欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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2話目投稿します。



第二話 不可思議すぎてツッコミが追いつかない

四軒茶屋。

 

喫茶ルブランが在る、ゲームの中の架空の街。

だが、目の前に在るのは現実に存在している喫茶ルブラン。

そもそも、四軒茶屋駅というものが実在していて、行ってみたいペルソナ5R名所案内第一位のルブランが紛れもなく私の目に映っているのだから、これは現実である。

推定メメントスで、あれだけ死を覚悟するような目に遭って、それでも疑うような現実逃避はもうやめよう。これは疑う余地はなく現実である。

 

ただ、さっき彼とすれ違ったことを思うと、すでにルブランには彼が居る可能性が高い。

なにかの拍子で出会ってしまうと、ちょっと気まずいムーブをしてしまいそうなので、今は入らないでおこう。……それはもう物凄く行きたいけど。

 

ルブランを横切って路地裏を突っ切る。

すると、原作ではアパートのようなものがあったと思われるところに、一軒家が建っていて。

表札には「東雲」の文字。そう、理解っている。――ここは()()()だ。

 

……意味がわからない。

私は何者なんだろう?実は元々この世界の住人で記憶が曖昧なだけ……?

そんな訳はない。だって、私は知っている。この世界がペルソナ5の世界で、Rなのか無印なのかはまだわからないけど。

何月何日にどんなメインストーリーが発生するのか、スキルの効果に登場人物。誰が敵で誰が味方なのか。全て識っている。

でも不思議と怖さはなかった。ストンと、胸のうちに入ってくる感覚。

 

私が東雲 海咲という人間であること。

私が4月11日から転校生として秀尽学園の二年生として通い始めるということ。

スマホが指し示す今日の日付は4月9日であること。

明日は転校の挨拶に学校に行かなければいけないこと。

 

私が抱く違和感を、補完するように押し込まれるイメージ。

ただ、何故あの場所に……スクランブル交差点に居たのかがわからない。

考えれば考えるほど、不思議と疑問は薄れていく。

自然と、私の足は()()の中へと向かっていった。

 

下町感溢れる四軒茶屋には似つかない、指紋認証のオートロック。

人差し指を押し当てると、当然のように鍵が開く。

家の中へと入ると、爽やかな芳香剤の香りが漂っていた。

電気は……付く。私以外の人間の気配は、一切ない。

こじんまりとしてはいるものの、二階建ての一軒家。

 

「なんというか……至れり尽くせりすぎない?」

 

確認しろとでも言うかのように、リビングのテーブルの上に置かれた預金通帳には、びっくりするぐらいの金額が記載されている。

電気も水道も通っていて、どこを見渡しても綺麗に清掃されている。

 

「これ、私がやってたのかなあ……?」

 

と、思いたくもなる。

冷静に自分のことを思うと、女子高生が都内の一軒家で一人暮らしをしているという状況は、どう考えてもおかしい。

舐めてんのかと言われても文句言えないぐらい、ご都合的過ぎる。

どうやら親兄弟も居ないようだ。スマホの中に連絡先すらひとつも存在しない。そんなことある……?

 

いや、本当に一体何がどうなっているのだろうか。

何より、随分と落ち着いてしまってる自分に対して、違和感しかない。

この家の構造も、家主として生活していたという記憶は無いはずなのにも関わらず、自分の家であると認識してしまっている。

間取りや、二階の角部屋を自分の寝室として使っているという、記憶喪失とは到底言い切れない記憶が確かに存在していた。

とはいえ、生活するのに衣食住、そしてお金は必須であり、その全てが揃っているのなら何も問題はない。というか、もはやイージーモードである。

 

「なぜか知識インストールされちゃっただけの記憶が曖昧な現地住民なのか、ホントにゲームの世界に入り込んじゃったモブなのかわからないけど、都合のいい世界って認識すれば過ごしやすくはある……のかな……?」

 

私は深く考えるのを辞めた。なぜなら何もわからないからである。

わかっていることは今現在、私はペルソナ5の世界の住人であり、生活環境は勝ち組そのもの。

さらにペルソナ使いとして目覚めちゃったモブで、なんか現実世界でもステータス適用されてそうなチート感が若干ある。

はっきり言って情報過多すぎて、おっかないのである。

どう考えてもお膳立てされたこの状況が、おかしいことは理解している。が、せっかくのペルソナ5のこの世界を楽しみたいという感情もある。

なら、存分に楽しませてもらおう。

 

知りすぎてるため、ボロが出そうなので怪盗団とは距離を置きたいところだけど、どうしても救いたい人も居る。……そうじゃないのも居る。

あれだけの力を持っているなら、きっと足手まといにはならないはず。

正体不明のお助けキャラとして、怪盗団のサポートに徹しよう。

なるべく、メインキャラとは接触しないように、心がけて!よし!

 

 

――そう、思っていた時期が私にもありました。

 

「いらっしゃい、見ねぇ顔だな。好きなとこ座ってくんな」

 

いや、そりゃ来ちゃうでしょ。ルブランだよ?

我慢できませんでした!!!

 

「実はこの近所に住み始めまして。帰りに見かけてちょっと気になったので」

「へぇ、ご近所さんかい。学生さん?」

「はい!実は来週が転校初日なんですよ。秀尽学園ってとこなんですけど」

「ほお?奇遇だな」

「奇遇、ですか?」

「……あぁ、すまん。忘れてくれ」

「……?はい。あ、すいません。ルブランカレーとブレンドコーヒーを」

「はいよ」

 

蓮くんのことだろうなあ、言いかけたのって……。

問題児をよろしくとは言えないみたいな葛藤があったのかな。

大丈夫です、陰ながら見守らせて頂きますので。陰ながら!

 

「お待たせ、うちの自慢の一品だ。味わって食ってくれな」

「はい!」

 

これが、あのルブランのカレーかー!

P5プレイヤーが現実で叶うならと望む聖地巡礼第一位のルブランで、実際に食べられるこの幸福感。あとは私に任せておけみんな!

そんなことを思いつつ、カレーを口にする。

 

「…………っっ!!」

 

一口、たった一口で口内を満たすこの充足感……!

うわあああ、美味しいよお……!

私も料理は出来るようだが、このカレーを超えるカレーなんて作れる自信は全然ない。

感想が気になるのか、マスターがこちらを見ているので一言。

 

「すっごい美味しいです」

「そうかい、ありがとよ」

 

ニヒルに笑って引っ込むマスター。

私、これなら三食カレーいけるかも……。

というのは冗談として、本当に美味しい。

雑誌とかで紹介されて期待が高まりすぎて、いざ実食してみるとそうでもない。

そんなことはラーメン屋でよくよくあるが、このカレーは想像を超えてきた。

なんだろう、幸せの味がする。

 

段々と語彙力が無くなってくるのと並行して、幸せな時間は終わりを迎える。

最後のひと口を放り込んだ私は、ゆっくりと飲み込んで落ち着いた。

食後に飲むコーヒーが、これまたすごい余韻を膨らませてくれる。

これが、計算され尽くした若葉さんの調合したカレーとマスターのコーヒーとの相性なんだあ……と感動する。

すでにこの世には居ない、双葉ちゃんのお母さん……か。

少し感傷的になりながらも表情には出さず、にこやかにコーヒーを楽しむ。

どうやら、私はポーカーフェイスがとことん得意らしい。()()()()()()()()()()()()がそう言っている。

感情の起伏は大きいのだけども。

 

「ごちそうさまでした!また来ますね」

「いつでも来てくんな。割と遅くまでやってるからな」

「はい、それでは!」

 

うん、明日から色々頑張ろう!

満足感に包まれながら、自宅へと足を向けた。




海咲のイメージイラスト置いてあります。
よければ御覧ください。

X:@chikuwabu_1125
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