欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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日常回です。いや日……常?……日常です。


第十七話 東雲捕物帖

六月のジメジメした空気の中、私は秀尽学園の社会科見学で銀行に来ていた。 本来の候補地にはテレビ局もあったけれど、私は迷わず銀行を選んだ。理由は明白。あそこでキラキラした笑顔を振りまいているはずの探偵王子の再来こと、明智くんに接触するリスクを最小限に抑えるためだ。

奇しくも、金城のパレスへの手がかりを探しているであろう怪盗団の行動に思考が引っ張られたような気がしないでもない。

 

「銀行かあ……。ほとんど来たこと無いなあ」

 

隣で無邪気に笑う志帆。そして、いつもの三人組A、B、C――荒川さん、尾藤さん、蝶野さんも一緒だ。 やはりテレビ局に人が取られたのか、人数は私達や先生を含め、10人も居ない。「銀行の裏側とか、ちょっと興味あるよねー」なんて暢気な会話をしながら、私たちは大手銀行の広々としたロビーの端っこで邪魔にならないようにこの後の流れの説明を受けていた。

 

「でも、海咲はテレビ局にすると思ってた。雨宮くん達も行くし」

「んー……私結構マスコミって嫌いでさ。テレビ局とか、華々しい裏でヘドロみたいな悪意が渦巻いてそうだし。精神衛生的に良くないかなって」

「偏見すごいねえ……」

 

なんて、和やかに談笑しながら、本日の引率係の人の案内で銀行内にお邪魔する。

実際、銀行の裏側の業務ってどんななんだろうと興味はあったので、少しウキウキしていた。

だが、私の平穏な計画は、正面玄関から入ってきた一人の男によって呆気なく崩れ去った。

 

「動くな! 全員その場に伏せろ!!」

 

怒号と共に響いたのは、乾いた金属音。 男の手には、一丁の拳銃。黒光りする本物のそれを天井に放ったようだ。

周囲が悲鳴に包まれ、志帆たちが恐怖で硬直する。

 

(……はあ。よりによって、こんなこと起きる?明智くん避けの代償大きすぎない!?)

 

犯人は一人。短絡的で、ひどく焦っている。彼は手近な獲物を探すように辺りを見渡し、そして最悪の選択をした。よりによって私の腕を掴み、背後から銃口を突きつけて叫んだのだ。

 

「こいつを殺されたくなければ、金を出せ!!」

 

……不運ね、貴方。 メメントスで、異形の化け物たちを相手に死線を潜り抜けてきた私を人質に選ぶなんて。しかも現実世界でステータス適用されちゃってるチート人間相手に。

 

「……ねえ。手が震えてるわよ」

「あぁ!? 何を――」

 

男が戸惑った刹那、私の身体は思考より先に動いていた。 後ろ手で犯人の指をまとめて握り込んでトリガーから指を離させながら上方に逸らし、同時に左肘を男の鳩尾へ叩き込む。

「うぐぇッ!?」という情けない吐息と共に男の身体が折れた。すかさず手首を捻り上げ、銃を取り上げる。人のいない方へ銃を蹴り捨てて、流れるような動作で脚を払い、腕を極めながら、顔面を大理石の床に叩きつけて気絶させた。安心せい、峰打ちじゃ。

 

一瞬だった。シャドウを相手にするより、よっぽど簡単。

 

「……警察が来るまで、寝てなさい」

 

警備員を呼び、引き渡す。 周囲の静寂。志帆たちの、そして周囲の人々の呆然とした視線が痛い。

事態は平和的に収束したが、問題はその後の処理だった。

 

「みさきち……すご、すぎるよ……」

「東雲さん、あんた一体何者なの!?」

 

目を丸くする荒川さんたち三人、そして一緒に来ていた残りの生徒と先生や一般の人達に、私はちょっとだけ剣呑な眼差しを向けた。

 

「いい? 今日のこと、私の情報、一文字でもマスコミに漏らしたら絶交だからね。私が死ぬまで許さないし、なんなら個人情報保護法的なお話する?ってなるよ。テレビで私の情報流れたりしたら連帯責任だからね……お願い、ね?」

「「「……はいっ!!」」」

 

にっこり笑ってそう言うと、三人は泣きそうになりながら首を縦に振った。後ろで聞いてたその他の人々も顔を青くして必至に頷いていた。痛いほど理解してくれて嬉しいよ。

志帆はそんなことしないって信じてるから大丈夫。うん、荒川さん達も大丈夫だよ、冗談だからね。……ね?

引率の先生も、到着した警察や銀行のお偉いさんを相手に、お名前を……とかせめて学校名を公表……とか言われても、断固として拒否してくれた。いい先生だなあ(にっこり)。

 

当然私は別室に案内されて、事情聴取が行われたが、カメラの映像や行員の人たちの証言もあり、過剰防衛とかのお咎めなし。峰打ちで良かった。

ただ、君みたいな若い子が無茶をしては駄目だよ。それでも本物の銃を持っていた犯人を取り押さえてくれて感謝します。人命が失われてたかもしれない中、最小限の被害で終わらせてくれて有難うございましたと、物凄く丁寧に敬礼されて恐縮してしまった。めちゃくちゃまともな警察官だぁ……。

 

その後解放された私達は、一度学校へ戻る。

事件を嗅ぎつけたマスコミが押し寄せてたらしいが、入口にバリケードを張って侵入を防いでくれたし、私のマスコミ嫌いを配慮して裏口から逃がしてくれた。

ありがたやありがたや……。

だが、一番の難敵は学校側だった。 校長室に呼ばれると、人型アバドン――もとい、校長が脂汗を拭きながら、気持ちの悪い嫌な笑みを浮かべていた。

 

「いやあ、東雲くん! 君は素晴らしく模範的な生徒だ。まさに当校の名誉!そして君の勇気ある行動を世間に公表すれば、推薦の枠も……」

「……売るってことですか? 私のプライバシーを」

 

私はデスクを指先でトントンと叩き、絶対零度の微笑を向けた。

 

「お言葉ですが、私は取材や個人情報の公表を断固拒否します。もし、学校側が許可なく私の情報をマスコミに売り渡した場合、個人情報保護法に基づき、学校法人と、情報を漏洩させた個人をそれぞれ別個に、徹底的に訴えます。興信所雇ってでも必ず犯人探し出しますので」

 

私が資産家であるという情報が学校側にはあるはずだ。何故ならいつもの不思議知識がそう教えてくれるから。

そう、つまりこれは脅しではないと、人型アバドン(校長)はわかっているはずだ。

 

「……そ、訴訟!? いや、しかし、学校の名誉が……」

「名誉より先に、貴方の去就と学校の悪評を心配した方がいいと思いますけど。ただでさえ、鴨志田先生関連の事で評判がガタ落ちなのに……分かってくれますよね?」

 

脂汗で溺れそうになりながら、校長は納得(という名の屈服)をしてくれた。

結果、ニュースでは『社会科見学に来ていた勇敢な学生が制圧』という、匿名扱いの報道で済んだ。銀行も警察も私の意思を尊重してくれたようだ。

 

 

「はぁ……無駄に疲れた。なんで明智くん避けしただけでこんな目に……」

 

銀行と警察から後日感謝状が届くらしいが、出来ればそれすら受け取りたくないんだが?と感じながら、私は自宅で独りごちる。

結局、目立ちたくないという私の願いは掻き消されたけれど、私の力は、法と拳、どちらも準備万端なのだから。

……じゃないよ!なんだこれ!私の平穏を返せ……!!

 




すいません。つい。
 
6月は社会科見学で明智くんと接触するのを避けるためにテレビ局を選ばなかったり、その際クラスメイト(いつものA、B、Cの三人。荒川さん、尾藤さん、蝶野さんというらしい)も含めて志帆と一緒に選んだのが銀行で、まさかの銀行強盗が発生するとは夢にも思わなかったが。
その際犯人が拳銃を持ってるとはいえ一人だったため、つい制圧してしまい別の意味で警察と関わってしまい、断固取材拒否を貫きつつ、口の軽そうな三人には私の情報少しでも喋ったら絶交。死ぬまで許さないと脅……お願いしたものの、警察と銀行から後日感謝状まで出ることになってしまった。
学校側に対して断固取材拒否を申し渡し、マスコミ及び外部に情報を売り渡したら個人情報保護法に基づき訴えます。学校と情報を売った個人を別々でやります。徹底的にやります。と脅……お願いしたなんてこともあった。
人型アバドン(校長)は引きつった顔で、いやしかし学校の名誉が……とか、これは学校と君の名を売る名誉が……とか言ってたけど、つまり売るってことですか?では法的措置……と強固な態度を貫いたところ、脂汗で溺れそうになりながら納得してくれた。訴訟?速攻で弁護士数人用意して全部おまかせで進める予定だったよ。
まあ、結果的に平和的に事態は収束したので、ニュースでも社会科見学に来ていた学校の生徒が制圧、お見事!みたいな扱いで終わったけど。

適当に三行でイベント流そうと思って書き始めたらクソ長くなった上読みづら……!と思った辺りでこれ一本書けちゃうな……と思ったせいでこうなりました。すいません、つい。

※この作品はフィクションかつファンタジーです。
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