『答えろ。何故お前達はここに居る』
双葉ちゃんのシャドウがお出迎えだ。
私達を排除しようというよりは、本当になぜここに居るのか?という空気感が強い。
『まあいい、見ろ』
スライドのように壁画が上から降ってくる。
これは……双葉ちゃんが遺書を渡されている風景の壁画……。
「遺書……?お母さんが死んですぐに、わたしに黒い服の奴らが読み上げてきたとき……」
『そうだ。次だ』
次に出てきたのは、双葉ちゃんの目の前で若葉さんが車道に飛び込んだ時の情景を模した壁画……。
原作からしてそうなので仕方ないが、これが心象風景として残っているっていうのは、なんて残酷な事だろう。
親を目の前で失うことになった瞬間の出来事が、壁画として残されてしまうぐらいに双葉ちゃんの心に刻み込まれているという事実。
「お母さんが……わたしの目の前で、車に飛び込んだとき……いや、急にふらついて……倒れ込んで轢かれたとき……」
『……そうだ。次を見ろ』
「あぁ……あ……」
そして次に出てくるのは、双葉ちゃんがワガママを言ってお母さんを困らせたと言っていた時を模したであろう壁画。
私は双葉ちゃんの隣へ寄り、その手を繋いだ。
「双葉ちゃん、大丈夫。これは貴女を追い込んでるんじゃない。
「海咲……。答え合わせ……答え合わせってどういう……?」
『お前はまだ自分が殺したと、そう思っているのか?』
「目の前のあの子は、もう一人の貴女。自分の中に居る、もう一人の自分。双葉ちゃん、自分自身と向き合うの。そして真実を自分の手で掴み取って」
頑張って双葉ちゃん。これは貴女自身が乗り越えなきゃいけない試練だから。
行われる問答に、少し怯えているのが彼女の手から伝わってくる。私は何も言わず、ただ握る手を少しだけ強めた。
『目をそらさずに答えろ。これはいつ頃あったことだ?』
「……お母さんが轢かれる……少し前だ……。わたしが忙しそうなお母さんにワガママを言って駄々をこねたとき。駄目だって怒られて……拗ねて喚いたんだ」
『そうだ、ほかに何を言っていた?それだけじゃないはずだ』
「今は忙しいの、認知の研究を早く完成させないといけないから……って。それでわたしが……わたしより研究のほうが大事なんだって。……でも、そうだ。その後お母さんは、『もうすぐ研究が終わるから。そしたら双葉の好きなところ、どこでも連れて行くわ』って……!」
双葉ちゃんが、ハッとなって一瞬こちらを見て、前へ向き直す。
そうだ、その辺りの事は昨日私とは
今、それをなぞっているのは、彼女が自分自身と心の擦り合わせを完全にするため。双葉ちゃんのシャドウは、最初からそれを望んでいる。
「完全に思い出した。『双葉、ずっとひとりにさせて寂しい思いをさせてごめんね。でも本当に大事な研究なの、お願いだからわかって。私の命を懸けて完成させなければいけない研究なの』って」
『お前は、嫌われていたか?』
「違う……うぅ、頭が……っ?海咲……?」
私は手を離すと彼女の後ろに立ち、肩口から抱きしめた。
聞いてたからね。私にこうされてると不思議と頭痛を感じないって。
「収まった?双葉ちゃん言ってたでしょ?私にこうされてると、頭痛がなくなるって。貴女を蝕むものは私がこうして和らげるから」
『答えろ。お前は本当に嫌われていたのか?』
「……違う……!わたしは、お母さんに嫌われてなんかない……。あの時、お母さんは……笑顔だった!」
『…………お前は』
笑った。
確かに、双葉ちゃんのシャドウは今微かに笑ったように見えた。そのまま姿を消してしまったけど。
その時、けたたましい獣のような叫び声が聞こえてきた。
「なに……?わたしを呼んでる?」
「双葉ちゃん、行こう。ここからが最終局面だよ」
「……うん!」
怪盗団の皆が戦っているであろう、このピラミッドの外へと。双葉ちゃんを促して駆け出していく。
ここまでの道中で、予定外のシャドウは出てこなかった。
これは双葉ちゃんから警戒されていないということなのか、それともこの先に待ち構えているのかはわからない。
ただ、何が起こっても、双葉ちゃんには指一本触れさせないし、怪盗団の皆のサポート役として。役目を全うするだけだ。
── 一方怪盗団。
彼らは空を飛ぶ、双葉の母である若葉の顔を模した異形の怪物に苦しめられていた。
「くそがっ!全然歯が立たねえ……っ!モナ、なんとか出来ねえのか……!?」
『言っただろ!ワガハイにも出来ることと出来ねえことがある!』
「このままではジリ貧だ。せめて空から引きずり落とせれば……っ!」
「……決め手が足りないわ。銃撃だってあの大きさ相手じゃ……」
その時、彼らの後方から追いかけてきた双葉が現れる。
「双葉……!?どうして……まさか……入ってきたの!?海咲が付いていたのに何故……っ!?」
「……いや、東雲さんが、そんな単独行動を見逃すようなヘマをするわけがない。だろう?」
「当然。少しも触れさせないよ。もちろん、
──おおぅ……大迫力。
双葉ちゃんの心に巣食う闇の具現化。あれほどまでに大きくなるほどに膨らんでしまった、追い詰められた彼女の心。
まずは……その高いところから撃ち落とす──!!
「マスターシュ!撃ち落とすわよ!!」
『久しぶりの昂りね。私の力──存分に振るいなさい』
「チャージ!ランダマイザ!──至高の魔弾!!」
4つのピースメーカーから放たれる4つの漆黒の銃弾。
全体攻撃であるはずのそれは、私の意志の力でその軌道を片羽根へと収束させていく。
それは、威力を損なわずに怪物の翼へと向かっていき、そして貫いた。
ズドォォォォン!!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?』
「す、すげぇ……!俺等が束になっても敵わなかったってのに……」
「ふっ……相変わらず、凄まじい力だな。だが心強い……!!」
「海咲!美味しいとこ持ってっちゃってぇ!」
「ふふ、ごめんね杏。それに皆。双葉ちゃんが、お母さんの研究が本当に存在するんだってことを確認したいって。それを受け入れて連れてきちゃったの」
「君がそう判断したんなら、それで良いさ。それに、双葉を一人にしてここに来るより、よっぽど安心かもしれない」
相変わらず雨宮くんは、全肯定してくれるなあ……?
そして、私からこういう状況になるように仕向けた感じになってるのに、なんか双葉ちゃんの望みでみたいな事言っちゃってごめん、双葉ちゃん……。
怪物を空から引きずり下ろし、時間は稼いだ。さあ、双葉ちゃん。正念場だよ。
「なんだ……あれは……」
『お前が殺したんだ!』
──低い声の男の幻影……?が
『黙ってないで何か言ったらどうなんだ!』
――鋭い声の男の幻影がわたし《双葉》を萎縮させる。
『あなたのせいよ!あなたのせいであなたの母親が!』
――甲高い声の女の幻影がわたし《双葉》に原因をなすりつける。
「わたしのせい……わたしのせいでお母さんが」
『ぐっ……ぐあぅ……そう…だ!お前が私を殺したんだ!』
「まさか、あのバケモノが双葉の母親だと言うのか!?」
『欲望と罪悪感が認知を歪ませてあそこまで育っちまったんだ。死んだ母に生き返って欲しいって願いと、自分自身への歪みで気味ワリィ罵声になっちまってる……』
『お前さえぇ!お前さえいなければぁ!もっと早く研究の成果を発表できて、全ては上手くいってたはずなのに!!私が心血を注いだ認知訶学という学問の完成が!!』
「認知訶学の研究……」
『死ぬのよ!嫌われ者のお前は!私を解放しろぉぉおおお!!』
――聞き苦しい。
嫌われてなんかない。嫌っているのは、若葉さんの死を利用して双葉ちゃんを引き取って、ネグレクトしていた叔父夫婦だ。
確かに身内には恵まれなかったかもしれない。でも、少なくともマスターは双葉ちゃんを
それに、今は私もいる。怪盗団の皆もいる。
彼女のことを嫌っている人間なんて、ここには一人も居ないんだ。
『生きてる意味なんてない!誰にも必要となんかされていない!』
「そうだ……誰もわたしのことなんて……」
『双葉なんて産まなきゃよかった鬱陶しい……ね。どうやらお母さんは、ずっと双葉ちゃんの存在について悩んでたんだねぇ。育児ノイローゼで自殺……か。残酷だねぇ……』
ああ……視えるよ、私にも。双葉ちゃんを蝕む喪服を着た汚い大人達の幻影が。
いい加減にしなさいよ。なんの罪もないこの子に罪を擦り付けて。自分達が先導して廃人化して結果殺したくせに、嘘の遺書まで捏造してこの子を苦しめて追い込んで。腐った汚い人間達の残骸をこれ以上、彼女の中に居させるものか。
「黙りなさい」
ダーンッ!
銃声がひとつ。黒い服の男の頭を撃ち抜いて消滅させる。
ダン、ダーンッ!
銃声がふたつ。叔父夫婦の頭を撃ち抜いて消滅させる。
『お前ぇええ!!邪魔をするな!双葉が死ねばそれで済むんだ!そいつが全て悪いんだぁ!!』
「メギドラオン」
若葉さんを模した悪辣な幻影達を吹き飛ばす。
これ以上、邪魔はさせない。本体は、まだ。もう少し。
「双葉ちゃん、思い出したんだよね?貴女のお母さんは、決して嫌ってなんかない。嫌いな娘と、どこでも好きなとこに行こうなんて言わないでしょう?仲のいい親子だったんでしょう?」
「そうだよ!あんな化け物がお母さんなわけない!あれはアンタが生み出した幻!」
「マスターが言ってたわ。『母親一人でも頑張って育ててたし、明るくて仲の良い親子だった』って!」
「誰かから誤った記憶を刷り込まれて居るんじゃないのか!本当の記憶の中の母親は、本当にそんな薄情だったのか!?」
「誤った記憶……」
その時、双葉ちゃんのシャドウが降り立つ。
そう、貴女を待っていた。双葉ちゃんが立ち直るために必要なのは、自分自身である貴女の言葉。
『佐倉双葉!前を向け!思い出せ!!自殺したのはお前のせい?研究の邪魔をしたから?なぜ自殺だと思い込んだ?』
「……遺書を渡された……から……」
『そうだ。黒い服の大人に見せられた遺書には一体何が書いてあった?』
「わたしへの恨み……ただ、わたしを責め立てる事だけ書いてあった……」
『お前はそれを見て、辛くてショックを受けて現実から目を逸らし、閉じた。だがそんなお前の都合なんて知ったこっちゃないと、黒い服の大人は、大勢の親戚が居る前で延々と読み上げた。わざと、仰々しく。よく考えろ、あの遺書は本物だったのか?』
「……」
『よく考えろ。大好きだったお母さんが本当にあんな事を書いたのか?あんな酷いこと、ただの一度でもお前は言われたのか?』
「言われて……ない!わたしがワガママ言った時は確かに怒られた。でも、わたしを責めることなんてしなかった。優しかった!」
『ならばあの遺書はなんだ?』
「真っ赤な偽物……あんなのお母さんが書くわけない!」
『お前は利用されたんだ。遺書の捏造だけでは飽き足らず、幼いお前の心を傷つけ踏みにじり、お母さんの死をなすりつけて全てを壊していった!怒れ!クズみたいな大人を許すな!!』
「わたしが……自分自身に向き合わず、お母さんの死とも……ちゃんと向き合わなかった。だからあんな奴らにいいように騙された!」
双葉ちゃんが立ち上がり、まっすぐ前を向いて、自分と向き合っている。
横目で認知の怪物を見ると、未だ地に這いつくばって悶えている。いつでも二発目の準備は出来ている。決して邪魔はさせない。
「なんで……なんでわたし、あんな事言われなきゃいけなかったんだ!……うぁっ!?」
「双葉ちゃん!?」
「杏、大丈夫」
「海咲!?でも……」
「見守ってあげて。大丈夫だから」
キィィィィン――。
『……お前を否定する声はすべて幻影……心なき者共が施した悍ましい呪い……元よりお前は知っていたはず……知っていたはずなのに思い込みで怯えて生きてきた』
「……そうだ、知ってた……知ってたはずなんだ。でもわたしは」
『……幻影に言われた通りにお前は死ぬのか?……他人の思惑通りにお前は従うのか?……お前が信じるのは幻が吐く呪詛の言葉か、それともお前自身の魂の声か?』
「わたしは……もう、歪んだ上っ面なんかに騙されない。海咲が気付かせてくれた。わたしは一人じゃない……。支えてくれる人がいる。心無い他人の声なんかに惑わされない……!自分の目と心を信じる。真実は自分で見抜くんだ!……あんなバケモノが、お母さんのわけあるか!腐った大人のせいで創られた偽物だっ!お母さんを馬鹿にするな!!ぜったいに……絶対に許すもんかっ!!」
覚醒の時だ。
双葉ちゃんのペルソナ、ネクロノミコン。いや実際見ると、UFOから機械の触手が出てきて攫っていくって絵面やばぁ……。
「ペルソナ……!?東雲さん、君はこれを見越していたのか!?」
「ううん……いや、そうだね。ひょっとしたらって思ってた。彼女が立ち直れるなら、それは反逆の意思。理不尽に若葉さんの死を利用された彼女が立ち直れるなら、もしかしたら……って部分はあったけど、まさかだよ……」
当然嘘だ。見越して連れてきてますぅ。
……などと言うわけにも行かないので、得意のポーカーフェイスでここは誤魔化しておく。
『【契約】……我は汝、汝は我。禁断の叡智は開かれた。いかなる謎も幻も、もはやお前を惑わせない』
『まさかこんな所で新たなペルソナ使いが覚醒するとはな!』
「お願い、手伝って!あいつをやっつける!お母さんのフリをした紛い物を、わたしの中から消し去る!」
「もちろんだ。怪盗団、ここからが本番だ。東雲さん、手伝ってくれるか?」
「当たり前でしょ?なんのためにここに居ると思ってるの?」
「心強いよ……海咲!」
「海咲、たのむ。あいつを倒してくれ!わたしを助けて!」
「承ったよ、双葉ちゃん。ササッと終わらせて、皆で現実に帰ろう」
「行くぞ!皆!」
「「「おうっ!!」」」
『私の……私の思い通りにならない双葉なんぞ……死んでしまええええええええぇぇええ!!!』
やらせるものですか。
全力で行かせてもらうよ。怪盗団の皆の前だけど、もう出し惜しみする気は一切ないからね。
全てを終わらせて、皆で笑い合うために……覚悟しなさい。認知の怪物!
やっぱナチュラルに文字数増えてきた件。変なとこで切るよりはキリのいいところで終わらせたくて。