段々と迫る、メジエドの指定したXデーに向けて、テレビでは様々なリークが放送され、そのリークすら怪盗団のせいだなんて風潮が世の中に広がってきた。
怪盗団の皆は、そういった状況の中焦りを感じている。個別に「本当に大丈夫かな?」とか「やっぱり何かするべきかしら」とか相談っぽいのが来てるけど、私から伝えられる結論としては「大丈夫」の一言しかない。
そもそも、展開を知っているからこそのこのスタンスであるけれど、彼らの立場からしたら焦るのはわかるし、やけに自身満々な私に色々聞いてくる気持ちはわかる。
だからってさあ……。
「あのねぇ……昨日も一昨日もその前も言ったでしょう?私達が取れる手段は、双葉ちゃんに頼る意外無いよって」
「なんでそんな落ち着いてられるの?確かに海咲は怪盗団ではないけれど……この状況は」
「怒るよ、真」
「あ、ごめんなさい……!そんなつもりじゃないの。ごめんね海咲……」
今言ったのは杏だ。
ルブランでコーヒーを飲んでいたら、皆が集まってきて屋根裏部屋に連行されてこうなっている。
「いや、まあ真がそう言いたくなるのもわかるから。大丈夫」
「世間の声も勝手なものだ。東雲は怪盗チャンネルは見ているか?」
「見るわけないじゃん」
「あー……、そうだよな。まあ簡単に言うと、あそこの掲示板も結構荒れててよ。好き放題言われてんだ」
「早くしろよとか、一般市民を守れとかね……」
『気楽なもんだよな。自分達は画面の向こうで好き放題言ってるだけで、ワガハイらが動かないと叩いて、改心に成功したら持ち上げる。別にお前らのためにやってるわけじゃねーって言いたくなるぜ』
んー……。結構ネガティブになってるなあ。でも、言いたいことはわかるんだけど、まさに私が指摘した通りになってきてるって気付いてるかな?ないかも。
蒸し返すのもアレではあるけど、もう一回ちょっと言っておこうかな。
「前にさ、警察とか軍隊とかが相手になったらどうするの?みたいなこと言ったことあったよね?これって、その前哨戦みたいな感じだと思わない?」
「で、でもあれから外で迂闊な発言しないようにすごい気を付けてるよ!?」
「杏、もうその段階じゃないの。メディアを動かせるぐらいの権力持った人間が、明確に怪盗団に罪を擦り付けて潰そうとしてるって事。おかしいと思わない?こんなに都合よく細々した企業リークとかスキャンダルとかがボロボロ出始めてるんだよ?まるで今まで溜め込んでたものを吐き出してるみたいに」
「……テレビという権力を使って、怪盗団に対して不利を押し付けて、リークされた不祥事全てを怪盗団に押し付けようとしてるって事か……」
「くそッ!!やり口が汚ねぇ!騒いでるヤツらも簡単に騙されすぎだろ!!」
「大衆の意見なんて、そんなものよ。だって彼らは何も知らないんだもの。流れてくる情報を鵜呑みにして、印象の悪い方や自分達に都合の悪い方を叩く。昔からのテレビの常套手段だわ」
「そう、そして、これを皮切りに露骨に怪盗団は敵視されると思ってる。敵から……だけじゃなくて、私達が嫌悪する汚い大人達によって印象操作された大衆にも」
彼らを追い込みたいわけじゃないし、説教したいわけでもない。
ここからは、本気で取り組まないといけない。ここから先の展開は、私は原作を壊して突き進むつもりだから。
すでに色々と変わっているけれど、それでも時間軸は原作通りに進んでる。
まだ詳しく説明するわけにはいかないけど、私は裏で作戦を練っておかないといけない。少しでも黒幕に存在察知されないように。
そしてこんな最中でも、彼らは怪盗チャンネルに来た依頼の数々もちゃんと解決している。
世間のバッシングにも負けずに、自分達の信念を忘れずに戦ってる。だからこそ、少し厳しくても私は言わないといけない。
……次の奥村フーズの件で、心が折れないようにするために。
「だったら、尚更今回のことを早くなんとかしないと……」
「ねえ。ちょっとキツイ言い方になっちゃうけど、いい加減……皆には覚悟を決めて欲しい」
「覚悟……とは、どういう事だ?」
「理不尽と戦う覚悟。敵が誰であろうと、自分達の信念を曲げずに戦い抜くっていう覚悟。この先、これ以上の理不尽が怪盗団に降りかかるかもしれない。その時に皆が心折れずに前を向けるかどうか。私が聞いてるのはそういう『覚悟』。貴方達は仲間のために、一方的に理不尽な目に遭わされて助けを求める人のために、襲い来る理不尽に立ち向かえるかどうかっていう、そういう気持ち」
「……東雲さんは、今後そういう連中が相手になると考えているんだな?」
「というより、そうなるよ。気付いてるよね?鴨志田に始まって斑目に金城と、どんどん対象は大きくなってる。裏で渋谷を牛耳ってた人間を改心させた。今回のメジエドの問題を解決したら、メディアを操れる権力者をも跳ね除けることになる。じゃあ、今度はそいつらがさらに上の人間に泣きつく。そう思わない?」
なにせ、表向きの黒幕って意味では、現状は獅童正義が想定ラスボスだからね。
警察だって、あいつの手のひらの上。怪盗団の正体が判明したら、いくらでもでっち上げで罪を擦り付けることができる立場の人間なんだから。
「待てよ……そんな大事になんのか……?俺達、ただ理不尽な目に合ってるヤツらを助けようとしただけだぜ……?」
「下手したら……ホントに国家権力と戦うことになる……ってこと……?」
「
『……そうなったら、シノノメはどうするんだ?ワガハイは諦めねえ。諦めちゃいけねえって気がするんだ。もし一人になっても戦うぜ。覚悟なんて最初から決まってんだ』
モナの目に焦燥感は一切ない。その目にあるのは使命感。
記憶がないにも関わらず、自分に与えられた役目はモナの中に根付いているんだろうね。彼は覚悟を示した。
だったら私もそれに応えなくちゃいけない。だって、私が存在する意義も、モナと似たようなものなんだから。
「言うまでもないよ。私も同じ。たった一人になっても戦って、そして勝つ。私は徹頭徹尾、怪盗団の皆や親しい友人や知り合いのために戦う。だから、怪盗団がなくなったとしても、一人でも戦うよ。私は鴨志田から志帆を解放した瞬間から、自分の力を親しい人を守るために使うって誓ったから」
『罪なき人々を……とは言わねーんだな?』
「外野から好き勝手言うような人達なんて知らないよ。私の手は二本しか無いからね。手の届く範囲まで守れればそれで十分でしょ?」
モナがニッと笑って、挑発するように言ってくる。私も意図を汲んで、不遜に返す。
私がこの世界に生まれた意味が、身近な人達に対してのハッピーエンドなら、私の言葉は何も間違ってない。
別に正義のヒーローじゃないんだから、日本全国無差別な人助けなんて、酔狂な勘違い偽善者に任せておけばいいと思う。
「俺らや、お前の周りの人間助けるために命賭けるってか……?覚悟決まりすぎだぜ……お前。でもよ……」
「ああ、筋道がわかりやすい。何を言いたいのかはよくわかる。俺が怪盗団に入ったのは、自分が助けられたという恩もあるが、一番はお前達の活動や想いに賛同したからだ。同じ思いをしている者達を救いたいという気持ちは忘れてはいない」
「ああ……、そうだよな。わりぃ、まだ部活の延長みてぇな気分だったのかもしれねえ。俺達は
「……そうだね、なんか私テレビのせいで、あんなに頑張ってきたのに好き勝手言って……ってヘコんでたけど、考えてみたらなんで何も知らないで騒いでるだけのヤツらの為にこんな悩んでたんだろ……なんかちょっとムカついてきた!」
「……そうね。そうよね。私がようやく見つけた居場所を、メジエドなんて意味わからない理不尽な連中に壊されるなんて我慢ならないわ。ごめん海咲。私、弱気になってた」
「ううん、私が言ったことも憶測だからね。今後そういう展開にならない可能性だってもちろんあるし」
「だが、俺も東雲さんと同意見だ。たとえ一人になっても俺は戦う。だが、東雲さんやモナが同じ気持ちなら決して一人にはならない。俺も覚悟を決めた。最後まで逃げずに戦い抜く!」
雨宮くんが私とモナを交互に見つめて、そう言った。わざわざ私達二人に向けて言ったっていうのは、煽ったんだろうなあ……。
その証拠に、皆の目の色が変わってきた。
「見損なわないでよリーダー!ここまでやって来たんだから、今更逃げ出すわけないでしょ!」
「そうだぜ、相棒。ここでケツ捲って逃げるような半端な気持ちでやってねえんだ。怪盗団とは一蓮托生だってな!」
「考えてみれば、俺にとっての怪盗団という存在はかけがいのない大きい存在だ。敵が強大だからとそれを見捨てて逃げるような真似はしたくない」
「ええ、皆の言う通りだわ。ここまで一緒に戦ってきた貴方達だけ残して逃げるなんて選択肢、何処にもないのよ」
覚悟が決まったいい表情で、それぞれが意思表示をする。
まだ夏だっていうのに、これほどの覚悟を持たせていいのかって思うけど、それぐらいの気概でいてくれないと、この先の展開をひっくり返すのは難しいと思ったから。
だから、これも伝えておく。
「じゃあ、そんな皆にひとつだけ大事な事を伝えなきゃいけない。何も言わずに私の言葉を覚えておいて」
注目を集めて、溜めを作る。これだけは伝えなきゃ。そして、これを理解っているだけで、こちらはアドバンテージを握ることが出来る。
つまり、今から私が言おうとしているのは──。
「明智吾郎は
「……明智が……!?野郎……そういう事だったのかよ!」
「やたらとテレビで怪盗団をネガキャンしてたのも、そういう事……!?」
『アイツはクセェとワガハイも思ってたんだ。テレビ局に行った時のこと覚えてるか?会ったこともなかったはずなのに、アイツはワガハイの声が聞こえてた。ワガハイしか
「待ってモナ。それじゃ……彼はペルソナ使いだってこと?」
『そう考えるのが妥当だろ?認知の世界に入り込んで、ワガハイ達のことを陰から見ることが出来た存在。そんなの一般人が迷い込んだってだけじゃ説明がつかねえ』
「確かに敵側にペルソナ使いが居てもおかしくはない……か。奴め、とんだ狸だな……」
「それじゃ、言うことは言ったから帰るね。不安になる気持ちはわかるけど、双葉ちゃんを信じてあげてね」
「ごめんね海咲、急に呼び出してこんな感じで」
「ううん、気にしないで。大丈夫、双葉ちゃんは絶対に間に合うよ。万が一、当日になっても起きなかったら……私が起こしに行ってくるよ。それじゃ、またね」
そう言い残して、私は帰宅した。
メジエドが指定したXデーまで後2日。正直、双葉ちゃんがちゃんと起きてくるかっていう心配はもちろんあるけど、この世界そういった時間軸に沿ったイベントっていうのは、寸分違わず起こってきた。
だから、あまり心配はしてないっていうのが、私が落ち着いてる理由。
皆からしたら、落ち着きすぎてるって思われるのは仕方ないよねぇ……。実はあいつ黒幕じゃね?とか思われてたらどうしよう……。
などと考えながら、家に着くのであった。
──双葉が目覚めるまで、あと2日。海咲と怪盗団は、不安を胸に秘め、思い思いに過ごすのであった。
一応補足しておくと、海咲の「見るわけないじゃん」は、”三島くんの作ったやつでしょ?見るわけないじゃん”という憶測で竜司は察した気になった形です。
海咲的には、そもそも見る意味もないので見てないよ的なのが正解です。
おまけ
最後の行の後のNGシーン
── 一方その頃。
「東雲って妙に俺らの知らねえ情報知ってるよな。まさかあいつもスパイってオチじゃ……」
「竜司、歯を食いしばれ」
「ちょっ……!まっ……!」
ゴス!ゴス!ゴス!ゴス!