三話目になります。
──翌日。
朝起きて、当たり前のように私の部屋に存在していた秀尽学園の制服を着て、四軒茶屋駅へと向かう。
おお……これが、リアル制服……と感動する一幕もあったが、着てしまえばどうということはない。
改めて鏡に映った自分の姿を見て、
とはいえ、今日は学校に行かねばならない。転校の挨拶と教科書等を受け取りに行くのだ。
ということで、ルブランの前を通り過ぎようとすると、ちょうどマスターが店から出てきたので挨拶をする。
「おはようございます!」
「よぉ、休みの日に制服なんて着て今から登校か?」
「はい、実は今日転校の挨拶に行く日なんです。教科書とか受け取らないとなので、休みだけど学校には行かなきゃいけなくて」
そう、
流石に事前挨拶で遅刻はしたくないので。
などと考えていると、マスターの後ろから彼が歩いてくる。
「あれ?マスターの息子さんです?」
なんて、白々しく聞いてみると。
「ちげぇよ!うちに下宿してる居候だ」
「あ、そうなんですね!おはようございます。
「……よろしく、
すっごい嫌そうに否定するマスターに、あははと笑いながら彼に自己紹介をする。
彼も返してくれた。怪盗姿の彼とは違う、少しダウナー気味の声。ペルソナに目覚める前というのもあってか、印象が結構違う。
……格好いいなあ。ふつーにイケメンである。
「今日はこいつを転校の挨拶に連れてかなきゃ行けなくてよ。目的が同じなら海咲ちゃんも一緒にどうだい?車で送ってってやるぜ」
「えっ、いいんですか?」
「秀尽のある蒼山駅までは結構めんどくせぇしな。俺の車に男を乗せるのは癪だが、女の子は歓迎だよ」
「じゃあ、お言葉に甘えますね」
「おう、今車回してくるから路地出たところで待ってろ」
「はい!」
そう言って、マスターは歩いていった。
……どうしよう、主人公と二人きりになってしまった。
「雨宮くんは、何年生?」
「二年だよ」
「え、そうなんだ!じゃあ私と同い年だね」
「東雲さんも二年か」
「うん。同じクラスだといいね」
いや、良いわけない!メインキャラとは極力絡まないようにしたいの!
言霊というものがあるからして、どちらかというと陰からサポートしたい派の私なので、迂闊な発言は……!
「東雲さんは……」
「うん?なぁに?」
「……ごめん、なんでもない」
「……?そう?」
おそらく、自分の境遇に関してのコトかなあと思う。
今、私との会話をどういう風に思っているんだろう。
原作知識を持っていると言っても、日常の彼らの心情までわかってるわけじゃない。
先走ってボロを出さないためにも、出来るだけ後手に回って会話するように気を付けないと。
「そういえば昨日、夜にルブランのカレー食べたの。すごい美味しかった!」
「そうなんだ」
「雨宮くん、まだ食べてない?」
「ああ、まだ食べてないな」
「あれはね……良いものだよ……!」
「……そんなにか」
「そんなにだよ!」
話しながら歩いていれば、あっという間に路地裏を出る。
少し待っていると、マスターの車が目の前に停車する。
助手席に乗ろうとする雨宮くんに「お前はそっちだ」と後ろに乗るように言うマスター。
あはは、女の子が居るとこういう感じになるんだね。
と、助手席に乗り込む私。
「シートベルトは締めたか?それじゃ、安全運転で行くぞ」
出発して、しばらくするとマスターが少し真面目な雰囲気で話しかけてきた。
「海咲ちゃん、一応言っとくがこいつは保護観察中でな。もし、そういうの気になるんだったら関わらなくていいからな」
「……」
どこか、彼を突き放すような言い方をするマスター。
きっと私に気を使ってくれてるんだろう。でも、言い方がちょっと良くないかな……。
「……何をしたんですか?保護観察中ってことは、その……」
「酔っぱらいに絡まれた女を助けたら、酔っぱらいが勝手によろけて倒れたらしくてな。……その酔っぱらいってのが、ちと不味い相手だったらしくてよ。ちょうど警察が来たところで取り押さえられて、訴えられて有罪……だそうだ」
「酷い……!雨宮くん何も悪くないじゃないですか!」
「……実際運がなかったってのは俺も思うぜ。世の中理不尽なことってのはあるもんだ。だが、世間的にはこいつは有罪。犯罪者扱いだ」
「……ねえ、雨宮くん。貴方は、何も手を出してないんでしょう?」
「……ああ、相手が勝手に転んで怪我をして、濡れ衣を着せられた」
「そんで、保護官の俺に預けられたってわけだ。ったく……正義感は立派だがよ、世の中ままならねえもんだ。身の程をわきまえろ」
「……わかってます」
「雨宮くん……」
そのまま誰も喋らなくなり、重たい雰囲気のまま学校に到着する。
この時期のマスターは、雨宮くんに冷たい。それは仕方のないことだけど、やはり少しモヤッとする。
とはいえ、今何を言ってもマスターの心には届かない。彼自身がマスターとの絆を紡がないとダメだから。
……だから、私には何も言えない。
職員室へと向かい、声を掛けると雨宮くんたちは校長室へ、私はそのまま職員室の中へと案内される。
「海咲ちゃん、帰りも送ってやるから悪いけど待っててくれ」
「ありがとうございます!校門前で待ってますね」
「はいよ」
二人と別れて、職員室で私の担任となる名も知らぬモブ先生と話して、教科書やら色々と必要なものを受け取った。
先生に明日からお願いしますと言い、職員室を出て二人を待つ。
(……秀尽学園、かぁ)
原作の舞台に、自分が「転校生」として足を踏み入れているという事実を噛み締める。
改めて昨日のことを思い出す。メメントスでのこと。家のこと。自分のこと。そして今日のこと。
(一体誰が、何のために……?まるで誰かに仕組まれてるみたい)
一応納得はしてみた。
でも、思い返すとやはりおかしいことだらけだ。一番おかしいのは現状を受け入れてしまっている自分自身。
おかしいのはわかっているのに、私はこの現実を現実として受け止めて受け入れてしまっている。昨日よりもさらに。
そんな考えに耽っていると、二人が声をかけてくる。
「待たせちまったか?さ、帰るぞ」
マスターの後に付いて歩く雨宮くんを呼び止めて、私は声を掛ける。
「クラスは違うみたいだけど、明日からよろしくね!」
にこやかに差し出した私の手に、彼は一瞬戸惑ったような表情を見せる。しかし、すぐにその手を握り返してくれた。
「……よろしく」
短い返事だけど、その声には微かな安堵の色が混じっているように感じられた。
「……いい子じゃないの」
誰にも気付かれず、そう呟く惣治郎の表情と声色はとても柔らかだった。
──これから始まる、原作とは異なる物語。彼女はまだ知らない。
この何気ない挨拶が、彼の、そして彼女自身の運命を、大きく動かすことになるということを。
冷静に考えて教科書わざわざ前日にもらいに行くか?とかはご都合的なアレでスルーしていただけると本当に助かります。