――そして、事態は動き出した。
偽のメジエドの脅威を解決するため、怪盗団がアリババこと佐倉双葉の正体を推測し、惣治郎の自宅へと乗り込むことになった際――なぜか海咲も、その一行に含まれていた。
「……ねえ、なんで私まで付いていくことになってるの?」
「いやー、東雲がいれば、マスターに見つかった時になんとかなるかなーって!」
「俺よりは、信頼度も高いと思う」
「さすがにそんな事ないと思うけど……」
『いや、実際シノノメが一番安心度高いと思うぜ』
坂本くんの能天気な言葉に、私は「盾にする気満々じゃない……」と溜息をついた。
とはいえ、事情に付いては雨宮くんのほうから事前に説明はされている。アリババを名乗る双葉ちゃんから唐突に連絡が来たこと。マスターに彼女のことを聞いたら突っぱねられたこと。冴さんが再びルブランに来て、マスターを脅してたこと。双葉ちゃんがマスターの子供で虐待されてる可能性があるという話。
いや、そんな事実は一切ないんだけど。でも彼らは何も知らないからそんな事が……?って気になったみたい。
雨宮くんは順調にコミュも進めてるから、佐倉さんはそんな事する人じゃないし、有り得ないと伝えたらしい。私とルブランで遭遇することも多い影響で、最近はルブランで彼らがマスターと話すことも度々あるので、真も含めてそりゃそうだよなって事で即座に虐待の可能性は消え去ったとも言っていた。
ちなみに、今日は寿司屋で打ち上げを行ったらしいが、私は参加していない。
だって今回何もしてないし。金城関係に関しては部外者すぎて、ちょっとね。
おまけの話として、帰り道で明智くんに会って煽られてイラっときたという愚痴を聞かされた。
もしかしたら、正体がバレてる、もしくは疑われてる可能性についての言及もあった……んだけど、それ多分貴方達がボロ出し過ぎなだけだよと突っ込むと空気が重くなっちゃったけど、これ私悪いかなあ!?
しかし、原作知識がある身としては、双葉ちゃんとの邂逅の瞬間をこの目で見守りたいという気持ちも強かったので、渡りに船という感情も強かった。
というわけでまんまと付いてきてしまったのである。
マスターの自宅前。鍵が空いたままのそこへ、みんなで入り込む。
お邪魔しま~す……と、そーっと入っていき、電気も付けずにゆっくりと歩いていく。
その時、雷が何処かに落ちたのか激しい音がなると同時に、2階のほうから事件性のある悲鳴が聞こえてきた。
真と杏が怯えて、一度戻ろうと提案する。
つまりここは──アレだ!
原作ファンが、あれ?正ヒロインこいつじゃね?ってなったシーンだ!!是非最後尾の特等席で鑑賞しないと!!
「ごめん、掴まってていい?」
「……いいよぉ」
ドウシテ……。
ドウシテワタシニツカマルノ……。
違うじゃん……それは話が違うじゃん……。と、思っていたら真の腰が抜けてしまったらしく、その場に留まることになった。
後ろに気配を感じて振り向くと、そこには……。──その時また雷が鳴り響いて、人の形を照らし出す。
「「…………キャー!」」
再度事件性のある悲鳴が
出てこいアリババー!と叫ぶ杏。
私の足にしがみついてごめんなさいごめんなさいと、壊れた蓄音機みたいに謝り倒す真。
うーん、困ったねこれ。私にはどうにも出来ないぞーあはははは。
「大丈夫か双葉!!」
マスターが帰ってきてしまったようだ。
それを察して、私と雨宮くん、それと縋り付いている真以外はそそくさと隠れている。──なんて卑怯な!
「誰だテメエら!大人しくしやが……れ?お前なんで勝手にうちに入って……って海咲ちゃんまで居んのか!?それと」
「あ……ごめんなさい、お邪魔してます……」
「新島さん……か?」
買い物袋を下げ、懐中電灯をこちらに向けて額に青筋を立てたマスター。……が、すぐに不思議そうな表情で状況を整理しているようだ。
私は、あはは……と乾いた笑いを浮かべて手を振った。
「あ、マスター……えーっと、なんか連れてこられまして。……不可抗力、と言いますか」
「海咲ちゃんまで……。後でたっぷり話を聞かせてもらうからな」
惣治郎の溜息混じりの言葉に、海咲は心の中で(ごめんなさいマスター!誘惑に負けてつい!)と全力で謝罪した。
そのマスターはというと、私の足にしがみつく真を見て困惑している様子。
「いや、どういう状況……?」
「いえ、あの!これはその……色々ありまして、不可抗力というか」
真が必至で弁明してるけど、普段の冷静沈着なイメージが全くなくてめっちゃ可愛い。
仲間になってからの真って、可愛い所いっぱいあるからね。中々見れないその姿に私は感無量だよ。
……と、今はそれどころじゃなかった。
「実は、雨宮くん達が寿司折りのお土産持って行くって言ってて、一緒に行こうと誘われたので私も来たんですけど……」
「そうなんです、チャイム鳴らしても出なかったし、鍵閉まってると思ったら開いてて……テレビとかも付いてたしマスター倒れてたら大変だと思ってつい……」
「え、俺鍵開けっぱだった?」
「はい……」
私の言葉に杏が続いて、補足として真が一通り説明してくれる。
その後は、店に移動して話を聞かせてもらうことになった。
――ルブラン。
マスターの口から、双葉ちゃんのお母さん……若葉さんの話を皆で聞く。
彼の口から溢れた感情の籠もった声は、とても重く私達に響いた気がした。
ゲームでスピーカー越しに声を聞いているのとは違う、生の声。目の前の人から語られるそれは、全てを知っていてなお知らぬ知識のように染み渡ってくる。
わかってはいたけど、この世界は優しくない。
理不尽な死がまかり通ってしまっているこの世界で、マスターから聞いたその話に、軽い言葉で返すことは出来なかった。
その後、残された私達は、まだ少し話していたのだけど……。
「じゃあ、私も帰るね」
「待ってくれ東雲さん、もう少し付き合って欲しい」
「そうね、あなたの意見も聞かせてちょうだい」
「……双葉ちゃんのことだよね?」
彼らが何を言いたいかは大体わかってる。
どうすれば、彼女と会えるのか。知恵を貸して欲しい、そういう事だと思う。
展開的には、ここで双葉ちゃんのパレスがあるってことを彼らは自分で気付いて、話が進んだはず。なら、少し先出ししてもいい……よね。
「実は心を盗むって依頼されたって話を聞いた時、イセカイナビに双葉ちゃんの情報を入れてみたんだけど、彼女にはパレスがあるの。もちろんワードがわかんないから入ってはないけどね」
「パレス……!?」
「悪人じゃないのに……パレスがあるの!?」
「どうなんだモ……ナ?」
「そういえば、モナはどうしたんだ?」
「マスターの家にまだいんのか?……まあ大丈夫だろ猫だし」
……うーん……坂本くんは相変わらずモナに対しての扱いがねぇ……。と、気を取り直して。
「パレスの事とかその辺は後でモナに聞いてね。私は流石にその辺の事はよく知らないから」
「パレスが存在してるとなると、まず入ってみるというのも有り……なのか?」
「それもアリじゃない?まずは行ってみないと始まらないっしょ」
「それが出来たら苦労しねーって、でもまあ……一番手っ取り早いよな」
「そうね、とにかく今日は一旦解散としましょう」
「だな。もう終電も近けぇし」
「海咲ありがとね。……で、今回は……?」
杏がチラチラっと、様子を伺ってくる。つまるところ、怪盗団への勧誘だ。
戦力確認は出来た。正直まだ私とのレベル差という意味では厳しいと言わざるを得ない。
でも、それぐらいの差であれば……埋められるのではないだろうか。
カモシダパレスの時みたいにイレギュラーな処刑人が現れたとしても、私が前に出て彼らと一緒に戦えば……今の彼らなら。
…………でも、ごめん杏。今は無理。
これは、ワガママやサポートに徹したいとか、そういう理由ではなくて。
この後に行われる凶行を止めるために。万全の態勢を整えたいから。
「ごめんね、杏。ナシで」
「えぇ~……?」
「んだよ、いい加減参加しろって。あれこれ言ってくる割にビビってんのかよ?」
「ちょっと竜司!」
カッチーン!
「……貴方達が、自分達の事を正義のヒーローだと勘違いして、いい気になってるのを辞めたら参加してあげる」
「んだと……?」
「怪盗団のやってる事が、世のため人のためになってるのは認めるよ。貴方達は良いことをしてる。……でもそれを自慢気に街中で語って、危うい言動で仲間を危険に晒す可能性を考えない。なぜ真に言質を取られたか忘れたの?花火大会の日に坂本くんが話してたの聞こえてたよ。学習能力ないの?」
「テメェ……!」
「明智くんにも疑われてるかもなんでしょ?自慢気に自分達の行動を吹聴するのは何故?目立ちたいから?チヤホヤされたいの?そんな俗物的な動機で怪盗団を始めたの?そんな所に入りたいとは思わないよ、私」
「…………っ……っっ!!」
坂本くんが、顔を真っ赤にして憤慨している。
そうだよね、これだけ一方的に言われたらムカつくよね。でもさ、何も伝わってないじゃん。私が今まで雨宮くんや杏や真経由で伝えてきたこと、何も伝わってないじゃん。
そりゃ、いわば
でも、私だって今まで怪盗団のためにって裏で動いてきて、友達のためにって立ち回ってきてさ。
……確かに斑目の時は迷惑かけちゃったけど。それでも……。
「私さ、今までにも言ってきたよ。何度も伝えてきた。ねえ、雨宮くん。ついこないだ言ったばっかりよね?気を付けてって。そしたらちゃんと聞いた上で、モナと一緒に反省したって言ってくれたよね?」
「……言った。あの後に話し合って、注意しようっていう流れが出来て確かに控えるようになった。でも……行き届いていなかったな。……ごめん東雲さん」
「杏にも言ったよね。雨宮くんと話した翌日に屋上で話したこと忘れちゃった?」
「忘れてない……でも、ごめん。完全に調子乗ってた……」
「真にもお願いしたつもりだったんだけどな」
「手綱を握るどころか、自分も一緒になって緩くなってしまったかも……ごめんなさい」
……おかしい、冷静になれ。そうじゃないでしょう私……。
「……こっちこそごめんね皆。坂本くんも一方的に好き放題言ってごめん。言い過ぎた」
「いや……ワリィ。俺も、冷静じゃなかった。すまねえ……」
ちょっと、このままじゃダメかも知れない。
私、彼らから離れたほうがいいかも。急にそう思った。……
「私達ちょっと距離置こう?ごめんね、
「待ってって!海咲!ねえ!!」
そう言うと、私は堪えきれず、ルブランを飛び出した。
涙が勝手に出てくる。……ごめんね双葉ちゃん。聞いてたよね、盗聴器で。
あんなやり取り聞かせてごめんなさい。
大丈夫。怪盗団は必ず双葉ちゃんの事を救ってくれる。
私が手を貸さなくても、ちゃんと育成強化してる彼らなら何も問題ないだろう。
なんかもういいや。そう思いながら家へと着いて、ドアに手をかけたその時。後ろから手を掴まれた。とても聞き慣れた彼の声。追いかけて来てくれたんだ……そう思ったはずなのに。
「東雲さん!待ってくれ!!」
「待たない。おやすみ、雨宮くん」
ガチャ、バタン。
……あぁぁぁぁぁあ!!何してんの私は!
せっかく心配して追いかけて来てくれたのに、手を振り払った挙げ句に雨宮くん締め出しちゃったじゃん!
あー……マズイなあ……。何でこうなっちゃったんだろ。
確かにカチーンとはなったけど、ここまでするほどのことじゃないでしょうに……。どうして……。
坂本くんに言われた瞬間、なんか
先日の花火大会での件がそんなに尾を引いていたのだろうか。
なんだか、家に帰ってきたら急に冷静になってきた。
せ、せめて連絡だけでもしといたほうがいいかな?めっちゃ通知来てるし……。
…………いいじゃん、もう。ほっとけば。原作だって1回痛い目見るまで反省しないし。(なにこれ……?)
…………あれだけ念を押されても聞く耳持たなかったんだから、処置なしでしょ。(違う……私じゃない……!)
…………自分達をもっと評価しろなんて願望を言うくせに、結局人の力をあてにする奴らなんて、関わらなきゃいい。(そんな事思ってない!)
…………もういいんじゃない?別に彼らがうまくいこうが失敗しようが、私に影響ある?私がしたことって何?志帆を助けた。それぐらいじゃない。それで十分でしょ?(違う……!まだ、まだ私は……!)
……私は。…………私は。
『…………不快ね』
――マスターシュの声に、応える声は返ってこなかった。
あ、この展開すぐ終わります。本当に。