欺瞞の秤   作:ちくわぶ@黒胡椒

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第三十八話 新たな決意

真からの救助要請。

それは、決して彼らの身に危険が起こったとかではなく、予想し得た単純な話。

夏休みの課題である。いわゆる宿題未解決問題だ。

 

いやー……予想はしてたよ。原作でもそうだった。坂本くんを筆頭に彼らは終わらせてはいなかった。

とはいえ、真もいるし多分大丈夫だろうなーとか考えていた私が甘かった。こういう所律儀に原作通りなの、なんというかかんというか……。

うーん……でも、実際私も彼らに迷惑かけた部分もあるし、さすがに見過ごせないよねぇ……というわけでまんまとルブランにおびき寄せられてしまったのだ。

 

「ごめんね、海咲。まさか昨日までまったく手を付けてなかったなんて思いもよらなくて……」

「いやー、さすがにちょっと驚いたけど、まあ予想通りかなーっていう部分も割と……」

 

少し苦笑しながら、そう返す。

と言っても、完全に何もやってないのは坂本くんだけで、みんなある程度残ってるぐらいでちゃんとやってたみたい。良かった……全員何もやってないとかいう地獄じゃなくて本当に良かった。

解き問題なんかは答え写したらバレるから、穴埋めだけとりあえず適当にでも埋めてもらって、手伝えるものは手伝うと……。いや、まあいいんだけど、もう少しこう……懲りて欲しい。

割と余裕ありそうな杏を見ていると、ここぞとばかりに坂本くんを煽っている。

 

「遊ぶのは個人の自由だしねー。仕方ないよねー?でもまさか何もしてないとはねー?」

「スミマセンっした……」

「まあまあ……もうその辺にしといてやれよ」

「マスター、甘やかさないでください」

 

そんな感じで進めていると、杏から()()()ちゃんの事とか聞かされる。

情報源が三島くんという所に、そうかぁ……と思いはしたけど、話を聞いてみてやっぱりゴシップか……と思った。別に彼が悪いわけじゃないんだけど、というか学校側──主に校長が相変わらずなんだけど……。

 

その日の夜のニュースでは、一転して怪盗団を褒めそやすような内容に終始していた。

事前に色々と私が言っておいたので、さすがに坂本くんたちもこの報道に違和を感じてくれるとは思うけど……どうかな……。心配だな……。

 

 

──翌日。

 

夏休み最終日、今日は少し考え事があって、私は家を留守にしていた。

行き先は、()()()()()()()。真の姉、新島冴さんのパレスだ。

怪盗団がこのパレスに来るには、まず奥村社長のパレスを攻略してから。ただ、原作通りに進めてしまうと、必ず雨宮くんは警察に捕まり、無罪が確定したエンディング後もマークされながら過ごすことになる。なぜなら、怪盗として逮捕されたという事実は消えないから。

ストーリー上、避けられないとしても、私がいるこの世界でなら回避することが出来る可能性がある。

 

だからこそ、私は冴さんのパレスを()()()()することを決意した。無謀ではある。でも、パレスの攻略ルートは全て心得ている。

そして私の目的は、冴さんのシャドウを打ち倒し、説得すること。

その後に冴さんに接触し、パレスへと連れて行く。つまり、双葉の時のように認知世界の存在を認めてもらうこと。だから、オタカラを奪取して『改心』をするわけにはいかない。彼らが冴さんのパレス攻略に入る際に、敵のフリをしてもらうための認知改変を行うことが、最終目的だから。

 

明智くんを騙し、怪盗団を嵌めるための彼らの作戦をご破算にするための一発逆転の策。

上手くいくかはわからない。でも、やらないよりはやっていたほうがいい。冴さんに認知の世界を体験してもらい、認知上の存在というものを理解してもらう。その上で彼女の協力を取り付けることが出来たら……。

 

今回ばかりは、怪盗団の皆にも知られるわけにはいかない。

気を引き締めて、事に当たらなければいけない。重要な局面だ。私は決意を固めると、目的地へと足を向ける。

彼女のパレスがある場所──裁判所へと。

 

 

── 裁判所。

 

私はイセカイナビを起動すると、早速情報を入れる。

 

「新島冴、裁判所……そして『カジノ』」

『候補が見つかりました。ナビゲーションを開始します』

 

景色が歪み、認知の世界……ニイジマパレスへと入り込むことに成功した。

ほぼ現実と変わらない認知世界に、ただひとつの歪み。裁判所の代わりにそびえ立つカジノの看板を掲げたパレス。

はっきりとした認知の世界を形作っているにも関わらず、異質なほどに目立つそれは、冴さんの揺らがない現実での認識と歪んだ欲望をこれでもかというぐらいに反映していた。

 

内部へと侵入すると、怪盗服へと変化する。つまり、気取られてるってことだね。

 

『ふふふ……この私を前にカジノとはね。面白いじゃない。海咲、この勝負……必ず勝つわよ』

「当然。でも、誂えたような私のこのディーラー衣装も、マスターシュっていう力を得たことも、ここに来るためだったって錯覚しそう」

 

記憶どおりに侵入を果たすと、私を呼び止める声。

 

「ようこそ。可愛いコソドロさん。貴女のお目当てはオタカラかしら?いらっしゃいな、案内してあげるわ」

「これはこれはご丁寧に。謹んで貴女のお誘いお受けします」

「あら……随分と堂々としたものね。面白いわ。私は正々堂々とした勝負を望んでいる。単身乗り込んできた勇気ある貴女が、私を満足させてくれることを期待しているわよ?」

「カジノの主が正々堂々?笑わせないでよオバサン」

「……小娘が。カジノの主たる、この私に向かって啖呵を切っておいて、まさか逃げたりなんかしないでしょうね……?」

 

いい感じにイライラしてる。もしかして冴さんって結構年齢気にしてる……?実際の年齢知らないけど。

これぐらいで冷静さを失ってくれるんだったら、いくらでも煽るんだけどね。そう上手くはいかないでしょうね。

どうせイカサマしかしないのは理解ってるから、彼女が何を言おうと何をしようと別にどうでもいいんだけど……。

 

「貴女こそ理解ってる?その小娘に、このカジノにあるチップ全て持ってかれるってこと」

「フン……、威勢だけは買ってあげる。オタカラは最上階の支配人フロアにあるわ。まずはそこまで上がってらっしゃい。話はそれからよ。……お嬢ちゃん」

「吠え面かかせてあげるから待ってなさいよ、趣味の悪い厚化粧のオバサン」

「……チッ!まずは試練よ、これぐらいは乗り越えてみなさい」

 

冴さんのシャドウは、指を鳴らすとその姿をエレベーターの内部へと移動させ、上へと移動していった。

私の目の前には、取り巻きのシャドウが二体。

……挑発しすぎて、手下まで差し向けてきたようだ。でも流石に本人だったら言わないけど、シャドウのあのメイクは無いわー……って思ってたから、ついつい言ってしまった。

だから、私は悪くない。悪いというのなら、それは事実陳列罪だ。でも残念だったね、私は圧力なんかには屈しないよ。……っていうか、冴さんひょっとしてメンタル甘い?

 

出てきたシャドウは、見慣れた不定形のシャドウ……じゃない……?

その姿はモロクとノルン。出てくるタイミングとしては妙なところだけど、このニイジマパレスで登場するシャドウだ。

……それなら、さして苦戦はしないはず。私は両手にピースメーカーを握りしめ、戦闘を開始した……んだけど……あ、うん。弱いわ。

ボッコボコである。

 

……どういう事?いよいよ、パレス側からの私への警戒が薄れてきてる……?

正直、双葉のパレスやメメントスでの強化訓練を経て、私もレベルが上がってる。にも関わらず、過剰な防衛反応が起きなくなった……?

表面だけで受け取るなら、これは私にとってはプラスでしか無い。特に単独で侵入してる今回に関しては、それはもう。

 

もしかしたら罠の可能性もあるかもしれない。でも、引くことは有りえない。今は、警戒しつつも進むしかない。

私はまず、メンバーズカードを手に入れるために、先へと向かう。

 

まあ、ここからは原作通りに攻略するだけなので、特筆するような事はないんだけど。メンバーズカードを持つシャドウを襲って手に入れて。

念の為、さらにもう二、三枚強奪する。

ここで少し困ったのが、無記名カードの偽造登録だ。双葉が居ない以上、自分でやらないといけない事に気付いたわけだけど……。

 

うーん……カードをリーダーに差し込んで……、名前を登録……えーっと、アズマ……サキっと。年齢打ち込んで……OK……っと。

…………。いや、出来たじゃん……っっ!!!!!!!!登録……出来たじゃん……っっ!!!!

偽造も何もないよ!?ザルぅ……。

念の為もう二枚も偽名登録して、完了。

 

えぇ……、ちょっとこれ初っ端から詰んだかもしれないって、凄い悩んだのに……。まさかこんな簡単に登録出来てしまうとは……。

いや、ありがたいけどね!?おかげで先に進めます、ありがとう!!……なんか釈然としない……。

 

これで、実はそのカード使えませーんってなったら、どうしようかと思ったけど、なんか普通に使えてしまいさらに困惑。

エレベーターで上に運ばれながら、私は独りごちる。

 

「んー……、いや先に進めたのはいいんだけど、なんか罠っぽいよねぇ。そんなクリーンな戦い挑んでくるような相手じゃないはずなのに」

『いいえ、ああいうタイプは、最後の最後まで引き寄せて、勝ったと思わせておいてから地獄へ叩き落したいと思っているはずよ。だから勝負の場に辿り着けないという逃げの手は打たない』

「まして、相手は私一人。小生意気な小娘を懐まで招き入れた上で、一気にイカサマで消し飛ばしたい……ってワケね。いい性格してるわ……」

 

孤独な戦いであるからこそ、マスターシュの合いの手がありがたい。

どこか、ワクワクした感情が溢れてきているのも、カジノという舞台が関係しているのだろう。

でも、冴さんのシャドウめちゃくちゃ底意地汚いんだよなあ……。そんなに上手くいくだろうか?

 

 

──メンバーズフロアへと辿り着いた私を、冴さんのシャドウが出迎える。

 

「随分と遅かったわね。この支配人かつ、ナンバーワンプレイヤーであるこの私を待たせるなんて、礼儀のなってない小娘だこと」

「あら、ごめんなさい。生き急いでる厚化粧オバサンがそんなに私のことを心待ちにしてくださってるなんて、思いもしませんでしたので」

「……口の減らない小娘が。フン、対等のつもりのようだけど、貴女ごときにその資格はないわ。当然、私と戦う資格すらね」

「ゆっくりお待ちくださいな。どうぞ、安全なところで高みの見物をなさってらして?根こそぎチップを奪い尽くして、貴女の元へと辿り着いてみせますので」

「愚かな……。精々抗ってみせなさい。全てを失い、無様に床に這いつくばる姿を眺めるその時を、楽しみにさせてもらうわ」

 

そう言って、去っていくシャドウ冴さん。

……ふーん?またシャドウをけしかけてくると思ったけど、今回はなし……ね。

とりあえず、受付に行ってウェルカムギフトを受け取り、ダイスゲームのフロアへと向かう。

 

さあ、これからはイカサマタイム!ということで、バックヤードへと向かう。

出目操作しないとね……って考えて、ここも双葉居ないのにそんな事出来るの……?って疑問が湧くが……出来てしまった。だって、画面で操作出来るんだもん……。

ここまで来ると、さすがに私もおかしいと感じる。……なぜ、私がこんな事が出来るの?

原作では、双葉が操作することで可能になった。でも、今私はそれと同じことが出来てしまっている。

まるで、それが()()()()()かのように。

 

一体どうして……。さっきマスターシュが言ったみたいに、冴さんのシャドウが過程を楽しんでいるのなら、認知操作でそうなっているという可能性は確かにある。でも……明らかにこれはおかしい。あれだけ煽られて、こちらのことを忌々しく思っているであろう相手が、いくら喉元まで引き寄せて叩きのめすためにとはいえ、こんな便宜を図るだろうか?

 

謎知識によるものだったとして……こんなにスムーズに行くだろうか?

聖杯の意思……?……多分違う。でも、余りに()()()()()()()

一体、どういう事なのか。いくら考えても答えは出ない。

 

それでも……もうここで尻尾巻いて逃げるなんて事はできない。なら、選択肢はひとつしかない。

……全てを覚悟の上で、前に進むしかない。

確率操作を施した、ダイスゲーム。グランドレイズチャンスが発生したそこで、イカサマの極致とも言うべき、連続の6ゾロ。

あまりにも呆気なくコインが積み上がる。

 

『海咲、これぐらいで終わらせるつもりじゃないでしょうね?根こそぎいきなさい』

「オッケー」

 

閉じられてしまったそのルームでの勝負を終え、もう一度バックヤードへ操作をしに行く。その要領で、全ての部屋でコインを根こそぎ稼いで手元にあるのは、17,000枚を超えるコイン。

さて、外の時間もいい時間だろうし、そろそろ戻らないと。

カードにコインをチャージして、カジノを出ようとするとエレベーターには、シャドウが立ち塞がる。

 

『お客様をそのまま帰すわけにはいきませんので』

「上等じゃない。かかってきなさいよ」

 

当然というかなんというか、さして手強いわけでもないシャドウが相手になるわけはない。

無事に帰還し、現実世界へと戻る。

 

当然身バレ対策として、パーカーのフードを被ってマスクと眼鏡をかけて侵入している。

その上で、人が追えないであろう速度で走り去る。……いや、正面からは行ってないよ?当然人目に付きづらそうな所から侵入してるからね?

もう空は暗くなっていて、すっかり夜だ。

 

双葉から通知が入っていて、寿司食いに行くから誘ったけど連絡が付かないから残念という内容だった。

お寿司は確かに残念だけど、マスターのお財布に更なる打撃を与えてしまうのも申し訳なかったので、丁度良かったかもしれない。

 

『ごめんね、ちょっと電波の入りづらいとこにずっと居たから。誘ってくれてありがとう。今度お土産話聞かせてね』

 

そう返信して、帰路に着く。

一日目の攻略はこれで終わり。なるべく、怪盗団の皆が奥村社長のパレス攻略に入る前に事を成したい。

たとえ罠であろうとも、それを踏み潰して行くぐらいの気概で。

 

──そうして、夏休み最後の日は終わりを告げる。

来月は修学旅行もあるし、上手いこと時間を使って過ごさないといけない。決意を新たに、私は眠りにつくのだった。




ちょっと自分でも現時点ではツッコミどころ満載なので、上手いこと纏まるのを楽しんで頂けたらと思います。
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