欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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閑話的な2。


第三十三話 世間一般的には夏休みですので 私達も息抜きをね

あれから、2回ほどメメントス強化訓練を行った。

終了の合図は鎖の音。

フラグ回収がすぐに行われることはないとは思うけど、逃げる際に振り返った時目が合ったような気がする刈り取るもの。迸る殺意に身体が竦むような気がしたけど、なんとか撤退に成功した。

あれは確実に強化個体だ……。逆の発想で、私が刈り取るものめっちゃ弱体化してって毎日思ってたら、認知の影響で弱体化されないだろうか。されないだろうなあ……。

 

雨宮くん達も、グループチャットで双葉ちゃんだけに頼るんじゃなくて、他の手も考えようってなってたらしいんだけど、まあそんな上手いこといい考えが出てくるわけはなかったと杏から教えられた。

 

夏休みってこともあり、雨宮くんもコミュ埋めに奔走してるらしく、結構忙しく動き回ってるようだ。

そんな中、珍しく志帆から誘いが来て、今私は渋谷のファミレスで志帆と杏の三人で寛いでいる。

 

「もーっ!ほんっと暑い!最近の天気、どうかしてるよね」

「わかるー……。お店の中は涼しいけど、一歩外出たら灼熱だもんねー……」

「暑すぎて、蚊があまりいないって聞いたけど、そこぐらいかな?良いところって」

 

んがー!っと暑さに憤る杏は、頭にサングラスを乗せて、ノースリーブのシャツを腰で結んでヘソを見せつつ、ショートパンツという原作でも見慣れたスタイル。

志帆は、ノースリーブのタートルネックに膝丈のスカート。最近心に余裕が出てきたのか、髪型を少しいじったりしてオシャレ感がすごい出てきた。杏とちょいちょい出かけてるみたいだし、現役モデルでもある杏に色々と弄くられてるんだろう。……首元暑くないのかな?

ちなみに私は、ノースリーブのロングトップスにスキニーデニムにキャップを被ってる。ほぼ、杏チョイス。

 

うん……。やはりこういう日常も大切だ。

私からしてみたら、尚更大事にしたい時間でもあるんだよね。やっぱり。

だって考えてみたら、私って過去がないわけじゃない?こんな姿でこんな中身だけど、実年齢ってところ考えたらモナと同い年だよ!?

 

などと考えていると、志帆がなにやらモジモジしながら、言おうか言うまいか迷っているようなそんな素振りを見せている。

……ははーん?志帆……貴女さては……?

 

「志帆……みなまで言わないで。大丈夫、私はわかってるよ」

「えっ……!?私何も言ってないよ!?」

「志帆が杏と私を呼び出して、何やら言いづらそうにモジモジしている……ずばり、恋ね」

「…………え?」

「そうなの!?志帆、それマジ!?」

「任せて、志帆。私達が完璧に相談に乗るよ!」

「いや、あの……全然違うんだけど」

 

ポク、ポク、ポク、チーン。…………あれぇ?

 

「…………海咲?」

「……ごめーん」

「ふふ……全然そういうのじゃなくて。最近ちょっとした趣味を見つけたんだ」

「「……っ!!」」

 

なんだかちょっと嬉しそうにそう言う志帆に、杏と私は同時に反応した。

志帆が……やりたいことがまだ見つからないって言ってた志帆が……。趣味を見つけたって……やりたいことが見つかったってことだよね。

杏が私を見て頷く、私も同じタイミングで頷いて、バッ!と前を向いて志帆を質問攻めにする。

 

「なになに!?どっか行くの?それとも何かするの?」

「志帆ぉ……言ってよ水臭い。いつでも付き合うって!ねえ、海咲?」

「もう、二人とも。まだ何も言ってないよ。実はね、荒川さん達に誘われて、釣り堀に行ってきたの」

 

……Why?えっ、なんて?釣り堀……?

ちなみに、荒川さんはクラスメイト三人組の一人で、私と仲がいいのもあるけど、社会見学とかで一緒だった縁もあって志帆とも仲良くなっている。実は私や杏も含めて皆でカラオケ行ったりもしてるぐらいには打ち解けてる。

いや、それはいいけど、花の女子高生が三人揃って釣り堀に志帆を誘ったの?あの子達、趣味が渋すぎない?

 

「ご、ごめん意外すぎて止まっちゃった。釣り堀ってことは市ヶ谷にあるやつ?」

「そう!先週ぐらいに、そこに四人で行ってきたの!周りはおじさんばっかりだったけどね」

「確かに意外だったけど、でも良かったよ……。志帆が楽しいって思える趣味が出来て」

「うん、ホントにそう。でも釣りかぁ……私やったことないなあ」

「私もない。でも海咲なんかは意外と得意そうなイメージあるけどね」

「そうだよね。なんかひょいひょい釣り上げちゃいそう」

「えー?やったことないのに?」

「というわけでね?良かったら二人も一回やってみない?って思って」

 

なるほど、なるほど……。いいかも!やっぱ、市ヶ谷の釣り堀って言ったら、私にとってはこの世界の聖地のひとつ!こんな機会でもなかったら一人じゃ絶対行かないだろうし、楽しそう!

 

「私は行ってみたい!一人じゃ行かなそうだし、志帆と杏が一緒に行くならやってみたいなー!釣り竿とか貸してくれるんだよね?」

「そうなの!私も一人じゃ流石に行けないんだけど、二人が一緒に行ってくれたら嬉しいなって」

「行こうよ!なんなら今から行っちゃう?海咲も予定は大丈夫だよね?」

「行ける行ける!大して遠くもないし、行っちゃおうよ」

「良かった。じゃあ移動しよう?時間勿体ないもんね!」

 

いやー……正直びっくりな内容だったけど、そっかあ。

荒川さん達にも感謝だね。志帆とは、以前にもやリたい事が出来たら言ってね!なんでも付き合うから!って約束してたし、それが見つかったことは何より嬉しい。

それがまさかの釣り堀での釣りっていうのは意外すぎたし、ABCトリオからの誘いでハマったっていうのがまた面白かった。

今度会ったら、めちゃくちゃ話聞こう。みんなどんな流れで釣り堀通ってるの?って。想像しただけで面白すぎるね。

 

そんなわけで、お店を出て市ヶ谷へ向かう。

行きの電車の中で、そういえば釣り堀で川上先生に会ったよとか聞いて、ちょっとびっくりした。

確かに、原作でも雨宮くんと坂本くんが川上先生と釣り堀で遭遇するイベントあったけど、まさかそんな頻繁に通ってるんだろうか……?

 

少し話したらしく、何も出来なくてごめんなさい。生徒を守らなきゃいけない立場なのに見て見ぬふりをした事。取り返しのつかないことになる寸前まで、何も出来なかったこと。本当にごめんなさい。そう言って謝ってくれたそうだ。杏や私、雨宮くんとかの事も言ってたそうだけど、私自身は別に川上先生に悪感情ってないんだよね。

あの当時腐りきってた学校内部で、何が出来たわけでもないと思うし。学校側がおかしなぐらいに忖度してた鴨志田に逆らうことも出来なかっただろうし。

 

でも、そういう風に生徒に寄り添ってきたってことは、きっと雨宮くんが川上先生のコミュを進めてるからなんだろうね。

私が手を貸せない部分でもあるし、しっかりそういうところやってくれてるのは本当に助かる。

……いやホントに誰が本命なんだろう。杏も真もそんな雰囲気ないんだよね……。だから屋根裏のゴミルートはないっぽいっていうのは確定してそう。

だって、杏とかと付き合ってたりしたら、態度隠せてないよ多分。もちろん杏のほうが、だけど。

 

 

── 市ヶ谷。

そんなこんなで到着しました、釣り堀です。

受付のおじさんから、最近は女の子の間で釣りが流行ってんのかい?とか聞かれたけど、いいえ割と特殊ですと答えておいた。

志帆はというと、レンタル釣り竿を借りて、ふんすとやる気満々だ。はい、この子がそのちょっと特殊な例です。

なんか、志帆が元気で事件が起こらなかったら、こういう未来があるんだなあ……と考えると、結構感慨深いね。

 

私達は、隅っこのほうに陣取って、目立たない感じで並んで釣りを始める。

志帆に釣り餌の付け方とか、針の付け方とか教えてもらって、いざ釣り開始!なんだかんだ言って興味あったんだよねー!

ちなみに、杏は釣り餌を見て青褪めてたので、志帆が付けてあげてた。気の利く子だなぁ……。

私?私は全然大丈夫。多分無意識集合体の中に釣りガチ勢の意識が居た可能性有り。なので、意外と釣りが上手い可能性……あるね!

 

「ねえ志帆……これ、どうやったら釣れるの?」

「杏。待つの。でも、ずっと待ってるだけだと魚も警戒して寄ってこないから、餌が泳いでるみたいにこうやってクイクイって竿を動かして上げるんだよ。そうすると魚が餌がある!って寄ってくるから……こうっ!!」

 

おおっ!?志帆の竿にヒットが!ちょっと遠慮がちで大人しい印象の志帆が、生き生きと竿を手繰ってリールを巻いている。

っていうか、志帆の釣り姿が妙にサマになっていて、ちょっとカッコいいんだけど。

 

「杏!網取って!もうすぐ釣れるから、上がってきたらお願い!」

「わ、わかった!まかせてっ!!」

「えっ、すごっ!めちゃくちゃ大きくない!?」

「やった!タグ付きだよ!」

 

結構な大物を釣って、大喜びする志帆。その屈託のない笑顔が眩しい。

これはもしかして、才能を開花させてしまったのではないだろうか。……そのうち海で船釣りとか誘われそう。

 

「あっ、海咲!海咲も引いてるよ!ほらっ」

「ホントだ!これは……結構大きいかも……!」

 

やるからには大物が釣りたくて、大きな練り餌を買っておいたので、釣れるのは大物だけ……なはずっ!

ちなみに、現実である今はポイントじゃお金は稼げないからか、各種餌も普通に現金で売ってくれた。

うーん……なんとなく、こうすればいいっていうのは頭にあるんだけど、実際やってみると結構……言う事聞いてくれないっ!これが……釣りなのね!?

 

「海咲!網は準備出来てるよ!」

「うん、お願いっ!……上がるよ!……フィーッシュ!」

 

これが釣り……!なんか凄い楽しいかもしんない。

その後もキャーキャー言いながら釣りを楽しんでると、ちょっと予想してなかった人が寄ってきた。

 

「珍しいとこで会うな」

「あれ、雨宮くんだ。一人で釣り堀?」

「ああ、実は新しいロッドを買ってきたんだ。試したくて」

「えっ、もしかして蓮ってガチ勢?」

「雨宮くんの持ってるロッドって、もしかして地下モールで売ってるやつ?あれすごい高いよね」

「詳しいな。もしかして鈴井も経験者なのか?」

「うん、この前クラスの子たちに連れてきてもらってからハマっちゃって。一人で来るのもちょっとって思って付き合ってもらったんだ」

「そうか。東雲さん、隣いい?」

「どうぞどうぞ、せっかくだから雨宮くんの腕前を見せて欲しいな」

「そんな、自慢するほどの腕は持ってないよ」

 

なんて会話を続けながら、釣りを楽しむ。

何故か途中で杏と志帆が少し椅子を離して座ってたけど、なぜ……?

 

「(志帆、なんかちょっと面白いのが見れそうだから少し離れよう)」

「(そうだね……。いい加減じれったいよねあの二人。というか海咲)」

「(好かれてるの自覚すれば、一気に進みそうなんだけどね……)」

「(わかる。好意自体は全然ありそうだもんね)」

 

んー?二人で話したい事があるのかもしれないし、雨宮くんも来たことだし、まあいっか。

 

「双葉はまだ目覚めないみたいだ。たまにあることってマスターは言ってたけど、流石にここまで寝たまま起きないっていうのは心配になるな」

「あ、それなんだけどね。たまーに起きて適当に何か食べてお風呂入ってまた寝てるみたい」

「……え?本当に?」

「うん。あんまり意識はハッキリしてないみたいで、ほぼ夢遊病みたいな感じらしいけど」

「佐倉さん、そんなこと言ってくれなかったな……」

「女の子のことだからね。雨宮くんよりは私のほうが言いやすかったんじゃないかな?」

 

いや、双葉ちゃんが目覚めるまでのことはホント大丈夫なんだろうかって思ってたんだけど、そういう感じらしい。

だっていくら寝たままだからって、ゲームと違って生きてるわけだから、食事もしないとだし水も飲まないと死んじゃうよね。

その辺り、妙に現実感あるんだよねこの世界。だからこそ、命を大事にって思えるわけなんだけど。

 

「東雲さんは会いに行ったり?」

「何度かね。でも、ほとんど反応なかったなあ……。ちょっとあの環境で寝るのは身体に悪いなと思って、部屋は綺麗にしておいたけど。」

「そうか……ありがとう。俺達には出来ないことをしてくれて」

「いいのいいの。マスターにも、話通して合鍵置いてるとこ教えてもらってるから。双葉ちゃんのことは妹みたいに思ってるし、お安い御用ですとも」

「あの時も思ったけど、随分と親しくなったんだな」

「そうだね。なんかほっとけなくてさ……。雨宮くんはマスターから聞いてる?私の家のこととか」

 

多分、マスター経由で聞いてはいると思うんだけど。私には両親や兄弟が居ないってこと。まあ親戚もいないんだけどね。

 

「……ああ。君の口から聞いた話じゃないのに、知ってしまって申し訳ないけど」

「気にしないで。私としてはもうそれが日常だから、全然大丈夫だからさ。皆にもそのうち言ってたと思うし。まあ、そういう事情もあって、なんかほっとけなくて。色々話してる間に結構感情乗っちゃったんだよね……」

「優しいな、君は」

「そう……かな?あんまり意識はしてないんだけど」

「覚えてるかな?俺達が会った頃のこと。俺の両親は、前科持ちになって俺が周りからの視線で、潰れてしまわないように……って、知り合いを通じて佐倉さんに預けるっていう選択をしてくれた。でも親戚や前の学校の友人達からの反応……視線は凄く冷たかった」

 

原作でも語られない、彼の過去──。

それを聞けてるという事が少し嬉しいと思ってしまうのがちょっと嫌だな。彼は真剣に話してくれてるのに。

彼に申し訳ない。ちゃんと話を聞かなくちゃ……。

 

「それが前科が付くってことだって、佐倉さんには言われた。でも、やっぱり理不尽だと思った。ただ、嵌められただけなのにって。そんな中、東雲さんは事情を聞いても引かないどころか、怒ってくれたんだ」

「うん、覚えてるよ。今でも思い出すだけで腹が立つ話だよ」

「初対面の先生や校長にすら、こいつが犯罪者か……って目で見られた。今では大丈夫だけど、当時は結構堪えたな。そんな事があった後に合流して、これからよろしくねって……手を差し伸べてくれたんだ。君が」

「そうだったねぇ」

 

多くは語らず先を促すだけに留める。彼は今吐き出してるんだ。自分の中の心の膿を。だから、彼の話を邪魔しない。

 

「嬉しかったよ。あの時、俺はきっと人間不信になりかけてた。周りは敵ばかりで、誰も味方してくれない。そんな時、君が現れた。俺のことを聞かされても、態度を変えることなく。むしろ一緒に怒ってくれた。本当に……救われたんだ」

「だって、雨宮くん何も悪くないもの。レッテルだけ気にして、その人のこと何も知らないのに悪く言うっていうのが、許せなかったんだよね。私さ……結構人を選ぶの。別に誰でも仲良くできるわけじゃないし、自分に対して友好的な相手には相応に有効的に返すけど。でも、やっぱり……どうしても駄目な相手っていうのはいるし。人を見る目はそこそこあると思ってる。だから雨宮くんがそう言ってくれるのは嬉しいよ。嫌な思いさせないで済んだんだな……って思えるから」

 

いけない、ちょっと語りすぎてしまった。どうしても抑えきれない想いっていうのはあるから。

 

「だから……俺が本当に君に対して返しきれない恩があって、すごく感謝してるって事は伝えておきたかったんだ。色々迷惑もかけてしまってるけど、俺達に協力してくれて本当に助かってる」

「……どういたしまして。でも、私は当然のことしかしてないよ」

「その当然が、俺に……俺達には凄く大きかったからな。ずっと言いたかったんだ、俺に手を差し伸べてくれてありがとうって」

「じゃあ、そのありがとうは謹んで受け取っておきましょう。私だって、雨宮くん達には色々迷惑かけちゃってるし、助けてもらったもの。私のほうこそ、ありがとうだよ」

「……それじゃお互い様ってことで」

「そうだね」

 

そう言って、二人笑い合う。

そんな風に思ってくれてたなんて、全然知らなかった。

ストレートに告げられた感謝に、思わず顔がちょっと赤くなってしまったけど。彼の感謝の言葉が私の心に響いてきた。

何気なく交わした会話、何気なく接した態度、何気ない行動。その全てが彼の傷を癒すことに繋がっていたなら、それはとても嬉しい。

だって、雨宮蓮という存在は、私にとっての最推しなんだから。

 

 

──その後は、何か勘違いした杏に「なにやらお熱いですなー!」とか揶揄われたりしつつ、釣りを堪能して四人で晩ご飯を済ませてから解散した。

ちなみに志帆は、7匹ぐらい大物釣り上げてて爆釣だった。ちょっとした趣味どころか、才能が完全に花開いてるなーと確信したよ。

でも、志帆がやりたい事が見つかって良かった。きっとこれからも誘われたりするんだろう。私も想像以上に楽しかったから、望むところだけどね!

……海釣り、ちょっと興味出てきちゃったな。




告白すると思った?まだデース!
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