そしてやってきました、メメントス強化訓練の当日です。
双葉ちゃんのパレスでの戦闘で、私自身の強化が進んでしまったこともあって、さらに難易度が上がったであろうメメントス第一層。
皆が先乗りして、侵入してたところに私が後から入る形で、いざメメントス。
いやこれ、びっくりなんだけど……。皆が先に入ってた時も、まあ歪な赤と黒の混じった不気味な空間だったメメントスが、私が足を踏み入れると若干ドス黒い感じの空間に変化していく。
えぇ……?こんなの初めてなんだけどぉ……?
「ね、ねえ海咲……?いつもこんな感じ……?私達こんなメメントス初めて見たんだけど……」
「えーっと……私も初めて見たなあ……」
『つまり、さらに強くなったシノノメがメメントスからさらに警戒されたってことか……?ワガハイ知らねーぞこんな現象……』
「さて……どうやらのんびり話をしてる暇もなさそうだぞ?」
「早速かよ……。うしっ!一丁やってやろうぜ!」
坂本くんが気合を入れて、前方からわさわさと寄ってくるいつも通りの
皆が緩い空気を変えて、戦闘モードに入った雰囲気を感じる。
それじゃ、私は後方腕組みして皆の戦闘を見せてもらおう。
──そう思って、見守っていたんだけど。
「硬ってぇ……!なんだコイツら!?」
「通じてないわけじゃないのに……予想以上に手強いわね……!」
「しかも緩急なく押し込んでくる……。弱点がわからないというのがこれほどまでに厳しいとは……!」
そうなんだよね。私が来てる時のメメントスってホント鬼畜仕様だから、相手の弱点がわからないのが難点っていう。
至高の魔弾で吹き飛ばして、相手が跳ね返してくるなり無効化するなら、マハムドオンかメギドラオンって選択肢が取れる私と違って、彼らのペルソナの属性は偏っている。
だから、弱点がわからないから噛み合わなくて苦戦するっていうのは、想定出来たこと。
もしここに双葉ちゃんが居たら、アナライズも出来てたかもしれないけど、今の彼らじゃそれも出来ない。
「キリがないな……。だが、一体一体を倒すたびに、力が増している気がする」
「そうだね……!ただ、そろそろスキル使うのキツくなってきたかも……!」
「はいはーい。杏は下がってアイテム使って回復してねー!大丈夫、いくらでもあるからねー!今日は皆スキル撃ち放題だよー!
「いや、海咲。そんなバーゲンセールみたいなノリで言わないでちょう……だいっ!」
『精神力回復アイテムなんて結構貴重なはずなんだが……なっ!』
「ここで戦ってるだけで一杯手に入るからねぇ……」
なお、ここまで私は一切手を出していない。
何も言わずに手を出しても、彼らのプライドを傷つけてしまうかも知れないし、ちょっと後ろで眺めてるだけの奴がたまに攻撃して観戦とかしてるだけとか嫌じゃない?
ということで、今まで集めてきた潤沢なSP回復アイテムを無償提供しているのだ。
別にタダで手に入れたものだし、彼らからお金取ろうなんて思わないし。むしろ在庫削減に協力してくれてありがとうって感じではある。だって使わないもん私。
とはいえ、大分メメントスの床にアイテムが散らばって散乱してしまっている。一旦処理して休憩してもらおうかな?
そう考えて、皆に声をかけて一旦下がってもらう。その間にもシャドウは湧き続けてこちらへと向かってくる。
まあ強化されたシャドウであろうと、私からしたら経験値の餌でしかない。本当にチートな身体とペルソナをくれてありがとう世界。おかげでこうやって皆を鍛えることも出来る。
こういう展開にありがちな、実はCHALLENGEモードでしたー!みたいな世界じゃなくて本当に良かったよ……。
二丁の拳銃を構えてマスターシュを呼び出す。
「チャージ、至高の魔弾」
倍加した全体攻撃が、シャドウの群れを一掃する。……やっぱり威力上がってるね。メメントスの壁まで抉ってる……と思ったら、その場で壁が再生していく。
なんかちょっと……グロ系のホラーゲームみたいな感じでちょっと嫌……。
「みんな!今のうちにちょっと休憩!少しの間私が引き受けるから、ゆっくり身体を休めておいて!」
「……すまない。ありがとう東雲さん」
「助かる……正直もう身体が軋んできたぞ……」
「ソーマもあるからねー!いつでも万全の態勢で戦えるわけじゃないから、ちゃんと体力も回復しとかないと駄目だよ。まだまだ来てから一時間ぐらいしか経ってないからね!」
大体、ここで戦闘を開始してからそれぐらいしか経ってない。
ただ、戦闘数……というか、原作準拠のエンカウントっていう観点に直して考えてみると、大体5体シャドウが出てくるのを30~50回分ぐらいは戦ってるはず。
私がメメントスで戦ってるときの感覚で言うと、大体1/3ぐらいのペースかな?
彼らのレベルを考えると、十分健闘してると思う。ただ、少しスキルの無駄撃ちが多い気がする。
なので、そこをちょっと指導……ってほどじゃないけど、少しレクチャーさせてもらうことにした。
「そのままでいいから聞いててね。まず、皆スキルの無駄撃ちが多いかな。敵の弱点がわからないなら、まずは単体攻撃じゃなくて全体攻撃を一当てして様子を見る。弱点を付けば相手はダウンするから、そこで大量にダウンすれば後続の動きも防ぐことが出来るよね?その間に息を整えて、トドメを差すなり回復するなりっていうのが重要だよ」
「おぉ……なんかレクチャーが始まったね……」
「いや、だが的確だ。弱点がわからないならまずは一当て。当たり前のようだが怠っていたな。肝に銘じよう」
『……正直めちゃくちゃ参考になるぜ、あいつの動き。無駄が少ねえし、アドバイスを自分でも実践してる。っていうか、威力もすげえし使ってるスキルも上位のモンだ。ワイルドってわけでもねーのに、手札が多すぎるぜ……』
「シャドウも不定形で弱点が読みにくいのは確かだけど、今のところ理不尽に耐性持ってたり……無効とか反射とか吸収とか持ってるやつはあんまり出てこないから、反射で痛い目見るっていうのはそこまで恐れないでいいと思うの。もちろん当たったら痛いけど、回復が出来るって考えたら少しは無茶できるよね」
最初の方はそれこそ、吐きそうになってたなあ……。
あの時は必死だったし、今思えばそんなこともあったよね程度の思い出でしかないんだけど。
初めて至高の魔弾反射された時はホントに死を覚悟したしね……!
「簡単そうに言ってくれるわね……。でも……海咲はそれを乗り越えてきたってことよね」
「たった一人で……ここまで強くなって、私達の為に力を貸してくれてるんだよね。負けてられないよ私達も!」
「だな……!ヘバッてる場合じゃねえってこった!……キチィけどな」
「どんどん回していこう。こんなチャンスは滅多にないんだ。少しでも東雲さんに近づけるよう、俺達も気合を入れていくぞ!」
『おうよ!ワガハイもそろそろ新しいスキル覚えられそうな気配あるしな!』
彼らも少しだけど休息が取れたみたいだし、スイッチだね。
マハムドオンっ……と、おお!まさかの全落ち!?めちゃくちゃ気持ちいい!
最後にすれ違った雨宮くんが手を上に上げてきたので、パーンッとハイタッチして交代。
ところでさっきから気になってるんだけど、いや……さっきというか双葉ちゃんのパレスからなんだけど。
誰も私のことクルーピエって呼んでくれない……。まあ、言わないけどね!自分からはそんな事言わないけどっ!!別に気にしてるわけじゃないからね!
まあほら、私
「動きは良くなってきたよ!でも、スキル一辺倒になってるからね!もっとデバフ撒いて、有利取ろう!フラフラしてるヤツに対しては、銃撃とか直接攻撃でトドメ刺して省エネしちゃおう!いいよ杏!怯んだ相手には容赦なく追撃しちゃって!どんどん処理しないと敵が溜まっちゃうからね!喜多川くんは全体攻撃とスクカジャでの援護を優先してあげて!回避と命中上がるっていうのは、相当有利になるから!坂本くんは弱点付けない時は動き回ってどんどん仕留めちゃって!純粋に物理のダメージ大きいのは君だよ!」
……なんかちょっと楽しくなってきた。
最初こそぎこちなかった彼らだけど、どんどん動きが洗練されてきて、スムーズに殲滅できるようになってきてる。
もちろん私みたいに一発撃って、はい次!みたいな感じじゃないけど、相手をダウンさせてトドメ刺して間髪を入れずに次に移行してっていう流れが完成し始めてきた。
元々、彼らのチームワークは悪くなかった。だから、強敵だったり今みたいに続々と押し寄せてくるような状況に慣れてきたなら、適応も早いんだね。
目に見えて強くなっていく彼らを見ていると、胸が熱くなってくる。
原作では、プレイヤーが操作するだけだった戦闘だけど、こうして目の前で繰り広げられる彼ら自身の戦いを見ていると、自分が今その世界で生きているんだと改めて実感できる。
バランスを崩した仲間の前に立ってフォロー。立て直したら即復帰して、カバー。
現実であるここなら、編成なんて関係なく今ここにいる皆が戦闘に参加できる。つまり、全属性のスキルを放てるわけで。
いくらでも有利取れる……ってわけでもないんだよねぇ……。
シャドウ達だって、決して突進してくるだけの猪じゃない。スキルも使ってくるし、連携も取ってくる。デバフも撒かれるし、バフも撒く。
でもそこはさすが怪盗団のリーダー。デクンダ、デカジャを活用して皆を支えてる。
あ、マハムド撃ってる……おぉ、結構一気に減った!
誰も気付いてないけど、私は気付いてるよ。今、雨宮くんが小さくガッツポーズしたの。わかるよー嬉しいんだよねー。
なんか、即死攻撃が綺麗に決まると、よっしゃ!って気にならない?私はなる。きっと彼も今そんな気持ちでいっぱいのはず!
「大分……安定してきたか……」
「とはいえ……流石にキツイな……思うように動けなくなってきたぜ……」
「海咲は……これを一人でやってたわけでしょ……?あの強さも納得だわ……」
「といっても、私の場合至高の魔弾を同時に複数撃てるってアドバンテージがあるし、勝利の息吹で勝手に回復するしね。それに強い敵と戦うと早く強くなれるけど、私の場合、それを独り占め出来てたっていうのもあるから。皆とはちょっと事情が違うんだよね」
そういう理由もあって、私の成長は早かった。いや、レベル上げってそもそもいかに効率よく稼げるかっていうのが重要じゃない?
彼らの場合は戦闘に加わってる人数も多いから、その分原作と比べても分配されちゃってると思うんだよね。
それでも、雰囲気的に5ぐらいレベルアップしてそうな感じするけど。
「だが、東雲さんがたった一人で、この大群と戦い続けてきたって考えると……凄いとしか言えないな」
「ああ、実際にやってみてわかった。たびたび入る東雲との交代がなければ、全滅してるか、とっくに撤退してるかのどちらかだろう」
『お前のアドバイスのおかげで、随分ワガハイらの連携も良くなったからな!感謝してるぜ』
「皆が満足してくれたなら良かった。それじゃ、次やる時はもう少しキツめの追い込みメニュー考えとくね」
皆の表情がピシッと音を立てて固まった……ような気がした。
え……?いや、そりゃまあ初日だし、そんな厳しくしちゃったら駄目かなと思って少し優しめにしといたんだけど、
そう思って、そのまま告げてみたんだけど……。
「ああ……言い出しっぺは、私達……だもんね……」
「杏……顔が青いわよ。気をしっかりしなさい……」
「か……鴨志田よりスパルタかもしれねぇ……」
「わかった。坂本くんだけ特別厳しくやるね今度から」
「すいませんでしたァーーーーーーーーーッッ!!」
おぉう……ジャパニーズドゲーザ。
見事な土下座を披露されて、流石に居心地が悪かったので即、立ってもらう。
いや、まあ流石に本気で怒ってはないけど、アレと比べられるのはちょっとねぇ……?
「……だが、それぐらいやらないと追い付けないってことだ。この場で息を切らしてないのは東雲さんだけだからな」
「でも、今回で大分強くなったって実感はあるでしょ?雨宮くんなら、さらに強くなれるよね?」
「ああ。早速行ってこないといけないな」
言葉尻にウインクをひとつ添えると、彼も何を言われたのかを理解したんだろう。ニヒルに笑って頷いた。
多分だけど、雨宮くんって私のこと、
いわゆるベルベットルーム関係の人物。青い服も着てないし、目も金色じゃないし、直接の関係者ではないと思ってるだろうけど、もしかしたらあそこを知ってる人物ではないかぐらいには思われてるかもしれない。
……あながち、私の存在的な意味では似たようなものかもね。
あの時のメメントスでの一件で、私は自分のルーツを知った。それに関して感傷的なものは無いし、自分がこの世界のために生まれた存在だってことも飲み込めてる。
ある意味では、モナが一番私と近い存在なのかも。
……と、シャドウがまた湧いてきたね。
「さ、じゃあ今日は解散しよっか。無理しても怪我するだけだからね」
「ああ、東雲さん。また頼んでも大丈夫か?」
「うん、皆がもっと強くなってくれたら、私も安心だしね。困難に陥っても跳ね返せるぐらいの強さを頑張って手にしてね?」
「責任重大ね」
『まあ早いとこ出ようぜ。大分ここにも居座っちまったからな。ここは長時間居ると……』
チャリ……。
「全力ダッシュ!撤退!!早く!!!」
無理無理無理!刈り取るものなんて、私一人なら戦うことは出来るだろうけど、皆が居たら危険すぎる!!っていうかまず今の私でも勝てない!!
あんなの相手にしてたら命がいくつあっても足りないよ!サマリカームが現実でも効くのかなんて試しようがないんだから!!
私の剣幕を見て、フザケてる場合じゃないと感じたのか、全員何も言わずに綺麗に撤収行動に移ってくれた。
おかげで、誰一人被害に遭うことなく脱出できた。
いやー……モナってもしかしてフラグ一級建築士かなんかだったりする……?
その後、刈り取るものがいかにヤバいヤツかを実感籠もった熱量で語ることで、理解してもらうことに成功した……と思う。
何が怖いってさあ……私と居る時にアイツとエンカウントしたら、強化されてそうで怖いんだよね……。
…………ヤバい、今私もしかしてフラグ立てちゃった……?うわ、どうしよ……。
フラグ建築士はお前だ定期。