欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

21 / 41
五十話ぐらいで完結できたらいいなあ


第二十一話 突発性イベントが発生しました

――深淵の底のような、光すら届かない暗闇。 そこで、実体のない誰かの声が、海咲の意識に絶え間なく波紋を広げていた。

 

『……お前は、何者だ? 名前は? 姿は? 元いた場所には、何があった?誰が居た?』

 

(私は……)

 

答えようとして、言葉が詰まる。思い出せるのは、画面の中で躍動する彼らの姿、物語。過去の自分自身を象る輪郭を証明する記憶が、どこを探しても見当たらない。

 

『……空っぽの器。お前は何者でもない。過去も知覚出来ない、ただの選ばれただけの存在に過ぎない』

「――いいえ、違う」

 

私は暗闇の中で、何者かに強く言い放った。

 

「私は……東雲海咲。今この世界に存在して、志帆の手を取り、怪盗団の助けとなって、様々な人達と交流して、彼らの幸福な未来を願っている。それが、私の行動原理。そして存在証明。……ブレないわよ、私は」

『……不遜』

「こっちのセリフなんだけど。消えなさいよ」

 

カッと目を見開く。 視界に飛び込んできたのは、四軒茶屋の自宅の天井だった。寝汗でシャツが肌に張り付いている。……夢か。

 

「……ふぅ。私は、私。他の誰でもない……よし、大丈夫」

 

鏡に映る自分を見つめ、言い聞かせるように呟く。例え、自分を定義する過去が存在しなくても、私が何者であろうとも、今この瞬間に抱いている意志と、私という存在は、誰にも奪わせない。

だって、私は自分で立って自分で歩いて自分で考えて動ける一人の個だから。

私が戦う理由も、怪盗団への憧憬も、友人達への想いも全て、私の中から生まれた感情だから。

私が己の意志で動くのがそんなに気に食わないなら、止めてみなさいよ。アンタが誰だか知らないけどね!

 

……んん?どんな夢だっけ?今の今まで覚えてたのに急に忘れる……?夢の内容ってすぐ遠ざかっちゃうんだよねぇ……。

……まあ、いっか。とにかく、好きにはさせないぞと。

 

 

その日の昼。私は完全に常連と化した、ルブランのカウンターに座っていた。

ちなみに雨宮くんは今さっき買い出しを命じられて出ていったところだ。

 

「ごちそうさまです。もしかして今日のカレーって少し味変えました?」

「……お前さん、相変わらず鋭いな。今日のカレーは実は蓮が仕込んだんだよ。一応客に出せるレベルだと思ったんだがな。イマイチか?」

「いえいえ、全然美味しかったですよ!ちゃんとお金取れるカレーです!でも、少しだけいつもとの違いを感じました。マスターのレベルまでは今一歩ですね」

「ま、年季が違うわな。だがそうか、金取れるレベルか」

 

なんて、繊細な舌が感じ取った些細な違いを感想に乗せる。すると、マスターが少し嬉しそうに、けれど照れ臭そうに鼻を鳴らす。

こんな表情を見るだけで、雨宮くんがちゃんとマスターとの絆を紡いでることが伺える。

 

「ふふ、やっぱり厳しいですね。でも、マスターのカレーの味を覚えたせいで、舌が肥えちゃって困ります」

「そりゃ光栄だ。……話は変わるが、最近は蓮のツレの奴らも含めて何やら騒がしい。ニュースとかでも最近物騒な話をよく聞くしな。お前さんも一人暮らしなんだ、変な連中に目をつけられないようにな」

 

惣治郎の言葉には、保護者のような温かな響きがあった。私は「ありがとうございます、マスター」と微笑みながら、入り口付近に飾られた絵画に目をやる。

斑目の手が入る前の『サユリ』。

こうして、実物を目にするとやはり少し感動する。

もはや聖地の常連ではあるが、こうして原作通りに彩られていくのを追っているのもまた、赴きがあって良い。

 

 

食後のコーヒーを飲みながら、まったりしていると外から騒がしい声が聞こえてきた。

 

「戻りました。……やあ、東雲さん。来てたんだ」

「おかえりー、随分と大人数だねぇ」

「買い出し中に押しかけられたんだ。スマホにメッセージが来たと思ったら後ろに居た」

『ワガハイは気付いてたぜ』

 

この時期だと……ああ、試験勉強かな?

……しまったなぁ。これ多分逃げれないね?だって今、杏が私の肩掴んで揺らしてきてるからね。

 

「海咲ー!ちょうど良かった!実はお願いがあって……」

「ああ、うん。何となく察したよ。さては試験勉強しに来たわね貴女達」

「……海咲、私達親友だよね!?海咲は中間テスト学年1位だよね!?お願い助けて!!」

「杏ってそんなに勉強ダメだっけ?」

「……日本史と数学がわりと……暗記とか漢字とか苦手なのよね。日本の歴史とかあんま知んないし!漢字も種類多すぎてもう頭弾けそう!」

 

ああ、そういえばそうだった気がする。

とはいえ、日本史とかほぼ暗記だしなあ……。

漢字も本とか読まないなら延々書かせるのがいいと思うけど、日数も余裕なさすぎだしねぇ……。

 

「へぇ、お前さんそんなに頭良かったのか」

「恥ずかしながら、それなりに良いですよ」

「ちょっと海咲!謙遜が嫌味に聞こえるぞー!」

「それは杏の被害妄想でしょ……」

 

坂本くんが、そうだそうだと悪ノリしている。

この人達、何しに来たか忘れてない……?

 

「ごめんなさいね、海咲。くつろいでる所悪いんだけど、せめて誰か一人請け負ってくれないかしら……?」

「しょうがないなあ……じゃあ、杏ー。詰め込みでやるよー」

「さっすが親友!頼りになるぅ!」

「ちょっと待ってて、私のノート取ってきてあげる。マスター、ごちそうさまでした」

「はいよ、手間かけるな」

「いえいえ、やるからにはキッチリやりますよ!」

 

マスターに代金を支払って、一度家に帰る。

教えるなら私のノート渡して、テストに出そうなところ解かせて覚えさせるのが一番効率いいからね。

 

 

――ルブラン内。

 

「彼女が東雲さんか。美しいな。是非モデルにな……」

「祐介、許さん」

「しかし蓮、画家として彼女を描かないというのは……」

「祐介、黙れ」

「ふ……仕方ない。諦めよう」

「わかってくれて嬉しいよ」

 

大分語彙力を失いながら、蓮が押し通した。

周りでは、ニヤニヤ笑いながら生暖かい目で見ている。

とはいえ、これだけ分かりやすいのに、海咲自体はまさか自分が、推しからそういう目で見られているとは思っておらず、全く気付いてないのが滑稽である。

そのくせ、顔が近くて照れたりだの、家まで送ってもらって恥ずかしくて枕に顔を埋めたりだのと、怪盗団の面々に知られたら「もう付き合っちゃえよ!!」と怒鳴られること必至である。

 

「しっかし東雲かぁ。アイツ学校でめちゃくちゃモテるだろ?」

「んー、でもね。手紙は名前見て即捨てるし、割とすぐ帰っちゃうし、呼び出されても即断るし、身体触ろうとしたヤツとか手首握り潰されそうになってたし、徹底してそういう目的の男子は避けてるよ?」

「もはや加害者になりかけてるじゃねえか……」

「まあ、クラスの子達とも仲良いみたいだし、変なことしたら、逆に噂流されて二度と近付けないだろーけど」

「えっ、海咲ちゃん、そんなアグレッシブな子なの?」

 

惣次郎が、驚いた顔で尋ねる。もうかれこれ三カ月は店に通ってくれてる常連である。意外な一面に面食らった形だ。

 

「海咲、胡桃砕けるんですよ。こう、ベキッと」

「ベキッと……。マジかよ……人は見かけによらねぇなあ」

「無闇に力を人に向けたりしませんよ。いつだって彼女は人のために怒ります」

「……まあ、あの子が良い子だってのは分かってるけどな。初日からお前の事情知っても、一切態度変えなかったもんな」

「そういえば、彼女って貴方と同時期に転校してきたんだったわね」

「なるほどなー。それで最初から仲良さそうだったんだな。納得したわ」

『シノノメは絶対将来尻に敷かれるぜお前』

 

海咲の居ないところで、大分恥ずかしい話が繰り広げられている。

ここに本人が居たら、流石に色々と気付いてしまうだろうが、残念ながら居ないのである。

 

そして、ちょうど良く会話が途切れたタイミングでルブランのドアが開く。

 

 

「お待たせー!」

「おかえり、東雲さん」

「うん……?ただいま雨宮くん!あ、そういえばカレー、美味しかった!今日のカレーは雨宮くんが仕込んだんだってね?」

「まだまだ佐倉さんには敵わないけどね。満足してくれたなら良かった」

「それは流石に年季が違うよー。でもちゃんとルブランのカレーだったよ!」

「……そっか」

「ま、そう簡単に追いついてもらっちゃ困るんでな」

「練習したらまた食べさせてね?この店の常連として成長を見守ってるから!」

「ああ、いつでも作るよ」

 

ちゃっかり歯も磨いて戻って来たら、何故か、おかえりと言われてしまったので、ただいまと返した。ニュアンス的には出てって帰ってきたからって感じだろうけど、なんか嬉しい。

ちゃんとカレーの感想も伝えられて、良かった良かった。いいよね、こういう何気ない日常のやり取り。

 

「なあ……何であいつら付き合ってねえんだ……?」

「……マスター、コーヒーください。砂糖吐きそう……」

「……はいよ」

 

杏と坂本くんが何かボソボソと言っているが、聞き取れない。

ステータスの恩恵があっても、別に聴覚までは強化されてないので。まあそれはそれとして。

 

「さて、杏。これ、私のノート貸してあげる。丸暗記するって言っても、ただ詰め込んでも忘れるからね。問題出すから解いて答えを覚えようね」

「えっ……!?て、テストの前にテストするって……こと!?」

「そう!普段からちゃんとやってないなら、実際に問題解いて詰め込むのが一番だからね。だから杏?10問20分で、覚えるまでランダムで問題出すからね。それを何回かやるよ」

 

と、にっこり笑って告げると、杏はまるで絶望したかのような表情で「教わる相手選びミスったかも……」などと言い出したので、問題を1問増やしておいた。

口は災いのもとである。

 

途中でマスターに電話がかかってきて、あーこれ双葉ちゃんだなと思ったが、気付かないふりをした。

そろそろ彼女のパレスの時期になってくるんだね……。

会話が終わったのか、雨宮くんに店番を任せてマスターが出ていった。

 

 

そんな感じの時間を経て、なんとかお開きの時間となった。

杏もクイズ形式で問題を出すと、少し興が乗ってきたのかやる気を見せてくれたので、意外と捗ったね。

多分アレだ、杏は勉強って単語に拒否感覚えてるだけで、学び方変えればちゃんと理解できる子だ。

 

「ふっ……もう私に教えられることは全て教えたわ(誇張)」

「やっと解放された〜!!海咲ありがとね!」

「大分範囲絞り込んだから、そこ以外の問題が出たら基本スルーして次の問題解くようにしてね。解けるの終わってから埋めてけばいいから。数学のほうは、暇ができるたびに1問だけでいいから、公式使って解くようにしてね?解き方忘れないようにするのが一番大事だから」

「わかりました先生っ!」

「はい、よくできました!」

 

ふと後ろを見ると、魂が抜けかけた坂本くんと、構わず鬼講師をしている真が目に入った。

雨宮くんと喜多川くんは、マイペースに勉強をこなしている。

 

「頑張るねぇ」

「……ねえ、本当に申し訳ないんだけど、貴女も少し手伝ってくれない?予想以上に厳しいのだけど」

「本日の営業は終了しましたー。次回の受付は未定でございます」

「はぁ……仕方ないわね。竜二、もう少し頑張るわよ」

 

背もたれに腕と顎を乗せて、真をからかう。

でもまあ、自分の勉強もしながらで大変そうだし、助け舟ぐらいは出しておこう。

 

「じゃあ、今日やった範囲教えて?杏と同じように私がクイズ形式で問題出してあげる。それを真が補足して4択で答え出してあげて」

「なるほど……そういうやり方もあるのね」

「じゃあ、坂本くん行くよー」

「お、おう……間違えても殴られたりしねぇよな……?」

「それは真次第かも」

「しないわよ!」

 

坂本くんが世紀末先輩に怯えている。

私まだ生で見てないんだよね。見たいなー、真の怪盗服姿。

準備ができたようなので第1問。

 

「じゃあいくよー。――16世紀から17世紀にかけてのヨーロッパにおいて経済的基盤となったのは、アメリカ大陸から流入した大量の銀。この銀の流入でヨーロッパで引き起こされ、商工業者に有利な影響を与えた急激な物価上昇のことを何と呼ぶ?」

「4択よね。……じゃあ、1.銀山革命 2.産業革命 3.価格革命 4.商業革命 さあ、どれかしら?」

「銀が出て儲かったんだろ?なら1の銀山革命だな!」

「ブッブー、正解は3の価格革命だよ。こういう問題は最後に出てくるワードがヒントになってること多いから問題を最後まで読んでね」

「俺が苦手なやつ……」

「じゃあ次いきましょ」

「おっけー」

 

 

そんなこんなで勉強会も終わり、みんなでまったりしていると、テレビで金城の逮捕の件で明智くんがテレビに出ていた。

その後、坂本くんに端を発して悪口が始まる、と同時に怪盗団の活動についての話に移行していく。

 

私をナチュラルに会話に混ぜないで欲しいんだけど……。まあここなら今は人の目はないし、()()()()()()()()()。今のところ、部外者からの危険って意味ではね。当然双葉ちゃんのことを踏まえた上で、話を聞いてもらうのは必須事項だからね。

まあ一応、ここはひとつ言っておかないと。

 

「ちょっとー?怪盗団じゃない私のいるとこでそういうの話すのどうかと思うって言ったでしょー」

「今更じゃね?仲間みてぇなもんだろ」

「そうそう、海咲のスタンスは理解ってるけど、私達の行動を把握しといてもいいんじゃない?」

「うーん、まあそう言われるとそれはそうかも……」

『まあこいつらもちゃんと理解ってるさ。……多分な』

 

雨宮くんと真も無言で頷く。

いやー……坂本くんとかナチュラルにそう言ってくれるの、信頼してくれてるんだなーっていうのは、すごく感じるんだけど、やっぱり私が参戦しちゃうと悪影響がね……?

多分強さ的にレベル80ぐらいはありそうな感じするんだよね、私。

ジレンマだなあ……。迷惑だけはかけたくないんだよね……。今更何をって言われるかも知れないけどさあ……。

そんなこんなで話を続けていると、打ち上げの話になっていた。

 

「今回の打ち上げ、花火とかどうかな!?今月花火大会あるじゃん!」

 

と、杏が提案する。

皆も乗り気になって、浴衣だ飯だと盛り上がる。

浴衣かあ……志帆も誘って私も行こうかな、とか思っていると。

 

「海咲も行くよね!一緒に浴衣来て行こーよ。志帆も誘ってさ!」

「え、いいの?」

「当たり前じゃん!ここまで話聞いといて一緒に行かないはないっしょ!」

「いやでも、志帆も行くなら怪盗団の話絶対禁止ね?絶対」

「そうね、頼むわよ貴方達」

 

真が念を押してくれる。

まあ、その日は雨降るし、わざわざ外で怪盗団の話はしなかった……と思う。

志帆が居るなら尚更、みんな気を使ってくれるだろう。

 

「はしゃぐのはいいけど、その前にテストでしょ。赤点なんて取ってみなさい、承知しないわよ」

「うっす……」

 

なんてやり取りがあって、その日は解散することになった。

後日、テストも終わった頃に杏に誘われて、志帆と真を含めて四人で浴衣を買いに行った。

最初こそ志帆が、なんで生徒会長が?みたいな顔してたけど、割とすぐに打ち解けていたので一安心だ。

……でも雨降るんだよね、当日。




メジエド編に入る前にイベント消化
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。