。……言いづれぇこと言ってくれて感謝してるぜ』

「……そんな、私……」

 

私は顔を伏せた。本気で心配したからこそ出た言葉だったが、こうして真面目に受け止められると、やはり照れくさい。

 

「……その上で、聞かせてほしい」

 

雨宮くんの瞳が、射抜くように私を見つめる。

 

「君の目的は何だ? 俺たちを助けてくれる理由は? ……協力できることがあれば、是非したいと思ってる」

「それは……今は言えない」

「……どうしてもか?」

「うん。今はと言わず……ずっと言えないかもだけど」

 

私は顔を上げ、強固な意志を込めた、でもどこかやりきれない表情で彼を見つめ返した。

 

「今は私のことを、お助けキャラとでも思っておいて。いつかきっと、私の真意と目的を伝えられる日は来る、はず。……だから、今はそっとしておいて欲しい」

 

確かな拒絶の意志を込めて。ただ、確実に君たちの敵ではないと滲ませて。

 

「ただ、どうしてもピンチで、どうにもならなくなった時は……私を呼んで。きっと、助けになるから。これだけは、信じて」

 

雨宮くんは、私の瞳の奥にある揺るぎない覚悟を感じ取ってくれたのか、それ以上何も言わなくなった。やがて、諦めたように少し間を置いて――。

 

「……わかった。信じるよ」

「ありがとう。信じてくれて嬉しい」

「ちなみに、東雲さんはいつからペルソナ能力を……?」

「雨宮くんが、初めて渋谷に辿り着いた日。覚えてない?あの日渋谷ですれ違ったの」

「えっ?そうなのか……ごめん、知らなかった」

「ううん、お互いただの他人だったし。無理ないよ。……それで、すれ違ってすぐに変な赤いアイコンが勝手にアプリを起動し始めて、気付いたら周りの人の動きが止まってて。足も鉛のように重くなって、絶対おかしいと思ってなんとかここから逃げないとって思って渋谷駅の地下に降りたら、あの洞窟みたいな所に迷い込んじゃって……」

『……メメントスか…』

「あそこメメントスっていうんだ……っていうか、この声誰が喋って…………猫ぉ!?」

『ネコじゃねーよ!っていうか今更かよ!!』

 

モルガナが激昂するが、メメントスで変な生き物が喋ってるのは把握してたけど、猫のモルガナとは認識してないっていうのが自然だからね、私の状況的に。

ちょっとアリバイ作りをさせてもらった。

 

「メメントスで会った時、二頭身の仲間が居ただろう?現実世界のソレがモルガナなんだ」

『あの時ワガハイが喋ってるの聞いてただろ?その認知が現実世界で言葉が通じるって認識になるんだよ』

 

手ぶりでこれぐらいと示しながら雨宮くんが言って、モルガナが捕捉してくれる。アリバイ作りの捕捉助かるー。

 

「居たね。えっと……あの時モルガナちゃんの話す声聞いてたから、モルガナちゃんは喋れるって認識になって、結果言葉がわかるようになって……る?」

『お、理解出来てんな。その通りだぜ』

「東雲さん、モナでいい」

『なんでお前が言うんだよ!』

「あ、うん。よろしくねモナ。私は東雲海咲だよ」

『おう、ヨロシクなシノノメ!』

 

というわけで、モナの言ってることが理解できるっていう段階は無事に踏めたわけなので、話の続きに入る。

 

「話戻すね。そのメメン……トス?そこで不定形のドロドロした奴らに囲まれて死にかけたんだよね……。こんなところで死んでたまるかって思った。その時なんか頭の中から声が聞こえて……。いつの間にか被ってた仮面を剥ぎ取ったらマスターシュが現れて、そいつらが全滅して……って感じだったよ」

「マスターシュ……君のペルソナか」

「うん、ペルソナっていうんだ?ペルソナ……ね。うん、しっくり来たかも。それでメメントスに行けるようになって、しばらくあそこでペルソナの力の使い方とかを鍛えてたの」

『鍛えるって、独りでか?』

「うん、そうだよ。マスターシュが結構自我強めで、度々喋りかけてくるからあんまり独りって感じしなかったけどね」

 

あっけらかんと笑って言うと、雨宮くんとモナは微妙な表情をしている。

なんか変なこと言ったかな?

 

「普段からペルソナと会話してるのか?」

「ん?うーん……会話っていうよりは、要所要所で囁いてくるというか、それに私が応える……みたいな感じかな?決意表明とかにはちょうど良くて意外と重宝してるんだよね」

『そんな自己主張激しいペルソナ見たことないぜ……』

 

えっ……そうなんだ。確かに原作でペルソナが話す時って覚醒する時とかぐらいだったような……?もしかして、うちのペルソナめちゃくちゃ目立ちたがりだった……?

 

『黙りなさい海咲。私は貴女の分身なのよ。つまりその意見の全ては貴女に跳ね返ってくるという事。その事実を、謹んで受け止めなさい』

 

若干怒ったようなマスターシュの言い捨てるような声が頭の中に響く。

マスターシュさん激おこですやん……ごめんて。

 

「それで、鴨志田のパレスに現れたのは何故……?」

 

来ちゃったなあ。ある意味でここの説明が一番難しい。

だって私、全て分かってるわ、ここは任せて目的を果たしなさいなんてムーブしちゃったからさあ……!

パレス侵入は偶然でいいけど、オタカラのこととか一体どうやって知ったのかとかさあ……!(この間わずか0.2秒)

 

「あ、それはホント偶然というか。帰る途中に鴨志田に対して、学校を自分の城みたいに思ってるんでしょうねあのクズってボソッと呟いたら、メメントスのときみたいに変なアプリが勝手に起動して……って感じ。その後は予告状見て、合わせて侵入してって感じ」

『お前のイセカイナビ、言葉呟いただけで起動すんのかよ……危ねぇな』

「私に言われても……私も困ってるんだよホントに」

「でも、あの時は本当に助かった。改めてありがとう東雲さん」

「う、ううん。気にしないで。私も助けられて良かったよ」

「でも、何故予告状が俺達の仕業だとわかったんだ?」

「前にね、雨宮くん達がパレスに入るとこ見ちゃったんだよね。遠目に。何も知らなかったら目の錯覚って思ったかも知れないけど、私はあのパレスのこと知ってたから」

 

っていうことにしておこう!余計なこと言わなければ多分バレない!

 

『……んで、マダラメパレスで落書きしたのは、どういうアレだったんだ?』

 

うぐぅっ……!?聞かれるよねぇ、そうだよねぇ……!

ダメだもう開き直るしかない。

ここで、全ての未来を知っているなんて言えないし、捏造するしか!もはや明日の自分に責任を放り投げるしかない……っ!

 

「私が誰かに知識を与えられている……って言ったら信じる?」

『どういう事だ?他に協力者が居るってことか?』

「違うよ。詳しくは言えないけど、不思議な存在。それ以外は私もよく分かってないの。だからその与えられた知識をもとに、私は動いてる。鴨志田のときは志帆のためにって動いてたけど、もっと事情に詳しそうなキミ達が居たから、解決を任せちゃったけど」

「……声をかけてくれれば良かったのに」

 

なんかいけそうな気がしてきた……!

もう一押しだ、行けぇ!

 

「こないだの見てわかったと思うんだけど。私結構強くて」

『いや、ハッキリ言って異常な強さだぞオマエ。ワガハイ達が束になっても勝てる気がしねぇ』

「……まあ、とにかく強くてね?私が鴨志田のパレスに乗り込んだ時、出てくる敵が結構強くて。具体的に言うと、あの時雨宮くん達が戦ったヤツよりは明らか少し弱いなぐらいの感じ?」

『そんなわけねぇ!アイツの強さはあの時のワガハイ達じゃ手も足も出なかった。だからアイツより弱いとはいえ、そんな強さのシャドウなんて一度も見なかったぜ?』

 

モナが疑惑の眼差しを向けてくる。

が、そこに関しては仮説でしかないけど、ほぼ確の認識があるからね。

 

「おそらくなんだけど、私の存在が鴨志田にとってイレギュラー過ぎて、防衛システム的な何かが過剰反応したんじゃないかって思ってる」

「東雲さんが、入り込んでたときは、東雲さんに合わせて敵が強くなってて、そうじゃない時はいつも通り。あの時は予告状の影響で、警戒度も跳ね上がってたから尚更……ってことか?確かにあの時、鴨志田の前に戦闘になったのはあそこだけだった。……腑に落ちるな」

「そう。だから、私が皆と居ると逆に危険になると思った。これが、一緒に行けない理由」

「歯がゆいな……。……ごめん、気を遣ってくれてたのに責めるような言い方して」

「ううん、こっちこそ結果的に危険な目に合わせてごめんなさい。斑目のときは、それもあって極力干渉しないようにしてたの。大丈夫だった?」

『お前の落書きで警備のシャドウがわんさか増えてた以外は問題なかったな。それ以外はな』

「謹んでお詫び申し上げます」

 

ハイスピード土下座をソファの上でキメる私。

心の中では「まだだ……まだ笑うな……!」と、得意のポーカーフェイスで誤魔化す。は?ホントに得意だが?普段はお茶目を演じてるだけなんだが?

しかも、斑目のパレスで落書きしたのは、原作知識の影響からどうしてもやりたくてやったっていうのが真相だし……。雨宮くん達には悪いことをしたと反省しております。

 

「東雲さん、頭を上げてほしい!それと、尋問みたいになっちゃってごめん……」

「ううん、雨宮くん達からしたら露骨に怪しいヤツだもんね……しょうがないよ」

 

笑顔でそう告げる。

私が彼らの助けになりたいと思っているのは本当だから、正直疑われるのは辛い……とはいえ、自身の振る舞いを思い返すと私が一番調子乗ってたのではないかと思うと、自分の発言がブーメランになって襲いかかってくる。

忘れろビーム!!!心に棚を作れ!私の羞恥心を棚に上げて心を守れ……!

 

 

そんなこんなで無事会話(じんもん)を終え、階段を降りると、マスターが「終わったか」と声をかけてきた。

 

「もう暗い。東雲さんを家まで送ってやれ」

「えっ、いいですよ! すぐそこですし!」

「ダメだ。女の子一人を夜道で歩かせるわけにいかねえだろ」

 

結局、雨宮くんが送ってくれることになった。 すっかり日が落ちた夜の四軒茶屋。街灯がまばらな路地を、無言で歩く。数分もかからない距離だが、私にとっては色んな意味で永遠のようにも感じられた。

 

(……送ってもらってる。推しに家まで送ってもらってる! ご褒美が過ぎる……!)

 

内心で若干の脳内祝祭を起こしながらも、私は努めて平静を装った。

 

「……ありがと。ここまでで大丈夫だよ、雨宮くん」

「……ああ。じゃあ、また明日」

 

彼が、少しだけ和らいだ表情で手を上げる。私もフリフリと手を振り返した。

 

「うん、また明日ね!」

 

彼の姿を見送って自宅の扉を閉め、鍵をかけた瞬間――。

 

「ぎゃあああああああ! 恥ずかしい!推しに家まで送ってもらうボーナスタイム…… ……いや、でもすでに1回家に上げてたね……?」

 

スン……と冷静になるも、過去の出来事を思い返して顔が熱くなってくる。

私は寝室のベッドになだれ込み、枕に顔を埋めてじたばたと悶え狂った。いやいやだって、あの時は事情が事情だったからそんな事意識してなかったし……!

シャドウを容赦なく狩る、メメントスでの冷酷な仮面は、今の私にはどこにもなかった。

 

(でも、今回はうまくやり過ごせた……と思う。私が一緒に戦えない理由も納得してもらえたはず。とはいえ今後もゴリ押し出来るかは怪しいなあ……)

 

月明かりの下、私は溜息をつく。一気に安心したせいか、いつの間にかぐっすりと夢の世界へ旅立っていた。




一話ごとの切りどころって難しいですよね……。
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