──翌日、朝起きてお風呂に入って髪を乾かしていると、スマホの着信音が鳴った。
「おはよ海咲!こっちは準備万端だよ。午後一ぐらいに双葉ちゃんのとこ行こうと思ってる。着いてきてくれるんだよね?」
「おはよう杏。もちろん、私の方から言ったことだからね。パレスで双葉ちゃんのこと、色々知ったんでしょ?早い所解放してあげたいんだ、私も」
「そっか……海咲も本人から色々聞いたんだね。お母さんから嫌われてたなんて誤解、早く解いてあげないとね」
「あはは、そこは割ともう解決……かな?あとは本人が乗り越えるだけ……って感じ」
「……!そっか。さっすが私の親友は
いや、人誑してあんた……。なんか聞こえが悪いなあ……。悪い意味で言ってるわけじゃないのはわかってるけどね。
「あれ……でもそうすると、意外と今回戦闘は無い感じで終わるかな?」
「どうだろうね……?ただ、双葉ちゃんの心に巣食った闇は、思った以上に根深いから……。任せちゃって悪いんだけどお願いね、杏」
「任せてよ!海咲が開いてくれた双葉ちゃんの心の扉、絶対無駄にはしないから……!」
「それじゃ、また後でね。マスターの家の前で待ってるから」
「うん!久々に海咲と会えるの楽しみにしてる!」
さあ、私も準備しないとね。
昨日の今日だけど、双葉ちゃんに一言連絡しておこう。いきなり行かれても驚いちゃうだろうし。
というわけで、通話で連絡。
『双葉ちゃん、今日のお昼食べた後ぐらいに皆で行くね。鍵開けておいてくれると助かるんだけど』
『き、今日いきなりなのか!?……わ、わかった。鍵開けとくから、家の前に来たら一回連絡してくれ……』
『心の準備?』
『そ、そうだ。じゃあ……待ってるから』
『うん。……ありがとね』
さあ、私も準備しないとね。
今日は、私も介入する予定だ。双葉ちゃんは私が居なくても、自分のパレスへと入っていく。それが既定路線だから。
それに双葉ちゃんがパレスに入らないと、ペルソナ覚醒しないから連れて行かないといけない。もう、彼女は自分と向き合い始めてる。だから、私はそれを支えようと思う。
パレスの主である彼女が襲われるとは思わないけど、万が一を心配しだすと気が気でないから。
準備が終わり、佐倉家へと向かう。
どうやら、皆はまだ来ていないらしい。雨宮くんからの連絡で、マスターが店に戻ってることは確認してる。
つまり、今回の作戦中にマスターが乱入してくる可能性はほぼ無い。
少し待っていると、賑やかな声が聞こえてきた。どうやら彼らが到着したようだ。
実は雨宮くん以外は、
ふっ……、彼らの初動は見えている。だから、私は先手を取るのだ。
「皆、こないだは助けに来てくれてありがとう。おかげで、今はなんかすごいスッキリした気分。あと皆に銃を向けてごめんなさい。……皆が無事で本当に良かった」
「海咲~!謝るのはこっちのほうだよ!」
思わず「ふぐっ!?」ってなる勢いで、杏がダッシュで抱きついてきた。
他の面子……坂本くんとかも話しかけたそうだったけど、雨宮くんが止めている。あ、目が合った。頷いておこう。
これから1戦交えるっていうのに、こんなとこで時間使ってたら勿体ないからね。
「ほら、杏。双葉ちゃんに予告状渡しに行くんでしょ?今はこんな事してる場合じゃないよ」
「……そうだね。今日はそのために来たんだ」
「東雲さん、首尾はどう?」
「連絡はしてあるよ。鍵も開けてくれてるはず」
そう言うと、玄関まで歩いていってドアを開く。……うん、鍵はちゃんと開けてくれてるみたい。
「おっけー。バッチリだよ。さ、行こう?双葉ちゃんが待ってる」
「おう!しっかりとお膳立てしてもらったんだ、さっさと片付けちまおうぜ!」
「うむ。部屋の鍵も開けてくれてるのだろう?」
「多分……私はもう入れてもらえると思うけど、皆はまだ……無理かも。だからまずは私に任せてね」
いくら、昨日色々と曝け出してくれたとはいえ、皆が双葉ちゃんと改めて顔を合わせるのは、ほぼ初対面みたいなものだし。あの時は暗がりで様子を見に来た双葉ちゃんが脱兎の勢いで逃げてったからね……。
「いいえ、十分よ。実際どうやって開けてもらおうかって悩んでたからね」
『その手間が省けるかもしれねえ。それだけで十分だぜ』
「そう言ってもらえると、昨日行動に移した甲斐があったよ」
「よし、双葉の部屋へ行こう」
雨宮くんの言葉で、私達は行動を開始した。
家の中へと入り、2階へ移動する。そして、辿り着いた開かずの間。
私はノックをして、ドアの向こうの彼女に語りかける。
「双葉ちゃん。約束通り来たよ。開けてもらえる?」
「うぅ……そそそそ、その、やっぱり海咲だけじゃダメか……?」
「だーめ。言ったでしょう?貴女が怪盗団の皆をこのドアの先へと受け入れないと、パレスの扉も開かないって」
「し、仕方ない……しばし待て……」
「はいはい。準備できたら声掛けてね?」
多分、鍵開けて速攻で押入れ籠もる用意してるんだろうなあ……。
などと、考えていると、妙に感心した表情の真が隣に来ていた。
「海咲、すごいわね……。よくたった一日でここまであの子に踏み込めたものね……。感心するわ」
「うーん……、特にこれと言って何がってわけでもないんだけど、人と仲良くなる時は胸襟を開くのが大事……ってとこかな?」
「うらやましいわね。怪盗団の皆とは余計な事考えないで話せるようになったけど、貴女みたいに人の心の隙間に入り込むような事は出来ないもの」
「ねえ真、それ褒めてる……?」
「手放しで褒めてるわよ。見透かしたかのように、うまい具合に入り込んでくるのよね海咲って」
「……そうだな。東雲さんは結構、ここぞというところで欲しい言葉をくれるイメージがある」
「えー……?なんかすごい高評価じゃない?」
そこに関しては、ちょっと謎知識さんのアレでアドバンテージがあってね?……とも言えないので、返答に困ってしまう。
とはいえ、嫌がられていないのなら、それはいい事ではないだろうか。
そういう評価をしてくれてるという事は、私の存在を受け入れてくれてるって証左でもあるわけだし。
素直に、その言葉を受け取っておこうと思う。
「い、いいぞ。入れ」
「おっけー、おじゃましまーす」
『めちゃくちゃ軽い感じで入ってくな……』
「さすがは東雲さんだ。任せて本当に良かった」
「おう……そうだな……」
「ふっ、もはや様式美のようなものだな、蓮の
ドアに手をかけてみると、抵抗なく開いた。
うん、これで大事な一歩が踏み出せたね。
「開いた……ね」
「ええ、それにしても散らかってるわね……」
「しかし、すごい部屋だなこれは……」
「そうね、医学や心理学他も専門書ばっかり……」
「こんな暗い部屋にずっとこもってるんだ……」
皆がキョロキョロと見回しているけど、双葉ちゃんの姿は見えない。
まあ、このままでは埒が明かないので、ここはひとつ私が。
「双葉ちゃん開けるよー」
「うぇっ……!?ちょ、ちょっと待っ……!」
「ほんっとナチュラルにガンガン行くなこいつ……」
「待って海咲!貴女が開けてしまったら、扉の奥にまた何か追加されてしまわないかしら」
『ああ……オタカラの周りに柵でも出来ちまいそうだ』
「確かにそうかも……というわけで、双葉ちゃんここ開けてくれる?」
「意味がわからない!詳しく!」
うーん……やっぱりこう、知らない人がいっぱい居る状況でテンパってる可能性高いねこれは。
こうなってくると原作通りの双葉ちゃんって感じになってきちゃってる。
「パレスっていう認知の世界では、その主……つまり今は双葉ちゃんのことね。貴女の心の心象風景っていうものが、物体や現象として現れるの。だから、双葉ちゃんが自ら招いたっていう認識、つまり貴女の心象世界に影響する認知が必要になってくるの」
「今はこの押し入れが扉になってお前ら目的の邪魔になってるってことか……」
「うお……理解はええ……」
『竜司とは出来がちげえな!』
「ンだと、この猫!」
「静かにしろ、お前ら。今騒いでも邪魔になるだけだ」
「わりぃ……」
『すまん……』
そんな定番の坂本くんとモナのじゃれ合いを、雨宮くんが一喝してくれる。助かるなあ……。
こういう細かい事気にしてくれるだけで、めちゃくちゃイベント進行しやすくなるよ……。
「双葉ちゃん、貴女の望みは何?もう、今までのようにただ下を向いてるだけじゃないでしょう?全ての元凶を探し出して、真実を明らかにする。双葉ちゃんが自分自身を取り戻すために私達は今ここに集まってる。貴女の心に巣食った病巣を滅ぼすために。お願い、昨日私を受け入れてくれたみたいに、怪盗団の皆も受け入れてほしいの」
「…………」
「もし貴女が拒絶しても、私は味方でいる。その時はまた別の方法を考えるよ。でもさ、興味ない?……貴女のお母さんが研究の完成を間近にしていた『認知訶学』の実在。それを証明してみせた私達っていう存在のこと」
「ね、ねえ待って海咲。ちょっと話が飛びすぎて理解出来ていないんだけど、『認知訶学』?双葉のお母さんの研究ってどういうこと?」
あれ?認知の研究の事とかって、双葉ちゃんのパレスでは詳しく説明なかったっけ?と思って記憶を漁るが……有りよりの無いだね。
「私が説明するね。私達にとってはもう当たり前の存在になってるパレスやメメントスだけど、その存在自体はごく一部ではすでに示唆されていたの。その認知訶学という学問の研究をしていたのが双葉ちゃんのお母さんである、若葉さん」
「パレスやメメントスの存在も予期してたってこと!?」
「えー……というより、人には認知の世界っていうものが存在してて、そこで本人の意識に影響を与えることで現実の本人にも影響が出るみたいな事を研究してたんじゃないかな?詳しくは私もわからないけど。ただ、論文自体は10年ぐらい前に
「認知科学とは別なの……?内容としては違うものかもしれないけど……」
「認知『訶』学な!摩訶不思議の訶で、全然別物だぞ!」
「お、しゃべった」
「…………」
「黙っちゃった……」
真には悪いけど、ちょっとここらで話を切らせてもらおう。今日の目的は認知訶学のことを説明することじゃないから。
目の前で自分達の知らない話を繰り広げられたら、聞きたくなる気持ちはわかるんだけどね。私もそうすると思う。
「ごめん、脱線したね。どうかな?双葉ちゃん。まだ私達のこと信じられない?」
「ねえ、双葉ちゃん!あなたの心見せてもらった。過去のことも、お母さんのことも。あなたが殺したなんて嘘だよね!?育児ノイローゼだなんて、そんな事信じられない。だって、マスターが聞かせてくれたお母さんとあなたの心の中で見たお母さんと全然違ったから!」
「杏、待て……」
「あなたの口から、本当のことを聞かせて。私達も海咲と同じであなたの助けになりたいだけなの!」
「ね?双葉ちゃん。ここに貴女を悪く言う人なんて居ないよ。出ておいで」
「うぅ……っ」
その時、押し入れの戸が開いて、双葉ちゃんが姿を現した。
まだ下を向いて、恥ずかしそうにしてるけど、彼女が自分の意志で自分から私達の前に出てきてくれた。
……と思ったら、私の背後に回って隠れている。
「……出てきたぞ。後はどうすればいい?」
「うん、終わりだよ」
「は……?」
「あのね、必要なのは双葉ちゃんが自ら部屋に招き入れてくれるっていう事実で。後は実際認知の世界の……彼らがパレスって呼んでる所に行って、双葉ちゃんの心の中核を奪うっていう形で改心するの。だから、今こうして部屋に招き入れて、姿を見せてくれたことで一番大事な所は突破できたってわけ」
「じゃ、じゃあ後はここで待ってればいいのか……?」
「そういう事よ。後は私達怪盗団に任せてちょうだい」
「おぉ……」
真が頼もしい。原作とは、結構異なる形になってるとはいえ、私の思考は鈍らない。行動指針もブレたりしない。
あいつらから解き放たれた事によって、私はこの世界での完全な自由を手に入れた。
だから、彼らがパレスへ行った後、今回私も入る予定だ。
双葉ちゃんにも私の姿を見せておきたいし、ここまで来たら彼女のイベントを見届けたい。というか、側で見守りたい。
そう、自らの意思で私は彼女を危険に晒す事になる。
「それじゃあ、海咲。私達は行くわ。帰ってきたら、色々聞かせてちょうだい。双葉の事、頼んだわよ」
「うん、お願い。皆が帰ってくるまで双葉ちゃんと一緒にいるよ。今なら、マスターに見つかっても双葉ちゃんと仲良くなって招かれたって言えるしね」
「よっしゃ!手早く行こうぜ!」
『ああ、シノノメが付いてるなら、アフターケアも問題ないだろ。オタカラ奪取まで一直線だぜ!』
「双葉ちゃん、さっきはゴメンね……。戻って来たら改めて話をしようね」
私達をパレス侵入に巻き込まないように皆が部屋から出ていく中、雨宮くんだけはそこに残っていた。
彼は、ひとつ頷くと私の目を見て言った。
「東雲さん、ありがとう。後は俺達が終わらせてくる。ゆっくり待っててくれ。双葉も、何かあれば彼女に言ってくれ。きっと力になってくれるから」
「……うん。海咲の事は信用してる……」
「そうか。なら平気だな。気負わずに待っててくれ」
「気を付けてね。雨宮くん達なら問題ないだろうけど、敵も強敵だろうから」
「ああ」
力強く頷いて、彼も皆の後を追っていった。
と、思ったら何やら坂本くんが慌てて戻ってきた。
「いっけねぇ!これ渡さねえとオタカラ出現しねえんだったわ!双葉、ほいこれ受け取ってくれ」
「な、なんだこれ……?」
「予告状だよ。まあ詳しいことはともかく、これをお前に渡さねえと無駄足になっちまうところだったからよ!じゃあな!」
危ない、私も思わず流れのままにうっかりしてた。ここで渡し忘れてオタカラが出現してないとかなったら、コントになるところだったよ……。
まあ、なんとなく説明はちゃんとしたことで出ていそうな気はするんだけどね。確実に保険が掛かったという意味では良かったかな。
半刻ほど経って、怪盗団の皆が扉の先に向かったであろう頃合いを見て、私は行動に出る。
……ここで私は問わないといけない。
「……ねえ、双葉ちゃん。認知の世界、行ってみたくない?」
「は?……ままま、待ってくれ。行けるのか!?」
「うん、私と一緒ならね。自分の心を蝕んでいた病巣を自分で取り除いて、自分の心と決着を付けることがきっと出来るよ。双葉ちゃんはどうしたい?」
「…………たい……。わたしも……行きたい!お母さんの研究が現実にあるんだろ!?わたしも行って、この目に焼き付けたい!!」
……すごくいい目をしてる。自分の意志を持った、覚悟を持った眼差し。
誘導したのは私だけど、この子が自分で決断したなら。私は全力でそれに応えるだけだ。
双葉ちゃんには傷一つ付けさせない。
「じゃあ、行くよ」
私はイセカイナビを起動して、情報を指定する。
「佐倉双葉、佐倉惣治郎宅。キーワードは『墓場』」
『――ヒットしました』
「な、なんだ!?なんか変だぞ!?」
無機質な音声案内のあとで空間が揺らぎ、目的地であるフタバパレスに着く。
転移場所が双葉ちゃんの部屋からだった影響もあり、どうやら扉の向こう側に直接来られたらしい。
「こ……これが、わたしの認知の世界なのか……?」
「そう。そして、貴女の心の中核に続く道」
「…………」
「双葉ちゃん?」
「み、海咲なのか?なんかカジノのディーラーみたいな服だし、マントにフードに仮面……?それにお前……タイトスカートにガーターベルトに黒タイツって……」
「認知の世界で、反逆の意思を持つものがパレスに来ることによって、敵と認識される事でこの姿に変わるようになってるの」
「全員その格好になってるのか?」
「まさか。これは私だけの姿だよ。そして、これが私の力」
『ようやく出番というわけね。海咲、出遅れた分はすぐに取り戻すわよ』
「試運転の余裕はないよ。一気に行くからねマスターシュ」
双葉ちゃんが、口を開いてポカーンとしている。
……まあ、初めて見たら驚くよねそりゃ。
「これは、ペルソナ。この認知の世界で敵であるシャドウという存在に敵対して、反逆の意志を掲げた者が覚醒する力。怪盗団の皆や私は、この力を使って戦ってるの。文字通りにね」
「い、意外と認知の世界ってアグレッシブな世界なんだな……」
「そう。ここからは危険もあるから、私から離れないでね。パレスの主を攻撃はしないと思うけど、私が居ることで予定外のシャドウが出るかもだから」
「わわわ、わかった……!くっついてく……!」
さあ、遠目にだけど彼らが最奥へと向かっていくのが見えた。
私達も後を追おう。マップ構造はしっかりと頭に入ってる。迷うことはない。
「み、海咲!なんか出た!!なんだアレ!?」
「アレがシャドウ。私達の敵よ。私の後ろで私を盾にしててね」
「わかった!」
早速とばかりにシャドウが出てくるが、速攻で蹴散らす。
……うん、敵の強さはそんなでもないね。
「さ、先行してる彼らを追うよ」
「…………カッコいい……」
「ありがと♪ちょっと急ぎ目で行くから、双葉ちゃん背負っちゃうね」
「わっ!?」
「舌噛まないでね。行くよー!」
双葉ちゃんを背負って、駆け出す。
敵は蹴散らすか、気配を探って回避する。極力彼女を危険な目に合わせないように。
そして、しばらく進んでいくと……。
『お前は誰だ。佐倉双葉を連れて何をしに来た』
「わ、わたしがもう一人……?」
そこには、双葉ちゃんのシャドウが待ち構えていた。
感想、評価等頂けるのめちゃくちゃ嬉しいです。おかげさまでモチベ上がって書けましたゆえ。ありがとうございます。